サウザー!~School Idol Project~   作:乾操

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通算30話目。だから何だって話だけど。


第8話 南斗DE5MENのユダ! 俺は誰よりもリーダーに相応しい!!

+登場人物紹介~華麗なる生徒会執行部編~+

 

 高坂穂乃果 

 生徒会長。リーダーシップはあるがあまり仕事はしない。世の中適材適所、生徒会の事務は海未ちゃんの得意分野だから全部お任せします、と思っているが口にしようものなら無想転生されかねないので口が裂けても言えない。

 

 園田海未

 副会長。会長が仕事しないから人一倍仕事している。口では文句を言っているが、穂乃果に頼られることに対して凄まじい充実を感じているため口ほど怒っていなかったりする。でもやっぱりしっかりしてほしいから怒る。

 

 南ことり

 会計。会長が仕事しないから人一倍仕事している。でも海未同様に充実を感じているためそれほど不満ではない。実の娘でも他生徒と同様に扱う親鳥を誇りに思っていたが、最近はもう少し融通してくれたら楽なのに、と思うようになった。

 

 等身大ケンシロウフィギュア

 マスコット。時価にして1000万円相当のクリスタルガラスがあしらわれており、生徒会長席の後ろでいつもキラキラ輝いている。前生徒会長がアイドル研究部から押し付け、もとい寄贈された逸品である。早くも音ノ木坂七不思議の一つに数えられている。

 

 

 

  

 修学旅行。

 ティーンエイジの中でも最大級のイベントであるこれはまさに青春の象徴である。

 音ノ木坂学院の二年生は今年、沖縄へ修学旅行へ来ていた。

「海だ! 海だよー! 海!」

 青く澄んだ海を前にして穂乃果は雄叫びをあげる。

「なんですか穂乃果は、人の名前を何度も呼んだりして」

「違うよ! 海未ちゃんじゃないよ! 海! seaの方!」

「綺麗だね~」

 海も空も砂浜も、本州ではそうお目にかかれないほど美しいものである。

 季節はもう秋深まる頃合いであったが、この時期にも海には入れるとはさすがは沖縄である。

「ねえ、一緒に飛び込もうよ!」

 穂乃果は興奮しながら海未とことり提案する。このような子供っぽいはしゃぎ方は特に海未などが恥ずかしがるものであったが、今日ばかりは彼女も大いに興奮していた。

「良いですね!」

「ちゅんちゅん!」

 弾けるような若さを沖縄の太陽は燦燦と照らしていた。

 

 

 一方、東京は音ノ木坂学院。

「修学旅行かぁ……」

 全ての授業が終わり、クラスメイトが帰り支度や部活の準備をする中、凛は机に突っ伏しながら嘆息した。

「凛も行きたいなぁ」

「来年行けるじゃない」

 呆れたようにマキはそう言う。しかし、凛は、

「今行きたいの!」

「まったく……」

「沖縄は晴れてるのかな?」

 花陽は窓から空を眺めて呟いた。東京はすっかり秋雨で、朝からずっと雨が降っている。絵里なぞはこれを風流だと言っていたが、凛はやはり晴れの方が良かった。

「雨って憂鬱だなぁ……」

「そうだよね。刈り入れだって出来ないし?」

「いやそういうことじゃないけど……」

 大きなため息と共に凛は天井を仰ぐ。

 二年生トリオは遥か沖縄、絵里と希は生徒会代行、ニコは部長会で練習お休み。おまけに外は雨。練習するにしても張り合いがない。

「あっ!」

 ここで凛は名案が閃いたと声を上げる。

「サウザーちゃんの学校に行こう! あそこ屋内プールあったよね?」

「えぇ……? スポーツセンターのプールでいいじゃない……」

 マキが露骨に嫌そうな顔をする。

「聖帝校のプールなら無料(タダ)にゃ」

「まぁ、そうだね」

 花陽が苦笑しながら頷く。

 聖帝校こと聖帝軍十字陵学園はサウザーが十字陵建設のためにさらってきた奴隷のガキどもを将来の聖帝軍兵士に育て上げるため設立された学校で、南斗DE5MENが所属する学校でもある。μ'sのメンバーも何回か訪れたことがった。

「まぁ確かに無料だけど……うーん……?」

「マ、マキちゃんそこまで嫌がらなくても……」

「そうそう。それに、ここまでジメジメしてるとサウザーちゃんの()()()がちょうどいい中和剤になりそうだし。と言うわけで、いっくにゃー!」

 

 聖帝校は東京都内の荒野にデンと聳え、地下鉄で行くことが出来る。

「相変わらず意味不明な立地ね」

「突っ込んじゃダメだよマキちゃん」

「やっほー、μ'sの一年トリオでーす」

 校門に設置されたインターホンに凛が話しかける。すると、副官のブルが応答してくれた。

『おお、ようこそ聖帝校へ』

「プール使わせろにゃー」

『ええどうぞ、構いませぬぞ。ただ、今日は聖帝様や他の生徒はおりません』

「え?」

 驚きの声を上げる三人。言われてみれば、いつも校舎から校門まで聞こえてくる喧騒が今日は全く聞こえない。

「必要な時にいないわね」

 マキが心なしか安堵した調子で言う。

「あの、どこかにお出かけしてるんですか?」

 花陽がインターホンに問いかけた。ブルは『はい』と答える。

『聖帝様は現在、修学旅行で沖縄に行っております』

 

 

 

「なんで雨なのさー!」

 穂乃果の慟哭が曇天に空しく吸いこまれる

 秋の沖縄と言えば台風シーズン真っ盛りであり、その台風が穂乃果たちの修学旅行なぞ知ったこっちゃないとでも言わんばかりに襲来した。外は雨と風が吹き荒れ、椰子の樹が穂乃果をあざ笑うかのように踊り狂う。

「仕方ないじゃないですか」

「仕方なくないよ! 高校の修学旅行だよ!? 一生に一度なんだよ!?」

「まぁまぁ穂乃果ちゃん……」

 ことりの除く携帯の画面には台風の進路が表示されていた。このままいけば数時間もすれば沖縄本島に上陸し、九州へ抜けていくようだ。

 穂乃果はそんな携帯の画面に手を向けて、

「逸れろぉ~……逸れろぉ~……!」

と念を送る。

「意味無いと思うな」

「なんでぇ……雨はやませられたのに」

「穂乃果の神通力でも台風は無理なんでしょうね」

「世の中うまく行かないね」

 ことりはそう言うと携帯をしまって立ち上がるとウンと一つ背伸びをした。

「ラウンジにでも行こうよ。飲み物でも飲んで気分転換しよ?」

「それが良いですね。ほら穂乃果、いつまでもうだうだ言ってないで」

「うぅ」

 三人は部屋を出てラウンジへ赴く。

 着いてみると、そこは他の宿泊客や同級生で賑わっていた。晴れていればオーシャンビューのテラスも利用できたのだが、今はあいにくの天気である。

 そんなラウンジで、穂乃果同様に台風を嘆く人物の姿があった。

「ぬぅ! ここまで来てなぜ外に出られんのだ!?」

「だから台風だと言っているだろう」

「おれは台風なんて敵じゃないし!?」

「サウザーちゃん!? シュウ様も!?」

 そこにいたのは、外で泳ぎたいと言い張るサウザーとそれをなだめるシュウであった。聖帝校のガキどもも一緒にいる。

「む、高坂穂乃果と愉快な仲間たちではないか」

「君たちも修学旅行か?」

「君たちもって、もしかしてシュウ様たちも……?」

「うむ、聖帝校の修学旅行だ」

 サウザーと『同級生』のガキども十数名、生徒兼引率のシュウというメンバーである。

 失われし青春を取り戻したいサウザーにとって修学旅行は絶対にこなしておきたいイベントだったらしく、シュウを巻き添えにして急遽決行されたらしい。 

「シュウ様も大変ですね」

「うむ……まぁ、子供たちのこともあるからその点は喜んで引き受けるのだが、正直サウザーが一番手がかかる」

「ええい穂乃果、貴様もシュウ様を説得しろ!」

 サウザーは愛は簡単に捨てられても海への未練は簡単には捨てきれないようだ。

「サウザー、海などいつでもは入れるではないか」

「何を言うか下郎! 聖帝校の修学旅行は一生一度! 今入らずしていつ入る!」

「……なんか、さっきの穂乃果みたいですね」

「『人の振り見て我が振り直せ』って、よく言ったもんだよ」

 穂乃果はがっくりと頭を落とした。

「そう言えば、もうすぐ敗者復活戦じゃなかったっけ?」

 ことりが思い出したように訊く。

 五車星の謎の棄権により空席となった五番目の再予選はμ'sのファッションショーイベントと同じ日、四日後の土曜日の開催である。

「金曜日の便で帰るから出場に問題はない」

「フハハハハ。この聖帝の計画に抜かりはないわ!」

「まぁ考えたのはほとんどリゾたちなのだがな?」

「じゃあ私達と同じ便かもしれないね」

 ことりはそこまで言って機内で暴れるサウザーを想像し、ちょっぴり微妙な気持ちになった。

「では、今は残りの三人だけで練習しているということですか?」

「いや、今回は金色のファルコも参加してもらうことになっている」

 海未の問いにシュウは答える。サウザーがそれに付け足すように、 

「このおれを欠いた5MENでは練習もままならんだろうがな? 聖帝こそが5MENのリーダーに相応しいと言う事をこの機会に再認識するがいいわ! フハハハハ!」

「うん、まぁ、そうだな」

 シュウは適当に相槌を打つとバーカウンターに子供たちの飲み物を取りに向かった。

 そんな彼の背中には既に変な疲れが浮き出ていて、穂乃果たちはなんだか申し訳ない気持ちになった。

 

 

 

 

 サウザーとシュウがいない今、残されたメンバーはレイ、シン、ユダ、不定期メンバーのファルコである。そして、この中で一番スクールアイドルへのやる気を見せているのが『妖星』のユダである。

「サウザーがいない今、このユダこそがリーダーに相応しいことを証明するチャンスだ!」

 聖帝校に設けられた会議室でユダが高らかに宣言する。

「いや、別にリーダーとかどうでもいいのだが?」

 シンが面倒くさげに言い返す。

 燃えるユダに対してシンとレイは至って冷静だった。何と言ってもこの二人は初めからスクールアイドルには乗り気ではなかった二人である。

「やりたければどうぞとしか言えんのだが」

 レイもやや戸惑った様子で言う。

 ユダは、

「もとより貴様らに許可など取る気はないがな。だが! このユダがリーダーとなった以上、貴様らにはおれに従ってもらうぞ! そこの何考えてるか分からないファルコもだ!」

「…………」

「ユダ、一体どうしたというのだ。今日は一際おかしいぞ」

 レイがつい心配気に問いかける。いつもどこかおかしいユダだが、今日は燃え上がり方が異常だ。

 と、その時。

「こにゃにゃちわー!」

「こ、こんにちわ」

「あら、会議か何か?」

 μ'sの一年生組がやって来た。プールに来たついでに挨拶していこうと思ったのだ。

「そうだ。このユダが新たなる躍進を遂げるための会議だ」

 ユダが自信を込めて言う。するとマキがニヤニヤしながら、

「ウダさんの?」

「ユダだ! ていうかなんで知ってるんだ!?」

「もうみんな知ってるわよ」

「ぬっく……! ま、まぁ、いい!」

 気を取り直して、話を本道に戻す。

「知っているだろうが、おれはこの世で誰よりも強く、そして美しい」

「はいはい」

「にもかかわらず、不本意ながら人気は六聖拳で……否、北斗の拳全体でもかなり低い!」

 ユダは人気が無い。

 故に立体化の機会も非常に少なく、リボルテック化は未だされないしこれからされる予定もない。心無い者なぞはユダが、

『レイの最期を飾るための噛ませ犬』

『派手なのは見た目だけ』

『良く分からんロン毛』

であると評する。

「納得できるか!?」

「うん、まぁ」

「酷いわね?」

「あー、酷いにゃ。うん」

 一年生三人は一応の同意を見せる。

「ホントに思ってる?」

「思ってるにゃー」

「……とにかく、世の中はこのユダ様を軽んじすぎているのだ」

 リボルテック化されないし、無想転生には入れないし、絵面が強い分文字にすると微妙だし、キャラが良く分かんないし、リボルテック化されないし、リボルテック化されない。

「……つまりあれか? この機会にスクールアイドルとしてサウザー以上に活躍して、存在感を強めたいと言うのか?」

 シンが訊く。

「要するとそうだ」

「その……それで良いのか?」

「無論だ! リボルテック化済みの貴様らには分からんだろうな、このおれのキモチ!」

「引っ張るなそれ」

 シンとレイの困惑を他所に、ユダはますます輝きを増す。

「今は仮リーダーだが、サウザーが戻って来た時にはその席はおれの物となっていよう!」

「へぇー。じゃあユダさん、穂乃果ちゃんじゃないけど、ファイトだにゃ!」

「ハアハハハハ! 妖星は生まれ変わる――つまり、『ユダ・ノヴァ』だ!」

「語呂悪っ!」

「うるさいぞ西木野マキ!」

 大いなる野望を持った新リーダー、ユダの誕生である。果たして、彼のサウザーへの下克上は完遂されるのか!?

 と、ここで花陽が思い出したように声を上げて凛に話しかけた。

「そういえば凛ちゃん」

「うん? なぁにかよちん?」

「新リーダーで思い出したけど、穂乃果ちゃん帰って来るまで凛ちゃんがリーダーお願いね」

「うん……うん!?」

 ユダ・ノヴァ宣言に気を取られていた凛は花陽からの突然の宣告に素っ頓狂な声を上げた。マキも、

「そうそう忘れてたわ。三年生も賛成してるわよ。がんばって」

「がんばってって……えっ……今言う!?」

「む? 穂乃果たちはいないのか?」

 三人のやり取りに疑問を感じてレイが質問する。

「二年生は今修学旅行で沖縄です」

「ああ、なるほど。沖縄と言う事はサウザーと会うかもしれんな。頑張れよ、凛」

「ありがとうレイさん……じゃなくて!」

 凛は数秒かけて頭を整理してから抗議の声を高らかに上げた。

「待って待って! なんで凛!? 向いて無いにゃ!」

「話し合った結果よ。私も花陽もあなたが適任だと思って推薦したの」

「えっなにそれ、いつそんな話し合いしたの?」

「凛ちゃんが日直で遅れた時あったでしょ? あの時だよ」

「凛が来るの待ってから話し合おう!?」

「貴様はリーダーがそんなに嫌なのか?」

 ユダと対照的にリーダーになることを異様に嫌がる凛にシンが問いかける。いつも見ている凛ならノリノリで引き受けるイメージがあったから、意外に思ったのだ。

「だって、リーダーとか、向いてないし……」 

 凛は見た目の割に引っ込み思案なところや常に弱気なところがあるのだ。

 口が裂けても言えないことだが、彼女はリーダーである穂乃果の事を尊敬している。自分にはない物を持っているからだ。だからこそ、そんな彼女が務めるリーダーという責任を果たす自信がないのだ。

「大丈夫だよ凛ちゃん! 凛ちゃんには出来るし、私達の中で一番向いてるよ!」

「花陽の言う通り。凛は自分が思う以上にリーダーに向いているのよ」

「でも……」

 なおも自信が持てない凛。

 そんな彼女に、レイやシンも励ましの言葉をかける。

「大丈夫だ凛。おれはお前にあって日は浅いが、だからこそ、客観的に見ることもできる。その上で、お前になら出来ると思う」

「レイさん……」

「おれはスクールアイドルなぞ興味ないが……貴様がリーダーに向いているかどうかという話は別だ。……こなせると思うぞ、リーダー」

「シンさん……」

 親友二人のみならず、5MENのメンバーからも励ましを受けた凛。

 自分がリーダーに向いていないという思いは変わらない。だが、しかし、「ちょっと挑戦してみよう」という思いが僅かながらに芽生えてきた。

「じ、じゃあ、やってみるよ。リーダー」

「凛ちゃん!」

「凛!」

 花陽とマキはぱぁっと顔をほころばせた。レイとシンも、

「頑張れよ、凛。ほら、シンも」

「……フンッ」

 わいわいと盛り上がる凛たち。

 

 対して――。

「まずい」

 颯爽とユダ・ノヴァ宣言をしたにもかかわらず早々に存在感を奪われたユダは部屋の隅に立ち尽くしていた。

「泣いてしまいそうだ」

 

 

 

 がんばれ、凛ちゃん!

 がんばれ、ユダ様!

 

 

つづく




シンが凛に対して妙に優しいのは、名前がケンシロウの連れてるガキ(リン)と同じだからです。恋する人は、好きな人が絡むと一見関係ないように思えるものまで気になっちゃうものなのです。知らんけど。

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