サウザー!~School Idol Project~   作:乾操
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14話 聖帝の新チーム誕生 の巻

+前回のラブライブ!+
 ついにスマートフォンデビューすることにした世紀末覇者ラオウ。
「『らいん』とやらが出来る物はどれだ?」
「『あぷりけーしょん』? なんだそれは」
「なに? スマホとは全て『あいふぉん』とやらではないのか?」
「『おーえす』? ぬぅ……」
 結局分からないから不本意ながら「うぬのおススメはどれ?」とショップの店員に頼ることにした。しかし、通常のスマホでは小さすぎたため、タブレットを購入することにした。
 とりあえず、トキにメールでも送ろうと思う世紀末覇者であった。
 


「——このように、音ノ木坂学院は伝統と歴史の豊かな……」
 μ'sが生徒会室を襲撃した日の夜、絵里は現役中学生である妹の亜里沙とその学友二人にスピーチの草案を聴いてもらっていた。
 しかし、表情を見るにイマイチらしく、友人の一人で……絵里は知らないが……穂乃果の妹である高坂雪穂などは舟をこぎ始めていた。そんな彼女は亜里沙に肩をつつかれ、「ぬっ!」と痙攣してから目を覚ました。
「あ……すみません……」
「ごめんなさい、あまり面白くなかった?」
「い、いえ! そんなことないですっ!」
 ぎこちなく笑いながら言う雪穂。
「いいのよ。当日までに直すから、どんどん意見を言って」
 絵里も現役中学生に面白いと思ってもらえなければ意味がないことを知っているからそう言う。
 そう言うと、亜理紗が厳しい顔で、
「イリューシン」
「ちょっと亜里沙!」
 雪穂が亜里沙を止めようとするが、彼女はお構いなしで続ける。
「ヤコヴレフ?」
「決まってるじゃない、学校を廃校にしたくないからよ?」
 絵里にとっては分かり切った問いかけであるから、首を傾げて訊き返す。すると、亜理紗は厳しく、やや困惑した表情で、
「ミコヤーン・グレーヴィチ?」
「……!?」
 絵里は、言葉を失った……。



「……てなことが昨日あったの」
「うん、意味わかんない」
 翌日の放課後、生徒会室で絵里は希に昨晩の事を話していた。
「自分の学校が無くなるなんて嫌でしょ? 分かり切ったことじゃない……」
「それは分かるけど、エリチ、どうにかしなきゃって、無理しとるんやない?」
「そんなことないわよ」
「頑固やね」
 クスリと笑いながら希はお茶を淹れ始めた。どんなに不機嫌な時も絵里は希のお茶で大なり小なり機嫌を直す。彼女の淹れてくれる茶の香りは絵里の心を豊かにしてくれるのだ。
「ほらエリチ、お茶淹れたよ」
「あら、ありがとう」
 塞ぎこむ絵里の前に熱い紅茶を置く。そして、その横に小皿を一つ置いた。
「キイチゴのジャムがあったから、今日はロシアンティーやで」
「ハラショーね!」
 小皿にジャムをとりわける。それを見ながら絵里は、
「希の紅茶を一度こんな風に飲んでみたかったの」
と嬉しそうに言ってくれた。
 そんな彼女を見ながら、希はすこし胸を締め付けられるような感覚を覚えた。
(ごめんなエリチ。でも、エリチのためでもあるから……)
 希が小皿に移したキイチゴのジャム。
 これこそ、スクールアイドルμ'sの大いなる陰謀の始まりを示すものなのだ!
 絵里が信頼する希はμ'sとグルだったのだ!
 そのような事は露知らず、絵里は嬉しそうにジャムをスプーンで口に運ぶのであった……。



「……うっ……うん……?」
 気が付くと、絵里は見知らぬ場所にいた。荘厳な柱の並んだ聖堂を思わせる広々とした部屋で、壁際に並んだ高い窓から陽の光が静かに差し込んでいる。
「ここは……確か私は生徒会室で……うっ?」
 一つ身じろぎして、彼女は自分の置かれている状況を理解した。どうやら自分は今万歳のような姿勢になっているらしい。両手首には枷がはめられ、天井から伸びた鎖につながれており、半ば吊るされたような状態になっているのだ。両足にも枷がはめられて、満足に身動きできない。 
「なんでこんなところに……薄暗くて、ちょっと怖いし……」
「目が覚めましたか?」
 状況を詳しく知ろうと首を巡らせていると、柱の影の暗闇から二人の人影がそう言いながら姿を現した。
 一人は、μ'sがメンバーの一人、園田海未。そしてもう一人は……。
「……希!?」
「あはは……」
 絵里の親友であり副会長、東條希であった。
「どういうことか説明してもらえるかしら」
 絵里は二人をじろりと睨む。このような仕打ちを受ければ当然である。
 しかし海未は臆することなく、
「このような事をしてしまい申し訳ありません。ですが、こうでもしなければμ'sに加わって頂けないので」
「ふん、正気で言ってるんなら相当おめでたいわね。こんなことされて。私がμ'sに入りたいなんて思うかしら。生徒会長は脅しには屈しないのよ」
「分かっています。脅しをしようなんて考えていません」
 海未がそう言うのと同時、どこからかガシャーンガシャーンと鎧が歩く音が聞こえてきた。やがてその音は大きくなり、音の主が絵里の前に姿を現す。
「!?」
 その者は頭からつま先まで重厚な鎧兜に身を包み、マントを翻していた。その鎧とは、『南斗最後の将』の鎧なのだが、一介の女子高生である絵里の知るところではない。だが、溢れ出るオーラに彼女は圧倒された。
 鎧の人物はゆっくりと絵里へ近づく。
「うっ……!?」
 その者は絵里の前まで来ると、ゆっくりと兜を脱ぎ、素顔を露わにした。
「あなたは……!」
「絢瀬とやらよ……」
 兜の下に隠されていたのは、絵里にとって嫌と言うほど見慣れてしまったあの顔……。
 聖帝サウザー、その人であった。
「なんていうか……μ'sのために……そのぅ……」
 サウザーは戸惑う絵里に頬を赤らめつつもじもじしながら言う。
「そのぅ……お前の命が……欲しい?」
「っ……」
 色んな意味で破壊力抜群なサウザーの『お願い』。それに堪らず絵里は慟哭した。
「にっ……にくらしい程に、いじらしいっ!」
 同時に、絵里は悟った。
 自分が置かれているこの状況が、自分のためにあるものだと言う事を。
 廃校阻止のために動くことに生徒会長であるからという理由を持ちださざるを得ない、自分のやりたいことに素直になれない自分のために。
 あえて逃げ場を無くしてくれているのだ。
 いつもの自分ならば、激怒した挙句μ'sに無期限活動禁止を言い渡すところであったろう。希と絶交して、大切な友達を失っていたであろう。
 だが、今の彼女は、サウザーの『にくらしい程いじらしい』態度にドキッとしてしまっていた(頭おかしい)。
「……ふっ、私も焼きがまわったわね」
「!」
「いいわ……私もスクールアイドルに……μ'sの一員になりましょう」
「エリチ……!」
 絵里の決心に希は感涙しそうになる。海未も嬉し気に頬を綻ばせた。
「ただし! ……私に教えを請うた以上、厳しくいくわよ。それと……」
 絵里は希を見やった。
「希も参加するわよね?」
「えっ?」
 絵里の予想外の問いかけに希は思わずこぼれた涙を引っ込めた。
「えっ? なんで?」
「だって希だってμ'sをずっと陰ながら支えていて……そろそろメンバーに加わりたいでしょ? その『μ's』って名前だって、あなたが考えたんでしょ?」
 そう言うと絵里はニヤリと笑った。
 ……これには希も内心参ったなと思った。
 絵里の言ったことは図星であった。自分はμ'sに対する絵里の本当の気持ちを知っていると自負していたが、まさか相手もそうであったとは……。
 だが、希は断らねばならない。
「それはできひんよ」
「なんでよ」
「『μ's』は九人だから輝ける……カードがそう告げとるんよ。グループ名も九人を意味するもの。ここでうちが加わったら、全部台無しになるもん」
 μ's……九柱の女神。すでに九人となった(一人は到底女神とは言えないが)グループに加わると、輪を乱す。希はμ'sが失敗する様を見たくなかった。
 が、こんな希の心配を一人の少女が一蹴した。
「べつにいいんじゃないですか?」
「えっ?」
 そう言って四人の前に姿を現したのは日直や補習で来るのが遅れた穂乃果たち他のμ'sメンバーであった。
 穂乃果の言葉に驚いた希に、彼女はもう一度言う。
「別にいいと思います。メンバーは多い方が楽しいです!」
「おれも配下の者が増えるのは歓迎であるぞ? フワハハハハ!」
「でも、グループ名だって『μ's』なのに……」
「じゃあ『μ's´(ミューズ・ダッシュ)』にしましょう?」
「そういう問題じゃ……」
「希」
 戸惑う希に絵里が優しく語りかけた。
「私は希の占いがよく当たるのは知ってるし、信頼もしてるわ。でも、占いは何かに迷ったときに使うものよ。私達の目的は廃校の阻止。そこに迷いはないわ」
「エリチ……」
 希は言葉を失った。そして、さっき驚いて引っ込んだ涙が再び頬をつたった。
「というわけで、東條希も我がμ'sの配下な? フハハハハ」
 

 『μ's´』、爆誕!


「ほんと、どうしようもなく強引なんだから……」
 絵里は呆れて言う。呆れて言うが―—そこにあるのは笑顔であった。
「いやホントごめんなさい、サウザーちゃんいつもこうですから」
「いいえのよ高坂さん。これも個性よね……さてと」
 彼女は一つ息を吐くと、「ぬうぅぅぅぅん」と力を溜め始めた。そして、ハラショーの掛け声と共に拘束具の鎖をブチチーンと引きちぎる。引きちぎった後、どこへともなく向かおうとした。
「あの、どこへ?」
 ことりが問いかける。
「決まってるでしょ?」
 綺麗な金髪をなびかせながら、絵里は笑顔で答えた。
「練習よ!」





 絵里の指導は宣言通り厳しいものであった。
「踊りの基本は体幹よ! 片足立ちでピクリとも動かないようにして!」
「それじゃぁこれを10セット!」
「身体が柔らかくなければ綺麗に踊れないわ! 足を開いて、おなかが床に付くように!」
 柔軟は絵里に言われるまで全く重視していなかったこともあり、メンバーの中にはカチコチに固い者もあった。
「だだだだだ!?」
 絵里に背中を押されながら凛が悲鳴を上げる。
「これだけじゃ何にもできないわよ! ほら!」
「あべし!」
「柔軟は全てにつながる基礎よ! これが出来て初めてスタートラインに立てると思いなさい!」
 対して中には予想外に身体の柔らかい者もある。
「フハハハハ!」
 サウザーが一番予想外な人物であった。彼は脚を開いて上半身をべったり床に密着させるほどの柔軟を持っていたのだ。
「サウザーちゃんすごい! ていうか気持ちわるっ!」
 穂乃果も思わず称賛の声を上げる。
「南斗鳳凰拳もまたしなやかさを求める拳法。故に、我が肉体はゴムも真っ青な柔軟性を持っているのだ!」
 言いながらサウザーは「ホレホレホレ」と上半身を床にめり込ませていく。
 それを見ながら、同じく南斗聖拳のニコは、
「不覚にもちょっと悔しいと思っちゃった……にしても、こんなに固かったかしら私って……む?」
 うんしょうんしょと柔軟に励むニコの目に恐ろしいものが飛び込んできた。
「ウーン……お腹つかへん」
 柔軟に励む希。彼女も絵里から言われたことに苦戦している様子だ。だが、そこには身体の柔らかさ云々の前に、胸に抱える二つのボールが大いに邪魔しているように見えた。
「……」
「ん、ニコッち? 南斗聖拳でもうちと同じで固いん?」
 言われた瞬間、ニコの中で何かが切れた。
「テメェの血の色は何色だー!」
「えっ」
「ニコォッ!」
「えっ、やめて! 飛燕流舞で追っかけてくるのやめて!」
 華麗に舞うニコから放たれる斬撃が希の服を良い具合に裂いていく。それを見ながら絵里は、
「なんか、良いわね」
「あっ、会長がいやらしい目で微笑んでるにゃ」
「違うわよ! ほら、固い!」
「たわば!」
 凛が押されて再び悲鳴を上げる。
 無駄に賑やかなμ'sを見ていると、このような活動も良いものだと思うのだ。
 ずっと堅苦しく真面目にやってきたけど、自分にはこういう雰囲気の方が性に合っているのかもしれない。
 そう思いながら、彼女は向うで二年生組に自らの軟体具合を見せつけて引かれているサウザーに、
「やるわね、あなたも!」
と声を掛けた。
「絢瀬とやらも下郎の分際でやるではないか」
「ふん、言わせといてやるわよ」
「あー、会長がサウザー先輩と少年漫画的ノリで会話してるにゃー」
「う、うるさいわよ!」
「ひでぶっ!」



 果たして、オープンハイスクール当日となった。
 音ノ木坂に興味のある子、別にないけどなんとなく来ている子など含め、多くの来校者があった。
 そして、その大多数の目当てが、十人に増殖もとい増員したμ's改めμ's´(ミューズ・ダッシュ)のライブである。
 校舎の前に設営されたステージの前には来校した中学三年生や中学生のコスプレをした聖帝軍のモヒカン共が多数つめかけていてまこと賑やかであった。
「なんか変な客居るんだけど」
「ニコ先輩気にしないで。ファイトですよ!」
「う、うん?」
 穂乃果ら二年生から奇妙な圧力を感じたニコはこれ以上追及しないことにした。
 今回のステージ衣装もことりがデザインを担当した。レッドコートを思わせる凛々しくも愛らしい衣装で、メンバーからの評価も上々であった。無論ではあるが、サウザーはタンクトップである。着心地が若干良くなっている。
「ちょっと胸がキツイやん……ちょニコッち構えないでこわいこわい」
「手前のパイオツ縮めやがりなさいよ!」
「ニコ先輩、もう始まりますから!」
 わちゃわちゃしている内に開演時間を迎えた。
 心地よい緊張に包まれた一同を、数多の観客が歓声と共に迎え入れてくれる。
 メンバーの中から、サウザーが一歩前に出て、ダブルピースで宣言する。
「客は全て、下郎!」
 その宣言と共に、観客たちは空気を揺るがすほどの大歓声を上げた。コスプレ世紀末野郎どもだけでなく、見学に来校した中学生や、学校の生徒たちもともに腕を突きあげ、腹から歓声を上げている。お客の順応ぶりにサウザー以外のメンバーは喜ぶ以前にやや引いた。
「下郎の皆さん、こんにちは……サウザー、です! フワハハハハ!」
「ヒャッハァァァァアアアウイイイ!」
「本日は新しい下郎の二人を迎えてお送りしまーす」
「イヤッフゥゥゥゥゥィイイイイイ!」
 聖帝軍も、中学生も、高校生も、老若男女の関係なく一緒に世紀末笑いをするこの地獄絵図な一体感はライブ特有のものであろう。穂乃果も観客の中に世紀末野郎と馬鹿笑いしている妹の姿を認めて変な笑いがこぼれた。
「フフフ……本当ならここで聖帝ワンマンショーをお見せしたいところであるが……いい加減他メンバーの視線が痛いので、歌の方に移りたいと思います。聴いてください、μ's´で『檄!帝国——』」
「違うでしょうが! 『僕らのLIVE 君とのLIFE』です!」
 穂乃果の曲紹介と同時、曲のイントロが流れてくる。
 本来なら、曲のイントロと同時、みんなで考えた振付のダンスが始まる予定であった。
 しかし、何度やってもサウザーが好き勝手躍る(しかも無駄にキレキレ)ものだから、最後には一同が根負けして、『サウザーに合わせて踊る』……つまりアドリブということにした。
 聞くだけなら破綻待ったなしのこの方式であるが、一同練習と主人公補正のおかげで問題なしにアドリブで踊ることが出来た。むしろ、全く予測のつかない動きをするおかげでダイナミックなダンスとなり、観客たちは終始興奮しっぱなしであった。
 一曲だけのライブであるから、時間は矢のごとく過ぎていった。
 曲が終わり、一列に並んだメンバー(サウザーは無理やり並ばせた)に、万雷の拍手が送られる。
 メンバーを代表して、穂乃果が〆の挨拶をする。
「今日はライブに来てくれて、ありがとうございます!」
「イィヤッフゥゥゥィエエエエエ!」
「あ、そのノリ続行なんだ……えっと、私達は、この音ノ木坂学院が大好きです! この学校だから、私達十人はこうやって出会ってしまったんだと思います。正直変な人しかいないかもだけど、皆さんにもこの学校で新しい出会いと挑戦を体験してほしいです!」
 彼女の言葉に、観客は先ほど以上に歓声と大きな拍手を送った。
 訪れた人々は、どんな形にせよμ'sに、音ノ木坂学院に興味を抱いた。絵里は、その光景に感動すら覚えた。
「ハラショー!」
 思わず、そう叫んだ。


つづく
 
 



μ'sメンバーの超人化が進み、まともな人の方が少なくなりりつつある。