サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
雪穂と亜里沙は音ノ木坂学院に来ていた。
二人が注目するのは番号の羅列された大きな掲示板。集まった人々はその番号に一喜一憂するわけだが、雪穂と亜里沙は喜ぶ側の人間だった。
「ユキホ! 私の番号あったよ!」
「私も! いやぁ、良かった良かった」
羅列された番号……この番号に該当したものは、来年から音ノ木坂学院の学生たる資格を得る。
「それにしても、亜理紗ホント頑張ったよね。日本語も今ではペラペラだし」
「前の出番から半年近く経つからね! 一生懸命勉強したんだもん」
イマイチ学力程度が知れない音ノ木坂学院であるが、無勉強では入れるようなところでないことは確かである。二人は相応の努力をしてきた。雪穂などは、当初UTXへの受験を考えていたが、それをやめて音ノ木坂を受験したのである。
「オトノキ生かぁ。ユキホ、入学したら一緒にμ'sに入ろうね!?」
亜里沙が瞳をキラキラ輝かせながら言う。
だが、雪穂はそれに素直に『うん』と答えることが出来なかった。だから、歯切れ悪く返事してしまい、亜理紗に心配されてしまった。
※
「本選まで一カ月を切りました」
部室、ホワイトボードを前に海未が今後のプランを説明する。
「これからは練習量を減らし、本番までコンディションを整えて行きたいと思老います。あと、サウザーがこれから嫌がらせをしていくと公言していたので、その辺も注意しましょう」
「今まで嫌がらせのつもりが無かったのが意外ね。ところで」
マキが穂乃果と絵里に話しかける。
「雪穂ちゃんと亜里沙ちゃん、合格したんですってね」
「ええ、お陰様で」
絵里が嬉しそうに答える。穂乃果も、
「散々UTXが良いって言ってたんだけどね、急にオトノキにする言い出したときは驚いたよ」
「やっぱり二人ともアイ研に入るのかな!?」
花陽が興奮気味に言う。亜里沙はもちろんだが、最近は雪穂も穂乃果にそれとなくそのような話をするようになっていた。凛も一緒に喜んで、
「そしたらμ'sも11人だにゃ」
しかし、言ってすぐに「あっ」と気付く。
「絵里ちゃんと希ちゃんは卒業しちゃうんだね……」
三年生は卒業である。彼女たちが卒業して亜里沙と雪穂が加入した時、果たしてそれは二人が憧れたμ'sであることが出来るのだろうか……。
「絵里と希が卒業ね……ニコちゃんはどう思う?」
「取り合えず私が卒業しない体で話すのやめなさいよ、泣くわよ?」
「冗談に決まってるじゃない。ホントは、卒業してほしくないケド……」
「んん~!? マキちゃん、なんて言ったにこ~?」
「う、うるさい!」
「そこ、イチャイチャしないでください」
「絵里ちゃんはどう思う?」
穂乃果が絵里に問いかける。卒業生はどうしてほしいのだろうか。
「私は何ともいえないわね。μ'sをどうするかは穂乃果たちが決めるべきよ」
「丸投げ?」
「違うわよ! あなた達はスクールアイドル続けるんでしょ? なら、決めるのは私達じゃないわ」
道理である。
だが、そう簡単に決められる話でないのも事実であった。
※
μ'sで三年生の卒業が話題になった二日後。
サウザーたち南斗DE5MENの中でも同様の話題が出ていた。
「ところで、ラブライブが終わった後もスクールアイドルは続けるのか?」
サウザーの居城における会議の中でシュウがサウザーに問いかける。
「愚問だな。当然であろうが」
「そうなのか……」
「しかし、スクールと言うからには卒業があるのだろう」
レイが言う通り、南斗DE5MENは聖帝十字陵学園のスクールアイドルである。今までに登場した『Z』とか『南斗五車星』とか『見上げてGOLAN』とか、その辺はどこのスクールアイドルなんだという指摘があるだろうが、とりあえず5MENはそうなのである。
だが、サウザーは「これまた愚問だな!」とレイの意見を一蹴する。
「聖帝十字陵学園は終身就学制度! 貴様らは入学した以上卒業は許されん!」
「なっ……聞いてないぞ!?」
「言ってないからな?」
「悪質商法か何かか……」
困惑と呆れの声を無視し、サウザーはやはり高らかに笑う。
「フハハハハー! 故に5MENは永久に続く! 強いて言うならおれが飽きるまで続く」
「しかし、ラブライブと言えば、μ'sはどうするのであろうな」
三年生が卒業することはシュウも気にしていた。彼にとっては当に過ぎてしまったイベントだが、そうであるが故にその意味の大きさも理解しているのだ。
「フフフ、そうなればμ'sの人数は六人となり、戦力的に我々と拮抗すると言う事だ」
「何の話だ」
「あ、そうだ。そろそろμ'sの邪魔をしに行こうではないか!」
相変わらず気まぐれなサウザーは思い出したように立ち上がった。
「学生の大会で露骨な妨害ってどうなんだ」
「知らん! 行くぞ!」
5MENは意気揚々と(意気揚々なのはサウザーのみだが)μ'sの活動する音ノ木坂学院へと向かう。
だが、目的の面々は学院に到着する前に、昌平橋に来た時点で目に入った。
「む!」
「げ」
そこにいたのはいつもの制服ではなく私服姿のμ'sご一行である。サウザーの姿を見て良からぬ予感がしたのか露骨に引いている。
「貴様ら練習じゃないのか?」
「いやぁ、たまには息抜きも必要だよねって。九人で遊んだことなかったし」
「毎日お気楽に遊んでいるようなものだろう貴様らは」
「サウザーちゃんに言われたくないね。サウザーちゃんたちはなんの用なの?」
「貴様らを邪魔してやろうと思ってな」
「帰れ」
帰れと言われて帰る聖帝ではない。μ'sの目的を知るや彼はそうとなれば同行してやろうと何故か上から目線で提案してきた。
「えぇ……」
「貴様らにある選択肢はおれを同行させるか神田川に今から飛び込むかの二択だぞ?」
「うん……まぁ、いいか」
「穂乃果! ホントにいいの!? その場のノリで適当に決めて無い!?」
「絵里ちゃん落ち着いて! だって、μ'sの九人もそうだけど、サウザーちゃん達と遊びに行くことなんてもっとなかったし、お互いの健闘を祈ってってことでいいんじゃないかな」
「無理しなくていいぞ」
レイが申し訳なさげに言う。だが、穂乃果は首を振って、
「どうせ言ってもサウザーちゃんは着いてくるし、人数が多い方が負担が分散されるから」
サウザーを荷物呼ばわりすることにためらいが無いあたり、扱いになれている。
とにかく、遊びに行く仲間は全員で十四人となり、ちょっとした団体様となった。そんな一同が向かう場所は……。
「みんなが行きたいところ全部に行こうって話してたんだ」
「さすが若いと行動力があるな」
「そう言うとはシュウ様、老いは隠せんようだな? おれは修羅の国に行きたい!」
「却下」
穂乃果に即行で断られる。そして、気を取り直して「よーし!」と元気よく宣言した。
「しゅっぱーつ!」
推奨BGM:有情ノーチェンジ
「『有情ノーチェンジ』ってなにさ?」
「『痛いのは嫌』みたいな意味ではないでしょうか?」
「ちなみに読み方は『うじょう』でも『ゆうじょう』でもOKだよっ」
+ゲームセンター+
『FATAL K.O.ウィーンレェイパーフェクト』
「んはぁ! 負けたぁ!」
「どんなもんよ!」
うなだれる穂乃果にニコが勝ち誇ったようにポーズを決める。
「ほ、穂乃果が完封されるの始めて見ました……!」
「ニコちゃんすごぉい!」
「ユダはやらんのか? 色々な鬱憤を自分の登場するこのゲームで発散しているのだろう?」
「なっ……レイっ、貴様何故それを……!」
「あっ、本当だったのか……なんかすまん」
「ぬっくぅぅぅ!」
一方でサウザーは最近稼働開始したスクフェスACに興じていた。
「ふっ! トゥアっ! ヤァッ!」
「サウザーちゃん凄いにゃー」
「それにしても最近のCGは凄いな」
シュウ様が感心するのは画面で踊り狂う3DCGサウザーである。滑らかな質感と違和感のない挙動で画面越しにウザさが迫りくるほどだ。
「フルコンボだドン! フワハハハハ!」
「違うゲームだけどね」
「よーし次行ってみよう!」
+動物園(牙一族のアジト)+
「フハハハハ! サファリパァ~ク! フハハハハ!」
サウザーたちを乗せたバスは牙一族の潜む谷間を進む。車外には獣のごとき者どもがうようよいて、バスをガンガン攻撃してくる。
「私たち上野に行きたかったんだけど……うひぃ!」
「愚痴って無いでパンをちぎっては投げろ高坂穂乃果!」
「パンダ、見たかったなぁ……」
残念そうにことりは窓の外で威嚇するマダラにちょっかいをかけている。
「まぁ、ある意味レアやね」
「レアなら何でもいいってわけではないでしょ」
「フハハハハ! 次行ってみよう!」
+美術館+
「これが北斗宗家に伝わる女人像かにゃ」
「レプリカだけどね。はわぁ、本物を見てみたいです!」
「で、こっちがシンさんの作った1分の1スケールユリア像かにゃ」
「すごい精密です! 生きてるみたいだね」
シンの作り上げたユリア像は驚くほどに精巧で、ケンシロウがあっさり騙されるのも納得の出来栄えである。
「好きな女とは言え、巨大フィギュアにするとは些か気持ち悪いな、えぇ? おしゃまイエローよ」
「うるさい!」
だが、ここにいる一同は知らないし、知られてはならない。
音ノ木坂学院生徒会室にある、時価一千万円相当のクリスタルガラスがあしらわれた等身大ケンシロウフィギュア。
あれを作り上げたのが他ならぬシンであるという事実を……。
「フハハハハ! 次行ってみよう!」
+お昼ご飯+
「吉祥寺! フハハハハー!」
吉祥寺はお洒落な街としても有名だが、新年になると聖帝祭なる祭りが開催されどうしようもない下郎どもが押し寄せる世紀末な街でもある。
「ここが噂に訊くカフェですか」
「お洒落だねっ」
「お洒落な中5MENの関連グッズが明らかに異彩を放ってるよ」
「フフフ、ここは聖帝軍がスポンサーを務めている店だからな……積極的に5MENの宣伝を行っているのだ!」
店内には等身大ケンシロウフィギュア(通常版)がいる。記念撮影しよう。
「ところで今年もやるのか、聖帝祭」
レイが尋ねると、サウザーはフンスと鼻を鳴らして、
「当然だ! 今年はややロングな期間やるから下郎はこぞっておいでになるがいい」
「何の宣伝やねん」
「形状は気に入らないけど、このカレー美味しいわね」
「この死兆星つきパンナコッタもすごい趣味だけど美味しいよ!」
絵里と穂乃果も大絶賛。
行きたくても行けない人だっているんだから、近所に住んでたり東京に用事がある下郎はちゃんと行こうね。
+浅草+
「人形焼き! ブフワハハハハ!」
「ちょっとサウザー、口に物入れながらしゃべらないの」
「あはは、絵里ちゃんサウザーちゃんのお母さんみた……ごめんホントゴメン謝るからそんな怖い顔で睨まないで」
「何やってるんですか穂乃果……」
「東京随一のスピリチュルスポットやん」
一向は仲見世を通り抜け、常香炉のところまで到達した。
「けむいぞ!」
「あれを浴びると身体の悪いところが良くなるんやで」
「ハラショーね。サウザー、さっそく浴びてきなさい。頭を中心に」
「これ以上おれの頭が冴えわたっても知らんぞ?」
「ほざけ」
その後、一行は花やしきやボウリング場、スクールアイドルショップ、ピレニィプリズンなどを巡り、休日を存分に楽しんだ。
「さて、あとは穂乃果の行きたい場所ですね」
「ハノケチェンはどこ行きたいの?」
海未とことりが問いかける。穂乃果は、少し考えた後、微笑んで、でもどこか寂しそうに呟いた。
「海、かな」
※
暦の上では春だが、まだまだ風は冷たく、海の傍ではなおさらである。
夕陽が静かに水平線の向こうへ沈もうとしている。
「綺麗だねぇ……」
「そうですね……」
海を見つめながら、μ'sの面々はそれぞれの思いに耽った。穂乃果が何を話したいのかを悟ったのである。
それはサウザーを除く5MENの連中も同様で、
「サウザー、我々は先に駅に帰るぞ」
「なっ、シュウ様! やだやだ、おれは海で遊ぶ」
「ぬっく……レイ! 手伝ってくれ!」
シュウとレイは暴れるサウザーを両側から抑えようとする。だが、さすがは南斗鳳凰拳伝承者、無駄に抵抗してくる。と、そこへマキがμ'sの群れから離れてこちらへツカツカと歩いてきた。
「む?」
彼女はサウザーのそばまで近づくと、黙って彼の胸を突いた。すると、
「うっ!?」
サウザーの身体がピシィッ、と動かなくなった。新膻中である。
「バカなっ……西木野マキがおれの身体の秘密を……!?」
「いまだ、連れて行くぞ!」
サウザーはごね続けていたが、新膻中で動けないとなっては運ぶのは至極簡単な作業である。一行は海岸を後にし、最寄り駅へと向かっていた。
その道中、彼らの傍に一台の馬車が停まった。
「む?」
「そこの者たち! 道を尋ねたいのだが?」
声とともに馬車のドアが開かれる。すると同時、中から形容しがたい『濃い』オーラがむわっと噴出した。そのオーラの発生源……これまた『濃き』紳士が馬車から降り立った時には歴戦の六聖拳といえど緊張せざるを得なかった。
「晴海客船ターミナルに行きたいのだが!?」
「晴海ならここからずっと先だ。東京へ着いたら改めて道を尋ねるがよい」
「そうか、助かる。それにしても……」
そう言いながら男は5MENを見渡し、小さく笑うと、
「童貞が童貞を連行する構図には粟立ちを覚えざるを得んな?」
「!?」
突然の評価に5MENは戸惑う。そして、その口ぶりにとある人物を連想せざるを得ない。
「貴様、まさか『羅将ハン』ではないか?」
シュウが指摘する。すると男は、
「ほう……このおれの名を知るとは、ただの童貞ではないようだな?」
ここ最近のスクールアイドル襲撃事件の犯人の特徴に『相手をやたらめったら童貞認定する濃い男』というものがあった。そして、A-RISEが言うにはこの襲撃の犯人は羅将ハンとのことである……。であれば、この目の前にいる濃くて童貞認定してくる男こそ、伝説のスクールアイドル『修‐羅イズ』のハンであるに違いないということだ。
「晴海客船ターミナルはラブライブの会場だが、目的はそこか?」
「そこまで当ててくるとは……まさか貴様、童貞ではないな!?」
「うん……まぁ童貞ではないが……」
ハンの濃厚さに圧倒されそうになるシュウ。
「今まで倒してきたスクールアイドルは童貞ばかりであったが、ラブライブ本線ともなれば童貞ならざる強敵が現れるであろう! そう思うと粟立ちが止まらなくてその事実にまた粟立つ次第であるわ」
そう言うとハンは馬車に戻っていった。
「礼を言おう童貞諸君! いざ征かん、粟立ちの向こう側へ!」
馬車は東へ去っていった。
「……何だったんだあれは」
「ろくな男でないことは確かだな」
「羅将ハンか、フフ、面白い」
いつの間にか縛を破ったサウザーが起き上りながら言う。
「奴が何を考えているかは知らんが、ラブライブ優勝はおれのものだ!」
「うむ、良く分からんが今回のサウザーは謎の頼もしさがあるぞ」
そのような事を話している内に、用事を終えたμ'sの一同が駅へ戻って来た。
目が赤くなっているのも何人かいたのは、つまりそういうことなのだろう。
そんな彼女たちにとって、帰り路でのサウザーの空気の読めなさっぷりはある意味ありがたかったかもしれない。
穂乃果の、μ'sの葛藤、そして決断はDVDなりバンダイチャンネルなりで見れば良いやん?