「アルトリア、頼む!」
「ええ──参ります!」
後ろに続く皆の気配を感じながら、隣を走るアルトリアに初撃を任せる。
一気に加速し、身体一つ前にでた彼女は、大きく腕を振り上げ──莫大な魔力を孕んだ風が渦巻き、吹き荒れる。
「ハァアアアアッ!!」
振りぬかれた一閃。広場に出ると同時に放たれた『
吹き荒れる轟風。爆裂するような大気の奔流は、群れるオーク達をなぎ払う。
「『
アルトリアの攻撃に続き、背後から聞こえてきた声。
次の瞬間、雷鳴を轟かせながら、頭上の空中を雷で出来た獣が駆け抜けて行き、『風王鉄槌』が突き刺さった地点のさらに先で、広範囲に雷撃を撒き散らして敵の穴を広げる。
そこにアルトリアが突貫した。
再び風を纏い、不可視となった剣を構え、オーク達の群れへと斬り込むアルトリア。
それに続き、俺と稲葉さん達が一丸となって突っ込む。
眼前に迫るオークの巨体の懐へと潜り込み、すれ違い様に腹を一閃。次いで立ち塞がったオークが手にする棍棒を振り下ろしてくるが、それを横に軽くステップして回避。棍棒が大地を叩く音を聞きつつ、振り下ろしたことによって下がった首を断つ。
右には玉置と対峙するオークが居たので、次に向かうついでに膝裏を蹴ってバランスを崩しておく。彼ならその隙に何とかするだろう。
と、その行動を逆に俺の隙と見て取ったか、雄叫びを上げつつ突っ込んでくるオークが2体。
そのうちの1体をバインドで拘束したところで、俺とオークの間に割り込むアルトリア。彼女がオークへ斬りかかり──トンッと、そのオークの眉間に矢が突き立った。
それを放った主である瑞希は、俺達の近くに来ると「先に行く」と一言。
一瞬アルトリアと顔を見合わせ、頷き合ったところで、更に俺達を追い抜くように稲葉さんが前に出て、前方で壁を作っていたオーク達へと盾を構えて突っ込んだ。
稲葉さんの後ろに彼のパーティメンバーが続き、稲葉さんが動きを抑えたオークを屠っていく。
そこに続くグレイ達のパーティ。
俺は今のうちに軽く飛び上がると、方向を確認。俺達の進行方向にあるのは、遺跡の上に行く階段。子供二人を抱えたオークは、右斜め前方ってところか。
件のオークも遺跡に向かってるところから考えると、ここで右へ向かうよりも、皆と一緒に遺跡の方へ行った方がいいだろう。
地上に降りてそれを伝えると、「解った」と返って来たので、アルトリアと並んで再び前に出る。
再び立ち塞がるオーク達。進むにつれ、流石に遺跡に近づくほどに、敵の層は厚くなっていく。
それらを切り伏せ、道を切り開きながら進む俺達。
ある程度を進んだところで、アルトリアに「ハヅキ、そろそろ」と声を掛けられたので、隙を見て軽く飛び上がり、目標の位置を確認する。
確かに、そろそろ目標のオークへ向かったほうが、距離的なロスは無さそうだ。
稲葉さん達にそれを伝え、俺とアルトリアはここで進路を変える。
稲葉さん達は遺跡への登り口に布陣し、時間を稼ぐとのこと。
「アルトリア、道を」
「心得ました」
もう一度方向を見極め、アルトリアに声を掛けて方向を指し示すと、皆まで言わずとも彼女はすぐに行動に移す。
俺とアルトリアの“パス”による繋がりが強くなり、抜けていく魔力に比例して、彼女が振りかぶった手の先で渦巻く風。
「ハアァァァアアアッ!!」
裂帛の気合と共に振り下ろされたそれは、初撃に放ったよりも強く感じられる一閃と化し、オーク達を薙ぎ払った。
それによって出来た隙間へ身を滑り込ませ、刃を振るいながら前へ。
無理に全て倒す必要はない。俺達の役割は、捕らわれている二人を救出して、離脱、もしくは稲葉さん達と合流することだ。
アルトリアによる強烈な一撃と、それに続く俺達の突貫に動揺するオーク達を縫うように進む。
ある程度進んだところで、目の前に立ち塞がったオークを切り伏せつつ、魔力へと変わりゆくそれを足場に軽く跳躍、目標の位置を確認する。
着地と同時に、前に出てきたオークが振り下ろしてきた斧を身体を捻って躱つつバインドで止め──
「ハヅキ、下がりなさい!」
アルトリアの警告の声に、咄嗟に後ろに跳んだ俺の眼前を、剣先が通り過ぎた。
俺の目の前に居た、バインドで縛ったオークが胸の辺りで両断され、魔力へと還る。
……味方ごと俺を斬ろうとしやがった!
体勢を整えながら視線を向けると、そこに居たのは、フルプレートに身を固め、身の丈ほどの大剣を持った、周囲のオーク達より一回り
周囲のオーク達は皆粗末な衣服か、せいぜいが皮鎧程度なのに対し、明らかに異質な装備……なのだが、どうやら体格が小さいために──とは言えオーク達は総じてでかいので、それでも俺より身長も横幅も大きいのだが──先ほど上から見たときに、周囲に紛れて存在を把握できなかったらしい。
オークの巨体を両断してもなお衰えない剣の威力もそうだが、なんら躊躇うことなく味方ごと俺を斬ろうとしてきたこと自体も警戒すべきだろう。
その鎧のオークの後ろには、目標である『プレイヤー』二人を抱えたオークの姿。
……どうやら二人を助けるには、こいつを越えなきゃいけないらしい……と思ったところで、俺の横に並んでいたアルトリアが、一歩前に出た。
「ハヅキ、アレは私が」
それに対し、鎧のオークはアルトリアの力を見抜いたのかのように、剣を大きく振りかぶりながら、ゆっくりとにじり寄って来る。
周囲のオーク達は、巻き添えを恐れてか、それともこの鎧のオークの強さに相当の信頼でもあるのか、俺達を逃がさないように、ぐるりと周囲を囲みながら、威嚇するように雄叫びを上げている。
……なら、俺は俺で成すべきことをやろう。
「──解った。アルトリア、大丈夫だと思うけど気をつけて」
「はい。お任せを」
アルトリアの返事を合図に、俺達はほぼ同時に前に出て──俺達の動きに合わせ、前方の鎧のオークが振りかぶっていた大剣を大きく横なぎに振るってきた。
対してアルトリアは、一歩も引くことなく剣に対して掬い上げるように腕を振るい──ガァンッと爆裂音にも似た音を立てて、オークの剣が上方へと跳ね上げられた。
およそ信じられないものを見たかのように、シンと静まり返る周囲のオーク達。
その隙に、俺は鎧のオークの横をすり抜け、目的たる子供達を抱えた大柄なオークへ肉薄する──!
「グルァアアアアア!!」
子供達を両肩に抱えているために攻撃の手段が無いのか、ただ威嚇の声を上げるオークと、それに応じてにわかに騒ぎ出す周囲のオーク達。
俺は構わずその場で跳躍。向かって右肩に抱えられた子へと腕を伸ばし──それに合わせ、オークが一歩、大きく後退した。
俺の手が空を切り、オークの顔がニヤリと歪む。
けど、まだ!
俺は前方へと飛翔し、俺の動きが想定外だったか、愉悦から驚愕へと変わったオークの顔面へ蹴りを入れて、怯んだ隙に向かって右の子を奪取した。
そのまま、オークの身体を足場に後ろへ跳んで、今しがた助けた子を降ろす。
年の頃は10歳ぐらいだろうか。肩口で少し乱雑に切り揃えられた黒髪の、フェイトやなのはと然程変わらないぐらいの女の子……じゃない、男の子か?
ロープで巻かれて縛られていたのを剣で斬って助けつつ、「大丈夫か?」と声を掛けると、涙に塗れた顔でコクコクと頷く少年。
「ブルゥウウウアアアアア!!!」
その直後、大柄なオークが憤怒の声を上げ、フリーになった左手を握り締め大きく振りかぶった。
咄嗟に少年を抱え、横に跳んだのとほぼ同時に、俺達が居た場所へオークの拳が突き刺さった。
爆発するように炸裂する大地。
「……何て威力だ……!」
思わず独り言ちた俺の言葉に、抱えた少年がぶるりと身を震わせた。
……っと、いけない。今は一人じゃないんだ。不安を与えちゃ駄目だな。
男の子に「大丈夫」と笑い掛けると、彼は「え?」と、ポカンとした様子を見せる。
確かにあの膂力は驚嘆に値するだろう。けど、必要以上に恐れる必要なんて無い。今まで戦ってきた相手は、もっと強かったんだから。
俺はもう一度、男の子へ「大丈夫だよ」と声を掛けると、もう一人を助けるのに邪魔になるので剣を収める。
それを好機と見たか、こちらへ踏み込んでくる大柄なオーク。
対して俺はフォトンスフィアを生成すると、オークへ向けて三射。
一発目は踏み込んできた足、左膝へと命中してよろめかせ、二発目は左の腹へと命中してうずくまらせ──三発目は、下がって突き出た頭へクリーンヒット!
「ブギャアアアア!!」
「きゃああああ!?」
オークが苦悶の声を上げて身を振り乱し、その拍子に右肩に担がれていた子が放り出された。
結構な勢いがついていたけど、飛び上がって何とかキャッチ。
すぐに降りて解放すると、「あ、ありがとう」と、涙で言葉を詰まらせながらもお礼を言ってくる。
背中ぐらいまである黒髪の、先に助けた男の子と似た顔立ちの女の子。……双子だろうか。
「大丈夫だった?」と声を掛けると、コクリと頷く少女。
その時だった。
「ブルゥゥアアアアアアアアア!!」
再び響き渡る憤怒の咆哮。
咄嗟にしがみついてきた二人を背中にかばいつつ振り返ると、先ほどの攻撃は致命打にならなかったらしい、俺達に向けて両手を振り上げるオーク。
そして、俺達の横を駆け抜ける白い旋風──
「──ハァッ!!」
跳躍し、大上段から振り下ろした一撃によって、文字通り大地に叩きつけるようにオークを斬り伏せたアルトリア。
凄まじい轟音を立てて大地に叩きつけられ、そのまま魔力の霧に変わるオーク。
「……大丈夫ですか、ハヅキ?」
周囲の警戒を怠ることなく俺達に振り返り、柔らかな笑みを浮かべながらアルトリアが問いかけてきた、次の瞬間。
天を切り裂き、鼓膜を震わす轟音を立て、遺跡の上に稲妻が落ちた。
つい最近に感じたものと同質の──“悪意”を孕んだ黒き魔力を、夜の闇へ振り撒いて。
◇◆◇
時間は少し遡る。
葉月達と別れた後、稲葉孝太及びグレイ率いる両パーティは、多少の戦闘の末に遺跡の頂上へと続く階段へと到達した。
すぐに階段の前に陣取り、守りを固める孝太達と、彼らにその場を任せて遺跡の上に足を踏み入れるグレイ達。
彼らがボスと思しきオークを狙うそぶりをみせることにより、周囲のオーク達の注意を引こうという狙いではある。だが、倒せるなら倒してしまっても良いじゃないか。そう判断したグレイ達は、孝太へとそれを告げ、遺跡の頂上を目指す。
それなりに大きな建築物とは言え、ただ真っ直ぐに階段を上るだけであれば、然程掛かることもない。魔法的な仕掛けをされている訳でも無いようで、事実グレイ達は、至極あっさりと遺跡の頂上へと辿り着いた。
遺跡──ピラミッド──の頂上を構成するのは、5メートル四方程度だろうか。大きな一枚岩から切り出したのであろう、継ぎ目の無い大きなブロック石。その中心あたりに、人一人が寝かせられるであろう台座が鎮座し、その前にボスと思しきオークが立ち、グレイ達を睥睨する。
遠めに見ても大きいと思ったその体躯は想像以上に巨体で、恐らく3メートル近くはあるだろう。その表皮は他のオークと違い赤茶色で、下顎からは2本、大きな牙が天を突く。明らかに普通のオークではないと判断できる存在だった。
「まるで巨人ね」
ぽつりと漏らした
「けど、ボク達なら決して勝てない相手じゃない。そうでしょう、皆?」
信頼の篭められた言葉に、少女達が力強く頷いて返す。
そしてそれを合図に、彼らは武器を抜き放ち──オークのボスもまた、その手にする杖を──最早鈍器と言っても差支えがないだろう大きさだが──構えた。
最初に動いたのは
オークへ『アナライズ』を使用すると、その情報を他の皆へ直ぐに伝える。
---
名前:『
カテゴリ:
属性:地
耐性:無
弱点:火
「フェヴァル大森林に生息するオーク部族を束ねる族長にして、オークの上位種であるハイ・オークである。エルフ達との戦いに勝利するため、そして唯己の好奇心を満たすため、拠点とする遺跡にかけられた“何か”の封印を解こうと、冒険者、一般人を問わず、多くの人間を、エルフを、獣人を浚い、犯し、殺し続けた暴虐の化身」
---
陽菜よりもたらされた『アナライズ』の結果を聞いて、グレイ達の表情が歪む。間違いなく、ロクな存在ではないと解ったからだ。
「やはり、こいつは放置しておくワケには行きません」
視線を厳しく、決意を新たに口にされたグレイの言葉に、仲間達が頷く。
それからの彼らの攻撃は、鮮烈にして苛烈であった。
グレイが正面から挑みかかり、敵の攻撃を自身に集中させて隙を作ると、それを突いて陽菜が風の刃を放つ魔法である『エア・カッター』を放ち、腕と脚を集中的に攻撃して機動力を奪う。
そこに気配を消した恵が接近し、意識の外から一閃──首を狙った一撃は咄嗟に避けられるも、バランガ・ランガの左目を奪った。
それでもバランガ・ランガは怯む事無く、攻撃するために自分にもっとも接近した恵を仕留めようと杖を振るうも、割り込んだグレイが上手く受け流して体勢を崩し──
死角となった左側から、
「『
朱莉の口から発せられた
長剣の刃に纏わり突いた氷雪の魔力によって鋭さの増した剣は、狙い違わずバランガ・ランガの首筋へと叩き込まれる。
「ハァツ!」
──一閃。
振りぬかれた刃はバランガ・ランガの首を跳ね飛ばした。
間違いなく致命傷。
勝ったと、誰もがそう思った、その瞬間──
『ブルゴォアアアアアアアアア!!』
断たれ、空中を舞う首が朱莉を見ながらニヤリと嗤い、最期の咆哮を上げた。
断末魔。
その、はずだった。
響き渡ったバランガ・ランガの声の余韻が消える間もなく、夜空が俄かに曇り出す──否、遺跡の真上に
次の瞬間、その雲より降り注ぐ、黒い稲妻。
それは跳ね飛ばされたバランガ・ランガの首を、首を断たれながらも倒れる事無く立ち続けるバランガ・ランガの身体を、打ち貫く。
耳を
それでも何とか起き上がった彼等の前に在ったのは──全身の皮膚を赤黒く染め上げ、口からは上顎と下顎の左右に2対、4本の大きな牙を生やし──両肩から更に2本の、まるで肉がそのまま盛り上がったかのような腕を生やし、4本腕となったバランガ・ランガの姿。
「何……あれ……」
生き返ったどころではなく、異常進化を果たしたかのようなその姿に、恵が呆然とつぶやいたのと、陽菜が再び『アナライズ』を使用したのは、ほぼ同時だった。
---
名前:『
カテゴリ:
属性:解析不能
耐性:解析不能
弱点:解析不能
「その身を血に染め、無念に浸り、怨念を受けたバランガ・ランガの執念に『■■■■■』が応え、力を授けて至った姿。悪意を喰らい、悪意を振り撒き、悪意を齎す、醜悪にして残虐なる暴虐の化身」
---
表示された『解析不能』の文字。それは、マリス・バランガの力が陽菜を上回っている証左であり──彼女がそれに警告を発する前に、事態は動いてしまった。
朱莉へ向けて駆け出すマリス・バランガ。咄嗟にグレイが割って入るも、2本の右手で薙ぎ払われ、吹き飛ばされる。
彼等のパーティにおいて、グレイの防御力は抜きん出ている。にもかかわらず、一撃で吹き飛ばされたグレイの姿を見て、朱莉は一瞬動きが固まってしまった。
その隙を逃してくれるような、生半な相手では無いというのに。
「なっ……! この、離せ……!」
我に返った時には、既にマリス・バランガの4本の腕でがっちりと捕らえられていた。
恵と陽菜が助けようと動くも、マリス・バランガは後ろに大きく跳んで彼女達から離れ──その身は、中心部にある台座の上に。
その光景に、ようやく起き上がったグレイの中に、凄まじく嫌な予感が駆け巡る。
それは恵も、陽菜も、そして捕らわれた朱莉も同じで──逃れようと、助けようともがく彼女達をあざ笑うように、マリス・バランガは朱莉の手から剣を奪い取ると、逆手に持って大きく振りかぶった。
「や、やめろおおおおおおおおおお!!」
グレイの悲痛な声が響く。
けれど、マリス・バランガの動きは止まる事無く──
「かっ……こふっ……」
その刃は、朱莉の胸を刺し貫いた。
その先にある、マリス・バランガの身体もろとも。
噴出す朱莉の血潮と、あふれ出すマリス・バランガの
「あ、嗚呼ああああ!!!」
「ブルァァアアアアアアアアアアアア!!!!」
グレイの慟哭をかき消すように、マリス・バランガが天高く吼え──ズンッと、遺跡が揺れた。
目の前の光景が信じられず、呆然とへたり込んでしまった陽菜と、彼女を傍で支えていた恵が、あわや階段から転げ落ちそうになるほどの、大きな揺れ。
内側から遺跡が揺さぶられているような、断続的な揺れ──次の瞬間、ビキリと、遺跡全体にヒビが入る。
そう、その光景は、まるで卵が孵るような──
◇◆◇
遺跡に黒い雷が落ちた瞬間、凄まじく嫌な予感がした。
アルトリアも同じようで、咄嗟に目配せして頷き合うと、俺は子供二人を抱え上げる。
「しっかり捕まってろ」と言うや、左右からぎゅっとしがみ付いてくる二人。
「コウタ達と合流しましょう」
「ああ、露払いは頼む」
任されましたと答えたアルトリアが、遺跡に向けて一歩踏み出すと、俺達の周囲を囲んでいたオーク達が一歩下がる。
……あの鎧のオークを──多分あっさり──倒したこととか、先ほどの大柄なオークへの一撃を見ていたからだろう、どうやら流石のオーク達もアルトリアを恐れているようで。
耳元で男の子が、「お姉ちゃんすごい」と呆然と呟いて、こんな時だというのに思わず噴出しそうになってしまった。
「参ります」
そう言って駆け出したアルトリアに続く。
迫るオークの壁。そこに向けて、アルトリアが「退きなさい!」と一喝──慌てたように避けるオークの海。すげえ。
俺達はオークを掻き分け、包囲の外には流石にアルトリアの威光も伝わっていないのか、襲い掛かってくる相手は先導するアルトリアが一刀の元に斬り伏せていく。
そして、ある程度進んだ時だった。
ズンッと、遺跡が揺れた。
その後も断続的に揺れ、その度に遺跡にヒビが入っていく。
その光景に、嫌な予感はいや増して──「急ぎましょう」と言うアルトリアに首肯を返し、進む速度を早くする。
そして恐らく、異常な状態の遺跡を警戒したのだろう、思ったよりも早く──遺跡から少し離れた場所で──稲葉さん達と合流できた、その時だった。
「グレイ達は?」と口にした、その瞬間、遺跡が爆発するように
吹き飛ぶ瓦礫と、舞い上がる砂塵。
それの中に在ったのは、とぐろを巻く、巨大な蛇のようなモノ。
「あ、あそこ! 人が!」
先ほど助けた女の子が蛇の上空を指差すと、そこには確かに人影──翼を生やしたハルナと、その彼女に捕まるケイと思わしき人。そしてハルナが両手でぶら下げるように捕まえているのは……グレイか。アカリはどうしたのだろうと思いながらも、多分この距離ならいけるかと『アナライズ』を使用し──ゴクリと、喉がなる。
「な、何だよあれ!」
多分、同じように『アナライズ』を使ったのだろう、佐々木少年の困惑した声が聞こえた。
「どうした、哲也?」
問いかけた玉置に対し、佐々木少年はブンブンと首を振り、「解らないんだ」と一言。
「解らないって、何がだよ?」
「全部だよ!」
「はぁ?」
佐々木少年の言葉に、玉置はそれこそ何言ってるのか解らないと言う様に首を傾げた。
……多分、今の彼の気持ちが解るのは、同じように『アナライズ』を使った俺ぐらいか。
「特徴も、弱点も、耐性も、カテゴリどころか名前すら解らないんだよ!」
「……え……」
佐々木少年の言葉に、しんと静まり返る皆。
当然だろう、名前すら解らない……それはすなわち、自分達より遥かな格上だと言う事なんだから。
とは言え……どうやら俺の方がまだマシなようだ。だったら、教えてあげないとな。
「解るよ。名前とカテゴリなら」
そう告げた俺に、皆の視線が集中する。
……まったく、嫌な役回りだ。
「『
俺が名を告げたのに応えるかのように、クルルカントはその身体を伸ばし──
「──ルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
──蝙蝠のものに似た、翼膜のある翼を広げ、高らかに天に吼えた。
---
名前:『
カテゴリ:
属性:解析不能
耐性:解析不能
弱点:解析不能
「 」
---