深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

50 / 113
Phase50:「合流」

 念のため手持ちの『結界石』を使って安全を確保しつつ稲葉さんの話を聞くに、どうやら彼がここに来たのも俺達とそう変わらないタイミングのようだった。

 なんでも、午前中から1時間前ぐらいまでの間『森林エリア』の方へ行っていて、休憩を挟んでからこちらに来たのだとか。無論、休憩の時間とこちらに転移する時間は他のパーティメンバーと取り決めて、ほぼ同時に来るようにした、とのことだが。

 

「それで『転移陣(ポータル・ゲート)』が繋がった廃屋から出たところで、今の奴に襲われたんだよ。……いやホント、昨日から長月君には助けられてばかりだね」

 

 ありがと、と頭を下げてくる稲葉さんに、「どういたしまして」と返して頭を上げてもらい、これからどうするのか訊いてみた。答えは当然と言うか「仲間と合流したいから捜しに行く」とのことだったが。

 ……うん、ここで会ったのも何かの縁、か。

 

(アルトリア、稲葉さんを手伝っても良いかな?)

 

 アルトリアに念話で問いかけ……って、ついいつもの調子で念話を送ってしまったけど、フェイトじゃないんだし届かないか……と思ったところで、後ろでアルトリアが身じろぎする気配。

 チラリと後ろを見て様子を窺うと、目が合ったアルトリアがコクリと頷いた。

 ……どうやら届いたらしい。彼女は今『向こうの世界』ではなく『俺』に括られているって言っていたから、パス……とでも言えばいいんだろうか、何がしかの繋がりが出来ているんだろう。

 一瞬自分の右手の甲に現れているその繋がりの証拠に視線を向け、そんな事を考えつつ、稲葉さんに「良かったら手伝いましょうか?」と声を掛ける。

 稲葉さんは若干考えた後、「お願い出来るかな?」と返してきたので、「もちろん」と答える。

 その時点でようやく稲葉さんがアルトリアへ顔を向け──それまでもチラチラと視線を向けていたのは気付いていたけど──「ところで彼女を紹介してもらっても?」と言ってきた。

 

「そうですね。彼女は『セイバー』。昨日レベルアップした【ユニークスキル】で召喚できるようになって、協力してもらえることになったんです」

 

 次いでアルトリアへ、昨日10階で彼のパーティに遭遇し共闘したこと、そこまで深く接した訳ではないけれど、少なくとも人間的に信用のおける人だと思うと言うことを伝えた。

 それからアルトリアと稲葉さんが、よろしく、と互いに言い合ったところで、これから彼の仲間を捜すに当たって気になった事を訊いてみる。

 

「確認ですけど、優先的に捜すのは?」

「……出来れば攻撃力が皆無に近い雪を優先したいところかな」

 

 稲葉さんの答えに「わかりました」と返し、

 

「セイバー、少しの間稲葉さんのことを頼む」

「それは構いませんが……ハヅキはどうするのですか?」

 

 そう訊いてきたアルトリアと、同じく俺の言葉に疑問を覚えたのだろう、こちらに視線を向けてくる稲葉さんに、俺は“空”を指差しながら、答えた。

 

「上から捜すさ」

 

 二人にそう言って『結界石』を片付けると上空へと飛び上がり、アッサリと見つかってくれると良いんだけど、何て淡い期待を抱きながらぐるりと周囲を見回した。

 流石に裏路地のような、家と家に挟まれた狭い道なんかは見えない部分も多いけど、朽ちて崩れ落ちた建物も多いので、ある程度の把握は出来る。

 どうやら俺達がいたのは、『南西エリア』の中でも一番大きな通り──その名の通り南西部分にあるらしく、北と東に伸びるL字型の通りだ──から少し外れたところのようで、さほど離れていないために、ここからでもその一番大きな通り──大通りと呼ぼうか。その大通りの様子も窺う事が出来ていた。

 そこに有った光景は、パッと見て10体ぐらいだろうか、リビングアーマーらしき鎧の群れに追われている二人組みの姿。俺はその光景が眼に入った瞬間、地上に降りた。

 割とすぐに降りてきたからだろう、「何かあったかい?」と問い掛けて来た稲葉さん。

 

「容姿の判別は出来なかったけれど、向こうにある大きな通りで、二人組みが10体ぐらいのリビングアーマーらしき群れに追われてた」

 

 先程見えた光景の方角を指しながら言った俺の言葉に対して、稲葉さんは逡巡したあと「……行ってみよう」と返してきた。実際姿がハッキリしなかった以上、稲葉妹かもしれないし、違ったとしても見捨てるのは寝覚めが悪い。なので、俺としても稲葉さんの意見には賛成だ。

 ……そうと決まれば急いだ方がいいだろう。上から見えた光景では、然程余裕があるという状況でも無さそうだったし。

 

「俺は先に行って敵の足止めをしておきます」

 

 先程のように“上”を指差しながら言う俺に対して、稲葉さんは解ったと頷く。

 一方のアルトリアもまた、その表情に心配気なものを浮かべながらも、ハァと小さく溜め息を吐いて、「解りました」と頷いた。

 

「ハヅキ。先程戦った感触で言えば、敵の動き自体は然程心配する必要はありません。貴方であれば、問題なく対処できるでしょう。難点を挙げるとするならば、敵の防御力でしょうか」

 

 そこで言葉を一度切ると、トンッと自分の胸の辺りを拳で叩くアルトリア。

 

「先程の戦闘で解りましたが、あの鎧を動かす“核”は、人で言うならば丁度心臓の辺りに有るようです。無論、個体差がなければの話ではありますが」

「つまり、魔力で強化されているらしいあの鎧をぶち抜く攻撃力か、頭か腕を排除して、隙間から“核”を狙わなければ倒すのは難しい……ってことか」

 

 そう言うことだよな? と問う俺に対して「その通りです」と頷くアルトリア。

 

「ですので、私が行くまで決して無理はしないように」

「ん、解ってる。ありがとう」

 

 気遣ってくれるのが嬉しく礼を言ってから「それじゃ、行くよ」と続けてからふわりと浮かび上がると、眼下の二人に軽く手を振ってから、大通りへ向けて速度を速めた。

 すぐに先程見たのと同じような光景──追われる二人と追うリビングアーマー──が見え、そのまま飛ぶこと10秒ほどで、それぞれの姿がハッキリと認識できるほどに近くなる。

 

「運が良いんだが悪いんだか……」

 

 そんなことを独り言ちながら、追われている二人に視線を送る。

 追われていたのは見知った顔で、優先的に捜そうとしていた人物──すなわち稲葉さんのパーティメンバーのうちの二人、瑞希と稲葉妹だった。

 昨日聞いた話によると、二人はスタート地点からしてすぐ近くだったようなので、この都市への転移先もきっと近くになったのだろう。羨ましい話だ。俺なんて10階で彼等と会うまで、他の『プレイヤー』に会ったことなど無かったというのに……まぁその分フェイトがいたから別に良いんだけどさ。

 現在は瑞希が稲葉妹を庇いながら逃げているようなのだが、リビングアーマーの数もいつの間にか15体ほどにまで増えており、このままじゃ流石にまずそうだ。さっさと助けに入ろう。

 今すべきなのはアルトリアが来るまでの時間を稼ぐこと。そのためにはあのリビングアーマーの群れをまとめて足止めしなければいけない。

 俺はクリムゾン・エッジを腰に着けているポーチを通じてアイテムボックスへと仕舞いながら、彼女達に向けて降下する。

 流石に二人も俺に気付いたのだろう、こちらに視線を向けると、その表情を若干安堵したものへと変えた。

 そんな二人へ「そのまま走れ!」と声を掛けつつ、降下速度を上げながら、新たな武器をポーチを通してアイテムボックスから取り出し──およそ入りそうも無いものが入り、出そうも無いものが出てくるのは、やはり不思議な光景だ──、大上段に振りかぶる。

 それは、『不動の鉄壁(ルーク)』ベイルガンドが持っていた、2メートルを超えるであろう肉厚の刃を持つ、黒の大剣。

 その鉄塊と呼んでも差し支えが無いような大剣を、降下の勢いも乗せて、二人に追いすがろうとしていたリビングアーマーの1体に、思い切り、叩きつける!

 ズガァンッ! と言う爆音の如き大地を振るわせる音を立て、超重量の大剣がリビングアーマーの1体を文字通り叩き潰した。

 鎧もろとも核を潰されたリビングアーマーは、一瞬にして魔力の霧と変わって消える。俺はそのまま大剣を振り回し、さらに迫って来ていた3体のリビングアーマーを纏めて吹き飛ばした。

 どうやらこの剣には、担い手にのみ掛かる『重量軽減』の魔法が掛かっているらしく、少なくともこれを振るう俺にとっては、その見た目からは凡そ信じられないほどに軽々と扱う事ができる。……とは言え限界はあるらしく、普段使っているクリムゾン・エッジよりも重いのだけど。

 次いで攻撃後の隙を突いて右から向かってきた1体にバインド。それと同時に左から来た1体の剣を左手の先に生み出したラウンドシールドで受け止める。

 そのまま右手も剣から離し、ラウンドシールドに剣を押し付けてくるリビングアーマーに、スプラッシュエッジを叩き込んで吹き飛ばし、すぐに剣を持ち直してバインドで動きを封じていた1体を横薙ぎに斬り払った。

 大剣を叩き込まれたリビングアーマーは、両断される事は無くともその鎧は大きく陥没し、恐らく衝撃が核にまで届いたのだろう、吹っ飛んだ先で魔力に変わっていく。

 それを見届けるまでもなく、さらに攻撃を仕掛けてきた2体の剣を、大剣を盾にして受け止めると同時にフォトンランサーを射出。それぞれの足を片足ずつ撃ち抜いて破壊し、動きを阻害する。

 その隙を突いて更に1体が斬りかかって来るが、後ろに飛んで避けながら剣を一閃。動きを止めたところにフォトンランサーを連射した。

 一発、二発と胸部装甲を陥没させていき、三発目でぶち抜いて核を破壊できたようだ。

 これで残りは11体。うち5体は損傷させているけれど、まだまだ油断は禁物だ。

 そう思ったところで、

 

「ハヅキ!」

 

 俺を呼ぶ声が聞こえ、後ろの様子を窺えば少し離れた場所にある路地からアルトリアが出てきたところだった。

 次いで聞こえた「こちらへ!」と言う声に従い、アルトリアの方に向けて飛翔する。その間に、大剣は小回りが利かないので、クリムゾン・エッジに武器を代えておく。

 当然、俺を追ってリビングアーマー達も向かってきており、後ろの様子を窺えば、リビングアーマー達は縦長に一塊になっていた。……これは有る意味チャンスってやつだろう。そう思いアルトリアに視線を向けると、同じくこちらを見ていたアルトリアと眼が合った。

 

 ──私が。

 

 そんな声が聞こえた気がして──ならばと、彼女の側に着いたところで着地し、

 

「頼んだ」

「任されました」

 

 そんな短いやり取りの後、アルトリアはその手にする不可視の剣を大きく振りかぶった。

 瞬間、身体の中から“パス”を通してアルトリアに魔力が流れた感じがし、

 

「ハァアアア!!」

 

 それと同時に発せられた裂帛の声に続き、ドンッと言う大砲のような音と共に轟風が撃ち出され、風の砲撃とも呼べるその一撃は、縦長な塊となっていたリビングアーマー達を纏めて吹き飛ばした。

 今のは恐らく、剣に纏わせた風王結界(インビジブル・エア)を、破壊力を伴った暴風として撃ち出す風王鉄槌(ストライク・エア)だろう。

 一瞬黄金に輝く剣が垣間見えたが、その姿はすぐに再び集った風によって隠されてしまった。今度じっくり見せてもらおう。

 そして、アルトリアが放った轟風は、鉄槌の名に恥じぬ破壊力を持ってリビングアーマー達を粉砕し、それが過ぎ去った後に残った敵は、わずか3体。そのうちまともに起き上がり、動き出したのは2体のみで、もう1体は左腕を失うと同時に各部に歪みでも生じているのか、動きも鈍い。

 ……って言うか、今の感覚ってもしかして……

 彼女が風王鉄槌を放つときに感じた魔力の動き。それにふと思うことがあってアルトリアへ顔を向けると、彼女は「どうしました?」と小首を傾げた。

 

「いや……もしかして今まで、俺に負担を掛けないようにしてくれてた?」

 

 確かに考えてみれば不思議だった。

 英霊と呼べる彼女を召喚しているにも関わらず──彼女自身が俺に括られていると明言していると言うのにだ──今の今まで、全然負担を感じていなかったのだ。

 これが例えば、実はアルトリアが受肉していて、その身体の維持に魔力を必要としない……と言うならまだしも、召喚後の話で、彼女自身から身体の構築に俺の魔力を使ったと聞いているのだ。

 となると考えられるのは、アルトリアが俺に配慮してくれている、と言うことだろう。

 

「はい。とは言え要所要所で供給させて頂いていますから、気にする必要はありません。今ハヅキが何かを感じたのは、消費する魔力が多かったからでしょう」

 

 むしろ常時オープンにして俺の戦闘力が激減するほうが、結果的に見てマイナスだと言う。

 とは言え気遣ってくれているのは変わりないのだし、やっぱりありがとうと言うと、アルトリアは「そう言うところは頑固ですね、ハヅキは」と言いつつも、柔らかく微笑んだ。

 そうしている間に、稲葉さんと無事に合流できたらしく、瑞希と稲葉さん、稲葉妹の三人が駆け寄ってくる。見たところ大きな怪我もなさそうで良かったってところか。

 

「ありがとう、助かった」

「あの……ま、また助けていただいて、ありがとうございました」

 

 開口一番そう言って来た瑞希と稲葉妹の二人に「気にしないで」と言うと、瑞希はふるふると首を振った。その視線の先にあるのは、合流して奴らよりも数が多くなったからだろうか、こちらを警戒するようにこちらへゆっくりと進んでくるリビングアーマー。

 彼女は敵を警戒しつつも俺に視線を向け、「私も手伝う」と言ってきた。

 ……確か彼女の攻撃方法は弓と格闘だったか。

 

「敵の情報は?」

 

 『アナライズ』はしてあるのだろうかと訊いてみれば、首を横に振る瑞希。何でも『アナライズ』を持っているのは佐々木少年だけらしい。

 

「敵の名前は『リビングアーマー』。心臓に当たる部分に鎧を動かしている“核”が有る。個体差があるかは不明……ってところ」

「ん……了解。ありがとう」

 

 こちらに向かって来ている3体のうち、一番ダメージを負っているやつを指して言った俺に、コクリと頷く瑞希。

 それに続いて稲葉さんが声を上げた。

 

「じゃあ、俺がもう1体を足止めするから、雪は俺と瑞希のフォローかな」

「ですね。残る1体を俺とセイバーで速やかに倒して、後は各個撃破と」

 

 作戦が決まったところで、アルトリアが一歩踏み出して「では、行きましょうか」と声を掛けてくる。

 ……ちなみに稲葉妹は、アルトリアのことが気になるのか、合流前の稲葉さんと同じようにチラチラと視線を向けていた。いや、気持ちは解るんだけどな……って言うか、流石は兄妹と言うべきか、仕草がよく似ている。

 とまれ、アルトリアの言葉に異存があるはずも無く、各々首肯して同時に敵に向けて駆け出した。

 俺達の動きに呼応してか、こちらへ向かう速度を速めだしたリビングアーマー達。その先頭を進んでいた1体に稲葉さんが相対して押さえ込んだのを尻目に、俺とアルトリアは2体目と向き合う。

 目配せしたところでコクリと頷いたアルトリア。どうやら彼女は俺に合わせてくれるらしい。

 ならばとアルトリアに先行し、リビングアーマーに接敵。俺の動きに合わせてリビングアーマーが手にする剣を袈裟懸けに振り下ろしてくる。

 それを半歩右にずれて躱し、空振りによって出来た隙を突いてクリムゾン・エッジを一閃。ギャリッと音を立てて敵の胴鎧に傷が付く。やはりと言うか、これで斬り裂くって訳にはいかないようだ。

 無論剣の性能が悪いって訳じゃなく、単に相性の問題だけど。……いや、もしかしたら俺の腕がもっと良ければ、それこそ“斬鉄”みたいな感じで切り裂けるのかもしれないが。実際稲葉さんを助けた時のリビングアーマー戦では、アルトリアは敵の胴鎧をぶち抜いて核を破壊していたし……って、比べる相手が間違ってるか。俺と彼女じゃ、何もかもが雲泥の差だ。

 ともかく、こうなると俺が狙うのは鎧の結合部分か、アルトリアのフォローだろう。

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、横薙ぎに振るわれた剣を屈んで避け、再度袈裟懸けに振るわれた剣を受け、タイミングを合わせて刃を流し、威力を逸らす。

 大きな隙が出来たと思った瞬間、そこにアルトリアが肉薄し、バランスを崩して前のめりになったリビングアーマーの首を跳ね飛ばす。

 ──ここっ!

 俺は身体をずらしたアルトリアと入れ替わるように敵に肉薄し、重厚なフルフェイスのヘルムが無くなったためにポカリと空いた穴へ剣を突き刺し、内部の核を破壊した。

 

「ハヅキ、イナバの方は私が」

 

 リビングアーマーが魔力の霧へと変わるのを確認したところで、アルトリアがそう提言してきた。

 確かにこのまま2人で行っても戦力過多になるかと頷き、俺は瑞希の方へ向かう……のだが、俺が着いた時には丁度瑞希が敵を倒し終えるところだった。

 敵の攻撃を捌いてバランスを崩したところで頭部に掌底、兜を飛ばした後に足を払い、地面に引き倒す瑞希。

 そして数歩下がりながら矢を番えて弓を構え、

 

「『スナイプ・ショット』」

 

 放った矢は魔力の燐光を帯び、地面に倒れたリビングアーマーの首の穴へと突き刺さった。

 どうやら狙い違わず核を撃ち抜いたようで、すぐにザラリと魔力へと変わるリビングアーマー。

 それを見送る瑞希に声を掛けようとしたところで、先に気付いた彼女がこちらに近付いてきた。

 

「お疲れ様。強いな、瑞希」

「ううん、敵が弱ってたから」

 

 本来遠距離用の武器である弓を、格闘を用いることによって、止めを刺すための武器として上手く近距離でも使った彼女に、自然と賞賛の声が口をついた。

 それに対してかぶりを振って答えた瑞希は、「次は?」と問いかけてくる。

 稲葉さんの方はアルトリアが行ってるから大丈夫だろうと思いつつ、そちらの方へと視線を向けたところで、タイミングを見計らったかのように「ハヅキ、こちらは終わりました」とアルトリアが声を掛けて来た。

 次いで稲葉さんと稲葉妹も合流し、これでようやく一息つけたといったところか。

 

「これで残るは仁と哲也か。それにしても長月君、本当に助かったよ、改めてありがとう」

 

 稲葉さんがそう言ってきて、改めて頭を下げてくる。続いて瑞希と稲葉妹も同じようにしてきたので、気にしないでくださいと言って頭を上げてもらう。

 俺としては折角知り合った人が困っていたから力に成りたいと思っただけなのだし。

 

「それに、まだあと二人捜さないと、ですしね」

 

 そう言うと、稲葉さんはああ、と頷き「もうしばらくの間、よろしく」と言って笑みを浮かべた。

 それから玉置と佐々木少年を捜しに出る前に、稲葉妹と瑞希にアルトリアのことを改めて紹介し──その時だった。

 

「あ、アンタら『プレイヤー』か!? よかった、無事なんだな!?」

 

 そんな声が聞こえてきたのは。

 一斉に声の方へと振り向いた俺達。そこに居たのは、見知らぬ二人組み。

 チェインメイルの上にハーフプレート、腰には長剣を佩いた、短めな茶髪を立たせた20代前半ぐらいの男性と、緑色のローブに短杖(ワンド)を持った、セミロングの髪を後ろで一つに纏めた、眼鏡を掛けた女性。

 ……新たな『プレイヤー』との邂逅だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。