サウザー!~School Idol Project~   作:乾操

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ハノケチェンの誕生日
なお本編に一切関係なし


第4話 帝都崩壊!ジャコウ、せめて地獄でライブを見よ!!

 +前回のラブライブ!+

 若き猛将軍、元斗皇拳伝承者『金色のファルコ』!

 5MENとμ'sの前に現れた彼はサウザーと穂乃果に言った!

「天帝の命により、お前たちを滅殺する!」

 危うし、サウザー! もっと危うし、高坂穂乃果!

 

 

 

 

「穂乃果に指一本触れてみなさい」

「ことりのおやつにしてやるぅ」

 穂乃果のピンチである。海未とことりはファルコを威嚇した。だが、マキがそんな二人を制す。

「やめなさい、一介の女子高生である私達にどうにかできる相手ではないわ」

「そんなすごい相手なの?」

 凛が首を傾げながら訊くと、花陽は息を荒げながら「その通り!」と手帳を捲り始めた。

 この手帳、古今東西の拳法と有名拳士を網羅した花陽オリジナルの拳法百科事典である。有名拳法の、更に伝承者ともなれば載っていて当然であった。

「これです! 元斗皇拳伝承者、『金色のファルコ』! 元斗皇拳は天帝を守護するための拳法で、闘気の刃で相手の細胞を文字通り滅殺することにその真髄がある、一時は北斗をもしのぐと言われた拳法です!」

 花陽の声は生で元斗皇拳の使い手を見ることが出来る興奮と恐怖とでがちがちに震えていた。

 だが、例のごとくサウザーはまったく平気で、

「元斗皇拳なぞ、我ら南斗の前には敵ではないわ!」

 その言葉と同時、シュウとシンがファルコに対して踊りかかった。南斗白鷺拳と南斗孤鷲拳の伝承者二人がかりともなれば、まず勝てる相手はいないはずである。

 だが、ファルコは両腕をグルンと縦に回すや闘気の輪を作りだし、迫る二人に叩きつけた。

「ぐっ!」

「んはっ!」

 咄嗟に防御する二人であったが、それでもな衝撃は消えず、吹き飛ばされた挙句地面に伏した。 

「あれは、『衝の輪』!」

「かよちん知ってるの!?」

 衝の輪……リング状の闘気を叩きつける技である。強力な闘気は強力な攻撃ともなりうる。受けたものはどれほどの手練れであろうとしばらく動けないほどだ。

「ちょっと花陽! あのファルコっての弱点とかないわけ!?」

 ニコが急かすように訊いた。花陽は訊かれると同時、辞典に目を落とし必死で読み進めた。そして、

「ありました! ファルコさんの弱点!」

「でかしたわ花陽! ユダさん、レイさんちょっと来てくれる!?」

 ニコは観戦中の二人を呼び寄せ、花陽の辞典を見せた。

 一方、再びファルコはサウザーと対峙していた。

「南斗、北斗、μ's滅ぶべし!」

 南斗の伝承者二人を軽くあしらったファルコ。なるほど実力は並大抵のものではないようだ。だが、サウザーはやはり余裕綽々で、

「天帝なぞ仕える時点で元斗皇拳は下郎! 天に輝くのは我が南斗の将星なのだ!」

「ぬぅ!」

 なおほざくサウザーに向けて闘気を放とうとするファルコ。だが、

「たぁーっ!」

「む!?」

 彼の背後でレイが跳び上がり、ファルコに向け両手の手刀を振り降ろした。

「南斗水鳥拳奥義・飛翔白麗!」

 奥義というだけあって、この技は非常に強力である。受けたものは方から胸までを大きく切り裂かれ、斃れざるを得ない。

 それをファルコは両腕でガードして受け止めた。

 しかし、レイの目的は飛翔白麗でファルコを倒すことではない! レイは囮であった!

「とあっ!」

 レイの飛翔白麗に気を取られたファルコ。彼の右脚をユダが思いきり払う!

 ファルコ程の強者、いくら不意打ちとは言え普通に考えれば足払いごときでバランスを崩すことは無いだろう。だが、しかし、彼はユダの足払いでいとも簡単に姿勢を崩した。

「ぐうっ!?」

 金色のファルコの弱点、それは右脚。彼の右脚は『義足』なのである!

「なんか、卑怯に見えるんやけど」

「卑怯ではないわ。相手の弱点を探り、効果的に突く。賢い戦い方よ」

 絵里絶賛の戦法。この囮戦術のトリを飾るのは、もちろん南斗の将星であるサウザーである。

「受けてみよ! 南斗鳳凰拳奥義・極星十字拳!」

 極星十字拳は目にも留まらぬ踏み込みと同時に両手の手刀で相手を十字に切り裂く技。ファルコといえど、態勢を崩しながら躱せる技ではなかった。

 ファルコの胸はサウザーの手刀により大きく切り裂かれた!

「フワハハハー! 南斗鳳凰拳は下郎ごときに倒せるものではないわー!」

 

 

「なるほど、伊達に南斗最強ではないわけですね」

「フハハハハ。こんな寿司屋の板前みたいな奴に負けるはずがないわ」

「それにしても、花陽のおかげで助かった」

 ファルコを拘束しながらレイが言う。

「うむ。情けないことだが、花陽の情報がなければ我々は敗れていたやも知れぬ」

 シュウもレイに同意なようで、二人の言葉に花陽はすっかり照れて、

「ぴゃああ、そんな、照れちゃいます……」

「フフ、まぁおれはそんなの無くても普通に勝てたけど? 実のところ?」

「そうは思えぬが?」

「というか、ほとんどイイとこ取りしただけではないか」

 今回のMVPの一人であるユダが吐き捨てる。だが、やはりサウザーはそんなの気にしないで高笑いをするだけだ。

「ところで、この人どうする? 煮る? 焼く?」

 そう言いながらことりはファルコの角刈りをペチペチ叩いた。どうやら穂乃果の件で相当ご立腹らしい。しかし花陽は、

「待ってことりちゃん! ファルコさんは本来忠義に溢れると同時に優しくて無暗な殺生を好まない人のはずです! 今回の件、なにか理由があるんじゃないかな」

 花陽の推測は当たっていた。

 ファルコを拘束した後に先に捕まえていた紫光のソリアを尋問したのだが、そこで帝都の事情を聞きだすことが出来た。

「ジャコウ総督?」

「うむ、天帝を掌中に収め、やりたい放題をしている」

 天帝を幽閉したジャコウが元斗皇拳の拳士たちを手ゴマに好き勝手やってるという噂は本当であったらしい。しかし、花陽データベースによればジャコウはファルコを初め、ソリア、ショウキなどといった名だたる拳士とは天と地ほどの実力差がある。ジャコウを倒し天帝を救い出すことなど容易いのではないか?

 一同はそう疑問を投げかける。だが、ソリアは首を横に振った。

「天帝の居場所を知っているのはジャコウとその息子だけなのだ。逆らうことは出来ぬ」

「なら、締め上げて居場所を吐かせればよいのでは?」

「海未ちゃんさらりと怖いこと言うね?」

「天帝の居場所がつかめればファルコが反旗を翻すということはジャコウにも分かっている。半端な締め上げでは余計に天帝を危険にさらすだけだ」

 天帝の身を案じるからこそ、身動きが取れないのだろう。

 だが、天帝の身なぞ至極どうでもよいサウザーは、

「面倒だ、おれたちでそのジャコウとやらを締め上げ吐かせてやろうではないか」

「吐かせられるものならとうにやっている!」

「ふん、案ずるでない。こちらには焼き印のスペシャリストもいることだしな?」

 ユダとシンの事である。

「まぁ貴様らは大人しく見ていることだな。それに、悪い話ではあるまい?」

「むう……」

 ソリアの沈黙が回答であった。

 5MENとμ'sは(コテ)の支度をしながら中央帝都へ向かった。

 

 

「ファルコが倒されただとぅ!?」

 報告を受けたジャコウは顔面を蒼白にさせながら慄いた。

「オヤジ! もしやファルコめ裏切ったんじゃないか!?」

「ああ、ファルコの事だからそれもありえる話だ」

 息子であるジャスクとシーノが喚く。

「それより、相手はあの南斗六星! どうするのだ!?」

「もう一方は女子高生のグループらしいがなんか色々ヤバいらしいぞ!?」

「ぬっくぅぅぅ!」

 ジャコウは呻く。

 こうなれば、中央帝都を捨ててお落ち延びるほかに手はないだろう。大丈夫、天帝は未だ掌中にある。どうにでもなるだろう……。

 と、その時。

 デンゴゴ デンゴゴ デデデデ―  

 デンゴゴ デンゴゴ デデデデ― 

「な、なんだこの世紀末にあるまじき太正浪漫を感じる旋律は」

「オヤジ、近づいてくるぞ!?」

 気付いた頃にはもう手遅れ。

 BGMが最大になると同時、玉座の間の壁が轟音と共に崩れ去り、5MENとμ'sを乗せてやや定員オーバー気味の聖帝バイクがその雄姿を現した。

「フハハハハ! 街の灯が消え果て帝都も怯えておるわ!」

「ヒィィィィィ!?」

 金色のファルコをも倒した相手、敵うわけもなしと思ったか、ジャコウファミリーは一目散に逃げ出した。だが、そんな三人の逃走を怒りに震える海未が許すはずもない。

「逃がしません! ラブアロー☆シュート!」

 海未は矢をつがえる姿勢を取るとファミリーに向けて闘気の矢を放った。矢は飛翔しながら三本に分裂し、それぞれジャコウファミリーの胸を見事貫いた。

「はうん!?」

「なはん!?」

「ぬふん!?」

 ラブアロー☆シュートを受けたものは骨抜きにされ、まともに動くことすらままならなくなる。

「な、なんだこれは……はぁんっ!」

「元斗の男でありながらここまで効くとは、鍛錬を怠っていた証拠です。反省なさい」

「海未ちゃんやるぅ」

 穂乃果が称賛の拍手をパチパチと送る。

 

 骨抜きにされたエリマキファミリーはあえなく御用となった。そして、そのまま焼き印の刑に処されることとなった。

 移動中すっかり熱されたシンとユダの焼き鏝はまさに焼き印時と言った熟し具合である。

 二人の焼き印が推されるたび、ジャコウたちの悲鳴が中央帝都に響き渡った。

「うぐぐ、貴様らこのジャコウに手をかければ、天帝も……ギャアアア!」

「うるさいぞ。大体、おれは天帝なぞどうでも良い」

「とっとと終わらせたいだけだ。お前や天帝が死のうが構わん」

 面倒くさそうに答えるシンとユダ。交渉に応じる気なぞサラサラないのだ。

「ググ、お、おい、そこの娘! スクールアイドル的にも女子高生的にもこの所業はよくないだろうが! 見て無いで止めぬか~!」

 ジャコウは焼き印の儀式を見物していることりと海未に助けを求めた。だが、

「え~? でもファルコさんに穂乃果ちゃん殺せって命令したんでしょ?」

「万死に値しますね」

 親友を手に掛けようとした罪、許されるものではない。二人のマジ具合は当の穂乃果が怖がるほどだ。

「き、貴様らぁ! ウギャアアアア!?」

「あ、なんだか良い詩が思い浮かびそうです」

「私も素敵な衣装デザインできそう」

「フハハハハー! 下郎が身の程を知らぬ野心を抱くからこうなるのだ!」

 サウザーも満悦そうに高笑う。

 一方、他のμ'sメンバーは今晩の支度を始めていた。

「今日はここに泊まるん?」

「ええ、この辺は中央帝都以外は荒野らしいから。ニコ、調理場は使えそう?」

「ばっちりよ。まったく、ジャコウはずいぶんな暮らしをしていたようね」

 ニコが呆れて言う。調理場、というのはジャコウのために料理を作る場所の事だ。設備も上等で、奴隷たちを酷使する中悠々とご馳走を食べていたらしい。

「お米持ってきたよー!」

 ちょうどそこへ、花陽が大きな米袋を肩に載せて運んできた。十数キロ分はあるようで、重さのあまり足取りはおぼつかないようだ。

「おい、大丈夫か?」

 レイが心配げに声を掛ける。

「だ、だいじょうぶです! 今日のために準備した魚沼産コシヒカリです! 私が用意したからには、自分の手で運ぶ義務があります!」

「そうは言うが……」

「はふぅ、はふぅ」

 一生懸命運ぶ花陽。しかし、乙女の身体では限界がある。

「ちょ、ちょっと休憩」

 花陽は米袋を手近な台の上に一旦どしんと置いた。と、その時。

「うおっ!?」

 焼き印の儀式を行う面々の立つ場所の床がパカッと下に開いたのだ。

「あぁ~!?」

 シンとユダにジャコウファミリー、そして一緒に焼き印を押させてもらおうとしていた海未とことりは悲鳴を上げながら奈落の底へと転落していった。

 花陽が米袋を置いた台、どうやら落とし穴のスイッチだったらしい。

「海未ちゃーん! ことりちゃーん!」

「ぴやぁぁぁぁ!? 皆さん大丈夫ですかー!?」

 落とし穴は相当深いと見えて、底まで視界が届かなかった。が、どうやら一同息災なようで、声賭けには「大丈夫~」と返事があった。

「やんやん、真っ暗だよぉ」

「何か明かりをくださいーい」

 底から海未の声が聞こえる。その要望に答え、サウザーは焼き印を熱していた焼石を穴の中へ放り込んだ。

「バカかおまえ!」

 焼石は穴の底の面々にゴロゴロと降り注ぐ。

「うわっち! 何なんだ一体!」

 しかし、真っ暗な中では焼き石のぼんやりした赤い光でも結構助けになるもので、ないよりは幾分かマシであった。

「だれか……だれかいるのですか……?」

 闇を切り裂く喧騒を恐れるかのようなか細い声。

 うすぼんやりとした明かりに照らし出されるように現れたのは、幼い少女であった。

「おや、どなたですか?」

「綺麗な服だね」

「まさか、このガキが天帝か? シン!」

「どうやらそうらしいな。それにしても……」

 このガキ、ケンシロウの連れているガキの片割れにそっくりではないか。確か、リンとかいった……。

 シンの思考はそこまで達した瞬間、夜空の南十字星より眩く輝いた。

 ……そういえば、μ'sにも凛がいたな……つまり、星空凛と天帝(このガキ)を合わせて連れ歩けばケンとお揃いになれる可能性が……!?

「どうかしたかシン?」

「……いや、なんでもない」

 なんにせよ、南斗DE5MENとμ'sは天帝の救出という歴史的偉業を成し遂げたのだった。

 

 

 中央帝都で一泊した一同は翌日、帝都の人々にライブを披露してから音ノ木坂へ帰還した。

「喜んでもらえて良かったね」

 サウザーの居城での反省会で穂乃果は嬉しそうに言った。

「ハラショー! スランプ三人組も脱したみたいだし、万事めでたしって感じね」

「せやね。そういえば、天帝のルイちゃん、海未ちゃんのファンになったらしいで?」

「照れちゃいますね」

 新たなファンの獲得もできたし、合宿は大成功であった。言いだしっぺのサウザーに珍しく感謝である。

 南斗DE5MENも数多くの新規ファンに勝るとも劣らない収穫があった。

「紹介しよう、5MENの新星、金色のファルコだ」

「…………」

 金色のタンクトップを着こなすファルコが5MENに加入したのは天帝救出の礼も兼ねてのことである。ロン毛ではないところと元斗皇拳の人間サイリウムみたいなところをサウザーはいたく気に入ったのだ。

「ファルコの加わった今日から我々は『南斗DE5MEN・G』だ!」

「しかし、良いのか? 現状の人数だけでも扱いに困っているというのに」

 シュウが指摘する。南斗DE5MENとμ'sを合わせて14名。この人数でさえ扱いきれていないというのに、更に1人追加するなど後先を考えない愚行というほかないだろう。 

「フッ、心配することは無い。金色のが招集されるのはここぞという時だけだ。まだ聖帝校の入学手続きも終わってないしな」

「というか、ファルコは納得しているのか?」

「…………」

 ファルコはむっすり黙るばかりである。別に怒っているわけでもないらしいが……イマイチ表情の読めない男である。

 凛は、そんな彼を見て行きつけのラーメン屋のオヤジを思い出すのであった。

 

 

つづく




+どうでもいい解説+
 5MEN VS ファルコの戦いでの聖帝ですが、イチゴ味本編では天翔十字鳳で決着をつけたように見えますが、色々あって極星十字拳を使わせました。
 あと海未ちゃんのラブアローシュートですが、より実戦性を高めるために香川の親戚に手ほどきしてもらいました。海未ちゃんの親戚はあと富山とかにもいます。みんな声がそっくりだったりします。

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