サウザー!~School Idol Project~   作:乾操
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第三部、最終章です。


第三部 最終章・世紀末スクールアイドル伝説編
Chapter1・いざ!修羅の国へ!!


 夕焼けの公園、目の前には大きな水たまりがあって、それを小さな私は助走をつけて飛び越えようとする。
 何をムキになっているのか、何度も挑戦しては水たまりに落ちて、足を滑らせて転んで、泥水まみれになる。
 一緒にいる海未ちゃんとことりちゃんは諦めて帰ろうと言うんだけど、それだけは絶対にいやで……あの水たまりを越えられないと前に進めない気がして……。
 そうやって何度も跳んでいると、不思議とコツみたいのが分かってきて、だんだん飛距離が伸びてくる。
 ……何度目かの挑戦かもしれないとき、助走をつけながら、「あっ、とべるな」って分かった瞬間があった。だから、私は土を蹴った。
「とぁー! 帝王に逃走は無いのだ!」
「南斗鳳凰拳にかかればこの程度の水たまり易々と越えてくれるわ!」
「天翔十字鳳!」
「敵はすべて下郎!」
「フハハハハハハーっ!」
 
 
 
 
「!?」
 穂乃果が目を覚ましたのは目覚ましが鳴る二分前の事であった。
「……?」
 よく覚えていないが、酷い夢を見た気がする。幼い頃の思い出の中を土足で跋扈されたような、そのような夢を見た気がする。
「……ま、いっか……」
 起きてすぐに忘れるような夢である。大したものではないのだろう。
 そう考えると彼女はもぞもぞと布団の中から這い出し、学校へ行く支度を始めた。
 卒業式が終わってちょっと経つが、在校生の三学期はもう少し続くのだ。

 
+世紀末スクールアイドル伝説 最終章+

 
 三年生は卒業後、進学や就職に向けての準備をする。一人暮らしにするか、実家通いにするかで準備の内容は大きく変わるが、等しく言えることはおおよその者が暇を持て余すということである。活動的な若者などはこの暇を使って卒業旅行へ繰り出したりするのだが、音ノ木坂学院アイドル研究部の卒業生三人はそこまでの行動力は持ち合わせていなかった。
 そんな三人が何となくやってくる場所が、アイ研の部室である。
「卒業式の日散々別れを惜しんだのに、しょっちゅう来られるとあれは何だったのかって感じね」
 放課後、いつもの様に椅子に座って髪の毛くるくるしながらそう言うのはマキである。今、部室には彼女含む一年生三人組と一緒に、この間卒業した三年生連中が音ノ木坂の制服姿でたむろしている。
「別にいいでしょ? 今月いっぱいは書類上ここの生徒なんだから」
 ニコがアイドル雑誌に目を落としながら答える。
「気持ちの問題よ。卒業生がいつまでも未練がましく……呆れてものも言えないわ」
「こう言ってるけどマキちゃんね、昨日用事でニコちゃんたちが来なくて露骨に落ち込んでたにゃ」
「ヴェ?」
「あらあら、マキちゃん可愛いとこあるじゃな~い?」
 凛のリークにニヤニヤ笑うニコ。マキは顔を真っ赤にして、
「凛! 今日という今日は許さないんだから!」
「だから岩山両斬波は死ぬからやめてって言ってるにゃ!」
「凛が余計なこと言うからでしょ!? 『新一』を突かれたわけでもないのにベラベラと……!」
 秘孔『新一』というのは自らの意思に関係なく相手の問いに答えてしまう自白用の恐ろしい秘孔である。テレビや新聞をにぎわす高校生探偵とは関係ない。
 と、マキが凛をかち割ろうと追いかけ回しているところへ生徒会の仕事を終えた二年生三人組も合流した。
「はいおはよう! 三人ともやっぱり来てたんだね」
 卒業生三人を見て穂乃果はやや嬉しさを含めて小さく笑う。
「暇やからね。それに、カードによれば来ておけば何か面白いことが始まるらしいし?」
 希がもっともらしく言う。カードの件はちょっとした方便でしかない。
 だが、ここはさすがのラッキーガール、もとい妖怪スピリチュアル女。彼女の方便が招いたのか、『面白いこと』は起きた。
「ぴゃあああああ!?」
先ほどからカタカタとパソコンをいじっていた花陽が悲鳴を上げた。驚いた絵里が口に含んでいたジュースをニコの顔にぶちまける。
「どうかしたのですか?」
「どっ……どっどど……どど」
「風の又三郎?」
「ちがいますっ! ドーム! ドームです! アキバドームです!」
 アキバドーム……ビレニィプリズンの上に築かれたドーム型の大きな野球場である。
「そこがどうかしたの?」
 ことりが訊くと、花陽は勢いよく立ち上がると身振り手振り交えて興奮気味に、
「大会です! 第三回ラブライブが、アキバドームでの開催を検討しているんです!」
「えぇっ!?」
 一同は驚きを隠せない。何しろアキバドームで行われる野球以外のイベントと言えば大人気歌手のコンサートとかで、普通の高校生にとってそこは行く場所であり立つ場所ではなかった。
「アキバドームって、アキバドーム何個分の広さ!?」
 驚きのあまり穂乃果などは意味不明なことを口走っている。
「私達も出演できるの!?」
「いやいやニコッチ、うち等もう卒業しとるやん?」
「今月いっぱいはスクールアイドルでしょうが!?」
 衝撃の情報に沸き立つ部室。そこへ、理事長がひょっこり顔を出してきた。
「やっぱり、全員そろってるわね?」
「あ、理事長!」
「この雰囲気だと知ってるようね、第三回大会のこと」
「は、はい! 今知りました……本当なんですか?」
 穂乃果が訊く。
「本当よ。といっても、本決まりではないけど……それで、ドーム大会実現に向けて、あなた達に協力してほしいって、今知らせが来たわ」
 そう言いながら理事長は一通の便箋……しかもエアメールを九人に見せる。
「……!?」
「それって……」
「まさか……!?」



「招待状だと?」
 同時刻、サウザーの居城。
 いつもの部屋にいつもの様に集まっているのはご存知南斗DE5MENの面々である。
 μ'sに届けられたものと同様のエアメールがサウザーらの元へも届けられていたのだ。
「日本を代表するスクールアイドルとして、我ら5MENとμ'sをテレビ取材をしたいとか書いてあるらしぞ?」 
 海外からの招待という事態にウキウキのサウザー。
「『らしいぞ』って、貴様が読んだのではないのか?」
「中身は英語だったから読めなかったのだ! フハハ!」
「何を自慢げに……」
 ユダが呆れたように言う。
 それより、差出人である。どこの国のマスコミがスクールアイドルに、それもμ'sはともかく5MENにまで興味を持っているというのだろうか。
 すると、シュウがハッとして気付いた。
「まさか……修羅の国か!?」
「なっ……!?」
「ピンポーン☆」
 サウザーが楽し気に笑う。だが、他の面々からしてみれば冗談ではない話だ。
「まさか行こうと言うのではないだろうな!?」
「何を言うかレイ……行くに決まっているではないか!」
「バカなっ……貴様、ラブライブでの苦戦を覚えていないのか!?」
 ラブライブの苦戦……羅将ハンとの死闘のことである。あの時はハンの油断などもあってどうにか倒し、サウザー城の地下牢に放り込むことに成功したが、修羅の国ともなればハンほどとはいかなくともその辺のモヒカンとは比較にならない猛者共がうようよしているのである。
「いやハンとか、全然余裕でしたけど?」
「無意味な強がりをするなっ」
「大体、おれたちに何かメリットはあるのか?」
 シンが問いかける。
「第三回ラブライブがアキバドームでの開催を検討しているということは話したな?」
「うむ……ラブライブが想像以上の人気を見せているということだな」
 シュウが頷く。
「修羅の国遠征がラブライブの宣伝も兼ねているという話も分かるな?」
「ああ、人気がますます高まればドーム大会も実現できるという話だ」
 ユダも答える。
「もしドーム大会が実現すれば我ら5MENもそこでライブが出来るのだぞ?」
「誰がドームでライブがしたいなどと言った!?」
「というか第三回ラブライブ出場はもう決定事項なのか……」
「日本人選手がメジャーリーグに出るのとはわけが違うのだぞ!?」
「ええい、貴様ら、反対するならまず髪を切ってからにしろ!」
 議論は(いつものことだが)平行線を辿り、結局はμ'sだけで修羅の国に行かせるわけにはいかないということでシュウとレイがサウザーに賛同し、シンも修羅の国にケンシロウの実兄がいると知って賛同(義兄にあいさつしておきたい)、ユダもなんやかんやで賛同した。
  
 かくして、μ's、そして南斗DE5MENの修羅の国行きが決定した!





 数日後、羽田空港。 
 出発ロビーでは集合時間までそれぞれが家族の見送りを受けたりなどをしていた。
「お気を付けて」
「留守は頼んだぞ、シバ」
 息子の見送りを受けるのはシュウである。傍から見ると出張する父とその息子と言った体だが、まさか父親がスクールアイドルだとはロビーにいる誰もが想像だにしない事である。
「土産を期待していろよ」
「兄さんも身体には気を付けて」
 レイもまた、シバと共に来ていたアイリに見送りを受ける。
 一方で、家族がいない5MENメンバーはそれぞれの部下に見送りを受けていた。中でも異彩を放っていたのはユダで、わざわざユダガールズを連れてきて「おれは誰よりも~!?」とやっていた。もはや羞恥心すら捨てたらしい。
 
「全員そろいましたね?」
 時間になって、チェックインカウンターの前にμ's、5MENの合計14名が集まる。遅刻なく全員が時刻通りに集まった。
「サウザーはこういう時に限って遅刻しないのね?」
「フフ……乗り遅れても泳いで追いついてやるぞ?」
「絵里、サウザー、早々にケンカしないでくださいね……忘れものとかは無いですね? パスポートもちましたね?」
 心配性の海未はここに来るまでの間何度も確認をしていた。その度に面々は大丈夫だと答えている。
「ふぅ……5MEN(サウザー除く)の皆さんやマキ、希、絵里あたりは平気でしょうけど私達は慣れていませんから、くれぐれも慎重に行かなくては……」
「海未ちゃん心配し過ぎだよ、平気平気」
「そう言いますけど、パスポート忘れたと言って騒いだのは穂乃果ですからね!?」
 羽田に向かうモノレールの中で穂乃果はパスポートを忘れたと慌てていた。実際は鞄の奥に入っていたのだが、その時の海未といったら卒倒寸前といっていい様子だった。
「まったく……それでは、搭乗手続きの前に向うに着いてからの行動をおさらいしますよ」
「それぞれしおりを読んで確認すればいいではないか」
 ユダが指摘する。だが、海未は首を振って、
「いえ。何度でもやります。心配な人が何人かいるので」
「フハハハハハハ!」
「そこで高笑いしてる人とか。……とにかく、しおりを開いてください」
 海未が促すとそれぞれしおりを取り出しページをめくる。このしおりはことりが用意したもので、可愛らしくも見やすく作られている。
「搭乗する飛行機は――」
AAL(赤鯱航空)132便!」
「到着後移動は――」
「公式タクシー!」
「宿泊ホテルは――」
「ホテル・オハラ!」
「……よろしい」
 ここまで幾度と繰り返されたやり取りである。全員が暗記していた。
「ああ、やはり心配です……」
「大丈夫よ海未。ほら、亜理紗からもらったお守り、これでも持って気を落ちつけなさい」
「うう、ありがとうございます絵里……ってこれ安産祈願じゃないですか!」
「そろそろ出国手続きを済ませよう」
 シュウに促されて全員ゾロゾロと移動する。
 空港という場所は性質上非常に厳重な検査がなされる。手荷物から身体の隅々まで、危険物が無いか検査されるのだ。
「そう言えばシュウ様たちはいつもの格好じゃないんですね」
 ふと気付いたことりが訊く。
 5MENはいつも世紀末ファッションかタンクトップを着ている。だが、今日は世紀末感の無い、ごく普通のカジュアルな服装であった。
「うむ、いつもの服では金属類が多かったりで検査に引っかかりかねないのでな」
「なるほどぉ」
「世紀末の荒野では頑丈さが求められるから、金属類多めの服が人気なのだ。もちろん、ファッションでこてこてに着けるものもいるが、そのような格好でゲートを通ったら――」
 そこまで言うと、保安検査機の方からキンコンキンコン音が鳴り響いてきた。
「あのようになる」
「そうなんだぁー……って、サウザーちゃんが引っかかってません? あれ」
「む?」
 見ると、金属探知機のところでサウザーが係員に捕まっていた。
「見た感じシュウ様たちと同じ格好に見えたけど……」
「まさか」 
 サウザーは長めのコートを着こんできていた。全然似あっていないと道中笑っていたのだが……。
「申し訳ありません、そのコートを脱いでいただけますか?」
 係員がサウザーに言う。言われた通りにコートを脱ぐと、その下にはいつもの金属の肩当などが施された豪奢な聖帝ルックが出現した。
「帝王に相応しい服装というものもあるのでな?」
「金属探知機に引っかかる帝王と言うのもどうかと思いますけど?」
 後ろに並ぶ海未が指摘する。
 とにかく、金属反応がデカすぎることもあり、サウザーはより精密な検査を受けるべく別な場所へ連れられて行かれた。
「時間に余裕があるわけでもないのにアイツは……」
 絵里が忌々し気に呟く。それにニコが、
「あれって時間かかるの?」
「金属探知機が反応すると結構調べられるのよ。あれだけ言ったのにもう……」
「サウザーめ他愛もない」
 そういって謎の優越感に浸るのはウダ……ユダである。
「ユダさんは大丈夫?」
「フン、このおれがあのような物に捕まるか。おれは誰よりも強く、美しいのだから」
「関係なくない?」
「見ているがいい」
 ユダの番となり、堂々たる足取りで金属探知機の下を通りすぎようとした。だが、ある意味期待通りに、
「キンコンキンコン」
と探知機が泣き始めた。
「ぬっく……!」
「バカなの?」
「やはりウダね」
「ユ・ダ・だ!」
 ユダもサウザー同様別な場所へ連れて行かれた。
 
 全員の検査が終わった頃には時間ギリギリで、一同は慌てて搭乗ゲートへ向かった。搭乗ゲートには出発の三十分前には着いていなければならないのである。
「なんとか間に合ったにゃ」
「はふぅ、はふぅ」
 凛に引っ張られるように走った花陽は早くも息切れしている。
「先が思いやられるよぉ……」
「まったくだな。フハハ」
「誰のせいだと……」
「フハハ―ッ! とにかく乗りこむのだ!」
  
 飛行機は時刻通りに飛び立った。
 何人かは初めての飛行機であったから、離陸の瞬間は大いに緊張していた。
 凛もその一人で、飛行機が飛び立ってしばらくして機体が安定するとシートベルトを外しながら右隣の花陽に話しかけた。
「ふぅ、飛行機乗るのは初めてだから緊張したにゃ。かよちんは二回目だっけ?」
「うん、でもやっぱりドキドキするよね」
「フフフ……おれは二回目だから全然怖くなかったぞ?」
 花陽の前に座るサウザーが何を張り合っているのか振り向きながら言うが、離陸時に酔ったのか若干顔が青かった。
「そ、そう。でも気分が悪いならトイレに行ってね?」
「フハハ……フフ……聖帝が乗り物酔いなぞ……フフ……」
「いやほんと……」
 そこまで言われると彼は仕方ないとばかりやおら立ち上がっていそいそと後ろのトイレへ向かった。それを見送ると凛の背後から絵里の「無様ね!」という嬉しそうな声が聞こえてきた。
「サウザーちゃんって乗り物に弱いんですか?」
 右隣に座るシュウに花陽が訊く。
「そうだな、言われてみれば昔から弱かったやも知れん」
「だから聖帝バイクで移動してる時いつも酔ってるんですねぇ」
「ここで吐かれたら堪らんな……」
 サウザーの隣の席に座るユダが忌々し気に呟いた。
 一方、通路を挟んで窓側二列を座席とする面々も酔うものはいた。
「うぅ、気圧差のせいか気持ち悪いです……」
 海未が座席に深く腰を沈めて呻く。
「海未ちゃん大丈夫?」
「沖縄の時は平気だったじゃん」
 前に座ることりと穂乃果が言う。
「少し緊張しているからでしょうか」
「どんだけ緊張してるのさ」
「マキ、酔い止めに良い秘孔とかありませんか……?」
 隣に座るマキに助けを求める。
「秘孔とかじゃないけど、耳の水抜きと同じ要領で息を吐けば収まることがあるわよ」
「こ、こうですか? ぬんー! ぬんー!」
「ウフフ、海未ちゃんかわいい」
「ことりってたまに分かんないわね……で、どう?」
 マキに言われた通りの処置をした海未は、どうやら酔いが改善されたらしく、目をキラキラさせながらマキに礼を言った。
「すごいです! さすがは北斗神拳ですね!」
「関係ないけどね、ま、ありがと」
 飛行機は修羅の国へ向かって飛び続ける。
 時間にして約13時間。一つ言えることは、色々疲れる移動になるであろうということだけだ。

つづく