サウザー!~School Idol Project~   作:乾操

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最終回と言ってましたけど嘘でした。
今回サウザーの出番は無し
あと後半部分がかつてないほどシリアスです。念のため。


21話 聖帝と強敵(とも)だち の巻

+聖帝軍からのお知らせ+

 あの超人気プライズ景品、ラブライブのハイパーでジャンボな上寝そべっている某ぬいぐるみシリーズにμ's´のリーダー、聖帝サウザーが登場!

 今回のぬいぐるみには小型スピーカーとセンサーが搭載。オデコのほくろを押すと楽しそうに高笑いするぞ!

 デフォルメされてもなおにじみ出るくどいほどの存在感に下郎の皆さんはたじたじになること間違いなし!

 従来のキャラクターも『μ's´仕様』として順次発売予定! 第二弾は高坂穂乃果! サウザーと向かい合わせに寝かせると内蔵されたセンサーとスピーカーが連動してギスギスした会話を楽しむことが出来るぞ!

 HJNNサウザー、世紀末発売予定!

 

 

 体調も万全になった穂乃果は学校に出て良いとお許しが出た。

「いやー、退屈で死ぬかと思ったよ」

 朝、迎えに来てくれた海未とことりに穂乃果は笑いながら言った。いつも朝はいやだいやだ寝ていたいと言う彼女だが、数日に渡りベッドの上と言うのはさすがに堪えた。

 学校に近づくにつれ、音ノ木坂の生徒の姿が多く目に入るようになった。その表情はいつも通りであるが、やはり廃校が白紙になったからだろうか、晴れやかである。

「ほんと、廃校が無くなってよかったぁ」

「そうですね。前に穂乃果も言っていましたけど、私達のやって来たことは無駄ではなかったのですね」

 ことりと海未は感慨深げに思いを馳せる。

「ホントそうだよね。でも……」

 穂乃果はそこまで言って、塀に貼られたラブライブのポスターを見やった。

 そこには、UTXのA-RISEが写っていて、『ランキング一位!』の文字が大きく踊っていた。

 ―—ラブライブ、出たかったなぁ……。

 やはり、そう思わずにいられない。

「未練ですよ、穂乃果」

「分かってるけどさ……」

 ラブライブに出場する目的は学校の知名度を上げるためであった。廃校が回避された以上、出場する理由はない。だが、一度は夢見た大舞台。それと葉関係なく、純粋に歌い踊ってみたかった。

 ……沈黙が三人の間に流れる。

「……そう言えば、サウザーちゃんは?」

 話題を変えるように穂乃果が言った。

 いつもこの時間帯になれば、サウザーの乗った聖帝バイクが汚物を消毒しながら登校してくる頃合いのはずである。律儀に遅刻せず決まった時間に来るものだから、その騒がしさも相まってこのあたりでは時報代わりとなっていた。

 そんなサウザーの姿が、今日は無い。

「ていうか最近全然話聞かないし。死んだの?」

「……まぁ、その話は、部活の時に詳しく話します。とにかく、今は学校へ行きましょう。遅刻しちゃいますよ」

「あ、うん。わかった」

 意味あり気な海未の言葉に疑問を抱きつつ、穂乃果は学校へと急いだ。

 

 

 その日の穂乃果は忙しかった。同級生だけでなく、下級生、上級生にまでサインをねだられたのである。

「うひー……お昼ご飯食べる暇すらなかった……」

 最後の授業が終わり、生徒たちはそれぞれ部活や帰宅の準備を始める。

「お疲れさまー」

「休んでたぶんたまってたからね、サイン待ちの人」

「みんな感謝してるんだよ、穂乃果たちに」

 机に突っ伏す穂乃果の頭をヒフミの三人が撫でる。

「それにしてもホントごめんね三人とも」

 穂乃果は頭を撫でられながら謝罪する。ヒフミの三人はμ's´縁の下の力持ちとでも言うべき存在で、今までとり行われてきた数々のライブの成功の立役者であった。今回の昏倒騒ぎでは三人にも大きく迷惑をかけたのだ。

「気にしないで気にしないで」

「そーそ。一生懸命やった結果だし」

「私たちも裏方なら気付いてあげるべきだったし……」

 三人は申し訳なさげに笑う。

 穂乃果も小さく笑った。そして、ふと思い出したように訊いた。

「今日サウザーちゃん来てないよね?」

 朝は遅刻かと思っていたが、結局放課後まで姿を見せなかった。おかげで学校は静かであったが、あの高笑いが無いのは少し寂しかった。いたらいたでウザったいことこの上ないのだが。

「三人とも何か知らない? やっぱり死んだの?」

「ううん、知らない。て言うかここ何日かずっと休んでるよ」

 ヒデコが答える。

「そうなの?」

 一同はウンと答える。

 誰も事情の知らない欠席。しかし、海未とことりは事情を知っている風であった。海未は部活の時間に詳しく話すと言っていた。

 穂乃果は荷物をまとめると三人に別れを告げて部室へ急いだ。

 

「おはようございまーす」

 部室の扉を開けると、既にメンバーはサウザーを除き全員が集まっていた。

「穂乃果ちゃん!

「身体はもう大丈夫なの?」

 花陽と凛が嬉しそうに問いかける。

「うん、お陰様で。マキちゃんもごめんね?」

「いいわよ別に」

 マキの家の病院に穂乃果は大変世話になったのだ。皆が言うには、倒れて病院に運び込まれた日、面会時間の関係で帰らざるを得ない他のメンバーに代わって一晩付きっきりで看病してくれたらしい。

 そのことを言われるとマキは顔を赤くしてしまい、凛にからかわれる。

 今回も同様で、マキは凛の顔面に岩山両斬波を叩きこもうとしている。

 その様子を笑いながら見つつ、何気ない調子で穂乃果は尋ねた。

「ところで、海未ちゃん。朝話してたことってなに?」

 サウザーについての話である。

 穂乃果はどうせしょうもないことだろうと思っていた。サウザーがらみと言えば毎度しょうもないくせに厄介な話ばかりである。

 だが、今回は毛色が違うようであった。穂乃果が訊くや、一同しんと静まり返り、余計な口を利かなくなった。

「えっ、なに?」

 穂乃果は戸惑う。

「穂乃果、サウザーのことなんですが……」

「うん、サウザーちゃん、何かあったの?」

「……単刀直入に言いますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サウザーは、退学になりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 海未の言葉に穂乃果は思わず呆けた声を上げた。だが、それも当然の事である。

 退学? なぜ? 廃校が回避されて急に……どういうこと?

「ちょ、ちょっと分かんない。イミワカンナイ。退学? なんで……いや、分からなくもないよ? 退学になるような所業しまくってるし? でもなんで今?」

「穂乃果ちゃん、落ち着いて……」

 ことりにお茶を差し出され、穂乃果はそれを一息に飲み干し、少し深呼吸した。

「ふぅ……で、改めて訊くけど、なんで退学?」

 今までサウザーは学校の備品やらなにやらを南斗聖拳で破壊しまくってきたがそれでもお咎めは無かった。にもかかわらず、なぜ今退学なのか。

 おそろしく高価なものでも壊したのだろうか。まさか何か犯罪行為を? いや、世紀末の世において犯罪などは存在しないだろう。他の生徒に手を出した? いやいや、それこそありえないだろう。何しろあのサウザーであるし……。

 全く予想がつかない。

 そんな穂乃果の疑問に対する海未の回答は予想の斜め上を行っていた。

 

「音ノ木坂が、女子校だからです」

「は?」

「ですから、音ノ木坂学院が女子学校だからです」

 

 穂乃果は海未の言葉を頭の中で十二分に反芻した。

 音ノ木坂が、女子校だから……女子校だから……。

「……えっ!?」

 ここって女子校だったの!?

 言われてみれば、サウザー以外の男子生徒は見たことがなかった。右を左を見てもいるのはうら若き乙女ばかり。

「音ノ木坂学院は伝統ある女子校です。スクフェス時空では共学の可能性もありとのことですがここはそっちの世界ではありません」

「んなアホな……なんで今までサウザーちゃんがいることに誰も疑問抱かなかったの?」

「廃校騒ぎであたふたしていましたからね」

「そんなもんなの!?」

 人というものは、大きなトラブルが発生すると目の前の小さなトラブルを見落としてしまいがちである。学校は廃校という大きな事件を前に右往左往していたのだ。そして、廃校問題に決着がつき、ホッと一息冷静さを取り戻したとき、気付いたのだ。

 ―—あれ、サウザーがいるのおかしくね?

「バカでしょ」

「組織とはそういうものです。それに、先ほどサウザーは退学と言いましたが、正確には退学ではありません」

「……どういうこと?」

「そもそも、サウザーは音ノ木坂の生徒ではありませんでした。学籍はありません」

「ええええええ!?」 

 なんと、同級生だと思っていた彼が実は同級生ではなく不法侵入者だったのである!

「ラブライブへのエントリーの時のこと、覚えてますか?」

「ん? あぁ、もちろん。覚えてるよ」

「あの時、サウザーが赤点を取ったにもかかわらずエントリーの許可が降りましたよね? あの時、私達は不思議に思いつつもエントリー許可に浮かれて深く考えませんでした」

 だが、今なら何故か分かる。

 学校で受けたテストは各生徒の成績情報として管理される。データを見ればアイドル研究部の誰が何の教科を何点取ったか一目瞭然であった。エントリーの許可は、そのデータを照らし合わせた結果降りたのである。

「サウザーちゃんのデータは存在しないから、アイ研に赤点はいないと判断された……」

「……そういうことです」

 なんと……なんと杜撰なんだ。

 穂乃果は自他ともに認めるおっちょこちょいである。だが、サウザーの不法在学については『おっちょこちょい』なんてレベルの話ではない。世紀末の世にだってこんなことそうそうは無い。

 だが、穂乃果にとっての問題はそこではなかった。

「……μ's´は、どうなるの?」

 十人揃っての『μ's´』である。そしてサウザーはそのリーダーである。

 メンバーが欠けては、μ's´ではなくなってしまう。

「どうなるって……」

 海未はニコの方を見た。それに答えるようにニコは、

「『μ's´』は『μ's』に名前を戻すわ。リーダーは穂乃果、アンタに任せるから」

「ちょ、ちょっと待って!」

 ニコの言葉を受けて穂乃果は動揺しながら叫んだ。

「待ってよ! みんな、サウザーちゃんいなくなって良いの!? せっかく十人でμ's´だったのに、そんな簡単に……!」

 例えサウザーが何か良く分からない不法な聖帝だったとしても、穂乃果にとって共に廃校を阻止するためにスクールアイドルを始めた人物であった。それを、はいそうですかと見送ることは出来なかった。

 だが、穂乃果に対する皆の反応は鈍いもので、

「と言っても」

「ここ女子校だし」

「そういう規則だし」

 というものばかり。むしろ、穂乃果が何を言っているかちょっと分からない、といった様子であった。

「最初にスクールアイドルを始めたメンバーであるから名残惜しいのは分かります。でも、サウザーがいるのは冷静に考えて不自然でしょう?」

 海未が穂乃果をなだめる様に言う。

「でも……寂しくないの!?」

「そりゃ、寂しくないと言えば嘘になりますけど」

 答える海未の声に未練はなかった。仕方ない、そういうことになったのだから、それに従おう。そういった軽い感じの声だ。

「穂乃果も、分かってください」

 海未の優しくなだめる様な優しい声。いつもの穂乃果なら素直に「うん」と答える、そんな声だ。

 だが、穂乃果はうんと言えなかった。

 信じられなかったのだ。目の前にいる仲間たちが、メンバーの脱退に対してこれほどまでに淡泊でいられることが、信じられなかったのだ。

「さ、気を取り直して屋上レッスン行きましょ」

 絵里が声を張って手を叩く。

 いつもなら、穂乃果は率先して「おー!」と声を上げる。だが、今回は違った。

「……みんな、本当にいいの?」

「え」

 聞いたことがないほど暗い声。思わず一同は声を上げて穂乃果を注視する。

「……一人抜けたから今日から普通の『μ's』ねっ、て。本当に……」

「仕方ないじゃない? 学校が決めたことだし……」

「まぁ、サウザーちゃんが居るのは本来おかしなことだったらしいから……」

「元に戻ったっ、て感じ……なのかなぁ?」

 マキ、花陽、凛が恐る恐る答える。部長のニコも、

「そうよ! それに、ラブライブだって次があるかもしれない。そしたら、今度こそ出場してやるんだから!」

と気勢を上げて言う。

 しかし、穂乃果は冷たく、

「……出る必要なんてないじゃん」

「……え?」

「廃校阻止したんだから、出る必要ないじゃん」

「ほ、穂乃果ちゃん……」

 ことりが悲し気な声を上げる。それでも穂乃果は構わず続ける。

「出てどうするの? 優勝目指すの? 無理だよ、A-RISEみたいのだっているし」

「だから、今からしっかり練習して、備えるんでしょ?」

 そういうニコの声は少し震えていた。

「無駄だよ、そんなの……今までだって、どうしてμ's´がランキングの上位にまでこれたと思う? 素人に毛が生えた程度なのに。サウザーちゃんが破天荒にライブ荒らしたからじゃん。それが結果的に良く働いて、他のチームにない持ち味になったんだよ」

「…………」

 ニコは答えない。ただ拳をぐっと握りしめて黙る。

「ニコちゃんだって分かってるでしょ? サウザーちゃんが居なくなって、ただの『μ's』になったら……その辺の有象無象でしかないよ」

「……アンタ、それ本気で言ってるの?」

 今度は、ニコが問いかける番だ。だが、穂乃果は答えない。黙って俯くだけだ。

「本気だったら許さないわよ?」

「…………」

「本気なのかって訊いてるのが聞こえないの!?」

 ニコの怒りは頂点に達し、彼女は穂乃果に飛び掛かろうとした。それをすんででマキが食い止める。

「離しなさいよ! アイツのそっ首切り落としてくれるわ!」

「だめに決まってるでしょ! 冷静になって!」

「私はね! アンタが本気でアイドルやろうとしてるって思ったから私はμ'sに入ったのよ! それなのに、うぬはこんなことで諦めるの!?」

 思わず二人称が『うぬ』になるほど興奮しているニコは穂乃果を切り殺さんが勢いだった。マキはひとまず新膻中を突いてニコの動きを封じる。

「ぬふぅん!」

「穂乃果……!」

「海未ちゃん、海未ちゃんは平気なの?」

 あまりな態度に語気を強める海未に、穂乃果は問いかける。

「ことりちゃんも。サウザーちゃんと最初から一緒にやってきたけど」

「……先ほども言いましたが、寂しいです。しかし! この学校が——」

「わかった、もういいよ」

 そういう穂乃果の声に、いつもの明るさは微塵も無く、まるで、相手を軽蔑するような冷たさすらあって……。

「海未ちゃん、真面目だもんね」

「穂乃果……?」

「決まりだから、そういう規則だからって。きっと、海未ちゃんは―—」

 

 ―—私やことりちゃんがいなくなっても平気だろうね。

 

 その言葉が発せられると同時、海未の掌は知らずの内に穂乃果の頬を思いきり叩いていた。思わず手が出たのだ。その事実に、海未自身が驚く。驚くと同時に、恐ろしいほどの後悔が胸中に広がる。

「……私、スクールアイドル辞める」

「……! 穂乃果っ……」

「最低だよ、海未ちゃん……最低だよ、みんな……」

 そういい捨てると、穂乃果は荷物を持って部室を飛びだしてしまった。

 

 

 

 夕暮れの廊下を走る。

「最低だな、私って……」

 思わず涙がこぼれた。

 

 

つづく  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんなだけど次回(こんどこそ最終回)から通常営業にもどる。

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