サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
+前回のラブライブ!+
俺は聖帝サウザー! なんやかんやでスクールアイドル始めることになっちゃいました。歌もダンスも未経験だけど、きっと余裕だよね! だって帝王だし!
座右の銘は『退かぬ、媚びぬ、省みぬ』。でも、時々昔を思い出して泣きたくなるときもあるよ!
好きな食べ物はカレーライス、嫌いなものは大人。だって、大人って汚いしわかってくれないしすぐ嘘つくんだもん! でも、お師様は好き! お師様のためにデカい十字陵だって作っちゃうくらい好き。ロン毛なのがもどかしいけど好き!
こんな聖帝だけど、下郎の皆さん、どうかファンになってください。
あ、でも愛はいらないよ!
人気もファンも欲しいけど、愛はいらない(笑)
※
スクールアイドルを始めることにした四人はさっそく部として登録するべく書類を手に生徒会室に向かった。
生徒会長も学校の廃校は阻止したいはずである。きっと、この提案に快諾の判を押してくれるだろう。
……だが、現実はそううまく行かないものである。
「残念だけど、認められないわね」
昼下がりの生徒会室、生徒会長の絢瀬絵里はそういうや部活動申請書を四人につき返した。
「な、何でですか!?」
それに対し、穂乃果が食い下がる。しかし、絵里の言葉は冷たく、簡潔なものであった。
「部活、同好会問わず設立には五人以上の部員が必要よ」
これは生徒手帳にもバッチリ銘記されていることである。また、現行の部活動には五人未満のものが数個あるが、それらも設立当時は五人以上の部員が登録されていた。
こう言われては四人も引き下がるほかなく、すごすごと生徒会室を後にするのだった。
しかし、部活動の申請が却下されたからといって個人的な活動が禁止されたわけではない。四人は来るべきアイドル部設立に向けて動きだすことにした。
例えば——。
「三人とも、見て見て」
翌日の昼休み、ことりは一冊のスケッチブックを鞄から取り出してサウザーたちに見せた。
「なんだこれは」
「ステージ衣装だよ! 昨日の夜考えたんだー」
真っ白なスケッチブックの上に描かれた鮮やかな衣装は三人の目に眩しく映った。ことりは時折自分で服をこさえてしまうような腕の持ち主である。この衣装も、自分で作るつもりなのだろう。
そんな衣装を見ながら、サウザーと海未がモジモジする。
穂乃果が不思議そうに訊いた。
「ん? どうしたの二人とも?」
「こ、このスカート、丈が短すぎませんか……?」
「そ、そうだ。いくらおれでもこんなミニスカートは……」
「いやなんでサウザーちゃんは着る前提で話してんのさ」
「サウザーちゃんはいつものタンクトップでいいよー」
しかし、ここは聖帝サウザー、自分だけ他と衣装が違うのは許さぬ……というか寂しい。とは言えいくらなんでもフリフリミニスカートというのは厳しい。
そういう事であるから、サウザーもまたお揃いの衣装案を引っ提げてきていた。
「貴様たちもタンクトップにすれば? それぞれ色違いのタンクトップにすればかなり鮮やかだと思うが?」
「タンクトッ……タンクトップ……うーん……」
ことりはスケッチブックを眺めながら納得出来るような出来ないような微妙な表情をしている。しかし、海未はどちらにも反対な様子であった。
「破廉恥です!」
「確かに、サウザーちゃんのタンクトップって、女子が着ると大変なことになるよね。主に胸が」
「穂乃果の言う通りです! ことりの衣装だって、その……下着が……」
「それは俺も恥ずかしい」
「だからなんでサウザーちゃんは着る前提で話してんのさ」
サウザーがフリフリミニスカートなぞ履こう日には国家権力の召喚は避けられまい。もっとも、サウザーにかかればその程度なんてことは無いだろうが。
恥ずかしさで頬を染める海未。そんな彼女の肩を叩きながら、
「大丈夫だって! 海未ちゃん、脚も引き締まって綺麗だから似合うよ!」
「フハハハハ―ッ! 俺の脚も」
「サウザーちゃんちょっと黙ってくれないかな」
話は平行線を辿って決着がつかない。海未はてこを使っても持論を曲げそうにはなかった。曰く、衣装は膝下じゃないと認めない、と。ここでいつも着ている制服のスカートはどうなんだという野暮な指摘は断じて許されない。
「わかりましたか? ことり」
「はーい……」
「じゃあやっぱりこのタンクトップを」
「タンクトップも無しです」
「むう……」
四人のやるべきことは衣装意外にも多々ある。
リストアップされたものをことりが確認する。
「えっと、チームの名前は公募するとして、問題は曲だね」
「おや、曲は流通しているものを使うのではないのですか?」
「穂乃果は自分たちの曲が欲しいなー! 音ノ木坂の名前を上げるための活動なんだし!」
穂乃果が元気に言う。と、なれば、歌詞とそれをのせるメロディを作る必要がある。しかし、四人は作詞も作曲もやったことは無いし、どうやればいいのかは分からない。
特に、作曲に関してはある程度の専門知識が必要なわけで、昨日今日の人間がほいさっさと作れるものではない。
「となると、新メンバーが必要だね」
穂乃果がフンスと意気込む。どちらにしろ、部活動申請のためにはあと最低一人は必要なのだ。
「でも、そう都合よく作曲出来る人なんているかなぁ?」
「まぁ、普通はいないですよね」
「フフハハハ―ッ! 心配するでない」
サウザーはマントを華麗に翻しながら宣った。その姿には謎の信頼感がある。
「いなければスカウトすれば良いのだ。このおれのネゴシエイト力に括目するがいいわ!」
「で、サウザー。アテはあるんですか?」
「フハハ! そのようなものないわ! 放課後にでも音楽室に行けば、そう言う輩がいるんじゃね? っていう!?」
「穂乃果、ことり、私色々先が心配なんですけど」
高笑いするサウザーに呆れかえる海未。穂乃果とことりは苦笑しながらも海未に同調するのであった。
※
西木野マキは今年入学してきたピッカピカの一年生である。そして、入学早々に廃校の事実を突き付けられた可哀想な一年生の一人でもある。
しかし、彼女にとってそのような事はどうでもよい。
彼女にとって学校は勉学をする場所でしかない。例え廃校になろうと、自分の在学中にきちんと学校として機能していてくれるならば何ら問題ないのだ。
それに、廃校になるというだけにこの学校は人が少ない。それゆえ、自分だけの大切な時間……放課後の音楽室で一人、ピアノの弾き語りをする時……それを誰にも邪魔されないというのは、大きな魅力であった。
そして今日も彼女は人知れず音楽室で歌を唄う。
「……ふぅ」
一通り唄い終わった彼女は息を一つ吐くと、鞄から水筒を取り出し喉を潤した。
誰にも邪魔されないこの時間。この時間があるから、彼女は明日も頑張ろうと思えるのだ。
彼女がそんな豊かな気分に浸っている時であった。
「フハハハハ―ッ!」
「ヴェェッ!?」
突如音楽室の戸が開け放たれ、紫のタンクトップ姿の男が乱入してきた。
「な、なに!? 誰!?」
「フフ……誰ですかって……フハハハハ―ッ!」
「お、お邪魔します……」
「すごい! ホントに音楽が出来そうな感じの子がいた!」
「流石聖帝だね~」
何が面白いのか大笑いするタンクトップに続いて三人の二年生も入室してきた。
マキはあまりに突然の事態に呆然とするばかりである。
そんなマキなぞお構いなし、タンクトップが自己紹介をする。
「俺の名はサウザー。南斗鳳凰拳伝承者にして聖帝、そして音ノ木坂スクールアイドルのリーダーである」
「す、スクール……なに?」
「スクールアイドルだよ!」
サウザーを名乗るタンクトップに着いてきたマゲの二年生が言う。
「私、高坂穂乃果! こっちが南ことりちゃんで、こっちが園田海未ちゃん! あなたの名前は?」
「に、西木野マキ……」
「マキちゃんかぁ! 歌、上手だねぇ!」
マキは意味が解らなかった。闖入者の襲来かと思えばやれスクールアイドルだのやれお前は歌が上手いなだの……まぁ、歌が上手いと言われたのは素直に嬉しかったが……。
穂乃果は続ける。
「マキちゃん! 歌もピアノも上手だけど、もしかして作曲とかできたりするの!?」
「えっ、ま、まぁ……」
「すごい!」
「い、いや……」
マキは照れたように頭を掻く。が、ここに来てようやく彼女は正気を取り戻した。
「ていうか、あなた達何!? 突然入ってきたかと思えば!」
「だから、スクールアイドルだと言っているであろう?」
「意味わかんない!」
「サウザー、ちゃんと順を追って説明しないと伝わらないでしょう」
四人はマキに事情を説明をした。
自分たちはこの学校を廃校から救いたいということ、そのためにスクールアイドルを結成したこと、そして、その曲作りのために西木野マキさんにも参加してほしいということ。
「西木野さん歌も上手いし美人だし、きっと衣装も似合うと思うな~」
ことりも参加してマキを口説く。
「ことりちゃんの言う通り! ね、一緒にスクールアイドルやらない?」
穂乃果は満面の笑みで元気よく誘う。それにマキは一瞬逡巡の気色を見せた。しかし、それも一瞬のことで、すぐに返事が返って来る。
「興味ないです!」
「え~?」
穂乃果たちの声を無視するように、彼女は鞄に素早く荷物をまとめ、肩に下げた。
「失礼します!」
そしてそのまま穂乃果たちの脇をすり抜けるように出口へと向かう。
だが。
「へっへっへ~」
「逃がさねぇぜェ~」
「な、なによ!?」
音楽室を出ようとしたマキの前に、どこに隠れていたのかという勢いでモヒカンの偉丈夫二人が立ちふさがってきた。
それにはさすがの穂乃果たちも驚く。
「こ、この世紀末感あふるる人たちは……?」
「フフフ……。俺の部下、聖帝正規軍の兵士よ」
「学校は関係者以外立ち入り禁止では?」
「フハハ、立場上は俺の保護者となっている」
「ほ、保護者……」
三人は思わず苦笑を漏らした。
しかし、当のマキは全然笑いごとではない。
聖帝軍の精鋭モヒカンズの二人は一見してマキの身長の倍はあるようにすら見える。そのような大男たちがニヨニヨ笑いながらいたいけな少女に迫ってくるのだ。これはいけない。
「フフ……行けい、者ども! 捕えてチーム『名称未定』の作曲担当とするのだー!」
「ヒャッハァーッ!」
モヒカン達が舞う。
このままではマキはあえなく捉えられ、なんやかんやの後にサウザーの下で作曲する羽目になってしまうだろう。ああ、哀れ西木野マキ!
だが、次の瞬間!
「ねえ穂乃果ちゃん、何か聞こえない?」
「ほんとだ……海未ちゃんも聞こえる?」
「ええ……なにかしら……テーレッテー?」
そう、その謎の音楽が流れてきた瞬間、マキがおもむろに腕を上げた瞬間である!
マキの腕から鋭い闘気が放たれ、モヒカンズを貫いた!
——北斗有情破顔拳!
「あっ……げ……」
「うひぃ……」
貫かれたモヒカンズは見事MENTAL K.O である。気が付けば気味が悪いほどに恍惚の表情を浮かべながら冷たい床の上で痙攣している。それを一瞥すると、マキは再びサウザーたちに向き直り、
「とにかく、お断りしますからっ!」
と言い捨てさっさと音楽室を後にしてしまった。
彼女が去った音楽室は一気に静まり返り、床の上で痙攣するモヒカンのアヘアヘボイスだけが部屋の空気を震わせていた。
「えっ、何今の」
「ちょっと私にもわかりません」
「世紀末すぎるよ~」
あまりの急展開に置いていかれ気味の穂乃果、海未、ことりの三人。対して、サウザーだけが血を流すほどに歯ぎしりしながら、
「ぬうう北斗めぇえええ!」
と唸っていた。
※
時は流れ、放課後。
「メンバー探しも良いですけど、それに構かけて練習できなかったら意味ありません。そういうわけで、トレーニングです」
四人は校庭にある聖帝十字陵前に来ていた。
この誰が作ったのか分からないピラミッド……まぁ作らせたのはサウザーなのだが……には頂上まで長い長い階段が続いている。海未はそれをひたすら登る、という単純ながらも地味にハードなメニューを課した。
「私は弓道で鍛えてますし、こう見えて登山が趣味ですから体力には自信があります。サウザーも聖帝ですから問題ないでしょう。でも、穂乃果とことりはそうじゃないでしょう?」
「まぁ」
「そうだね」
穂乃果とことりが準備体操しながら答える。
準備体操が済むといよいよ登山の始まりである。海未を先頭に、穂乃果、ことり、サウザーの順で頂上を目指す。
四人はしっかりとした足取りで階段を登り始めた。
登りながら、穂乃果が漏らす。
「それにしても、マキちゃんの事は諦めきれないなぁ」
「フフ……安心しろ高坂穂乃果。いくら北斗神拳といえど、この俺の身体の秘密を暴かぬ限り奴は俺に勝てぬ」
「いや別に南斗と北斗の因縁的な話じゃなくてね? 歌が上手くて作曲も出来るんだから……」
穂乃果にはマキはああ言えどスクールアイドルに興味を抱いているという確信があった。YESと答えられないのは、プライドがそれを許さないという理由もあるだろう。アイドルなんて、ヘラヘラ踊り狂っているだけにしか見えないのかもしれない。
実際、穂乃果も最初はそう思っていた。廃校から学校を救いたいという気持ちは本物であったが、アイドルを軽く見ていたからこそ、気楽に、
「アイドルやろーぜアイドル」
と提案出来たのである。
しかし、海未に言われ、聖帝十字陵を登っている今、そのような気持ちは微塵もない。
サウザーもまた同様にスクールアイドルを提案した者だ。しかし、彼の穂乃果と違うところは、過去も現在も特に何も考えていないというところである。海未に言われて考えてることといえばカレーに一番合う品種の米は何かということくらいである。
……四人が十字陵の頂上に着いたのは登り始めてから二十分ほど経った時の事である。
その頃には穂乃果とことりはヘロヘロで、立っているのもやっとという様子であった。
「三人とも大丈夫ですか? 特にサウザーは途中でターバンの少年に脚を刺されていたようでしたが」
「フン、大丈夫だ。絆創膏も貼ったし」
「な、なんて強がりなのぉ!?」
「あの我慢強さは穂乃果じゃ絶対太刀打ちできないね……!」
「そんなことより、ほら、見てください!」
三人のやり取りを無視しながら海未が目の前に広がる景色を示す。
時刻はちょうど夕暮れであった。
空は夜の装いを見せ始め、鮮やかな空の中で星々が輝き始めていた。間もなく夕日は光の残滓と共に消えて、街の灯が星よりも煌びやかに輝き始めるだろう。
その風景に、四人は言葉を失う。
「綺麗……」
そうとしか表現の仕様の無い景色であった。
そんな夕暮れの景色を見て、サウザーの心に、昔の温かな記憶がよみがえる……。
それは丁度このような夕暮れの事であった。
その日の鍛錬を終えたサウザーは腕で額の汗を拭いながら、ふと近くにいた犬へと目を向けた。
——お師さん!
——どうしたサウザーよ
——あそこにいる犬は、何をしているのですか? 一匹がもう一匹に乗っかっているようですが……
それを聞いた瞬間、師……オウガイの目が険しく光った。
サウザーは一瞬その目に気圧された。だが、すぐにオウガイの目はサウザーを愛しむものへと変わり、手にしたタオルでサウザーの汗をわしわしと拭きながら、優しく語りかけた。
——あれは、犬同士の鍛錬だ。動物界にも険しい戦いがあるからな
——へぇ、動物も大変ですね!
サウザーが事の真実を知ったのは、それからずっと後のことでった……。
——シュウ、見てみろ。犬が鍛錬に励んでいるぞ
——ン? いや、あれは……
——犬ですらあのように鍛錬するのだ。我々人間もうかうかしておれぬな
——いや……えっ? サウザー……えっ……?
「愛などいらぬぅっ!」
「うわビックリした!」
「大人の愛ゆえに、人は恥をかかなければならぬ!」
サウザーが慟哭する。誰よりも純真であったが故に……。
……そうこう言っている内、空はみるみる暗くなっていった。
「そろそろ下りましょうか。本格的に暗くなると危ないですし」
海未が言う。すると、サウザーがまた高らかに笑い出した。
「フハハハハ―ッ! 一番先に下へ行くのはこの聖帝サウザーだ! 一番遅れた下郎はジュース奢り~」
「あっ、サウザーちゃんずるい!」
「ちゅん! まってよサウザーちゃん!」
穂乃果とことりの声を無視して、サウザーは高らかに飛翔する。
「フハハハハ! 省みぬ! フハハハハ―ッ!」
その飛翔する姿は、まさに鳳凰!
しかし、彼が着地した瞬間の僅かな隙を突いたターバンのガキに脚を刺され(しかも先ほどと寸分違わぬところ)、その痛みに絶えるためうずくまっている内に穂乃果たち三人に先を越されてしまった。
結局、サウザーは三人にジュースを奢る羽目になった。
つづく
名前がカタカナのキャラは北斗の拳に片足突っ込んでるキャラ。