闇の書の闇が召喚した
なのはとフェイト、二人の忠告によって無事にそれを回避した皆であったが、その後は中々攻めあぐねていた。作戦通りに動こうとする度に、黒いアルトリアが闇の書の闇の上を飛ぶように動き回り、極光の斬撃でもって、的確に邪魔をしてくるからだ。
暴走しているとはいえ「自動防衛システム」である闇の書の闇は、暴走しているが故の不規則性はあるものの、その動きはそこまで予測出来ないものではない。
だが、そこにアルトリア──闇の書の闇とは別の思考ルーチンを持つ存在が加わると、途端に攻めづらさが増していた。
今はまだユーノ達の足止めが効いているから良いが、これが破られる前に勝負を賭けねばいけない。
一度闇の書の闇から距離を取り、比較的大きな岩場へと着地したフェイトが、せめてなのは達が攻撃に移る隙を作らないとと思った、その時だった。フェイトの目の前に、球状魔法陣が突如出現した。
先程遠目に見たものと言うよりは、普段自分が召喚された後、なのはを呼び出すときに目にするものと同じような雰囲気のもの。
「これって……」と呟いたところで、フェイトちゃん、と呼びながらなのはとはやてが向かってくるのが見えるが、彼女達が到着するよりも先に、目の前の球状魔法陣がカシャンと割れて──
「……あっ! やっぱり葉月……大丈夫……?」
出てきた直後にフラリと体勢を崩した、良く見知った人物を咄嗟に抱きかかえて支えるフェイト。
荒い息を吐きつつも意識はあるようで、様子から察するに、体力か魔力の減衰が原因かなと当たりをつけ──抱きかかえたうえで様子を見るために顔を覗き込んだため、至近距離で目が合った。
──待っているんでしょう? 優しい人達に、大切な友達。それに……
不意に、“夢”の中でアリシアに掛けられた言葉が脳裏を過ぎり、一瞬で顔が熱くなって──
「フェイトちゃん! ……って、葉月さん!?」
「ひゃう!?」
後ろからなのはに声を掛けられ、思わず変な声が漏れた。
◇◆◇
アルトリアが『
どこか慌てたように「も、もしかして魔力不足?」と問いかけてきたフェイトに、「ちょっと急激に消耗した」と頷いて答えると、
「なのは、良い?」
「うん、もちろん」
すぐ側に居たらしいなのはに声を掛けてから、フェイトはそのまま、なのはは俺の手を取り、それぞれが少しずつ、『ディバイドエナジー』で魔力を譲渡してくれた。
「あまり沢山は無理だけど……ごめんね」と言うフェイト。その言葉で、彼女達の
暗い空。荒れた海。海上に突き出た幾つもの岩塊と、遠くに見える異形と、その上に立つ──
「……闇の書の闇……それに、あれは──アルトリア……? いや、
それを見て、直前に聞こえた“声”を思い出す。
あの声は「この機を逃すわけには」って言っていた。「この機」ってのはおそらく、
アレが現れたことで、俺と“この世界”との繋がりが強まって……俺をこの世界に連れてくる機会が生まれた……ってところか。俺がここに来ることに意味があるのかどうかは分からないけれど。
「あの黒い人のこと、解るんですか?」
黒いアルトリアの姿に思考に沈んでいたところに声を掛けられ、引き戻される。
独特のイントネーションの声に振り返ると、そこに居たのは──
「あ、私、八神はやて言います。今回の騒動の原因……って言ったらええんやろか?」
「──我が主。此度のことは、我等が独断で動いたことですから」
彼女のすぐ側にホログラムのような小さな人物が現れ、その言葉を否定する。
……夜天の主、八神はやてとその管制融合機、リインフォース、か。
「俺は、長月葉月。フェイトやなのはにはいつもお世話になっていて……って、俺達の関係ってなんて言えばいいんだろうな?」
半分フェイト達に向けた疑問のような自己紹介をはやて達に返し、先程の質問に「あの黒いののことは解るよ」と答える。
「アレは間違いなく、『俺の能力』で喚び出されたものだろうしな」
その一言で、俺が“蒐集”された側だと解ったのだろう、はやての表情が曇り、何かを言おうと口を開いたところで手で制す。
「事情は大体把握してるから、大丈夫」と言うと、どこか困ったような表情を浮かべたはやて。
「ともあれ、アレが出てきたのは俺が原因だしな。俺が引き受ける。恐らくだけど、アレのせいで攻めあぐねてるんだろ?」
闇の書の闇の方で展開されている状況を見て問いかければ、フェイトは「そうなんだけど……」と言葉を詰まらせながらも頷いた。
「けど……葉月は
「ああ、まだ決着したわけじゃ無いけど、一番厄介そうなのは倒したはずだから」
実際のところ、ダンガ・ルヘイアを倒した時点でアルトリアや咲夜の召喚時間もそれほど残っていなかったし、俺一人分なら居ても居なくてもあの状況なら変わらないだろう。
「まぁ、何とかするさ」
それでもやっぱり心配してくれているのだろう、「本当に大丈夫?」と問いかけてくるフェイトにそう答える。アレが俺のスキルが原因で出てきた以上、アレをどうにかするのは俺の役目だろう。
と言っても、多分倒すのは難しいだろうから、闇の書の闇から引き離している間に、あちらを片付けて貰いたい。恐らく召喚主である闇の書の闇を倒せば、自然とアレも消えるだろうから。
そう伝えたところ、フェイトとなのは、それにはやてが異口同音に「任せて」と頷いた。
……さて、それじゃあやりますか。
意識を一度【ユニークスキル】へと向けるが、やはりディレイの時間も何も感じることは出来ない。恐らくはここが“あの世界”ではないから、あの世界の理に準じた“システム”は機能していないのだろう。だからこそ、ステータスウィンドウもディレイ時間も表示されることはない。
けれど、闇の書の闇が俺の“召喚スキル”を使用したように、『俺自身が身につけたスキル』自体は使用できるのではないか。
そして俺が今『この世界』に居るために、『俺が身につけたスキル』は、“この世界の理”に従って行使されるのでは。すなわち……ディレイなんて“システム”は無視してしまえってことだ──!
目を閉じて、己の“内”に意識を埋没させ、集中する。
探るのは“繋がり”。「アルトリア」が俺に括られており、闇の書の闇が俺から蒐集したスキルをもって
で、あるのなら──
「……見つけた。いくぞ……『
右手を伸ばし、見つけて掴んだ“繋がり”を辿り、引き寄せる──!
放った『力ある言葉』に応じて、俺の眼前に明滅する球状魔法陣が顕現する。それと同時に、遠目に見える闇の書の闇の上に立つ
このまま一気に……!
そう思ったところで、闇の書の闇が咆哮を上げ、次の瞬間、こちらの球状魔法陣の輝きが弱まり、逆にあちらのものの輝きが強まったのが見えた。
己の内から魔力を絞り出し、送り込んで【スキル】を行使する力を強めていくが、逆に
……冗談、負けてられるか!
「──来い……! アルトリアァァアアアアア!!」
叫んだ声に令呪の一画が弾けるように光を失い、それと共に莫大な魔力が放出される。
それを纏め、束ねてスキルへと注ぎ込むと、俺の眼前の球状魔法陣が強烈に輝き、同時にそのサイズが膨れ上がった直後、ガシャンと、硝子が割れるように砕け散り──
「──■■■■■■■■■!!!!!」
「──ハアアアアアアッ!!!」
顕現した姿は
現れた直後に互いの姿を認め合い、瞬時に黒き騎士王が発した咆哮と、白き騎士姫が発した裂帛の気合がぶつかり合い、同時に振るわれた互いの刃が轟音を立てて弾き合った。
「アルトリア!」と掛けた声に「心得ています!」と、全て把握しているとばかりに返してきたアルトリアは、そのまま
◇◆◇
葉月が宣言通りに黒いアルトリアを引き受けたのを切っ掛けに──その際にもう一人、フェイトとなのはにとっては馴染みのあるアルトリアを召喚したことに驚きつつも──なのは達は闇の書の闇を倒すべく動き出した。
先手を取ったのはなのはとヴィータ。
「おい、アイツ本当に大丈夫なんだろうな!?」
先行するヴィータが、なのはに問いかける。
彼女が言う「アイツ」とは葉月のことだろう。
今日は「向こう」でも第三層の決戦で、いままで戦い通しで、見るからに酷く消耗していて……それでも、「自分が引き受ける」というその言葉の通り、敵が召喚した影のようなアルトリアを逆に召喚仕返すなんて方法で、本当に引き離してくれた。
ならば、自分達が葉月のためにできることは、「何とかする」と言った彼を信じて、一刻も早く闇の書の闇を倒すことだ。
そう改めて強く思ったなのはは、ヴィータに対して「うんっ!」と力強く頷いて返す。
そんななのはの姿にヴィータは、ならば自分がとやかく言うまでもないとばかりに速度を上げた。
「一気に行くぞ! 合わせろよ……高町なのは」
躊躇いながらも照れたようになのはの名前を呼んだヴィータに、なのはは嬉しそうに頷いて。
前方でヴィータが己の相棒であるグラーフアイゼンの姿を、大きなハンマー型のギガントフォルムへと変えたのを見ながら、なのはもまた自身の周囲へ複数の魔力弾を生成する。
「アクセルシューター・バニシングシフト!」
《Lock on》
「……シュートッ!」
レイジングハートによって誘導補正を受けた合計十二発の魔力弾は、闇の書の闇の上空へと飛行するヴィータを守るように、彼女を狙う砲撃触手を的確に打ち抜き、なのははその後もヴィータに向けて放たれた砲撃を速射砲で迎撃し、相殺する。
なのはは仕事を果たした。ならば今度は自分の番だ。
「轟天爆砕っ! ……ギガントシュラァァク!!」
二発のカートリッジがロードされ、振り上げられたハンマーヘッドが数倍……否、十数倍になろうかというほどに巨大化し、ヴィータはそれを眼下の闇の書の闇へと叩き付けた。
大質量による攻撃は、一撃で闇の書の闇が纏うバリアーの一層を破壊せしめた。
そして、なのはとヴィータに続き、フェイトとシグナムが攻撃に移る。
「行くぞ、テスタロッサ」
「はい、シグナム」
短いやり取りの後に、先ずはフェイトがザンバー形態のバルディッシュを振りかぶり──一閃。
放つのは、ザンバーによる斬撃を衝撃波として飛ばす『ブレードインパルス』。
それにより再生した砲撃触手を一気に切断し、シグナムが攻撃するための空白を作る。
《Bogen form》
シグナムが己の持つアームドデバイス、レヴァンティンの剣身と鞘を上下に連結させ、洋弓を思わせる形状の弓と化す。
その間にフェイトは、闇の書の闇を飛び越すように、シグナムの反対側へと飛び、その際にチラリと彼方を見れば、セイバー・オルタと激しい応酬を結ぶ、葉月とアルトリアの姿。
──葉月も、頑張ってる。だから、私も!
着水する間際に展開した魔法陣の上に立ち、バルディッシュを振りかぶるフェイト。
一方のシグナムもまた、時を同じくして弓と化したレヴァンティンに張られた魔力の弦を引き絞り、そこに刀身と同じ性質を持つ矢が生成される。
「駆けよ、隼!」
《Sturmfalken》
「貫け、雷神!」
《Jet ZAMBER》
撃ち放たれたシグナムの炎矢が、闇の書の闇が纏う積層防御を抜いて突き刺さり、炸裂し、同時に振りおろされたフェイトの刃が、ユーノが使用し、これまで頑なに闇の書の闇の移動を封じていたケイジングサークルごと、その胴体を両断した。
◇◆◇
「■■■■■■──!!」
咆哮と共に繰り出される激しい剣戟が、アルトリアを襲う。
対するアルトリアはそれを的確に捌きながらも攻勢に出られずにいた。
敵がバーサーク状態で攻撃が苛烈だってのもあるが、一番の原因は、相手は闇の書の闇から供給される無尽蔵の魔力があるのに対し、アルトリアの方は支えとなるべき俺に余力がほとんど無いことか。
だからと言って、黙ってみている訳にはいかないんだよ……とっ!
相手が剣を振るう瞬間や移動する瞬間に、腕や足にバインドを仕掛けて動きを鈍らせる。
『セイバー』の高い魔力抵抗やら何やらで簡単に破られるが、それでも一瞬一瞬に、ほんの僅かな隙を作ることはできる。
そしてそれを突いてアルトリアが攻勢に転じ、守勢一方から打ち合いへと情勢を転じさせる。
「■■■■■──!!」
「ハァッ!!」
振るわれた剣がぶつかり合い、轟音を立てて互いの剣を弾き合う。
その瞬間にセイバー・オルタの背後に回った俺は、ヘビーブレイカーを思い切り振り抜く……が、アルトリアに剣を弾かれた勢いそのままに、ぐるりと身体を反転させたセイバー・オルタに迎撃された。
とは言え大質量のヘビーブレイカーを一方的に弾くには体勢が悪かったか、先程のアルトリアとの焼き直しのように、俺の剣とセイバー・オルタの剣は互いに弾かれる。
大剣よりも取り回しの良い長剣な上に自力の差もあってか、俺よりも早く体勢を整えたセイバー・オルタが横凪の斬撃を放ってくる。
俺はそれを、崩れた体勢ながら跳躍して躱し、そのままセイバー・オルタの
対して振り向きざまにセイバー・オルタが放った攻撃は、アルトリアが受け止めた。
そして再び二人の間で繰り広げられる応酬。
俺はアルトリアの
その時、遠くから響く轟音と、続いて紡がれる詠唱が聞こえてきた。……いや、轟音爆音はもう幾度も聞こえてきていたけれど。
──彼方より来たれ、ヤドリギの枝
──銀月の槍となりて打ち貫け
──石化の槍、ミストルティン!!
……今のははやての攻撃か。向こうも大詰めだな。
このまま持ちこたえれば……そう思った時だった。闇の書の闇の咆哮が響き渡ると共に、目の前のセイバー・オルタの全身を球状魔法陣が包み込むと、一瞬でその姿をかき消した。
……このタイミングで! 魔力にものを言わせて一気にもって行きやがった!
「アルトリア!」
「はい! 向かいます!」
俺の意を汲み、アルトリアが足場にしていた岩塊を踏み砕く勢いで、魔力放出を使って駆け出した。
アルトリアは海の上を沈むことなく、凄まじい速度で疾走し、俺もその後を追った。
◇◆◇
「──凍てつけ!」
《Eternal Coffin》
クロノが切り札と言うべき氷結魔法を撃ち放ったのと、ミストルティンから再生しだした闇の書の闇の上に再び球状魔法陣が生成され、そこからセイバー・オルタが現れたのはほぼ同時だった。
「■■■■■■■■■──!!!」
迫り来る氷結の砲撃へ抗するように、セイバー・オルタが漆黒に染まった極光の斬撃を撃ち放つ。
それは闇の書の闇へと直撃する寸前のエターナルコフィンへとぶつかり、勢いが拮抗し──徐々に押され出した。
──押し負ける……!
そうクロノが思った時、エターナルコフィンと極光の斬撃の衝突点へと突っ込んでいく人影──アルトリアを見つけ、同時に「もう少しだけ堪えろ!」という声を聞いた。
なんて無茶を、と思うが、そうまで言うなら堪えてやろうと、クロノは魔力を絞り出すように注ぎ込んでいく。
一方でアルトリアは──その全身に、エターナルコフィンとエクスカリバー・モルガンの余波を受けながら、己の内にある
そして、衝突点──打倒すべき
(──ハヅキ!)
「全部くれてやる! もってけええええ!」
念話を飛ばすのと同時、アルトリアがやらんとすることは解っているとばかりに、ほぼタイムラグ無しに莫大な量の魔力が──残る令呪の一画と、葉月自身の魔力が流れ込んで来た。
それを受けながら、アルトリアは魔法と斬撃の奔流のただ中へと飛び込み──
「──
展開されたのは、使用者の存在を「別の世界」とも言うべき位相へと移し、あらゆる干渉を遮断する、『アルトリア』が所持する絶対の防御力を持つ宝具──聖剣の鞘。
アルトリアはそのまま魔力の奔流の中を突っ切り、セイバー・オルタの元へと辿り付き──
「終わりです、還りなさい! ──
残る魔力を全て使用し──無論、自身が存在するのに必要な分は残しているが──至近距離からセイバー・オルタへと叩き込んだ。
その直後、拮抗の崩れたエターナルコフィンが闇の書の闇へと直撃。一方でアルトリアは──吹き荒れる氷結の嵐の中、その全身を球状魔法陣が囲んでいた。
アルトリアが葉月の方を見れば、彼の全身もまた、球状魔法陣に包まれている。
──原因を排除したからか、もしくは長時間の激戦に連戦で、流石に限界でしたか。
そう苦笑を浮かべたところで、アルトリアの姿が魔法陣と共に消えていく。
そして葉月もまた。
上空で魔法を使おうとしているなのはとフェイト、はやての三人へと「これで最後だ。頑張れよ」と念話を送り──今彼が居るべき……戦うべき世界へと、還っていった。
※※【ユニークスキル】の情報が更新されました!※※
『絆を結ぶ程度の能力』
:一定以上の“繋がり”を持つ他者と“絆”を結ぶことができる能力。
・『キャラクター召喚』により召喚された被召喚者とは、無条件で“絆”が結ばれる。
・“絆”を結んだ相手の能力を強化する。
・“絆”を結んだ相手と念話をすることができる。
・1日に1度、“絆”を結んだ相手の直近へと転移することができる。
・unknown
お待たせいたしました。
・映画公開前に更新したかったんですけど、出来ませんでしたごめんなさい。
あ、Reflectionは行きました。
なのはさんマジ主人公。やはりフェイトちゃんは可愛い。
それにしても来場者特典、週替わりならせめてキャラランダムは止めて欲しかった……1週目はフェイトちゃん貰えませんでした。平日は行けないんだよなぁ……と言う訳で残念。
と、語り出したら(ネタバレ的な意味でも)止まらなくなりそうなので、この辺で。
・話の中で特に詳しく出ていないですが、このセイバー・オルタは、セイバーをベースにバーサーカーをオーバーライドされたような状態です。なのでセリフは■ばかり。葉月に括られたアルトリアの、破壊衝動だとかそのへんの悪い部分を召喚されたような感じでしょうか。
・拙作のアルトリアさんは、原作名にもあるように『Fate/unlimited codes』からの出典です。なのでアヴァロン持ち。作中設定的には彼女の登場回辺りをご参照ください。
・第三層ももう終わりますので、第三層が終わったら一度簡単なキャラ紹介やら登場済みスキルリストやらの(備忘録的な)ものを更新したいと思ってます。本編更新じゃなくてごめんなさいになりますが、よしなに。