深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase73:「瀟洒」

 とりあえず剣の情報を確認し終えた後、次の段階には直ぐに強化できるのかを確認してみることにした。

 再度『錬金術師の心得』を購入し、手持ちの素材を取っ替え引っ替えしてみるも、残念ながら反応は無い。何にせよ現状はどうしようもないから、剣に関しては現状維持でこのまま使ってみることとする。

 ……とまあ、そこまでやった時点で、アルトリア達の召喚時間が残り15分程に迫っていたため、端末から離れてソファに戻る。

 

「そう言えば、アルトリアさんの攻撃……エクスカリバーでしたっけ、凄かったですね」

 

 再び座ったところで、なのはが自分の隣に座るアルトリアにそう言うと、アルトリアは「ありがとうございます」と微笑みを浮かべる。

 

「そう言うナノハやフェイトの『魔法』も素晴らしい威力でした。小さいながらも二人がハヅキの力に成れている理由が、よく解りましたよ」

 

 アルトリアに褒められ、二人が揃ってはにかみ──「特に、ナノハが最後に放ったアレ(・・)は凄まじい」と付け加えられ、にゃははと照れるなのはと、若干苦笑いを浮かべるフェイト。

 そのフェイトの様子に気付いたのだろう、アルトリアが「フェイト、どうかしましたか?」と問いかける。

 

「あ~……フェイトはアレ(・・)を実際に喰らったことがあるんだよ」

 

 「な?」と問いかける俺に、当時のことを思い出しているのか、やはり苦笑を浮かべつつ「うん」と頷くフェイト。そんな彼女の返事に「な、何ですって!?」と珍しく大きく声を上げて驚くアルトリア。そりゃそうか。

 一方でなのはは「そんなに驚かなくても……」と頬を膨らませていた。

 

「私達の魔法は、基本的には非殺傷……魔力ダメージだけを与える設定にしてあるから」

「成る程……この迷宮のモンスターは、魔力で出来た存在。であるが故に『魔力に直接ダメージを与える』攻撃が良く効く側面も有るのでしょうね」

「まぁ……アルトリアの凄いところは、技の威力もそうだけど、本調子じゃないのにアレを相手にできる基礎能力の高さだけどな」

 

 アルトリアの言葉に思い当たる節があったのだろう、うんうんと頷いていたフェイトとなのはは、俺が発した台詞に「どういうこと?」と小首を傾げる。

 

「アルトリアは今“俺に括られて”ここに存在してるんだよ。で、彼女が力を振るう際の魔力は、俺から供給されてる。で、普段は余り俺に負担を掛けないように、力を抑えてくれてるんだよな……つまりはまぁ、俺の実力不足で全力を出せていないんだけど」

 

 そう考えるとアルトリアには申し訳ないなと思いつつ説明したところ、アルトリアが「それは違います」と頭を振った。

 違うって、どう言うことだろうか。疑問に思う俺に、彼女は言う。

 

「確かに技術はまだまだのところは有るでしょう。ですがそれは、これから身につけていけば良いだけのこと。そもそも、状況が違うとは言え、我が身は『英霊』。それを聖杯の補助も無しに維持していることが驚異的なのです。何よりも、貴方は“心”が強い。それは誇りこそすれ、卑下するものではありません。……ハヅキ。貴方の“力”は、貴方が思う程弱くはありませんよ?」

 

 そんな、思っても見なかったアルトリアの台詞に、一瞬言葉を忘れて呆けてしまった俺を見て、フェイトがクスリと笑う。

 ……と、そのタイミングで時間が来たのだろう、三人の身体を球状魔法陣が淡く取り囲んだ。

 

「む……もう時間のようですね」

「明日は新しい人と会うんですよね?」

 

 「良い人だといいですね」と続けられたなのはの言葉に、『十六夜咲夜』の人となりが思い浮かぶも、心配させるのも何なので「そうだね」と返しておく。

 そんな話をしている間に、三人を取り巻く魔法陣が色を濃くしていった。

 それぞれと「おやすみ」と挨拶しあい、彼女達の姿が消えるのを見送ってから、ふぅ、と一息。……流石に今日は疲れたかな。

 何となく時間を確認するのも面倒だったので、シャワーを浴びてさっさと寝ることにしよう。

 

 

……

 

 

 翌日、身支度を整え、朝食を取った後『十六夜咲夜』の召喚を行うことにする。

 ……果たして、召喚されるのは“いつ”の彼女なのかとか、彼女が協力してくれるのかとか、そもそも行き成り戦闘になったりしないよな、とか……まぁ、思うことは多々あるものの、覚悟を決めまして。

 

召喚(サモン):『十六夜咲夜』」

 

 伸ばした手の先に現れる、球状の召喚魔法陣。

 見た目も雰囲気もいつも通りのそれに、アルトリアの時のようなことは無さそうだと密かに安堵するうちに、カシャンとガラスが割れるように砕けて落ちる。

 そこから現れた女性。

 両サイドの髪を編み込みにした、肩口程度の長さの銀髪と、それを飾るホワイトブリム。膝丈程度のスカートのエプロンドレス。そしてかもし出す雰囲気は、凛とした鋭い刃物のような──紅魔館のメイド長、十六夜咲夜。

 当然と言うか、彼女は状況が飲み込めていない様子で周囲を見回し、その視線を俺で止めた。

 ……さて、ある意味正念場だ。

 まずは話を聞いてもらいたくも思うが、最初に行うのはこっちだろうなと思いつつ、「突然呼び出してごめんなさい」と頭を下げる。

 

「……貴方は──」

「俺は、『長月葉月』と言います。……まずは、話を聞いてもらえますか?」

 

 俺の言葉に対して、僅かな沈黙の後に「そう言うことね」と聞こえてきた。

 ……何か思い当たる節でもあるんだろうか。そんなことを思っていると、「とりあえず、頭を上げて」と言われる。

 それに応じて下げていた頭を上げると、何となく困ったような──何かを期待するかのような──複雑な表情を浮かべる咲夜さんが。

 

「手短にしてくれるならいいわ」

「……あ、ああ。じゃあそこに掛けて」

 

 次いで続けられた言葉は、そんな意外なもの。

 てっきり「さっさと帰しなさい」とか、下手をすればナイフでも突きつけられるんじゃないかと思っていただけに、一瞬驚いて止まってしまうも、何とか再起動してソファに促す。

 とは言え、話を聞いてくれるのであれば、こちらに否は無い……と言うことで、自分の現状と、どうやって彼女を召喚したのかを掻い摘んで説明した。

 

「……この迷宮を攻略するために、力を貸して貰えないでしょうか」

 

 そう言って言葉を締め、今一度頭を下げる。

 わずかな沈黙が下りた後に「悪いけれど」と聞こえてきた。

 

「私には仕える主が居て、そちらを疎かにする訳にはいかないの」

 

 続けられたのはそんな言葉。

 彼女の言い回しに、それが無ければ、と言うようなものを感じて……いや、彼女の立場と言うか性格的にと言うか、単純に「無理」ってことなんだろうとは思うけれど、取りあえず言うだけ言っておこうと思った。

 

「時間に関してだったら、大丈夫のはずです」

 

 俺の言葉を聞いて、咲夜さんは「どう言うこと?」と疑問を返してきたので、フェイトとなのはのこと──こちらに召還されるのは同位体……コピーのようなもので、召還が終わればこちらで過ごした“記憶と経験”だけが元の世界の本人へと還るのだと説明する。

 

「実際に体感した方が解ると思いますから、一度送還しましょうか?」

「……そうね。お願いするわ」

 

 咲夜さんの返事を受けて、彼女の身体を送還するための球状魔法陣が取り囲んだところで、「しばらくしたら、もう一度召還します」と言うと、彼女はコクリと頷いて──魔法陣とともにその姿が消えた。

 

 

◇◆◇

 

 

「……成る程、そう言うことね」

 

 その時、館の中を掃除していた咲夜は、突如頭の中に流れ込んできた“記憶”に動きを止めた。

 確かにこれ(・・)なら、“こちら”の方の行動に支障は無い。そう思った彼女は、「もうしばらくしたらもう一度呼びますね」と彼が言っていたのを思い出し、その前に“相談”してしまおうと思った。

 

「……とりあえず、掃除を終わらせてしまいましょうか」

 

 広い屋敷と言えど、もう一度呼ばれる前に掃除を終わらせるのは造作も無いこと。彼女にかかれば、だが。

 ともあれ、そうして屋敷の掃除を終わらせた咲夜は、己が主──レミリア・スカーレットの部屋を訪れ、自身の“体験した”記憶を説明する……と、話を聞き終えた途端にニッコリと笑うレミリア。

 その表情を見た瞬間、咲夜は言われるであろう言葉に何となく想像が付いてしまう。

 

「あら良いじゃない咲夜。手伝ってあげなさいな」

 

 「だってこっちには支障がないんでしょう?」そう続けたレミリアは、更に「貴女が嫌なら、代わりに私が行ってもいいぐらいだわ」とまで言い出す始末である。

 

「お嬢様……暇なんですね?」

「ええとっても。だから、向こう(・・・)で起こったことをちゃんと私に報告するようにね?」

 

 疲れたように言う咲夜に、レミリアは再び良い笑顔で答えると、次いで表情を少しだけ真面目なものに変えてから、咲夜に語りかける。

 

「ねえ、咲夜。この前私が言ったこと、覚えてるかしら?」

「この前、と言いますと……『特別な出会い方をした相手との縁は大切に……』でしたか?」

 

 咲夜の返事に「ええ」と頷いたレミリアは、楽しそうに……と言うよりは、意地の悪そうに、とでも言えばよさそうな笑みを浮かべた。

 何故ならば、そこまで言うからにはその先の台詞も覚えているであろう……にも関わらず言葉を濁した咲夜の様子から、彼女がそのこと(・・・・)を頭のどこかで意識していると感じたからだ。

 いくら自分の言葉であったとはいえ、あの咲夜が、それまで一度も逢ったことのない“見知らぬ相手”のことを意識していた、など……これを面白いと言わずして何と言うというのか。これもねじ曲がった(・・・・・・)運命の成せる技か。

 内心にそのような想いを抱きつつ、彼女は咲夜へと言葉を続ける。

 

「もう一度言うわ、咲夜。手伝ってあげなさい。そして、ちゃんと私を楽しませること。いい?」

 

 “命令されたから”と言うことにしてしまえばこの娘も行動し易いだろうし、などと言う、咲夜にとって良いんだか悪いんだか解らないことを企みながら。

 一方で言われた咲夜は、己が主にそう言われてしまえば、否とは言えないものであり。

 

「……はぁ、解りました」

 

 どことなく疲れた様子をにじませながら頷いた咲夜は、「それでは仕事に戻りますね」と一言告げて、レミリアの部屋から退出し──

 

「あぁそうそう、咲夜。『紅魔館のメイド長』として恥じない姿勢で臨みなさい。相手は貴女の“運命の相手”かもしれないのだから、ね」

「お、お嬢様!?」

 

 背中から掛けられた言葉に、彼女にしては珍しい程に、動揺した声を上げた。

 

 

◇◆◇

 

 

 ディレイが終わって再び咲夜さんを召還すると、彼女は何だかとても疲れたような様子を見せていた。

 「大丈夫ですか?」と問いかければ、「はい、大丈夫です」と返ってきて……おや?

 とりあえずソファに座ったところで、「先程の件ですが」と切り出してきた咲夜さん。

 

「お嬢様──私の主に確認したところ『手伝うように』と申されましたので、お手伝いさせて頂きます。つきましては、私に敬語は不要ですし、呼び方も『咲夜』と呼び捨てで結構です」

 

 手伝ってくれる、と口調や呼び方に関しての繋がりが今一読めず、どう言うこと? と疑問が浮かぶ。

 

「『紅魔館のメイド長として恥じない姿勢で』と言われまして」

「……さっきと言葉遣いが違うのも?」

「……『紅魔館のメイド長として恥じない姿勢で』と言われましたから」

 

 大変ですねと言うと、いつものことですから、と返ってきた。

 

「ともあれ、これからよろしくお願いします」

 

 敬語はいらないと言われたけれど、最初の挨拶ぐらいはしっかりとと思いつつ三度頭を下げると、彼女の方からも「こちらこそ、よろしくお願いしますね」と返ってきて……そこで初めてと言うか、ようやくと言うか──淡い微笑み程度だったけれど──彼女の笑顔を見た。

 

 

 

※※【ユニークスキル】の情報が更新されました!※※

 

『絆を結ぶ程度の能力』

 :一定以上の“繋がり”を持つ他者と“絆”を結ぶことができる能力。

   ・『キャラクター召喚』により召喚された被召喚者とは、無条件で“絆”が結ばれる。

   ・“絆”を結んだ相手の能力を強化する。

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