サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
あと、本作は北斗の拳もラブライブ!もメタメタになっているので、両作品に深い思い入れのある方は読まないことをお勧めいたします。
セリフと地の文の間に空行を入れてみましたが、思った以上に目が滑るので次回から詰めます。
1話 スクールアイドル聖帝爆誕! の巻
20XX年、音ノ木坂学院は廃校の危機に瀕していた!
資金は枯れ、入学希望者は減り、廃校はやむなしかと思われた。
しかし、(一部のゴキゲンな)生徒は諦めていなかった!
そのゴキゲンな生徒の中でも、特に極め付けな者が一人。
その名はサウザー。一子相伝の拳、南斗鳳凰拳伝承者にして、南斗六聖拳最強の闘士である!(この設定が今作で活かされる事は多分ない)
音ノ木坂救世主伝説
高坂穂乃果は音ノ木坂学院に通うごく普通の高校二年生。
そんな彼女の通う学校が廃校になるという事実が全校生徒に知らされたのは麗らかな春の日であった。
あまりにも突然の知らせであったから、全員初めは皆理事長の悪趣味なジョークかと思っていた。しかし、校内中の掲示板にこれでもかという勢いで貼りだされた告示にでかでかと躍る『廃校』の二文字に全校生徒は理事長の言葉が事実であると理解し、言葉を失った。
それは、穂乃果や幼馴染の南ことり、園田海未も同様である。
「嘘……!?」
「廃校……」
「学校が無くなるってことですか……!?」
そして、そんな三人より衝撃を受けたのがサウザーである。
「廃校だと!? フハハハハ―ッ! フハァッ!」
あまりの衝撃にサウザーはバランスを崩し、そのまま仰向けに昏倒しそうになる。それを慌てて三人は支えた。
「サウザーちゃん!」
「サウザー!」
「ていうか重っ!」
聖帝サウザーの瞳には明らかな動揺の色が走っていた。図体はデカいくせに妙にピュアだからこうなるのである。穂乃果たち三人はサウザーの名前をよびかけるが、彼はあまりのショックに心ここにあらず、といった様子だ。
「ぬぅぅぅう……! この俺の……!」
サウザーはうわ言のように慟哭する。
「この俺の……輝かしい高校生活が! ぐはぁっ!」
「サウザーちゃーん!」
サウザーは血を吐いて保健室に放り込まれた。
サウザーが目を覚ましたのは丁度一時限目の終業チャイムが校内に鳴り響いた頃であった。
「ぬはぁっ!?」
チャイムの音に驚きながら彼は掛布団を跳ねのけた。窓からはカーテン越しに春の陽が差し込み、清潔なシーツを照らしている。
「……夢か」
結構嫌な夢だったなー、と振り返り思う。が、夢とわかれば何も恐れることは無い。聖帝には制圧前進あるのみ。たかだか夢ごときに右往左往する男ではないのだ。
元気よく保健室を飛びだした彼は教室へと足取り軽く歩きだした。
「フッハハッハハーッ! 下郎のみなさま、おはよう!」
すれ違う学友たちにも気前良く挨拶する。それを見て学友たちは顔を見合わせつつ、
「サウザー、いよいよおかしくなったのかしら」
「いつもあんな感じだよ」
「それもそうか」
サウザーの平常運転はだいたいこんな感じなのだ。彼はよく笑うのだ。
学友たちにそんなことを言われているとは露知らず、サウザーは教室へと向かって歩く。
「そんな急に廃校なぞあるはずがない! フハッ……フハハ―ッ!」
しかし、教室の前の掲示板には廃校が夢ではないことを彼に教えるためが如く告示がズラリと並んでいる。であるから、サウザーは否応なしに現実へと引き戻された。
「フハハ……ハァーッ!?」
教室に戻ったサウザーを穂乃果、ことり、海未の三人が迎えた。
「サウザーちゃん大丈夫?」
穂乃果が心配気に訊く。なにしろサウザーがショックで気を失うなんてことは今まで無かったのだ。彼が保健室の世話になるのはターバンのガキに脚を刺された時くらいなのである。
「廃校……フハッ……廃フハッ……フハハ―ッ!」
「ああサウザー……ショックでついにおかしくなったのですね」
海未が哀しそうに呟く。それに対し、ことりが、
「海未ちゃん、サウザーちゃんはいつも割とこんな感じだよ」
「そう言えばそうでしたね」
サウザーは相変わらず目を手で覆い隠しながら高笑いしている。これは別に涙を隠しているとかそんな理由じゃ無くて単なる癖である。
とは言え廃校がやはりショックなのか、ひとしきり笑い終わり、自分の席(机といすのサイズが身長に合っていない)に着くと頬杖をついて黙りこくった。
「サウザーちゃん、この学校が大好きなんだね」
ことりが若干涙ぐみながら言う。
しかし、そんな彼女の言葉を海未は否定する。
「いいえことり。彼にそんな神妙なことを考える能はありません」
彼女の言葉を肯定するがの如く、サウザーはまたも突然「フハハーッ」と笑い声を上げた。
「学校が廃校になるということは、毎日が夏休みのようなものだ!」
言うやサウザーは立ち上がり、
「ビバ!」
笑いながら飛び上がる。
「バケーション!」
「サウザー落ち着きなさい」
そんな彼を窘めるように海未が口を開いた。
「別に今すぐ廃校になるわけじゃありませんよ」
そもそも廃校自体本決まりではないのだ。来年度の入学希望者が増えれば、廃校は見送り、学校は存続というわけである。仮に入学希望者が定員割れしても、今年度の入学者が卒業するまでは廃校にはならないのだ。
つまり、二年生であるサウザーがこの学校を追い出されることは無いし、バケーションが訪れることもない。
とりあえず、二年生は廃校騒ぎとは関係ないわけである。だが……。
「今の一年生は後輩が一人もいないまま卒業を迎えるんだね……」
ことりがポツリと呟く。
そう、今の一年生は高校生活において卒業まで『後輩』という存在を知らぬまま学校を去らなければならないのだ。年度を重ねるごとに、一年生棟、二年生棟は無人となっていき、最後には三年生棟、学校そのものも……。
ぶっちゃけ下郎の一人や二人どうなろうがサウザーには知ったこっちゃない。しかし、彼にはこの学校を廃校にしてはならない『理由』があった。その『理由』を胸に秘め、彼は三人に同調する。
こうして、四人は廃校阻止のため動きだすことにした。
要は入学希望者が増えれば廃校にはならないのである。
今の中学三年生が「音ノ木坂に入学したい!」と思うような事がこの学校にはあるのか。四人はそれを見つけるべく校内を散策することにした。
「設備は結構整ってるよね。それにほら、最近校庭に出来たあれ」
穂乃果は言いながら校庭のど真ん中に聳える建築物を指す。
それは巨大な石造りのピラミッドとでも言うべき建造物であり、近代的設備を整えた学校とは不釣合いともいえる代物であった。なんでも、生徒の誰かが勝手に作ったらしく、生徒会もその巨大さゆえに撤去するに出来ない状態だとか。
「あれさ、真上から見ると十字になってるんだって。面白いよねー。誰が作ったんだろ」
「何言ってるんですか。あんなもの、余計に入学希望が減るだけです。変な宗教団体だと思われて……そうでしょう、サウザー」
「フハハハハ―ッ」
「でも、今時どこの学校も設備は整ってるからなぁ~」
ことりはハァと嘆息する。
部活動もさしたる結果は残していない。優秀な部活も、
四人は悩んだ……サウザーはそういう風には見えなかったが。
そんな四人、特にことりに背中から声を掛ける人があった。
「南ことりさんね?」
「はい?」
ことりと一緒にサウザーたちも振り向く。そこにあったのは、どこかで見たことのある生徒の姿であった。やや日本人離れした容姿の生徒と、胸がデカい生徒……。
「だれ?」
穂乃果が海未に囁く。
「生徒会長の綾瀬絵里先輩と副会長の東條希先輩ですよ」
そう言えば始業式で見たような気がするな、とサウザーも思いかえす。が、当時は居眠りしていた(新年度が楽しみで寝不足だったのだ)から、ほぼ覚えていないも同然である。
そんな彼からしてみれば印象の薄い有象無象下郎の一人である絵里はサウザーたちを一瞥するとことりに向き直った。
「たしか、あなたって理事長の娘さんだったわね」
「はい、そうですけど……」
ことりの親鳥はこの学校の理事長なのだ。理事長が彼女を特別扱いしないこともあって、そのことを知らない生徒も多々いるだろう。
「お母様から、何か聞いてないかしら。その……廃校の事とか」
絵里は『廃校』と言う言葉をいう時に若干だが表情をゆがめた。やはり、生徒会長といえど理事長の発表には不満があると見える。
「いえ、特に……」
「そう……ありがとう。ごめんなさいね、呼び止めて」
彼女は残念そうにそういうとその場を去って行った。
その背中を見送りながら穂乃果は、
「生徒会長も大変だね……」
「ええ……私達に出来ることって、何なんでしょうね」
結局この日四人は何も見出すことは出来ず、放課を迎え、それぞれの家路についた。
※
サウザーの居城……
「もう、お食事はよろしいのですか?」
「今日はもういらん」
サウザーはスプーンを放り出し、夕食の皿を下げるようモヒカンの手下に命じた。しかし、皿の上にはまだ半分以上残っており、モヒカンたちが心配げに問う。
「ご気分でも悪いのですか?」
「カレーを残されるとは、聖帝様らしくもない……」
カレーはサウザー大の好物である。いつもは土日がカレーの日なのだが、今日は新学期ということもあってお祝いに予定が変更されたのだ。
「何かあったのでしたら、このブル(いつもサウザーの傍にいる髭のオッサン)にお話しください」
「うむ……」
サウザーは今日学校であったことをブルに話した。音ノ木坂が廃校になること、穂乃果たちと廃校阻止のために行動することにしたこと……。
「なんと、廃校とはまた急な……」
「そうであろう? それに、廃校になるのは困るのだ。あとやっぱり残りのカレーも食べる」
カレーを頬張りながらサウザーは考える。
廃校になれば……せっかく校庭に拵えた聖帝十字陵も取り壊しになる可能性が高い。モブキャラを動員して築き上げた、あの十字陵を。
「何か廃校阻止の良い方法はないものか……む?」
その時、丁度点けっぱなしにしていたテレビ画面が、サウザーの目に飛び込んできた。
テレビの中の女性アナウンサーが元気よく話す。
『今人気のスクールアイドル! その人気の秘訣とは?』
「……スクールアイドル?」
サウザーのスプーンを動かす手が止まる。
「流行ってるようですな。かく言う自分も『A-RISE』というグループのファンでして」
「ふむ……」
画面の中ではアナウンサーからインタビューを受けるスクールアイドルが『風のヒューイ!』と自己紹介している。
「スクールアイドルか……」
彼の頭の中に妙案が浮かんだ。
これならば、廃校を阻止できるやもしれん。
※
「フハハハハーッ!」
「サウザーちゃん朝っぱらから元気だね。どうしたの?」
翌朝の教室。登校してきたサウザーのご機嫌ぶりがいつもに増して
「フハハ、実は昨晩この学校を廃校から救う名案を思いついてな?」
「そ、それは本当!?」
穂乃果が身を乗り出す。
「フフフ……はてさてこの歴史的名案、発表しちゃおうかな~? やめちゃおうかな~?」
「ウザったいですね、早く言ってください」
海未が露骨にイライラしている。しかし、聖帝たるサウザーはそのような事お構いなしなのだ。
彼はフハハと笑いながら重たそうな鞄を机の上にドスンと載せると、中から十冊近くの雑誌を取り出して見せた。どれもこれも、全国のスクールアイドルに関する雑誌である。
「今、スクールアイドルが空前の大ブームで、全国に増殖し続けている。ナウいヤングたちも、スクールアイドルがある学校への入学を希望することが多いらしいぞ? それに——」
「……あのね、サウザーちゃん」
自信満々に話すサウザーだったが、ことりが申し訳なさげに話を遮る。それに続けるように、海未がため息交じりに口を開いた。
「どうせ『廃校阻止のために私達でスクールアイドルを結成しよう』とか言うんでしょう?」
「ほう、分かるか」
「分かります。丁度今さっき穂乃果も同じ提案をしていたところです」
穂乃果が「でへへ」と困ったように笑う。海未は続ける。
「で、これもさっき私が穂乃果に言ったことなんですけど……」
曰く、思いつきで行動しても結果は出ない、むしろ悪い方向に動く可能性もある。そもそも生徒を集めるには相応に有名になる必要があり、そのためにはプロに負けないほどの努力が必要であり、好奇心だけで行動したところで結果は見えている、とのことである。
「ですから……ちょっと聞いてるんですか?」
「もう少し分かりやすく話してくれても良いのだぞ、ん?」
「じゃあはっきり言わせてもらいます。アイドルは無しです!」
海未の言う事は至極正論である。
だが、残念ながら……結果としては良かったが……このサウザーと言う男には正論は全くの無意味であった。
「俺は聖帝サウザーだぞ? スクールアイドルなぞ……下郎どもに出来てこの俺に出来ぬはずがなかろうが! フハハーッ!」
サウザーは高笑いする。
「帝王には制圧前進あるのみ! 有象無象のスクールアイドルなぞ、この帝王の前に跪くしかないのだ!」
「そ、その無根拠な自信はどこから出てくるんですか……」
しかし、このサウザーの言葉に心打たれる少女が二人いた。穂乃果とことりである。
「海未ちゃん、私、やっぱり諦められない。私、可能性に賭けてみたい」
「穂乃果……」
「私も穂乃果ちゃんと同じ。このまま何もしないで卒業なんて、私やだよ……」
「ことり……」
「フハハハハハハハハハ―ッ!」
「サウザー……」
海未の瞳が揺れる。彼女だってこの学校が廃校になるのは嫌なのだ。しかし、彼女は冷静な判断を最もとする。穂乃果やサウザーの思いつきに同調するなんて、友としてもあってはならない。自分が、冷静にならなければ……。
海未が沸き上がる感情を押さえ込もうとする。その時、ことりの瞳が大きく潤んだ。
「海未ちゃん……」
「!?」
海未に動揺が走る。彼女はことりの『アレ』が来ることを察したのだ。
ことりは、全霊の思いを込めて海未に懇願した。
「海未ちゃん……お願ぁいッ!」
次の瞬間、ことりの甘ったるい声音と子犬のように潤んだ瞳から発せられるいじらしさのオーラが海の身体を貫いた。
「ぐふっ!」
ことりの『お願い』……またの名を『
だが、海未は持ちこたえた。
「し、しかし……! 軽率な、行動は……!」
「海未ちゃんお願ぁい!」
「ぬふしっ!」
海未は崩れ落ちた。流石に二度は無理だった。
彼女はしばし床の上で悶えた後、息も絶え絶えな様子で身を起こした。
「い、良いでしょう……私も、協力、します……」
「海未ちゅあんありがとう!」
ことりが涙ぐみながら海未に駆け寄る。海未も(死にそうながらも)笑いながら、
「い、いえ、構いませんよ……。そのかわり……穂乃果も……サウザーも……生半可な気構えで臨んだら、容赦しませんからね……」
「うん! 分かってる!」
「フフン、聖帝に不可能は無い」
「そう……ですか……」
そう言うと、海未はことりの腕の中で力尽きた。
かくして、一つのスクールアイドル伝説が幕を開けた!
持ち歌どころか、グループ名すら決まっていない現状!
しかし、四人の心には大いなる希望と野心があった!
果たして、彼らはこの学校の救世主になりうるのだろうか!?
つづく
我ながらなんでこんなの書いてるんだろう。