深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase74:「草原」

 さて、咲夜さん……咲夜に協力してくれるとの言葉を貰って、一安心だ。

 こう言っては何だけど、正直彼女が紅魔館やレミリア以外のことで動くなんて思っていなくて、もっと揉めるか、最悪無理だと思っていたから。

 どうして手伝ってくれる気になったのかとか、いつか聞いて見たい気もするけれど、今は感謝の念を送っておこう。

 その後はフェイト達と同じように、他の『プレイヤー』と出会った時に起こり得る“トラブル”に関してと、なぜそれが起こるかもしれないのか……その原因について話した。

 すなわち、俺の世界では『幻想郷』に関することが『創作物』になっていること。そのため、彼女を“知っている”人が失礼な態度で接してくる可能性があること。ついでに言うと、その場合もとりあえず我慢してくれると助かる……と言うことだ。

 

「流石に人間相手にいきなりナイフを刺したりしませんよ?」

「いや、それなら良いんだ」

「突き付けるぐらいはしますが」

 

 「それぐらい良いですよね?」と言ってくる彼女へ「お手柔らかに」と苦笑いで答える俺。彼女と一緒の時に、失礼な人が出ないことを祈るのみだ。

 

「ところで、葉月さんはどこまで“私達のこと”をご存じなんですか?」

「それは……『紅魔館』のこと? それとも『幻想郷』のこと?」

 

 たぶん、今の話の真偽を確認するためもあるのだろうと思いつつ問い返すと、「……では『紅魔館』で」と返ってきた。

 それを受けて、俺は一度目を瞑り、もう随分と昔のことのように感じてしまう“日常”で得た知識を思い出して──

 

「『紅魔館』……『霧の湖』の畔に建つ、紅い館。住人は、主である吸血鬼の『レミリア・スカーレット』。その妹の『フランドール・スカーレット』。レミリアの友人で、図書館の主『パチュリー・ノーレッジ』と、使い魔の小悪魔。門番の『紅 美鈴《ホン メイリン》』。そしてメイド長である咲夜……で合ってるかな?」

 

 当然のことながら、ここに来てからは一切サブカルチャー的な物に触れていないのだけれど、案外覚えているもんだなと思いつつも挙げた一連の名前を聞いて、一瞬驚いた様子を見せてから、「合っています」と頷く咲夜。

 「本当にご存じなんですね」と言う彼女だったけど、思ったよりも驚いていないような雰囲気が気になった。

 

「いえ、驚いてはいますが……取り敢えず、稗田(ひえだ)の『幻想郷縁起』が外に流れた……とでも思っておけばいいかな、と」

「『幻想郷縁起』って言うと……稗田一族が幻想郷の住人や場所に関して記した資料……だっけ?」

 

 確認すると、「そんな感じですね」と頷く咲夜。どうやら自分で納得できる理由を作って飲み込んでくれたらしい。

 それじゃあ後は、互いに“出来ること”の確認か。

 先ずは俺からと、『ミッドチルダ魔法』や『令呪』と言った、自分のスキルやそれらを使った戦法を説明すると、咲夜は「なるほど……」と呟きつつ、それらを吟味するようにしばし考え込んでいた。

 

「そう言えば、私達のことを知っていると言うことは、私の『能力』に関してもご存じなんですよね?」

「『時間を操る程度の能力』……だよね?」

 

 俺の答えに、咲夜は「正解です」と頷いた。

 

「私の戦闘スタイルは、基本的に敵に近づいて斬り合いをするようなものじゃ無いんですよね」

「うん。だから咲夜と一緒の時は俺が前衛に立って、咲夜には援護して貰おうかなと思ってるんだけど、どうかな?」

「はい、それで問題ありません」

 

 流石に咲夜を前に立たせる訳にいかないしなと思いつつ提案すると、彼女の方も同じように思っていたのだろうか、すぐに同意の答えが返ってきた。

 さて次は……と思ったところで、咲夜の方から「それも踏まえてですが、一つお願いが」と切り出してくる。

 

「何かな?」

「出来ればこの召還中に、軽くで良いので『迷宮』の様子を見てみたいのですが」

「それは全然構わないけど……どうして急に?」

「お嬢様が暇を持て余していまして」

 

 「土産話を期待しているんです」と続ける咲夜。なるほど納得である。確かにこんな体験は滅多に無いだろうし、土産話としては適してる……のかな? まぁ、暇つぶしぐらいにはなるんだろう。

 ともかく今言ったように、俺としては全然問題は無い。「じゃあ今から行こうか?」と提案すると、彼女は「はい、ありがとうございます」と頷いた。

 それじゃあと、咲夜を伴って出入り口の扉の前に立ち、さてどこに行こうか……と思ったところで、行き先に『第三層・草原エリア』が増えていることに気付く。

 ……そう言えば、昨日帰ってきてから確認していなかった。第二層をクリアしたんだから、増えているのは当然だよな。失敗した。

 

「どうかしましたか?」

 

 扉の前で止まってしまったからだろう、声を掛けてきた咲夜に「どこに行こうかと思って」と返し、昨日『第二層』をクリアしたので、『第三層』が増えていたことに気付いたことを説明する。

 

「では、今からそこへ?」

「……そうだな……じゃあ、様子見がてら行ってみようか。俺も初めて行く場所だから、慎重にね」

「解りました」

 

 咲夜の了承を受けて、扉に表示された文字のうち、『第三層・草原エリア』に触れる。

 次いで扉を開き、その先にある転移陣の前に立ったところで、アルトリアに「行ってきます」と声を掛けたところで、咲夜の困惑気味な表情が目に入った。

 そう言えば、彼女を召還するに至った経緯を説明した際、フェイトやなのは、アルトリアと言った、他に助けてくれる人のことは軽く話したけれど、“アルトリアの状態”に関しては説明していなかった。

 「実は……」とアルトリアが俺に括られ、召還していない間はこの部屋にいるのだと言うと、なるほどと頷く咲夜。

 改めて、今度は咲夜と一緒に「行ってきます」と声を掛けて、転移陣に乗る。

 すぐに陣が起動して転移する直前、アルトリアの「行ってらっしゃい。くれぐれも気をつけてくださいね」と言う念話が聞こえた。

 次いで、一瞬の暗転の後に切り替わる視界。

 俺達が転移して来たのは、さほど広くはない石造りの部屋の中心に描かれた転移陣の上だった。

 左右と後ろは壁に囲まれ、唯一開いた前方には五十メートル程だろうか、通路が延びており、その先には外のものだと思わしき光が差し込んでいる。

 とりあえず他に目指す場所がある訳でもないので、その出口らしき方へと「じゃあ行こうか」と咲夜を促して進む。

 

「そう言えば、ここに来る直前に、頭の中に“声”が聞こえたんですけど、あれって……」

 

 通路を半分程行ったところで、咲夜にそんなことを言われた。……多分アルトリアの念話かな。

 「行ってらっしゃい」ってやつ? と訊くと「そうです」と首肯する。

 

「『念話』だよ。声じゃなくて、頭……心で会話する魔法。俺と、俺が召還する人の間には、パスって言えばいいのかな。特別な“繋がり”が出来るみたいで……多分、それを通じて咲夜にもアルトリアの声が聞こえたんだと思う」

 

 そう説明し、実際に「聞こえるかな?」と念話を送ってみると、一瞬目を見開いた後にコクコクと頷く咲夜。

 「喋っていないのに声が聞こえるのって、不思議な感覚ですね」との彼女の感想に、改めてそう言われるとそうだなと、いつのまにか念話にもすっかりと慣れてしまっていることに苦笑した。

 通路を抜けて出口をくぐると、目の前に雄大な草原が広がる。

 振り返って今し方出てきた石室を見れば、どうやら神殿のような外見の建物だったようだ。ギリシャとかに有りそうなやつ、と言えばしっくりくるだろうか。

 なんとなく、見た目と中の雰囲気が合っていないなぁなんて思いつつ、改めて周囲の様子を見る。

 広がる光景は、階層の名の通り大草原。

 そして右手側の方向、然程離れていない所を、大きな川が前方へと流れている。こちらが上流で、神殿の出口から見て前方が下流だ。

 ここから見える川の向こう岸にも草原が広がっていることから、第三層はこの川で縦に二分されているんじゃないだろうか。

 そんな予想を述べつつ、ひとまずはこの川に沿って進んでみようかと提案すると、咲夜も異論は無いようで「そうですね。帰りも分かり易いですし」と同意した。

 

 

◇◆◇

 

 

 余り近づきすぎない程度に距離を取りつつ、川に沿って進む。

 近づきすぎないようにしているのは、川の中から敵が出てくる可能性を考慮してだ。……無いとは言えないのが怖いところ。第一層の六階でも、水棲モンスターが出た訳だし。

 ともあれ、そうして進むこと10分ぐらいだろうか。進行方向の先に、複数の人影らしきものを見つけた。

 咲夜にアレと示すと、彼女も気付いていたようで「判別し辛いですけど、五人ぐらいでしょうか」と報告してくれる。

 言われてじっくりと観察すると、確かに人影らしきものは五つほど見える。

 五人というと、『プレイヤー』が組めるパーティの最大人数なわけだけど……果たしてアレはどうだろうな。

 

「取りあえず近づいてみようか。……まだ敵か味方かも解らないから……」

「慎重に、ですね」

 

 俺の言葉に続けて発せられた咲夜の言葉に頷いて……とは言え見晴らしの良い草原であるため隠れる場所も無いので、警戒しつつゆっくりとと言った程度だけれど、人影達へと向かって行く。

 ある程度近づいたところで、どうやら向こうもこちらを認識したのだろう、足音を響かせて駆け寄ってくるのが見える。

 そのため彼我の距離は見る見ると縮まり、その姿が判別出来るようになった。

 レザー系と思わしき、焦げ茶色の胴鎧や胸当てで身を守る、どちらかと言うと横に拡がり気味な、大柄な体躯。

 保護色だろうか、草原に溶け込むような緑色の肌をしたソレ等は、手にした武器を振り上げて、高らかに吠えた。

 

「ブルァァァアアアア!!」

「……豚ですか」

 

 オークです。

 ……取り敢えず種類は違うだろうが、第二層で遭遇したオーク──フェヴァル・オークの特徴を簡単に伝える。すなわち、体格通りに力が強く、性格は獰猛。体躯を生かした強振による攻撃が多い、だ。

 その間に取り敢えず最前列のオークへ『アナライズ』を使い、ざっと眼を通して第二層のオークとの違いを見る。

 パッと見た感じでは違いは解らないけど、さてどうだろうか。

 

 

---

 

名前:アグリア・オーク・ソルジャー

カテゴリ:魔造生物(モンスター)/亜人

属性:風

耐性:無

弱点:火

「オークの部族のうち、アグリア大草原に生息する一族。広大なアグリア大平原に適応した結果、他のオーク部族よりも足が速い。また、同じアグリア大草原を縄張りとするグラス・リザードマンの一族と争い続けているため、組織戦に優れる」

 

---

 

 

 『アナライズ』で出現した半透明の情報ウィンドウを見た咲夜が「それは?」と問いかけてきたので、「情報を見る魔法だよ」と答えた……のだけど、正直第二層のオークとの違いが大して解らなかった。

 その旨を伝え、一応「他のオーク部族より足が速いらしい」とだけは伝える。

 

「……他のオーク部族を知らない私には、余り関係無いですね」

「ごもっとも」

 

 そんなやり取りをしている間もオーク達は吠え続けていたのだけれど、その内に業を煮やしたのか、向かって左端に居た一匹が武器を振り上げ、こちらに向けて駆けだしてきた。

 そいつが持っているのは、大柄なオークにしてみれば片手で扱うもののようだが、俺で有れば両手でようやく持ち上げられるであろう大きさの、片刃の斧。

 オークは真っ直ぐに、俺の左隣にいる咲夜へと突っ込んでくる。与し易しと見たのか、それともファンタジーのオークのお約束通りに、女性が好みなのか。

 

「見れば見るほど醜悪ね。……取り敢えず──」

 

 目の前に迫った巨漢が斧を振り上げても、ひどく冷静な咲夜の声が響き──次の瞬間、咲夜の姿が消えた。

 

「ブルァ!?」

「仕留めてしまっても良いですよね?」

 

 戸惑うオークの声に被さるように聞こえてきた彼女の言葉の出所は、巨漢のオークの頭部の、すぐ後ろ。

 次いで「ブゴァッ」と空気の詰まったようなオークの声が響き、そのまま前のめりに倒れるオーク。

 その首筋を見れば深々と切り裂かれ、魔力が金の粒子となって大気に溶けていた。

 ……なるほどと思いつつも、思わず喉が鳴る。

 

「その様子だと、私が何をしたかは解ってるみたいですね?」

「……時間を止めて背後に回って、飛び上がって首を切った」

 

 言葉にすればこれだけだけれど、それを事も無げにやってのける辺り、彼女の“能力”の強力さが良く解る。

 

「正解です。……怖くなりましたか?」

「まさか。凄いとか、頼もしいなとは思うけどね。……俺も頑張らないとな」

 

 笑みを浮かべて問いかけてくる咲夜に頭を振って答えると、彼女は一瞬驚いた様子を見せ、

 

「……時間を止められてる間に、私に何かされるとは考えないんですね」

「何かするの?」

「しませんけど」

 

 「だったら問題無いよ」と続ける俺に、彼女は少しだけ不満そうな表情を垣間見せつつ、「まぁ良いですが」と頷いた。

 

「……取り敢えず、アレも片付けちゃっていいですか?」

 

 そう言って見やるのは、残りの四匹のオーク。

 オーク達は先程の咲夜の瞬間移動めいた動きが解らず、警戒してるのかこちらに襲いかかろうとはしていない……けど逃げる気配もないし、意思疎通も無理っぽいし、咲夜はやる気だし……と言うわけで、「うん」と頷いたところ、彼女の横にふわりと短剣が浮かび上がった。彼女が持つナイフよりも刃渡りが長い、ショートソードのようなものだ。

 

「それは?」

「付喪神なんです、コレ」

 

 咲夜の声に応えるように、短剣は瞬時に加速してオーク達へと飛んで行くと、戸惑うオーク達の事情など知るものかと言わんばかりに、その顔や腹に次々と突き刺さると、その直後、オーク達の身体に突き刺さった短剣が爆発するように炸裂した。

 

「……何か分身してるし、爆発したんだけど」

「付喪神ですからね、それぐらいは」

 

 そしていつの間にか戻ってきていた短剣をしまうと、分身体同士で妖力を共鳴させて、炸裂させているみたいですよ、と説明する咲夜。

 

「勝手に戦ってくれるから、割と便利……って言うのは、博霊の巫女が言った台詞でしたか」

「……ああ、『輝針城』か」

 

 咲夜の台詞を聞いて、彼女が「付喪神の妖剣」を使う作品のことを思い出し、今度は咲夜が「輝針城……確か、小人の住む逆さ城がそんな名前でしたね」と相づちを打った時だった。

 

「ブルゴアァアアアアッ!!」

 

 腹から多量の魔力の霧を立ち上らせたオークの一匹が、雄叫びを上げて突進してくる。

 視線を走らせた残りの三匹は、頭をやられてすでに事切れ、全身から魔力を立ち上らせていたことから見るに、鎧のお蔭でかろうじて即死は免れたと言ったところだろうか。それでもこの勢いで動けるのだから、その体力はやはり凄まじい。

 とりあえずこのまま突っ込んで来させるわけにもいかないので、止めるためにタイミングを見計らい──足にバインド!

 「ブゴッ」と潰れた声を上げて、盛大に前のめりに倒れるオーク。そこに一気に駆け寄って、首を斬って留めを刺した。

 

「今は何を?」

「『リングバインド』って言う、魔力の輪で相手を縛って、動きを止める魔法だよ」

 

 説明に咲夜が「なるほど」と納得したところで、改めて周囲を見回してみる。

 先に現れたオークは全滅。他に増援は無いようで、視界内に怪しい影は無し……と言うのを確認したところで『アーカイブ』の魔法で先程のオークの情報を再度呼び出し、しっかりと読み込んでおく。

 

「……これによると、この『草原エリア』には『グラス・リザードマンの一族』ってのも居そうだなぁ」

「今のオーク……でしたっけ、あれと対立してるとなると……」

 

 そう言って咲夜が見るのは、川の有る方向。……まぁそうだろうなぁ。多分、向こう岸の草原地帯がグラス・リザードマンの勢力圏だと思う。

 

「確認します?」

「……いや、今回は止めておこう。今日はもう少しこっち側を回ってみたいかな」

 

 「解りました」と言う咲夜に、「じゃあ行こうか」と促して再び探索を進めた。

 

 

◇◆◇

 

 

「ゴブアァァァ……」

 

 断末魔の声を上げて、オークの一匹が魔力に還る。今のが今回遭遇したオーク部隊の最後の一匹だ。

 あの後三十分程探索を進めているが、先に進めば進む程にオークとの遭遇率が高まっていった。具体的に言うならば、今ので五組目。六分に一回の確率で遭遇しているのに加え、毎回五匹前後の部隊でやってくるのだ。正直しんどい。

 

「咲夜、提案なんだけど……一回戻らない?」

「賛成です」

 

 そうと決まればと言うわけで、また敵の部隊が来ないうちに退散である。

 相変わらず川沿いを進んで居たので、帰る時も川に沿って戻ればいいので迷う心配は無い。

 ……と言うわけで、今回の探索は往復一時間強で終わりとなった……のだが、帰路においても三部隊程と戦闘になった。幸いにして一部隊ずつと戦えているため、なんとか捌けてはいるけれども、これが複数の部隊と乱戦になったらどうなることやら。

 今度は空を試してみても良いかもしれない。……流石に第二層みたいな、飛んだら強敵って言うパターンは無いと思いたい。

 そんなことを咲夜と話しながら転移陣の有る神殿まで戻ってきたところで、ちょうどそこから出てきた『プレイヤー』らしき五人組と鉢合わせした。

 

「見ない顔だが、三層は初めてか?」

 

 波風立てたい訳ではないので、どうも、と会釈してすれ違おうとしたところで、向こうの先頭を歩いていた、ヘルムを脱いだフルプレートにタワーシールドと言う、重装備の男性が話しかけてきた。

 ガッシリとした体格で、身長は二メートル近いんじゃないだろうか。柔道とかやってそうだな……なんて考えが浮かんだ。単に見た目での判断だけど。

 

「はい。今日はもう帰るところですけどね」

 

 そう返し、今回通ったルート──川沿いを行ったら随分と敵に遭遇したことを苦笑交じりに話すと、男性は一瞬ピクリと眉を動かした。

 

「川沿いはテリトリーの境界線らしく、奴らの巡回路だ。よく無事だったな」

「情報ありがとうございます。次はルートを変えてみます」

 

 男性の言葉になるほど通りでと納得する。言われてみれば確かにである。

 彼に礼を言い、それじゃあ俺達はこれで、と戻ることを告げると、彼は無言で一つ頷き──

 

「ああ、そうだ。俺は相良 猛(さがら たける)と言う。君は?」

「長月 葉月です」

 

 名を告げると「長月か、覚えておこう」と言った男性──相良さんは仲間を引き連れ、草原エリアへと入っていった。

 彼のパーティメンバーの「メイドだ……」「なんでこんな所にメイドが」「メイド……ってかアレ、咲夜さんじゃね?」「誰それ?」「知らない? 東方って……」「うるさいぞ貴様等!」そんな会話を残して。

 ……なんか、凄いインパクトのある人だったな。

 

 

◇◆◇

 

 

 主であるレミリア・スカーレットの昼食の準備をしている最中に、“向こう”の“記憶”を受け取った咲夜。そのことを報告すると、案の定と言うべきか、早速話すようにレミリアに求められた。

 咲夜が“思い出しながら”順を追って語る『土産話』を、食事をしながら聞き入るレミリア。

 

「なるほど……『自然』をそのまま取り込んだような階層を持つ、迷宮の世界に、『幻想郷』のことを知る召還主。……ふふふっ、思った通り、楽しそうなことになってるわね?」

 

 楽しそうに言うレミリアに、一方の咲夜は「笑い事じゃ無いですよ」と小さくないため息を吐いた。

 

「実際迷宮とやらに出てみて思いましたけど、想像以上に大変ですよ、あれ」

「良いじゃない、それぐらい。そのニンゲンと協力して頑張りなさいな」

 

 「悪い人じゃないのでしょう?」と続けるレミリアに、“そのニンゲン”の事を思い出し、彼から受けた印象を思い浮かべた咲夜は「それは……まぁ」と頷くしかなく。

 

「って言うか、咲夜?」

「はい」

「そもそもさっきの『土産話』をしてる時の貴女、割と楽しそうだったわよ? 諦めて楽しみなさいな」

 

 それ以上に自覚していなかった自分の様子を告げられた咲夜は、彼女にしては珍しく「う~……」と小さく唸り、返す言葉が無い様子。

 レミリアはそんな咲夜の様子に満足げに頷くと、「今後もちゃんとヨロシクね?」と微笑んで、椅子から立ち上がる。

 「解りました……今後もちゃんと続けますよ」と両手を挙げて降参するよりない咲夜は、食後の散歩に行く主の背中を見送ったあと、食器を片付けるために食堂を後にした。

 故に──

 

「──あらあら。何だか面白い事になっているみたいですね?」

 

 スキマ(・・・)から漏れたその声は、誰にも聞かれる事は無く。




次回更新以降は出来次第の投稿になります。
筆が遅くて申し訳ないです。

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