サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
+前回のラブライブ!+
北斗練気闘座……またの名を晴海客船ターミナル。北斗神拳伝承者をめぐる争いは、常この場所で行われてきた。
ラブライブの本選もまた、この新聖なる場所で開催される。
今、日本全国で死闘を勝ち抜いてきたスクールアイドルがここへ集いつつある。
天を掴むのは、μ'sか、南斗DE5MENか、それとも……。
最後の戦いが、始まろうとしている。
※
本選当日。
金色の角刈りを加えた南斗DE5MEN・Gの一行は晴海客船ターミナルへとやって来ていた。そこに設営されているステージは最終予選を上回る規模と設備で、モニターに煌めく『LoveLive!』の文字が否応に集まった人々の高揚感を煽っている。
「ここが本選会場か」
「最終予選の時も言ったことだが、まさかここまで来てしまうとはな……」
シュウとレイが呟く。サウザーの気まぐれで始まった南斗六聖拳のスクールアイドルプロジェクトであるが、最初はまさか最後まで勝ち抜くとは思っていなかった。
「しかし、最終予選ともなれば今までのようにはいかんだろう」
シンが指摘する。
最終予選まで勝ち抜いてきたのは5MENとμ'sだけではない。国中の強敵がここに集うのだ。一筋縄ではいかないことは明らかである。
だが、サウザーはそんなシンの言葉を笑い飛ばした。
「フハハハハ! 努力は裏切らないと思います!」
サウザーは神に選ばれし肉体を豪語し尊大極まる男だが、意外と努力も怠らなかったタイプである。
そうであるから、前日も慢心することなく六人は聖帝十字陵学園でお泊り練習していた。
「『生徒兼理事長』という時代を先取りしたと言わざるを得ないこのおれの肩書を持ってすれば、学校でのお泊りなぞ容易いわ!」
もっとも、お泊り練習とは名ばかりで、サウザーの遊びに付き合わされたと言った方が適切である。寝ようとする面々への怒涛のトランプ攻勢は辟易させられた。
「まぁ、子供たちの様子を見れただけでも良しとするが……」
シュウが昨晩の事を思い出しながら呟く。
「そう言えば、聖帝校の生徒はさらわれた子供たちだったな……」
「うむ、何かと忘れられがちではあるが」
子供たちの元気な顔を見ると、レジスタンスとは何だったのかという状況に陥ってしまう。
「フフフ……とっとと下らんレジスタンス活動は止めるべきであるな? ……む?」
サウザーは遠くに見知った集団がいるのを見つけた。
μ'sの九人である。
「フハハハハ! フハハハーっ!」
姿を認めるや否や跳躍と共に彼女たちの元へ赴く。突然の襲来に慣れているとはいえ彼女たちは大いに驚いた。
「うわっ出た」
「貴様らも本選にしつじょ……しゅちゅじょ……フハハハー!」
「えっ、なんて?」
穂乃果が訊き返すが、サウザーは無かったことにして、
「ところで、九人揃って登場とは仲の良い事だな?」
「あぁ、それは昨日みんなで学校にお泊りしたから、それでね」
穂乃果の説明に他の面々もそうそうと頷く。
『ラブライブの前日』という言葉は、彼女たちにとってその字面以上の意味を持つものであった。
だが、サウザーはそんなこと微塵も知らないから、
「なに!? まさか、我ら5MENのパクリか!?」
「は?」
「ぬぅうううし!」
勝手に衝撃を受けているサウザーはほっといて、穂乃果は近付いてきた残りの5MENメンバーに挨拶する。
「おはようございます!」
「うむ、おはよう。昨日は休めたか?」
シュウが訊くと、穂乃果は少し照れたようにはにかみながら、
「緊張でちょっと寝不足かもしれません」
「そう言う割に穂乃果ぐっすりだったわよね」
というのも、昨晩、トイレに生きたくて目が覚めた絵里は手近にいた穂乃果についてきてもらおうと身体を揺さぶった。暗がりが苦手ゆえに、誰かについてきて欲しかったのである。しかし、穂乃果はすっかり夢の中で全く起きる気配も無かった。
「希が起きてくれたからよかったけど、あの時はどうなることかと思ったわ」
「ほう……貴様は夜一人でトイレも行けんのか?」
「あっ……」
話してから、絵里は口を押えた。サウザーはニヤニヤし、勝利を確信したかのように笑う。
「そのようなものが元生徒会長とは片腹痛いな! おれは一人で行けるもん!」
「まぁ、サウザーちゃんの図体で行けなかったら不味いにゃ、色々と」
「南斗鳳凰拳の前には魑魅魍魎も跪くしかないってことです!」
「本選は今日午後! 震えて待つが良い! フハハハハ!」
※
ラブライブ本選は大きな歓声の中で開催された。
ステージの前にはかつて見たことないほどのお客がひしめき、そのさらに後ろには数えきれないほどのネット視聴者がいる。その事実の前に、本選まで進んできた強者たちは震えた。
だが、舞台袖にいた5MENだけは別である。
「下郎どもがおれを一目見ようとおしくらまんじゅうしておるわ!」
「別にそんな目的で集まっているのではないと思うが」
南斗六星拳はこれまで幾多の危機を乗り越えてきた。この程度で緊張はしないのである。もっとも、危機の次元が一般的な女子高生のそれとは乖離しているのだが。
参加グループは次々ステージに立ち、万雷の拍手を受け、はけていく。そして、今ステージにはμ'sの九人が立ち、集大成といえる歌と踊りを見せている。彼女たちの出番が終わったら、次は南斗DE5MENGの出番だ。
「我々でラストだったな。緊張しているか、ユダ」
レイが配られた飲み物を飲みながら訊く。
「フンッ、他の連中にこのユダが後れを取ると思うか?」
「しかし、気になるのは例の男だ。もし本当に現れるなら……」
数日前にμ'sと海に行った日にめぐりあった濃き男、羅将ハン。彼はここ、晴海客船ターミナルを目指していた。もうすぐ本選は終わりを迎えるが、今のところ姿は見えない。
「まぁ、来ないならそれに越したことは無いが」
「ほう? 弱気だなシュウ様」
シュウの言葉にサウザーはせせら笑いながら、
「おれの前に現れるのが何者であろうと、それは跪くのみ! 天に輝くのは南斗DE5MENGの将星なのだ!」
「そうは言うが……む、μ'sが終わったようだ」
観客席から拍手が沸き上がり、九人の「ありがとうございました!」の言葉が響く。
汗だくになった九人は少し息を切らしながらサウザー達のいる袖へはけてきた。
「うむ、素晴らしいステージであった」
「おれ様のには劣るがな?」
「ありがとうございますシュウ様。サウザーちゃんは黙って」
「次は南斗DE5MENですね」
会場はいよいよラストだということもあってボルテージは最高潮に達している。そのような環境で歌うのは相当のプレッシャーであろう。
だが、サウザーにとってそのような環境は無意味であろ。
『それでは、南斗DE5MENGのみなさん、おねがいしまーす!』
呼びだしのアナウンスが入る。
六人は立ち上がり、まばゆいステージに身を踊りださせる。
「客はすべて、下郎!」
その頃、会場入り口。
「もうラブライブ本選も終わりだな」
「穂乃果ちゃんの姿一目見たかったぜェ~!」
入り口を警備するのは聖帝軍の兵士である。ラブライブのスタッフには参加校のボランティアが数多く存在しており、その一環で聖帝軍の兵士が海上警備を担当していた。
彼らが警備を擦る限り、並の不審者は会場に入ることは出来ない。
だが、その不審者が並でなかった場合、話は別だ。
「ん? なんだぁ~!?」
「馬車が近づいてくるぜぇ~!」
やって来たのは一台の馬車。その場所は入り口のすぐそばでピタリと停車した。
「きさまぁ~! ここをどこだと思ってやがる~!?」
「ラブライブ本選会場だぁ~! 関係者以外立ち入り禁止だぜぇ~!」
兵士は馬車に近づき武器を振りかざして威嚇してみせた。すると、馬車の扉が開け放たれ、一人の男が姿を現した。
「この国最強のスクールアイドルが集う『ラブライブ』……少し期待していたが」
「うっ!?」
兵士は馬車から降り立った男の濃厚さに戦慄した。
「あまりにも粟立ちを感じないことにかえって粟立たざるを得んな、ここは!」
「なんだこいつ!?」
「なんというか……濃厚!」
「む? なんだ?」
ステージに立ち、例のごとくグダグダトークをしていたサウザーは会場入り口付近で発生した異変に気が付いた。
その異変の正体はすぐに分かった。入り口の辺りに奇妙なオーラ的なものが漂っており、それが徐々にステージへ近づいてくるのだ。そのオーラが進むごとに観客は紅海の如く割れ、やがて、サウザーの前に一人の男が姿を現した。
「貴様は……『濃き男』!」
「ほう! この間の童貞たちではないか……まさか貴様らがスクールアイドルであったとは、運命を感じずにはいられないな!」
「ぬぅ、改めて会ってみても慣れぬほどに『濃い』!」
濃き男……ハンは軽く跳躍すると、ステージの上に降り立ち、5MENと対峙する形となった。
「いくら芳醇な童貞を揃えようと所詮はB止まりのD!」
「童貞だのBだのDだのが何かは知らんが、おれは聖帝サウザー! 南斗108派の頂きに位置する南斗鳳凰拳伝承者にして南斗の帝王!」
「聖帝……? ほう、聖なる童貞とは、興味深い!」
「フハハハハ! 分かったなら失せろ、下郎!」
「会話が成り立っているようで成り立っていないわね」
ステージの騒ぎを聴いて、袖で休んでいたμ'sの面々も顔を出す。そんな彼女たちを見るや、ハンは興味深そうな表情を見せた。
「まさか貴様らもスクールアイドルか? 女でありながらスクールアイドルとは、この国は興味深いことだらけだな!」
「えっ、どういうこと?」
ハンの言葉に疑問符を浮かべる穂乃果。すると、
「それについては私から説明させてもらうわ」
「ツバサさん!」
「ほいほい人が出てくるな」
今度は綺羅ツバサが群衆の中から跳躍して5MENとハンの間に降り立った。
「む、貴様は綺羅ツバサ!」
ハンがツバサを見て叫ぶ。どうやら知り合いらしい。彼女はハンを一瞥するとμ'sの方へ身体を向けた。
「スクールアイドルの起源が修羅の国であることは前に説明したわね?」
★
スクールアイドル……かつてそれは『
★
「えっ、まってください」
「どうかしたの穂乃果さん」
「この間の話と違いませんか?」
穂乃果の記憶では、スクールアイドルが誕生したのは『ラブライバー』がいまだ『ラブライ部員』と呼ばれていた時代で、創始はカイオウをリーダーとする『修‐羅イズ』によるもの、となっていた。今のツバサの話とはまるで違う。
しかし、そう言う穂乃果に海未は、
「何を言っているのですか。設定が変わることなんてそう珍しいことでもないでしょう?」
「えぇ……?」
「そうだよ穂乃果ちゃん。私や海未ちゃんは昔姉妹や弟がいたけど今はいないことになってるし」
ことりも海未に同調する。
花陽と凛も同様で、絵里なぞは、
「穂乃果だって忘れられた設定とかあるでしょ? そういうことよ。そもそも初期と今じゃあなた声質も違うし」
「それは中の人の演技が変わったから……って、なにこれもしかして穂乃果が間違ってるの?」
「まぁ、続き聴こうやん?」
希に促されてツバサは解説を続ける。
★
北斗琉拳と共に生まれた剝空琉愛弗。それは神聖な戦いを前にした拳士が士気を上げるために歌い踊った舞いであった。そして、歌はその強力無比さ故に何かと魔界に堕ちそうになる拳士を引き留めるための『愛の賛歌』でもあった。字面的に愛を全く否定してそうだが、その辺は気にしてはいけない。
スクールアイドルは、すなわち強き漢の歌であったのだ。
★
「剝空琉愛弗は故に愛を知らなければ成り立たないのだ……愛、それはすなわち、『女を抱いたか否か』!」
ハンはそう断言する。
「それこそが究極の愛であり、童貞には辿りつけぬスクールアイドルの境地なのだ」
ハンの理論と思春期の少女たちの前でも断言してみせるそのデリカシーの無さにμ'sの面々は圧倒された。
だが、彼の自信満々の発現をツバサは真正面からバッサリと切り捨てた。
「否!」
「なんだと?」
「私の師匠はかつて言っていたわ」
ツバサは拳を振り上げて叫んだ。
「その
「ない!」
「いやある!」
「フッ、女でありながら男の愛を語るとは笑止千万、粟立ちの臨界を越える勢いであるわ!」
「そういうあなたも羅将でありながら肉欲的な愛にこだわり続けるとは狭量にも程があるわね」
二人の間の緊張は高まり続ける。
「すごい、あの羅将の濃厚さ対してツバサさんも負けじと濃厚なオーラを出している……! 羅将ハンの濃厚さがガンガンに煮詰めたグレイビーソースなら、ツバサさんはアボカド的な方向で濃厚さを醸し出しています!」
「花陽ちゃんすごいね。私にはついていけない世界だよ……」
「会話の次元が高すぎてサウザーも静かね、さっきから」
マキが指摘する通り、サウザーは先から頭の上にクエスチョンマークを浮かべたままニヤニヤしている。童貞とか、その辺の意味が分からないのだから仕方あるまい。
そんな5MENとμ'sをよそに二人の舌戦は最高潮に達する。
「アイドルに求められる愛は純愛! すなわち、プラトニック・ラブよ!」
「プラトニック・ラブなぞ、真の愛を知らない童貞の妄想に過ぎぬ……そのような妄言をほざく時点で、貴様も女の身でありながら童貞ということだ!」
「何とでも言うといいわ。でも、肉欲ばかり追求するあなたに私は倒せない!」
そう言うとツバサは呼吸を整え両手を天にかざし全身に闘気を纏わせ始めた。それを見て花陽が衝撃を受ける。
「あ、あれはまさか!?」
「かよちん知ってるの?」
「あれは、自らの身体に他人の意思を纏わせ力にする奥義、『
「色々な疑問を差し置いてあえて言わせてもらうけど、それって何か不味いの?」
穂乃果が訊くと花陽は目をひん剥いて「不味いなんてもんじゃないよ!」と迫った。
「ツバサさんは女性ですよ!? 女性が男性である童貞の思念を纏ったら発狂しますよ!」
「花陽ちゃん落ち着いて……」
「でも、地球には70億人以上の人間がいるんやし、一人くらい女性の童貞がいてもおかしくないんちゃう?」
「そんなまさか……」
「分からないわ。なんたってあのツバサよ? 私達が憧れた、最高のスクールアイドルの……」
ニコはツバサに絶大な信頼を寄せているようだ。当然である。彼女は綺羅ツバサの大ファン。A-RISEが結成された当初からずっと応援しているスクールアイドルなのだ。
μ'sからの期待を背に、ツバサは天に向かって叫ぶ。
「童貞よ、我に力をーっ!」
「酷いセリフですね……」
酷くとも効果は抜群である。
ツバサが叫ぶと同時、星の輝いていた空は突如曇天となり、雲の切れ間からは紫光がほとばしり始めた。そして、その内の一条が轟音と共にツバサの身体に突き刺さる。同時、もうもうとした煙が会場を包んだ。
「ツバサさん!?」
「げほげほ……大丈夫なんですかこれ……!?」
煙はすぐに晴れた。
煙の晴れたステージに立っていたのは、何ともなさげなツバサであった。……しかし、明らかに彼女ならざる者の力が宿っている気配があった。
「ツ、ツバサさん……?」
「フッフッフ……ヨーソロー! 羅将ハン、恐れるに足らずね!」
「あれ誰の思念が憑依してるの……?」
「さぁ……」
「男子ならざる童貞な上、時を駆ける童貞とは……超常現象に粟立ちを抑えきれん。が、そうまでしてこのハンに立ち向かおうとする気概を見せる貴様に敬意を表してみたり!」
「余裕ぶっていられるのも今の内だけ。さぁ、受けてみなさい!」
そう言うと彼女は高らかに飛び上がり、ハンに踊りかかった。
「うぉ~! 奥義・『清廉潔白』~!」
「ぬるいわ!」
しかし、彼女の攻撃をハンは軽々と受け止めた。
「……ほう、確かに力は上がっているようだ。童貞も極めればこうもなると言う事、覚えておこう。とか言っちゃう、余裕!」
「!?」
「だが、所詮は童貞! 愛を語る資格無き哀しき存在よ! 『白羅滅精』!」
「ぬふぁ!」
ハンの放った闘気波はツバサの身体を容易く吹き飛ばした。彼女は大きく吹き飛ばされ、μ'sのすぐ傍に身体を打ち付ける。
「ツバサさーん!」
「ぐふ……まさか、私の攻撃が跳ね返されるなんて……」
ツバサは口からケチャップを吐きながら身をよじらせる。
「言ったであろう。童貞に真の愛は知りえないと!」
「くっ……純愛が肉欲に負けるなんて……」
ツバサが何とも悔しそうに呟く。だが、そんな彼女にハンは高らかに告げる。
「さっきから肉欲肉欲と言うが、それは間違いということだ」
「なんですって?」
「女を抱くこと……それは肉欲にあらず……抱くことこそが女への最大の敬意にして、愛!」
「!?」
「女は女であるだけで素晴らしいのだ! それを賞賛することが剝空琉愛弗の神髄! プラトニック・ラブなどという上辺の愛ではないのだ!」
ハンの言葉はツバサの胸に深く突き刺さった。
ハンの語る愛は、もはや単なる愛に非ず。それはもはや……博愛。地球に存在する全ての女性への隔たり無き、絶大な愛。
狭量なのは、ツバサ自身であった。
「ぐっ……ぐはっ!」
「つ、ツバサさん!?」
穂乃果はツバサに駆け寄り、抱き起した。
「わ、私では羅将ハンに勝てない……スクールアイドルとして奴に敵わない……!」
「良く分からないですけど、そうなんですか……」
「ええ……。穂乃果さん……!」
「え? あ、はい」
ツバサは穂乃果の手を握る。そして、声を出すのもやっとという調子で、
「あなたが……羅将ハンを倒すのよ……!」
「は? いやいやいや! 無理ですって!」
「今やつを倒さなければ、この国のスクールアイドルは滅びてしまうわ……どうか、ハンを倒して……頼んだ……わ……がくっ」
「ツバサさん? ツバサさーん!」
スクールアイドルの未来を穂乃果たちに託し、ツバサは息絶えた。
そうは言っても、穂乃果たちμ'sは一介のただのごく普通の何の変哲もない女子高生でしかない。修羅の国の剝空琉愛弗に勝つことなど、到底不可能なのだ。
だが、この
「このおれの出番を奪おうとは、小賢しいわ!」
「サウザーちゃん!」
「ほう……聖なる童貞か。あまりにもセリフが無いから存在を忘れておったわ!」
そう言ってハンは高らかに笑う。だが、笑い声ならサウザーも負けてはいない。
「フハハハハハハー! 先ほどから聞いていれば真の愛がどうとかこうとか言っているが、片腹痛いわ!」
「ほう……では聖なる童貞にとって愛とはなんだ?」
ハンはサウザーに問いかける。それに対する答えはまたして高らかな嘲笑であった。
「愚問だな! 愛は小さなガキまでをも狂わす! 故に!」
サウザーは断言した。
「愛などいらぬッ!」