サウザー!~School Idol Project~   作:乾操
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『どんなときもずっと』の歌詞で「きみ」の部分が『うぬ』に脳内で自動変換されてラオウが会いにくる歌と化して困ってる今日この頃。


16話 サウザーゾーン(後編) の巻

 +前回のラブライブ!+
 むかしむかしあるところに ほのか という女の子が住んでいました。
 ほのかの家はわがし屋さんで ご近所でも評判でした。
 ところがある日 お店に鬼が二人やってきて 「おいしそうやん」とか「チョコ以外認められないわァ」とか言いながら お店のおかしを ぜんぶ持っていってしまいました。
「おかあさん ほのかが おにをやっつけて だいきんをうけとってきます」
 お母さんは心配そうに
「きをつけてね とちゅうでおなかがすくだろうから この『きびだんご』を もっていきなさい」
と お父さんとくせいのきび団子を一ふくろわたしました。
 すると ほのかはお母さんに言いました。
「和菓子飽きたからパンの方が良かったなァ」
 




 穂乃果、海未、サウザーによる恐怖の追跡を撒いたことりであったが、ついに希に捕まり、「逃げたらわしわ神拳やん?」と脅迫され、観念した。
 


 メイド喫茶と言えば、秋葉原が本場である。
 その本場の地のメイド喫茶で、ことりはこっそりとアルバイトしていたのだ。
「もー、言ってくれればジュースとかご馳走してもらったのに」
「カレーが食べたいぞカレーが」
「穂乃果先輩とサウザー先輩たかる気満々にゃ」
「それにしても、先輩がアキバで伝説のメイド、『ミナリンスキー』さんだったなんて……すごいです!」
 花陽の言う『伝説のメイド』というのはここ最近、秋葉原で話題になっているというメイドカフェ店員のことである。ニコなぞは貰いもののサインを持っていたのだが、その正体が部の後輩とは驚きである。
「でも、またなぜメイド喫茶でアルバイトを?」
 海未が訊く。
「四人でスクールアイドルやろうって頃なんだけど……」

 帰り道、秋葉原に用事があって立ち寄ったところ、メイド喫茶の人にスカウトされたのだと言う。
 無論、初めは断った。しかし、持ち前の人の良さに引っ張られてなんやかんや店まで赴き、何となく制服であるメイド服を着てみたところそのデザインの良さに一目惚れ、めでたく就職、というわけである。
 そして何より、彼女の中でふつふつと芽生えていたとある感情が原因の一つにあった。

「自分を変えたいなって……私、三人と違って何もないから」
 ことりは語った。
「穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張っていけないし、海未ちゃんみたいにしっかりもしてないし、サウザーちゃんみたいに聖帝でもないし……」
「南斗の聖帝はこのおれ一人だからな。フワハハハハ!」
「二年生の中だと、ことり先輩が一番まともだと思うのだけど」
 マキが言う。その言葉にショックを受ける海未を他所に、ことりは首を振る。
「私はただ、二人について行ってるだけ……」
「そんなことないですよ!」
「そうだにゃ! ことり先輩がいなけりゃ今頃どうなってたか」
「酷い言われようだ」
 穂乃果もわずかながらショックを受ける。実際、サウザーはもとより、ことりも海未もなんだか良く分からない必殺技を持っている時点であまりまともではないのだ。それでも外から見れば穂乃果の方が破天荒らしい。
 それはさておき。
「私達の衣装作ってくれたのことりちゃんじゃん!」
「フフフ、園田が歌詞、南が衣装となると、高坂穂乃果よ、何の仕事もしてなくて恥ずかしくないの?」
「サウザーちゃんにだけは言われたくないよ」



 その日は一同ことりの接客の下だらだらと過ごし、時間が来たので解散となった。ことりは仕事がまだあるため、他のメンバーだけ帰宅である。
 別れ際、ことりが、
「あっ、このことは、お母さんには……」
 音ノ木坂学院はアルバイトを特に禁止していない。しかし、理事長である以前に実の母親である人物に知られるのは恥ずかしいというのが思春期であった。
「わかってるよー!」
 穂乃果が手を振る。
 
 途中でそれぞれの家路につく為メンバーは別れていき、秋葉原の外れまで来た頃には穂乃果、海未、サウザーのいつもの面々に加えて絵里のみが並んで歩いていた。
「それにしても、ことりちゃんがあんな風に悩んでたなんて意外だな~」
「穂乃果は悩みなんてないから分からないんですよ」
「あっ、何気にひどい」
「冗談ですよ」
「おれに悩みは無いぞ?」
「十二分に知ってます」
「まぁ、人間誰にだって悩みはあるわよ」
 絵里が言う。
 自分の事を心の底から優れていると言える人間はそういない。だからこそ、努力して、同じく努力した友達を見て、また努力する。友達というのは、ある種最大のライバルなのかもしれない。
「おれにライバルはいないぞ? 何しろ聖帝だからな! フハハー!」
「言ってて空しくないですか?」
「全然空しくありませんけど!?」
「はいはい」
 そんなやり取りを見ながら絵里はクスリと笑う。――以前と比べると、ずいぶん彼女も丸くなったものだ。かつての彼女ならサウザーの事を「チーカチカチカ!」と嘲笑っていたことだろう。
 そして絵里は、今までなら絶対に思いつかなかったであろう妙案をこの時思いついた。



 翌日の放課後。
 ことりは一人教室でノートと向き合いながらブツブツと何やら呟いていた。
「チョコレートパフェ……おいしい……パリパリのクレープ……食べたい……」
 これは別に彼女がおかしくなったわけではない。
 それは、十数分前の部室での事であった。

「秋葉原で路上ライブ?」
「そうよ!」
 部室で絵里はメンバーにランキング上昇の策を説明していた。
 秋葉原はアイドルの聖地である。そこで観衆に認められるようなパフォーマンスが出来れば、ランキングの順位もグッと上がるわけだ。
「でも、秋葉原はあのA-RISEのホームよ? 大丈夫なの?」
 ニコが指摘する。スクールアイドルの頂点であるA-RISEのいるUTXは秋葉原に存在する。秋葉原にいる人にスクールアイドルと言えば? と訊くと九分九厘A-RISEの名が返って来るであろう。
「フフ、おもしろい」
 だが、サウザーは例のごとく乗り気だ。
「例えA-RISEとやらが襲って来ようと、南斗聖拳の前に跪くだけだ」
「アンタA-RISEをどういう集団だと思ってんのよ……」
 しかし、面白そうであるというのは事実である。目の肥えた人たち相手にどれだけできるか、純粋に若い好奇心と向上心が発露する。
「それでね、ライブで歌う曲の歌詞なんだけど、秋葉原について詳しい人に書いてもらおうと思うの」
「おれか」
「お前じゃない。南さん、お願いできるかしら」
「えっ?」
 ことりは驚いた。今回の歌詞も海未が書くであろうと完全に思いこんでいたからである。
「でも、歌詞なんて書いたことないですよぉ……」
「そうかもしれないけど、今回はあの街で働いて、あの街の人と接したあなただからこそ、素敵な歌詞が書けると思うの」
「その通りです。ことり、誰でも『はじめて』から始まるんです」
 歌詞担当で定着している海未も、ファーストライブの時が初めての作詞だったのだ。彼女に言わせてみれば、自分に出来てことりが出来ないはずがない、ということなのだ。
 他のメンバーも大いに賛成する。
 ことりは元来、頼みごとを断れない質である。
「う、うん! やってみる!」
 緊張しながらも、ことりは作詞担当を引き受けた。

 そして、放課後の教室での作詞作業である。ノートを前に、歌詞にピッタリなフレーズは無いかと呟き続けている。
「ふわふわのクリーム……甘い……北斗有情破顔拳……気持ちいい……」
 だが、簡単に注文通りの歌詞が浮かんでくることは無い。考えれば考えるほど訳の分からない方向へ思考が飛躍して、頭がこんがらがってしまうのだ。
「南斗人間砲弾……楽しそう……南斗暗鐘拳……もはや拳法じゃない……」
 ここまで呟いたのち、彼女はペンを放り出して突っ伏してしまった。
「あぁーん! 思いつかないよぉ……」
 弱音を吐いてしまう。そして、他のみんなならすぐに作れるだろうなぁ、などと考えてしまう。
 海未なら、素敵な歌詞をどんどん作れるだろう……。
 穂乃果もまた、持ち前のポジティブで書き上げてしまうだろう……。
 サウザーは知らない。
「うぅ~、ハノケチェン、海未ちゃん、たすけてぇ……」
 つい、泣きそうになる。
 しかし、そんな彼女のピンチに現れたのはハノカチェンでも海未ちゃんでもなかった。
「フハハハハ!」
「ぴぃ!?」
 ご存知、聖帝サウザーである。
 南斗聖拳特有の切れ味で入り口を切り裂きながら入室してきたサウザーにことりは驚きを隠せない。
「ど、どうしたのサウザーちゃん!?」
「忘れ物。フワハハ」
「そ、そう……」
 そんなサウザーはことりの意味不明な単語が羅列されたノートを見て、
「行き詰っているようだな小僧?」
とせせら笑った。
「うん……どうしても海未ちゃんみたいに上手くできなくて」
「フフ……なんならおれが教授してやってもいいのだぞ?」
「結構です」
 即答であった。
 しかし、今回のサウザーはいつもと一味違った。
「今回は一つ妙案があるのだが? 教えようかなー、どうしようかなー。聞きたい?」
「もー早く言ってよ」
 歌詞が思いつかないのも合わさってサウザーのテンションにイライラすることり。
 だが、今回ばかりは本当に珍しいことに、彼の提案は実に有効に働くこととなった。



 翌日、ことりのメイド喫茶に新人さんが加わった。
「いらっしゃいませぇ、ご主人様っ!」
 元気いっぱい穂乃果メイド。
「い、いらっしゃいませ、ご主人様……」
 恥じらいが初々しい海未メイド。
「いらっしゃいませ下郎。フハハハハ!」
 うるさい聖帝メイドの三人である。
 サウザーの提案、それはメイド喫茶で共に働きながら歌詞を考える、というものであった。今回のテーマである『秋葉原』で実際に働くことが、歌詞作りの最大の手助けになる、という理屈であった。
「サウザーにしては信じられないほど協調性にあふれてますね……」
「そうであろう? 聖帝に不可能は無いのだ」
 この提案を聞いた時、彼は海未にこう語っていた。しかし、海未はその背後に穂乃果の影が存在することを察した。大方、どこかで穂乃果が話していたことを思い出して適当に言っただけであろう。
 なんにせよ、穂乃果たちと働けてことりは大感激である。
「や~ん、穂乃果ちゃんも海未ちゃんも可愛い! 店長も快く受け入れてくれてよかったぁ!」
「私はここの店長の頭が心配かな」
「右に同じくです」
「メイド服とは心地よいではないか。フハハハハ」
 何故かサウザーもメイド服を着ている。本来なら執事用の燕尾服か何かを着る予定だったのだが、あいにくここは女性ものしか準備していなかったため、メイド服を着る運びとなった。なんの迷いも無く「じゃあ、代わりにこれ着て」とメイド服を手渡した店長にアキバの懐の深さと危うさを感じ取った穂乃果たちであった。
「それにしても、サウザーちゃんご奉仕とかできんの? 聖帝ってもっぱらされる側でしょ?」
 メイド服以上に穂乃果が気になったのはこれであった。
「何事も挑戦というであろう?」
「ファーストチャレンジが女装でメイドってレベル高すぎだと思うな!」
「常識にとらわれないことこそが飛躍への第一歩だと思うが?」
「サウザーにしては良いこと言いますね」
 何のことは無い、昨晩読んだ自己啓発本に間違った影響を受けているだけである。 
 そうこうしているうち、お客さんが来店した。
「にゃ!」
「お、お邪魔します」
「やってるわね」
「おや、凛に花陽、それにマキではないですか」
「私が呼んだんだよ」
 穂乃果はμ's´のメンバーを招待したらしい。次々と他のメンバーも店に入ってくる。
「よく来たな」
「うわ、なんでサウザー先輩まで着てんの!?」
「ここ十年で一番恐ろしいよぉ」
「控えめに言って馬鹿でしょ」
 凛と花陽、マキは大いに怯える。
「フフ……褒めても何も出んぞ?」
「褒めて無いにゃ」
 警戒する凛たち。そんな彼女たちへの接客は新人三人への手本も兼ねてことりが対応した。
「お帰りなさいませお嬢様方。お席にご案内しますね」
「おぉ、流石は伝説のメイド、物腰から何まですばらしいです……!」
 花陽が感動する。伝説のメイドは最初から最後までお客を魅了するから伝説と呼ばれるのだ。
「ことりちゃんすごい!」
「私達に出来るでしょうか……?」
「あのようなもの、このおれにかかれば造作もないことよ」
 言うやサウザーは続いて入店してきた絵里を出迎えた。
「いらっしゃいませ! 下郎! フハハハハ!」
「えぇ!? サウザー、なんであなた……」
「今日はこのおれ自らが貴様をもてなしてくれるわ」
「あら、面白いじゃない」
「フハハ! では席にご案内しますね! 来い!」
 そう言うサウザーに絵里は引きずられるように店の奥へと向かった。
「さぁ、私をどんどんもてなすチカ」
 サウザーにもてなされるというかつてない経験に絵里のテンションはアゲアゲである。なんやかんや今までの仕打ちを根に持っていた彼女はここぞとばかりに偉ぶった。
「メニューとお冷になります!」
 バン、とテーブルに叩きつけるように置く。
「ふーん……そうね、お腹ぺこぺこだし、オムライスでも頼もうかしら」
 この日の絵里は生徒会の仕事があってお昼を抜いていたのだ。
「オムライスだと? おれはカレーが食べたいのだが?」
「いや知らないわよ。なんでアンタの食べたいもの注文せにゃならんのよ」
「チッ、そうか」
 露骨に舌打ちをしたサウザーは厨房に向かって、
「オムライス一丁ーっ!」
「居酒屋かよ! もうすこしメイドらしく振る舞いなさいよ」
「接客の基本は元気だと聞いたが?」
「元気のベクトルが違うでしょうが。もっとこう明るい笑顔で……ごめん、何でもない」
 絵里はサウザーの『明るい笑顔』の想像以上のウザったさに降参した。
 しばらくして、厨房ではオムライスが完成し、サウザーはそれを絵里の元へと配膳した。
 持ってきたオムライスにはケチャップがかかっておらず、全くのプレーンな状態であった。これは、お客さんの名前や可愛い絵をケチャップでデコレーションするためである。
「メイド喫茶の定番ね。そういうわけで、『エリチカへ』って書いてもらおうかしら」
「なぜ貴様ら下郎の名をわざわざ書く必要があるのだ。おれのサインを書いてやろう」
「いらねぇよ! あっ、こら!」
 だがここはサウザー、店のサービスマニュアルをガン無視し、オムライスに赤々と『サウザー』のサインを施した。こうして絵里の前に欲しくもないサイン入りのオムライスが供された。が、ここでは終わらない。
「それでは、当店のサービスマニュアルに従い、このオムライスに『愛』を注入してやろう」
 彼はそう言うと胸の前で手でハートを象り、腰を振りながら、オムライスに愛を注入した。
「萌゛えっ! 萌゛えっ! ギュンッ!」
「なんでそんなサービスだけマニュアル守るのよ!」
「遠慮するな。おれは愛はいらんから、いくらでも注入してやるぞ?」
「もういらないから――」
「萌゛えっ! 萌゛えっ!」
「いらないって言ってるでしょ!」
 何とも賑やかなものである。それを希とニコは遠巻きに眺めている。
「アキバで歌う曲ならアキバで考える、というのは道理やね」
「そうでしょ?」
 穂乃果は二人にメニューを手渡しながらえへへと笑った。
「ま、アンタたちにしては上等な案ね……ところで、さっきから海未の姿が見えないんだけど」
「それがですね、海未ちゃんってば、恥ずかしいから出たくないって厨房に籠っちゃって」
 スクールアイドルをやってはいるが、本来海未は非常に恥ずかしがりやである。今までは見知った顔相手だったり、校内でのイベントでステージに立つだけであったからそうでもなかったが、見たことも会ったこともない人相手に立ち振る舞うのは相も変わらず苦手であった。
「本番大丈夫なの、それ」
 ニコがやや心配げに言う。
 だが、穂乃果は全く心配する素振を見せず、
「大丈夫です! ことりちゃんも素敵な歌を作ってくれるし、そうとなれば、海未ちゃんだってしっかりライブできます!」
「根拠は……って訊くのは無粋ね。ま、今日のところは信用してあげるわよ」
 ニコは苦笑しながら穂乃果の腰を叩いた。
 一方その頃サウザーは何故か絵里に供したオムライスを頬張り、絵里は悔し気にテーブルをバンバン叩いていた。



 共に働く中、ことりの中で歌にしたい感情がはっきりと見えるようになってきた。
 思いきって自分を変えようとしたとき、優しく受け入れてくれるであろうこの街への思い(サウザーをメイド喫茶で雇う程度には懐が深い)、この街で過ごすことの楽しさ、それらを曲に載せて歌いたい、みんなに伝えたいと思うのだ。
 その思いは穂乃果や海未にも伝わる。
 特に海未なぞ初めは接客が出来なくて厨房で皿洗いマシーンと化していたのだが、日に日に積極性が増し、最終的にはお客さんに芸(百発百中ダーツなど)を披露するにまで成長した。
 サウザーは相変わらずで、来店するたびに絵里と何らかの勝負をしては食事を強奪していた。
 しかし、それもいつの間にか店の名物と化し、絵里はサウザーに出演料としてジュースを毎回奢らせるほどの優位性を得た。毎回の食事代を払うのは絵里だから実際損しているのだが、彼女はそこに気付いていない……。
 とにかく、歌詞は完成し、マキも曲を完成させた。日時と場所、メンバーの衣装も決まり(総メイド服である)、あとは本番のみである。
 そして、幕は上がり、μ's´初の校外ライブは――。



 夕暮れ、いつもの神社から夕闇に沈もうとする街を四人は眺めていた。
「うまく行ってよかったね!」
 穂乃果が嬉しそうに言う。
 ライブは大が付くほどの成功をおさめた。いつものダイナミックなダンスに加えいつも以上にことりの脳トロボイスを前面に押し出したことが功を奏し、お客は揃いも揃って骨抜きにされた。反聖帝レジスタンスの人たちもライブ襲撃を敢行するほど無粋でもないため、安心してライブが出来た。
 途中うっかり発射した嘆願波が海未に命中するアクシデントがあったが、ここまでで大きく成長した海未は最後まで見事耐えきった。そのせいで今やや興奮気味である。
「はぁはぁ、ことりの、おかげですね……はふぅ」
「そんなことないよ。みんながいてくれたから……みんなで作った曲だから成功したんだよ」
「フハハ。感謝するがいい!」
「サウザーったら無粋ですよ……はぁはぁ」
「あはは。……そう、みんなで作った曲……」
「ことりちゃん?」
 ここでことりはふと、どこか寂し気な表情を見せた。
「私達、いつまで一緒にいられるかな……」
「どーしたのさ急に」
「だって、あと二年もしないで高校は終わっちゃうんだよ? そうしたら……」
「……まぁ、それは仕方ないことですよ」
「フハハ。それならば卒業しなければよいではないか」
「馬鹿ですか?」
 高校を卒業したらそれぞれの進路へ向けて歩み始めるだろう。そして、それは今までと違い、この先滅多に交わることのない道だ。
 一同に沈黙と高笑いが流れる。
「……じゃぁさ、卒業までに、たくさん思い出作らないとね」
「穂乃果?」
 穂乃果は夕日に照らされながら腕を上げ、笑う。
「二年間、たくさん遊んで、たくさん勉強して、たくさん歌って笑おう! それが全部思い出になって、卒業して別々の進路に行ったら時々集まって、お酒とか飲みながら思い出話をしよう!」
 穂乃果はどこまでも前向きである。前向きであるから、将来の心配だってこんな風に捉えることが出来る。
「だから残り二年、一緒に頑張ろう! その第一歩、ラブライブの出場を目指そう! 出場して、素敵な思い出をつくるんだよ!」
 そう考えてみれば、卒業してバラバラになるのも不安でなくなる。むしろ、ちょっぴり楽しみでさえある。大人になった時、どんな思い出を話せるか……海未とことりは思いを馳せた。
「そうですね。残り二年、悔いのないように」
「よろしくね、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、サウザーちゃん」
「フハハハハ! こちらこそどうぞよろしく。みたいな! フワハハハハ!」
「もー、サウザーちゃんったら、うるさい☆」
 ことりはそう言いながらちゅんちゅん笑った。




 残り二年、一緒に頑張ろう。
 残り二年、たくさん思い出を作ろう。
 

 
 残り二年……きっと一緒にいられる。ことりは、そう思っていた。
 

 だが、彼女にも夢はある。
 そして、夢の実現は現状との別れをも意味する。
 その決断を迫る一枚のエアメールが彼女の元に届けられたのは、その日の晩のことであった。


つづく
 
  



EDテーマは『きっと断末魔がきこえる』です。