フェイトが落ち着いたところで、どこからどこまで把握しているのかを改めて訊いてみた。
先程のフェイトの取り乱しようや、嗚咽混じりに聞こえた「私のせいで」って言葉からするに、俺が現れた上で戦って負けた事は解っているのだろう……と思ったら案の定だった。
尤も、フェイト自身意識が朦朧としていた状態だったようで、覚えているのは途切れ途切れな上、俺が居たことを確信したのは、リンディ提督と話をしてようやくと言ったところだそうだが。
「リンディ提督からは、葉月が残した伝言は聞いたんだけど……その前に葉月がボロボロになった姿も見えてたし、覚えていたから……こうやって喚んでくれるまで全然安心できなくて……」
そう言っているうちに、再び雰囲気が暗くなりそうになったフェイトは、すぐに「そうだ」と空気を変えるように声を上げる。
「なのはも喚んであげて欲しいな。なのはは葉月の姿を直接見たわけじゃないけど、凄く心配しているから」
まぁ、俺としてもそれに否が有るはずも無く「それじゃ、早速」とフェイトの手を取って『
やはり少しだけ不安は有ったものの、無事に伸ばした手の先に現れる球状魔法陣。体内から魔力がごっそりと減った……なんてことも無く、やはり【ユニークスキル】は『リンカーコア』の影響下に有るものではないのだろう。
と、直ぐに魔法陣はカシャンと砕けて消えて、それと共に現れた、フェイトと同じく聖祥小学校の制服を着たなのは。
彼女は一瞬状況が飲み込めなかったのか、キョトンとした表情で周りを見て、俺達のところで視線が固定されて──
「……は、葉月さん!?」
と、驚いた声を上げつつも駆け寄って来て、飛びつくように俺の無事を確かめて来た。
…
……
…
さて、台詞その他は違いながらも、さながら先程のフェイトの焼き直しのような感じのなのはが落ち着いたところで、次に移る。すなわち、互いの現状報告だ。
……とは言え、自分の状態から鑑みれば、二人が今どんな状態なのかも容易に察しが付くわけで……。
「私達は、身体の方は全然問題ないよ。ただ、魔法はさっぱり、かな」
彼女達を診察した医者──もちろん、地球ではなく管理局側の、だ──が言うには、やはりリンカーコアが衰弱し、魔力を練れなくなっているとのこと。とは言え、そのリンカーコアが回復してしまえば、また前と同じく使えるようになるので大丈夫、と診断を受けたとか。
次いでなのはが「わたし達はこんな感じだけど、葉月さんは?」と訊いてきた。
「俺の方は……リンカーコア自体は衰弱しているようだけど、全くのゼロって訳じゃない感じ。流石に飛んだりは出来なさそうだけれど。逆に身体の方は……もう数日様子見、かな」
それに自分の身体や魔力の調子を改めて確かめながら答えると、二人はそろって「そっか」と少し沈んだ様子を見せ……気を取り直したように、「本当に、瑞希さんのお蔭だね」とニコリと笑みを浮かべて言った。
それまでぼんやりと俺達のやり取りを見ていた瑞希は、突然言葉を振られたことに驚いたのか目をしばたたかせて、直ぐに二人と同じようにクスッと笑う。
「気にしないで、お礼はもう何度も言って貰ったから。それより、ここで聞いちゃってるけど良かった?」
「それこそ気にしなくて良いよ。別に聞かれて困るようなことでもないし……ってか、悪いな瑞希が居るのにこんな話しちゃって」
俺達の現状の戦力に繋がるような内容だからだろう、身体の状態なんかの話を聞いてしまったことに、ばつの悪そうな表情を浮かべた瑞希だったけれど、彼女が居るのにこんな話をしてしまったのは俺達の方だ。
それを言うと、彼女はううんと頭を振る。
「大丈夫。打ち合わせは大事」
そう言ってくれた瑞希に「ありがとう」と返し──ここで変に気を使って、話を打ち切る状況でもないなと、お言葉に甘えて続けさせてもらうことにする。
「それじゃあ、これからの事なんだけど……」
「うん」
「とりあえず数日は身体を休めて、その後は魔力が戻るまでは、基礎訓練を中心に、無理しない範囲で迷宮に入って実戦……って考えてる」
現状で思いつく今後の予定を告げた後、「迷宮に入って」と言ったところで若干不安そうな表情を浮かべたフェイトを「大丈夫」と宥め、
「今回のことで、実力不足を改めて思い知ったよ。だから今のうちに、出来る範囲で自力を上げておきたいんだ。もちろん一朝一夕には無理なのは解っているから、焦って無茶はしないように気をつけて、ね」
俺の言葉を聞いた二人は、顔を見合わせて一度頷きあうと「わたし達も、同じ事考えたんです」となのはが言う。
「もう一度あの人達に会った時に、今度はちゃんと話を聞いてもらえるように……大切な人を、ちゃんと守れるように、強くなろうって」
「だからね、葉月。基礎訓練とか、できるだけでいいから、私達も一緒にやれないかな?」
その目に強い決意の光を湛えて言ったなのはに続き、フェイトが「ダメかな?」とお願いしてきた……俺が返す言葉は一つしかないわけで。
「もちろん、反対する理由なんてないよ。強くなろう、一緒に」
結局のところ、今の俺達に出来ることは、一歩ずつ進んで行くことしかないのだ。
……と、そういったことを決めたところで、病み上がりで起きた直後にフェイト達を召喚して、話をしていたからだろうか、若干の疲労感を感じて、ふぅと一つ息を吐く。
「葉月、疲れた?」
「少しだけ。でも──」
目敏く気付いたフェイトに問われ「まだ大丈夫」と言おうとしたところで、なのはに「ダメッ」と遮られた。
「病み上がりなんだから、ちゃんと休んでください」
真剣な目でそんな風に言われ、フェイトと瑞希にも「そうだね」と異口同音に同意され……まぁ、それもそうか。今はしっかり休んで、早く調子を戻すべきだな。そう思い直して、お言葉に甘えて休ませて貰うことにした。
ちなみに、瑞希は戻らなくて良いのかと訊いたところ、心配なので、念のため明日俺が起きるまではここに居る、と返ってきた。
……ご心配とご迷惑をおかけいたします。いや、ほんとに。
◇◆◇
その日の彼女。
朝は少々落ち着き無く。けれども大まかにはいつも通りに。
昼を過ぎた頃には、どこかそわそわした感じで。何かを待っているかのように。
夕方が近くなった頃。少々イライラした感じが強く。どうにも不機嫌な様子。
夜も更けた頃になると、今度は不安気な様子で。何か思うことがあるのだろうか、小さくないため息が多く出て。
「……咲夜、貴女少し落ち着きなさい」
「っ……別に、私はいつも通りですよ、お嬢様」
少々呆れた様子で声を掛けてきたレミリアに、彼女──十六夜咲夜は一瞬言葉を詰まらせながらも、努めて平静に答え──「嘘」と一刀両断にされた。
「“彼”が喚べる人数の順番からすれば、今日は自分のはずなのに──」
一瞬ビクリと肩が震える。
「いつまで経っても記憶が流れてくる気配もなくて──」
何かを言おうと口を開くも言葉が出ずに。
「私の事を忘れているのか、それともたった一度で
彼女にしては珍しく、むぅっと不満そうな表情を若干滲ませた。
一方のレミリアはクツクツと愉しそうな笑みを浮かべている。
普段“弄る側”である咲夜を──自分が弄られているという訳ではなくとも──弄ってからかう、と言うのもまた面白いものらしい。
「ま、安心なさい。貴女の
「……それ、安心して良いことなんですかね?」
「良いじゃない。“彼”との縁が切れていない証拠よ?」
「それにしても、思った以上に“彼”のことを気に入っているのね?」とやはり愉しげに笑うレミリアに、咲夜は「参りました」と嘆息した。