サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
首都圏は例年にない大寒波に見舞われた。
この日も前の晩から雪が降り続き、夜が明けてなお止む気配を見せなかった。こんもりと降り積もった雪は喧騒を吸い取り、東京は静寂であった。
「ぴゃー、これが会場……」
「でっかいにゃ」
昼少し前、最終予選の海上に到着した面々は設営されたステージの規模に息を呑んだ。巨大でありながらきめ細かな装飾を施されたステージは降りしきる雪の中によく映えて、開演の夕刻にはそれはそれは美しくなるであろうことが容易に想像できた。
「穂乃果ちゃん達に写真送るにゃー」
凛はそう言いながら携帯で会場をパチリと撮る。
現在、会場にいるのは穂乃果、ことり、海未を除いた六名だけである。と、いうのも、生徒会の役員を務める三人は入学希望者への学校説明会に狩りだされ、到着が遅れるからであった。
「それにしても間に合うのかしら」
マキがやや不安げに呟く。
例年にない大雪の影響で交通に乱れが生じ、説明会の開始が一時間以上遅れているとのことであった。一応時間的余裕はまだあるが、何があるか分からないため不安も大きかった。
「穂乃果たちなら大丈夫よ」
不安げな一年生に絵里が言う。
「今までも色々なピンチがあったけど、その度にどうにかなったんだから」
「だといいんだけど……」
「ま、私達が不安になったところでどうにかなるわけでもないわ。お昼に何か温かいものでも食べましょう」
「らーめん!」
凛がシュバと挙手して希望する。温かいし、スタミナも付けたいしラーメンは中々良案である。
一応はひとまず不安を胸中の戸棚に仕舞ってお昼ご飯へ向かった。
同時刻、Bブロック最終予選会場。
「サウザーめ、何をしているのだ!」
ユダが激昂しながら雪を蹴った。
Bブロックの会場もμ'sたちのいるA会場に負けず劣らず豪勢な作りであった。が、今はそれをのんびり見物している余裕はない。
なにしろ、サウザーだけが会場に来ていないのだ。今日は助っ人角刈りのファルコも来ているというのに、である。
「これではエントリーが出来ないではないか!」
「落ち着けユダよ!」
シュウがユダを諫める。
「時間の余裕はまだまだある。何も慌てる必要はない」
「クッ……『エントリーするには全メンバーが揃っていなければならない』などというルールがなければさっさと登録してしまえるものを……!」
最終予選のエントリーはよっぽどの理由が無い限りグループ全員で行う必要がある。南斗DE5MENはサウザーをリーダーにして登録しているため、彼抜きでは事が進められないのだ。
「いっそのことまた沖縄とかに行っていれば……!」
「それにしても本当に何をしているのだ?」
ユダほどに怒りはしないものの、レイも不思議そうに言う。
サウザーは間違いなく居城の周辺にいるはずである。にも拘わらず、なぜ遅れているのか……。
しょうもない理由であることは確かである。
※
時と所は移って音ノ木坂学院。
一時間遅れで開催された学校説明会は無事成功し、生徒会長としてスピーチを行った穂乃果は舞台そでに引っ込むとひとまず胸をなでおろした。
「穂乃果にしては上出来でしたね」
「引っかかる褒め方だね? まぁいいけど。ところで、時間は大丈夫?」
穂乃果が訊くとことりが携帯の時計を確認して、
「うん、まだ二時間以上あるから大丈夫ね」
「そっかぁ、よかったよかった。さぁ、会場に急ごう!」
三人はあらかじめ纏めてあった荷物を肩にかけると玄関へ駆けだした。
だが、玄関にたどり着くと同時、彼女たちにとって特に悪い知らせが伝えられた。
「で、電車が止まってる!?」
大雪のせいでついに電車が止まったのだ。バスや車も身動きが取れないところがあるらしく、交通は麻痺状態と言っていい有様であった。
「ど、どうしよう穂乃果ちゃん……!?」
「穂乃果……」
ことりと海未は途方に暮れる。
説明会の前に除いた雪は再びつもりだしており、風も強くなり始めている。降る雪に遮られ、遠くはかすんで見えた。
だが、ここで諦めないのが穂乃果である。
「移動手段は……私達の脚がある!」
本当はライブまで無暗に体力は消費したくない。しかし、背に腹は代えられないのである。
「走って行こう! 時間は十分にあるから、きっと大丈夫! 私は絵里ちゃんに連絡しておくから、海未ちゃんとことりちゃんは備品室に長靴とジャンパー取りに行ってきて!」
大ピンチに穂乃果のリーダーシップが発揮される。海未は胸中いつもこれくらい頑張ってくれればいいのにと思いながらことりと共に備品室へ走った。
二人を見送るとすぐに穂乃果は絵里に電話をかけた。
「えっ!? ……それで、大丈夫なの?」
会場近くのビルのロビーで絵里は穂乃果からの連絡を受けていた。
『うん、間に合わせるから、準備だけ進めておいてくれる?』
「わかったわ……穂乃果、くれぐれも無理はしないように、気を付けて」
そう言って電話を切る絵里に一年生一同は心配げな顔を向ける。
「心配しないで、穂乃果たちは大丈夫だって」
そんな後輩を励ましていると、向うから見知った三人組が近づいてくるのが見えた。
A‐RISEである。
「ごきげんよう、μ'sの皆さん」
「む……全員そろってないようだが」
英玲奈が穂乃果たちの不在に気付いて指摘する。
「それが、電車が止まってしもうたらしくて」
「歩きで会場まで来るんですにゃー」
「……! それは、大変ね……」
ツバサが心配げに答える。
「でも、ちゃんと間に合いますから、その点は大丈夫です」
絵里はやや語気を強めてそう断言した。本心では不安でいっぱいなのだが、A-RISEの、そして自分以上に不安な仲間たちの手前こう言うのだ。
そう言われれば、不敵に笑うのがA‐RISEで、綺羅ツバサである。
「そう。……なら、穂乃果さん達にも伝えておいて」
彼女はμ'sの脇を通りすぎながら続けた。
「お互いベストを尽くしましょう。そして、私達は、絶対に負けない」
まさに、王者の風格。彼女の言葉にμ'sは緊張せざるを得なかった。
そして、A-RISEの三人はそのまま立ち去って行き、μ'sから死角に入ったところでツバサは懐の携帯電話を取り出した。
一方、穂乃果ら三人は備品室から借りてきた装備を身に着けて会場へと向かおうとしていた。風はやや弱まり、行くなら今である。
だが、悪いことは重なるものである。
「うぉ、ウォリアーズだあぁぁ!」
「ジャッカルの襲撃だあぁぁ!」
なんと、ジャッカル率いる野盗集団『ウォリアーズ』が音ノ木坂学院に襲来したのである。
「よりによって、こんな時にですか!?」
「なんかデジャブ感じちゃうなぁ……」
「言ってる場合じゃないよぉ!」
以前牙一族が音ノ木坂に襲来したときは学校にニコとマキがいた。しかし、今二人は最終予選の会場にいる。迎撃することは出来ない。ジャッカルという男は狡猾だから、そこを狙って襲撃に訪れたのかもしれない。
「くっ、こうなったらラブアローシュートで……!」
「わ、私マキちゃんに教えてもらった簡単な秘孔術しか知らないよぉ~!」
「嘆願波は海未ちゃんにしか効かないから使えないし……」
今度こそ途方に暮れる三人。
しかし、そんな彼女たちの前にヒフミの三人が立った。
「穂乃果たちは行って」
「μ'sは、学校を廃校から守ってくれた」
「今度は私達がμ'sを、学校を守る番だよ」
三人がそう言うと、他の生徒もゾロゾロと校門に集まってきた。どうやら、来るジャッカル軍団と対決するつもりのようだ。
「無茶だよ――」
「無茶を切り開いてきたのがμ'sでしょ?」
穂乃果の言葉にかぶせるようにヒデコが言う。
「伊達にμ'sの裏方やってないよ」
「ラブライブ、優勝するんでしょ? 行った行った!」
フミコ、ミカも続けて三人を急かす。
あまりに無謀な戦いを挑もうとする彼女たちと突然すぎる展開に戸惑う穂乃果。しかし、海未とことりも、
「行きましょう穂乃果」
「ラブライブ、出よう!」
二人に背中を押され、穂乃果もついに決心する。
「……わかった。絶対予選通過してくる! だから、無茶しないでね!」
「任せなさい!」
ヒフミ達の声を受けて、三人は雪の中を傘をささずに駆け出した。
駆け抜ける三人と入れ替わるようにジャッカルらウォリアーズが校門からバイクのエンジンを唸らせながら侵入してきた。
「なんだぁ~きさまらはぁ~!?」
「モブごときがおれらに敵うとでも思ってんのかぁ~!?」
立ち塞がる音ノ木坂生徒を見てウォリアーズの男たちはアヒャヒャと下品に笑う。
「北斗神拳とか南斗聖拳の使い手がいないきさまらなぞ、捻りつぶしてくれるわ~!」
ジャッカルはそう言いながら尊大に葉巻をふかした。
しかし、対するヒフミ以下音ノ木坂学生たちは不敵そのものだった。
「
「でも、
「
ヒデコ、フミコ、ミカ……人呼んで『神モブ』、またの名を『九柱の守護星』である。
※
いったん弱まったように見えた雪であるが、校門を出てしばらくすると再び勢いを増し、三人の視界を奪った。わずか数メートル先の視界もままならないばかりか、凍てつくような風が顔を刺すため、まともに前を向くことすらできない。
その結果、彼女らは近所でありながら遭難する羽目となった。
「こ、ここどこ!?」
気が付くと彼女たちは断崖絶壁の道……とうより岸壁から少し突き出た足場……の上にいた。一歩間違えれば滑落しそうな場所である。そんな場所を海未、穂乃果、ことりの順で進む。
「なんで東京にこんなところがあるのさぁ……」
「出来るだけ壁に密着しながら進むのです!」
風と雪は容赦なく三人に襲いかかる。暴力的ともいえるそれは三人から気力を徐々に奪っていった。
「これ、私達ホントに会場行けるのかなぁ……」
「穂乃果、弱音を吐くなんてらしくありませんよ!」
「そうだよ穂乃果ちゃん! 死ぬ気で行けば行けない道は無いよ!」
海未はともかく、ことりまで異様に興奮しているのは穂乃果には不思議に思えたが、ことりとしては、そうでもしないと気力がもたないのであった。
「滑りやすいですから、くれぐれも気を付けてください」
重ねて海未は二人に注意する。
「うん! すふぉっ!?」
それに元気よく答える穂乃果であったが、答えると同時に脚を滑らせ崖から滑り出た。
「穂乃果!」
「うひぃっ!」
人間は危機的状況に陥るととりあえず近くにあるものに掴まろうとする習性がある。
この時、穂乃果の手の届く範囲にあったのは海未の足首であった。
「んはっ!?」
穂乃果に足首を掴まれ海未もまた崖下へ真っ逆さまに堕ちそうになる。引きずり降ろされる彼女の両手をことりがキャッチしなければ重力に任せるまま二人は崖下の肥やしになるところであった。
「う、海未ちゃん大丈夫~!?」
「ええ、なんとか……穂乃果は大丈夫ですか!? 絶対に手を放してはいけませんよ!」
吹き荒れる吹雪にユラユラと揺れる海未とその足首に下がる穂乃果。視界が悪いこともあって崖下は全く見えない。
まさに絶体絶命であった。
そんな中、海未は先から穂乃果が全く返事しないことが気になっていた。
「大丈夫ですか!?」
「…………」
足首を掴んだまま器用に気絶でもしているのかと心配になる。
「穂乃果っ!?」
「……白か」
だが、心配を他所に帰って来た返事はマヌケそのもので、意味を理解した海未は顔を真っ赤にして空いている足で穂乃果の手をげしげし蹴った。
「いたっ……痛いって堕ちる!」
「あなたは最低です!」
「ゴメンって! 許して!」
「やんやん腕がもげそうですぅ~」
海未と穂乃果がはしゃぐものだからことりの腕に負担がかかる。小さい頃から背中に海未なんかを乗せた状態で木にしがみ付くほどの腕力を誇ったことり(TV版)であるが、流石に暴れる女子高生二人をぶら下げ続けるのはきつかった。
ついに、耐えられなくなったことりが二人に引きずられる形で崖から飛びだしてしまう。
「あっ」
三人の悲鳴が崖の下へと吸いこまれていく。
※
その頃、サウザーは峡谷に軍を進めていた。
「フハハ! 征け、拳王軍を滅ぼすのだ!」
ご機嫌なサウザーは吹雪にも関わらずイチゴシェイクを吸いながら聖帝バイクの玉座で高笑いしている。
「しかしサウザー様、よろしいのですか?」
「案ずるなリゾ、我が聖帝軍の乗り物は全てスタッドレスに変えてある」
「いえ、そうではなく――」
「征けい! フハハハハ!」
リゾの言葉なぞ聴く耳を持たない。今彼は最高に楽しい気分なのだ。今が楽しければ割とそれでいいのである。
そんな時、兵士の一人が空を見上げて何かに気付いた。
「なんだあれは!」
「女だぁ~!」
「落ちてくるぞ!」
なんと、崖の上から女が三人落ちてくるではないか。
三人は吹き荒れる吹雪に揉まれながら、丁度サウザーのところへ落ちようとしていた。
「聖帝様!」
「ぬっ……はぁはぁ……む!?」
寒さのせいで余計に飲みにくくなっているシェイクに苦戦するサウザーは落ちてくる三人に反応するのが遅くなってしまった。
「ぬはん!?」
玉座にあったサウザーは三人に押しつぶされた。兵士たちは突然の事態に唖然とし、サウザーもぐぬぬと唸るばかりである。
「おや、サウザーではないですか」
「偶然だね」
「ちゅんちゅん」
落ちてきたのはμ's二年組の三人であった。聖帝軍の進攻路はちょうど彼女たちの歩いていた場所の真下だったのである。
「サウザーちゃんがクッションにならなかったら助からなかったよぉ」
「クッ……小娘ども、何故……」
「いやぁ、実は会場に向かおうとして道に迷っちゃって?」
三人はサウザーから降りながら事情を説明した。それを聞くやサウザーは嘲笑混じりに、
「たかがこのような雪で混乱するとは、フフフ……」
「うるさい。ていうか、サウザーちゃんこそこんなところで何をしてるのさ」
穂乃果が問いかけると、サウザーはよくぞ訊いてくれたと言わんばかりに高笑いして、
「この雪の混乱に乗じ拳王軍を攻めるのだ! 実質帝都とも同盟関係にある今が好機!」
サウザーにしては賢い(ような気がする)攻め方である。伊達に軍閥勢力のトップではないということであろう。
ただ、自信満々のサウザーに対してことりは、
「でも、最終予選はどうするの?」
「なに?」
「最終予選。今日だよ?」
ことりの言葉を受けてサウザーはしばしだまり、うーんと思考する。そして、閃くと同時に愕然として、
「やっちゃった!」
「馬鹿じゃない?」
「全軍反転~! 最終予選会場へ向かうぞ!」
「し、しかし聖帝様、拳王軍は!?」
「拳王軍なぞ気が向いた時にでも潰してやればよいわ! このままでは、またもユダに5MENのリーダーの座を奪われかねん!」
「それどころの問題ではない気がするのですが……」
しかし、真にピンチなのはサウザーではなく穂乃果たち三人だ。
ただでさえ道に迷ったというのに、崖から落ちてしまっていよいよここがどこか分からないのである。
「サウザーちゃん、バイク貸して?」
「嫌に決まっているだろうが」
「うーん、ケチ」
「そもそも免許持ってませんよ私達」
上下左右雪と崖に囲まれ、いよいよ東京離れしてきた光景である。
そんな折、吹雪の中からこれまた東京離れしたものが徐々に近づいてくるのが見えた。
「なんだ!? 馬が近づいてくるぞ!?」
「まさか拳王軍か!?」
「三頭だけのようだぜぇ~!」
「ぶっ殺してやるぜェ~!」
まともな戦闘が無いからここのところ元気を持て余していた兵士たちは大いに沸き立ち各々武器をぺろぺろ舐めた。今なら拳王軍でも蹴散らせそうである。
しかし。
「武器を収められよ!」
「UTXの者だ!」
「聖帝軍は下がれい!」
なんと、馬上にあったのはUTXの生徒だったのである。制服もUTXのブレザーだし、間違いあるまい。
「μ'sの高坂穂乃果様、園田海未様、南ことり様はご無事か?」
「えっと、はーい、ここでーす」
穂乃果がひょこと手を上げ返事をすると、UTXの隊長らしき人は馬に乗ったまま兵士を蹴散らしつつそばまでやって来た。
「綺羅様の命によりお迎えに上がりました」
「ツバサさんの?」
「そうです。我々が会場までお連れ致します」
これは非常に助かる。だが、一体どういう風の吹き回しなのだろうか?
その疑問を感じ取ったのか、隊長は、
「綺羅様は誇り高きお方です。不戦勝などはご自身が許されないのでしょう」
「なるほど……思っていたより立派な人物ですね」
「カッコいいなぁ」
海未とことりはほえ~と感心する。だが、そんな隊長の言にサウザーは、
「分からんぞ? 実は迎えに来たと見せかけて貴様らを抹殺する気かもしれんぞ?」
「んなわけないじゃん、そんな百人の女子供を人質に取ってシュウ様を黙らせた誰かさんじゃあるまいし」
「そうだよぉ、ツバサさんは、拳王に従うと見せかけてこっそりユダさんに拳王府を攻めこませるような卑怯者の誰かさんとは違うよ」
「まったくサウザーときたら、そんなだからサウザーなんですよ」
「ぬっく……」
※
その後、穂乃果たちはUTX生の馬に乗せてもらい会場へと向かった。サウザーもまた、軍勢を引き連れて自らの会場へと赴く。
「フハハハハ!」
「遅いぞサウザー!」
会場に着いた彼を真っ先に(怒声と共に)出迎えてくれたのはユダである。イライラしすぎていつも以上にロン毛がもさもさしている。
「受付締め切りまであと30分しかないんだぞ!?」
「まだそれだけあると言う事は余裕と言うことではないか? ん? 主役は遅れてくるものだしな?」
「貴様ァー!」
「おいおい、バカやって無いで受付に行くぞ」
ガミガミ喚くユダをシュウが抑えて、六人は受付へ向かった。未だ受付を済ませていないのは南斗DE5MENだけだったらしく、受付スタッフは待たされたのかやや不機嫌であった。
「それにしても、ここまで来たのだな……というか来てしまったというか」
控室に入り、レイがふと呟く。
「フハハ、レイよ、ここはあくまで通過点に過ぎんぞ?」
「まぁそうなのだが……いっそもう最終回でも良い気が……」
「そう言いながら、アイドルをそこそこ楽しんでいるようではないか?」
ユダが嫉妬交じりに指摘する。
南斗DE5MENで女性に一番人気があるのは何と言ってもレイである。整っていながらもどこか憂いを含んだ顔立ちと男らしさにメロメロである。そして、レイは相応にスケベな面があるため、満更でもなかったのだ。
「……まぁ、マミヤやアイリも応援してくれるからな」
「私も子持ちでアイドルはそうかと思っていたが、存外に受け入れられてな。奇妙ではあるが、少し自信が沸いた」
シュウもレイと同じくスクールアイドルをすることに反対していた男である。そして、今回の作詞を担当したシンもまた同様であった。
「まさかシンがあのようなラブソングを書くとはな……」
「……フン、当然だ。別段難しくも無い」
シンの書き上げた歌詞は届きそうで届かない、届けたいけど届けられない、そんな恋する乙女心をキュンキュン突く出来栄えで、μ'sの面々に見せた時は大絶賛であった。
「もっとも、この聖帝の指導力あってのものだが」
「……寝言は寝て言え」
「今言ったのは角刈りか? 言っておくが貴様の存在はかなり持て余してるぞ?」
「自ら引き込んでおいて結局持て余しているのか……」
ステージ前にギスギス談笑する光景ももはや見慣れたものである。
そして。
「5MENのみなさん、お願いしまーす」
「フハハハハ! 下郎どもに我が鳳凰の舞を見せてやろうではないか!」
六人はステージに向かって歩きだした。
最終予選、μ'sと5MENの戦いが始まる。
最初、「スノハレはシンが作詞した」って設定で構想してたんですけど、今更ながらに「ないな」ってなったので無くなりました。
でも、ネタ的にはもったいないので、嫌じゃない方は「スノハレはシンが作詞した」と考えながら原曲聴いてみてください。印象代わります。