サウザー!~School Idol Project~   作:乾操

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第19話 決戦場は晴海客船ターミナル! もう誰も奴らをとめられない!

+前回のラブライブ!+

 

 北斗練気闘座こと晴海客船ターミナルで開催されたラブライブ本選は羅将ハンの乱入と綺羅ツバサの死という衝撃的な展開を迎えていた。愛とは何か……明日無き世紀末で問い続ける男たち。そんな場所でサウザーが放った空気の読めない

「愛などいらぬ!」

の一言は会場全体に衝撃を与えた。そしてハンの肌を粟立たせた。

 果たして、南斗DE5MENは、そしてμ'sは羅将ハンを倒し、スクールアイドルの未来を守れるのか? そんなのどうでもいいのか?

 

 

 

「愛も知らぬくせにスクールアイドルを名乗るとは、童貞ここに極まれり、だな!」

 ハンはサウザーを嘲笑うと全身からこってりとした闘気を放った。

「おれの拳は疾風! 未だ誰にも捉えられたことは無い!」

 ハンは早さがウリの拳法使いの様である。リュウガといいヒューイといいユダといい、速さがウリの拳法家はどうして揃いも揃って『アレ』なのだろうか。

「ユダさん、一つ戦ってみては?」

 海未がユダに提案してみる。

「なんであんなオイリーな奴と絡まねばならんのだ! 貴様こそそのラブアローシュートとやらで動きを止めたらどうだ」

「あの濃厚な闘気の前では私のラブアローシュートは無意味です。弾き返されます」

「いくらサウザーでも、アレには勝てないんじゃない?」

 マキは髪の毛をくるくるさせながら分析した。実力は未知数であるが、『A‐RISE二十組分に相当』が真実だとすれば相当の手練れであることは間違いない。

 ギャラリーの分析を他所にサウザーはハンと相対して高らかに笑う。

「我が南斗鳳凰拳の前では貴様の愛とやらも無意味!」

「南斗鳳凰拳……ふん、我が北斗琉拳の前には下等な拳よ!」

 そう言うとハンはもわっと拳を構える。

 北斗琉拳……少なくともユダには聞き覚えの無い拳法であった。

「先ほど綺羅ツバサが言っていた拳法か……北斗神拳のまがい物か?」

「ちがいますっ!」

 そんなユダに花陽が食いかかる。

「北斗琉拳は北斗神拳から分離した拳法の一つで、曰く『あらゆる拳法の中で唯一輝く拳』とされる恐ろしい拳法です! 経絡破孔を突くことで身体の内側から破壊することを真髄とします!」

「ほう、そこの少女、中々詳しいではないか」 

 花陽の解説を聴いてハンはパチパチと手を叩いてみせた。

「北斗神拳が自らを童貞と自覚すらしない寝起きの童貞だとするなら、北斗琉拳は夜の歓楽街を行きかう紳士そのものなのだ」

「分かりにくい上に最低の解説だにゃ」

 無論サウザーには何がなんだか分からない。だが、馬鹿にされていることは間違いないから、

「フハハハ。下郎が図に乗るでないわ!」

とハンに向かおうとする。

 しかし、それを5MENは一斉に止めた。

「待てサウザー! 奴はまだ実力の半分も見せてはいない!」

「やみくもに向かっても返り討ちに会うだけだぞ!」

「ほう?いじらしくもリーダーを思いやっているのか? えぇ?」

「馬鹿がっ、貴様が負けたら南斗の名折れとなるのだぞ!」

「フハハハハハハ! 聖帝には逃走も敗北も無いわ!」

「見くびっていると返り討ちにあうと言っているのだ!」

「怖気づいたのなら全員でかかってきてくれても構わんぞ?」

 5MENをあざ笑うかのようにハンが言う。相当な自信があると見える。それと併せてこうも言う。

「ただ戦うだけでは芸がない……ここはひとつ『ライブバトル』と行こうではないか」

「ライブバトルだと?」

 ハンの提案にサウザーがオウム返しで訊き返す。穂乃果も、

「ライブバトルなら私達も何とかできるんじゃないかな? 何をもって勝ちかは知らないけど」

 だが、彼女の言葉を聴いた花陽はとんでもないと言わんばかりにそれを否定した。

「ライブバトルなんてやったら死んじゃうよ!?」

「えっ!? 死ぬ要素あるの!?」

 

 ライブとは、本来『羅威舞』と書く。修羅たちが舞いながら戦うというもので、鮮やかな血の舞うその戦いは息を呑むほど美しく、残酷であるとされる。

 

「修羅の生羅威舞(ライブ)が見られるなんて、ほぁ~、決勝戦まで進んできて良かったよぉ」

「花陽ちゃんはブレないねぇ」

「世紀末ナンバーワンアイドルであるこのサウザーにライブバトルを挑むとは……フハハ、おもしろい!」

「フッ、その無駄な自信、まさに童貞のそれと言っていい!」

 ハンがそう言うと同時、ステージの上で圧倒的な濃さの『気』が吹き荒れた。それに当てられて最前列のお客などはあっという間に気絶してしまった。μ'sもスクールアイドルとして成長していなかったら同じような状態になっていただろう。

「聴くがいい!」

 彼は跳躍すると高らかに歌いながらサウザーへ拳撃を放った。その拳の速さは疾風を自称するだけにまさに目にも留まらぬもので、さすがの聖帝もこれには防戦するよりほかなかった。

 拳だけではない。同時に彼の唄う歌も素晴らしいもので、μ'sのような若いスクールアイドルには到達しえない大人の濃密な歌詞をエロティックかつ大胆に歌い上げている。歌と拳撃が合わさることで、その攻撃力は通常の数倍にもなっていた。

「これが『羅威舞』……!」

「凄まじいの一言ですね……!」

「…………」

 ことりと海未は圧倒されてそうとしか言えなかった。穂乃果は色んな意味で言葉を失っていた。

 ごく普通の女子高生には凄いとしか言いようのない羅威舞であるが、世紀末組は彼女たちよりは冷静に分析できる。

「恐ろしい拳速だな……」

「うむ、しかしサウザーもそれについて行くとは……ムカつくが伊達に将星を背負いし男ではないと言う事だな」

「性格に難がなければ今頃南斗をまとめ上げていたやもしれんな?」

 レイ、ユダ、シュウ様の分析通り、ハンも凄いがサウザーもサウザーでかなりすごい。ここにきて強さを再認識させられた次第である。だからと言ってどうにかなるわけではないが。

「でも、やっぱりサウザーが不利っぽくない?」

 マキがニコに問いかけた。

「歌ってるのと無いのとでの差かしらね。サウザー! アンタも何か歌いなさい!」

 それを受けてニコはサウザーにそう呼びかけた。

「歌だと? フハハハハハハ!」

 サウザーはハンの拳撃をひとしきり捌くと距離を取るため後方へ跳躍した。

「なるほどライブバトルであるからな! この聖帝も歌わねばなるまい」

「フッ、童貞の歌なぞ粟立ちにも値せぬわ」

「ほざけ! さて、何を歌おうかな~!?」

 ニヤニヤしながら彼は首を巡らす。すると、丁度穂乃果たちのところで視線を止め、何やら思いついたような顔をした。

「よし! では聴いてください、聖帝サウザーで『それは僕たちの奇跡』」

「え゛っ!?」

 穂乃果たちは予想外の展開に声を上げる。だが、サウザーは気にするでもなく、「ミュージックスタート!」と宣言した。 

 スピーカーから『それは僕たちの奇跡』のメロディが流れ出す。

 ティロティロティロティロ………。

「さあァァァァァァァァァ! 夢をォ―ッ! ……フンフフンフンフフン……フンフフン……」

「うろ覚えかよ!」 

 穂乃果渾身の突っ込みである。

「まぁ本当に歌ったら色々問題ありますしねぇ?」

「そりゃそうだけど……なんだかなぁ」

「フフフフン……フフフンフンフフン」

 うろ覚えの鼻歌を歌いながらサウザーはハンに襲いかかる。

 ハンは自らの拳を疾風と言っていたが、素早さならサウザーの南斗鳳凰拳も負けてはいない。一瞬で間合いを詰めると同時、相手を切り裂きながら駆け抜ける。この拳の前に数多の漢たちが斃れたのだ。

 しかし。

「ほう。凄まじい踏み込みの速さだ。粟立ちリストに加えておこうではないか!」

「フーンフフフーン……!?」

 ハンはサウザーの神速の踏み込みを余裕すら見せつつ受け止めた!

「うわ全然効いてないにゃ!」

「サウザーちゃーん! 天翔十字鳳ダヨォー!」

 ギャラリーの声援が空しく響く。

 踏み込みが抑えられるとなれば後は純粋な拳の打ち合いとならざるを得ない。拳の応酬となれば、南斗聖拳より北斗系の方が有利である。ハンのダメージは与えてはいるものの、さすがのサウザーも目に見えて不利になっていった。

 そして、ついに。

「とぅあ!」

 ハンの放った拳がサウザーを捉えた。

「ぐはぁっ!」

 もろにハンの拳を受けたサウザーは無残に吹き飛ばされ、ステージの舞台装置に叩きつけられた。

「サウザー!?」

「サウザーちゃーん! 天翔十字ほォー!」

 聖帝サウザーがここまで苦戦するとは……μ'sも5MENもハンの想像以上の実力に戦慄せざるを得なかった。

「フン、いくら位が高かろうが所詮はBにも至らぬ哀しきD(童貞)よ……少しは楽しめはしたがな……」

 ハンはポケットからハンカチーフを取り出し、顔に付いた血や汚れを拭きとった。拭きとりながら、

「さて、次は誰が相手だ? なんなら全員でかかってきても良いのだぞ?」

「フハハ。下郎が……これしきで何を勝った気になっているのだ!?」

 崩壊した舞台装置を除けながら立ち上がるサウザー。だが、ハンは既にサウザーに背を向けていた。

「勝負ならすでについておる! 先の打ち合いで貴様の破孔を突いた……間もなく貴様の身体は砕け散る!」

「!?」

 ハンの疾風の拳はただ速いだけではなく、正確に相手の急所もついている。ひとたび打ち合い、一瞬でも隙が存在すれば、余裕で破孔を突けるのだ。 

 彼の中では既に聖帝は死んだも同然、敵ではなかった。

 しかし、サウザーは神に選ばれし肉体を持つ漢である。

「はいドーン!」

「ぬふぉ!?」

 ハンの背中をサウザーの跳び蹴りが直撃した。倒したと思った相手からの予想外の攻撃にハンはたまらず吹き飛ばされる。

「なっ……なぜ破孔を突かれて無事なのだ!?」

「フハハハハハハーッ!」

 ハンの反応があまりにも期待通りであったからサウザーはいつもに増して高らかに笑う。

「なぜ破孔を突かれっ……フハハハ! 絶対言うと思ったしぃ~! フワハハハーッ!」

 破孔は秘孔と原理は同じである。となれば、サウザーの身体に通常のそれが効かないことは当然の話であった。

「神に与えられし身体を持つこのおれにとって北斗の技など強めのマッサージでしかないわ!」

「フンッ! ならば、直接その身体を砕き割るまでの事!」

 ハンは先ほどまで浮かべていた余裕を消し去り、体中を緊張させた。

「いくら破孔が効かん言うても不利なのには変わりないのとちゃう?」

 半ば仕切り直しともいえる様相のサウザーとハンを見て希が指摘する。天翔十字鳳さえ繰り出せば何とかなりそうなのだが、サウザーには何らかのこだわりがあると見えて中々使おうとしない。

「羅威舞は単純な力だけではなく『歌』も重要な部分を占めます! 何かこの場に相応しい曲があれば、逆転も夢じゃないんだけど……」

「確かに『それは僕たちの奇跡』は不釣合い極まりないわね……でも、何かあるかしら?」

 絵里が腕を組んで考える。

 少なくとも、μ'sの持ち歌には『ラブライブ本選で羅将と戦うに相応しい曲』は存在しない。というか、そんなピンポイントに相応しい曲なぞそうあるものではない……いや……。

「……ある!」

「かよちん!?」

「あるよ! この場に相応しい曲が!」 

 花陽はハンと対峙するサウザーに呼びかけた。

「サウザーちゃーん! リクエストです! 『KILL THE FIGHT』! 『KILL THE FIGHT』を歌って!」

 彼女の渾身のリクエスト。それは、VSハンという死闘にあまりにも相応しい選曲であった。

「フハハハーっ! それでは、下郎からのリクエストで歌います。聖帝サウザーで、『KILL THE FIGHT』。ミュージック、スタート!」

 掛け声と共に、音響装置からイントロが流れだしてくる。

デンデンデン……デケデケ……デンデンデン……デケデケ……

ブンパカパーパカパーパカパーデーデーデデーデー

「なんだ、この童貞ならざる曲は……!?」

ブンパカパーパカパーパカパーデーデー

ブンパカパーパカパーパカパーデーデーデデブンチャカダカダン

「アイ! キル! ザはんふーん、フフフフンハハハフン……」

「やっぱりうろ覚えかよ!」

「著作権の問題とかありますからね。仕方ないです」

 うろ覚えでも、効果はあったようだ。

「所詮は童貞の悪あがきに過ぎん!」

 ハンは口ではこう言っているが、サウザーを改めて脅威に感じている様子である。

 歌いながら、二人は再び羅威舞バトルを始めた。

「てぃやぁぁぁぁ!」

「ホンフンフンハンホフン」

「もはやうろ覚えとか言うレベルではないですねあれは」

「でも、効果はてきめんやん?」

 先ほどと比べサウザーはハンに対して拮抗……否、優勢と言っても過言ではない。選曲が良かったようだ。花陽さまさまである。

「童貞に後れを取るなど!」

「フハハハ、このおれとここまで対等に戦った貴様に褒美をくれてやろう!」

 サウザーはそう言うとハンの拳を捌いて高く飛翔し、ステージの骨組みの上へと着地した。

「とくと見るがよい! 帝王の誇りをかけた無敗の拳を!」

 ステージ上のハンを見下ろす形で彼は腕を回し構えを取る。空は再び厚い雲に覆われ、雷光がほとばしった。

 南斗鳳凰拳究極奥義・天翔十字鳳!

「敵はすべて下郎! イエイ! ダブルピース!」

 雲の割れ目から迸る雷光はサウザーを照らしだし、まるで天からエネルギーを得ているように錯覚させた。

「マックスパワー! チャージアーップ!」

「童貞が光るなど……!?」

 ハンは信じられないと言った調子で呻く。

「とどめだ! とぅあッ!」

 サウザーは足場を蹴り、ステージ上のハンに半ば落下するように直進した。向かいくる彼をハンは全霊の拳で撃ちぬこうとする。だが、サウザーの羽毛も同然と化している身体はハンの拳をひらりと躱し、そのまま両足でハンの首を掴み、身体を捻って天高く放り上げた。

「なに!?」

「受けてみよ! 南斗鳳凰拳奥義!」

 サウザーはハンを追いかける形で飛翔した。そして、

「極星十字拳!」

 ハンの胸は空中で十字に切り裂かれた!

「バカなっ、このおれが童貞に敗れるなどと……!」

「フハハハハハハー!」

 地上に降り立った時には既に勝負はついていた。静かに着地したサウザーに対して、ハンは身体をステージの上に強かに打ち付け、一つ唸った後動かなくなった。 

 一瞬の静寂が会場を包む。

 それを破ったのは、サウザーの声であった。

「敵は全て……下郎!」

 まるでそれが合図とでも言うように、次の瞬間には会場は大歓声に包まれていた。雷鳴のような拍手に、歓喜と称賛の絶叫。それら全てがステージ上に勝者として立つサウザーへ向けられていた。

「サッウッザー! サッウッザー!」

「サッウッザー! サッウッザー!」

 地鳴りのように響くサウザーコール。観客も、袖にいた他のスクールアイドルも……もちろんμ'sも、一様にサウザーの勝利を祝福し、大歓声を送った。

「サッウッザー!サッウッザー!」

「フハハハハハハーッ! 客はすべて下郎! フワハハハーッ!」

 

 かくして、第二回ラブライブは波乱の内に幕を閉じた。迫りくる修羅の魔の手からスクールアイドルの未来は守られたのだ。

 ありがとう、南斗DE5MEN。

 ありがとう、南斗聖拳。

 ありがとう、聖帝サウザー。

 人々は、この日の事を永遠に記憶するであろう。

 

 

 

 ちなみに優勝はμ'sであった。

 

 

 




次回、第二部最終回です。

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