稲葉さん達と別れ『
彼等に聞いたけれど、どうやらこの世界に“召喚”された『プレイヤー』……『第三次召喚者』は、“さまざまな世界”の『地球』から召喚されているらしい。
あの時は状況が状況なだけに聞き流していたけれど、あの時──俺が『ミッドチルダ魔法』を使えると知った時、稲葉さんが「君は『ミッドチルダ魔法』のある世界の出身なのか」と訊いてきたのもそのためだ。
彼等の場合で言えば、稲葉さんと稲葉妹は当然同じ世界出身。佐々木少年も同じか、限りなく近い世界出身。で、玉置と瑞希はそれぞれ違う世界出身、と言う事らしい。
玉置と瑞希の二人がフェイトのことを知らなかったのも、二人の世界にはそもそも『リリカルなのは』と言う作品自体が存在していないのだろう。
この世界に召喚されて、自分のステータスを見たときに『第三次召喚者』の出身世界の表記が、『地球』と言う余りに大雑把なものだった事に疑問を持ったけれど……なるほど、枕詞に“色んな世界の”と付くのであれば、これほど的確な表現もないと思えてしまう。
ともあれこれで、これから出会う人の多くがフェイトのことを知っている、と言う事態にはならなさそうである。
つまりは、フェイトが嫌な思いをする確率も減るってことで。
……いや、これから出会う全ての人が、稲葉さん達みたいに良い人ばかり……って言うんならいいんだけどさ。それは流石にありえないだろうし。
ま、それはそれとして。
『マイルーム』に戻ってとりあえず一息ついた後、今回の戦闘を乗り切ったことで【称号】や【スキル】にも変化があるんじゃないかって話になったんで、確認してみたんだ。
そうしたら──
「……へ?」
「葉月?」
余りに予想外なその内容に、思わず間の抜けた声を漏らした俺に「どうしたの?」と視線を向けてくるフェイト。
「あ、ああ、いや、何か色々増えたり更新されたりしてるん……だけど」
「けど?」
「んー……とりあえず、順番に読み上げるよ」
言いよどんだ俺に対して小首を傾げたフェイトへ、内容を聞いてもらった方が早いかと告げると、フェイトは「解った」と言って手に持っていたカップを置いて居住まいを正し、聞く体制を整える。
ちなみに彼女が飲んでいたのは『ショップ』で購入したホットココアである。
「いつでもいいよ」と言うフェイトに「それじゃあ」と相槌を打つと、表示されたステータスウィンドウの文面を読み上げていく。
【称号】、【スキル】、そして……【ユニークスキル】。
全部を読み終えて改めてフェイトを見ると、彼女は何とも気落ちした表情を浮かべ、俺の顔を上目遣いで見つめていた。
「えっと……つまり、明日は葉月に逢えない……ってことになるのかな……?」
「あ、うん、そうなる……かな」
躊躇いがちに発せられた問いに答えると、寂しそうに「そっか……」と呟かれてしまった。
……何だかとてもすごく悪いことをしている気になってしまう。いや、俺にもどうすることも出来ないんだけどさ。
「そ、そうだ『
「ごめん」と謝るのも何だか違うような気がするし、何と声を掛けたものかと思った矢先、どうしようもないと言うのはフェイトも解っているからだろう、少しぎこちなくはあったけれど、話題を切り替えてきた。
俺としても態々話を蒸し返すこともないので、「なに?」と続きを促すと、返って来たのは「1つだけ、ワガママを言ってもいい……?」との言葉。
無論、断る理由も無い。むしろフェイトの願いであれば、出来る限り叶えてあげたいと思うぐらいだ。なので「もちろん、俺に出来る事なら何だって」と答えると、
「あの……ね、その、なのはを召喚するの……1週間ぐらいだけ待って欲しいんだ」
若干言い辛そうな様子でそう言ったフェイトの言葉を聞いて、前に彼女が話してくれたことを思い出した。
「そっか……再会の約束、してるんだもんな」
「……覚えててくれたんだ」
嬉しそうに、ふわりとはにかむフェイトに「当然だよ」と返す。
じゃあ、なのはを召喚するのは1週間……1日置きだから8日後になるのかな。そう言うと、フェイトはコクリと頷いた。
「なのはには、ちゃんと私の方から説明しておくから……なのはならきっと、葉月のことを助けてくれるから、大丈夫だよ」
そんな風に気遣ってくれるフェイトに「助かるよ」と告げると、彼女は「ううん」と首を横に振って、
「葉月の立場からしたら、本当なら今すぐにでもなのはを喚んで、協力してもらいたいだろうし……」
「大丈夫だよ。それに俺としても、折角のフェイトの再会を邪魔したくないから」
俺の言葉にフェイトは一瞬眼を見開いて、「ありがとう」と嬉しそうに微笑を浮かべた。
その後、10階でボスも倒して第一層『洞窟エリア』も攻略したのだし、この部屋の外に通じる扉の横にある端末に、何か新たな情報が出てるんじゃないかと思い、フェイトと一緒に見てみることにした。
と言うのも、先程『マイルーム』に帰る前、敵からの戦利品を拾い集める過程で、戦場になったホールを一通り探索してみたのだけど、“次”に向かうための階段とか出入り口とかが見つからなかったのだ。である以上、考えられるのは『マイルーム』から直接行くんじゃないかってことで。
端末の前に立つと、ヴンッと音を立ててウィンドウが現れ、そこに表示される項目のうち『インフォメーション』の文字が光っているのが見て取れた。
項目を選択して画面を送ると、そこに表示されていたのは、案の定これからに関することで。「何て書いてあるの?」と問いかけてくるフェイトに、表示された文字を読んで聞かせる。
つまり、第一層『洞窟エリア』を突破したことにより、第二層『森林エリア』へ向かうことが出来るようになったこと。行く方法は、5階に転移する時と同じように、外に通じる扉から『第二層』を選べば、そこに向かうための転移陣が現れるようだ。
それと同時に、第一層を攻略した『プレイヤー』が交流を図るための都市、『廃都ルディエント』にも行けるようになったとか。……名前からして物凄く廃墟っぽい気がするが。
そして、他の『プレイヤー』と接触したために、この端末の中で開放されていなかった『コミュニティ』の項目が開放されたようだ。
『コミュニティ』から行えるのは、今のところ、他の『プレイヤー』との文字による連絡通信……要するにメールのようなもんだな。これは『ステータス』の閲覧と同じように、迷宮内でも行えるようだ。
それと、パーティの登録もこれで行えるとのこと。
とは言えメールにしろパーティにしろ、各『プレイヤー』の端末毎に定められたID番号を入力する必要があるらしいので、今の俺にとっては無用の長物である。……稲葉さん達も教えてくれれば良かったのに、何て思わなくもない。念のため自分のID番号は控えて──これも『コミュニティ』の中に表示されている──おいた。
「それはそうと、次のエリアって『森林エリア』なんだよね……森林って言う事は、樹がいっぱいってことなんだろうけど……迷宮なのに?」
一通りの内容を見終わった後に言われたフェイトの言葉。彼女の疑問も最もである。
俺としても気になるところなので、ちょっと覗いてみようか……なんて思ったけれど、今日は大変だったんだからとフェイトにたしなめられて止めておく。
その後は時間まで、探索とは関係ない雑談を交わして過ごしていた。
…
……
…
明けて翌日。今日はフェイト以外の人物を呼び出す日だ。
召喚する対象が対象なだけに、いきなり攻撃されるとか、そんな事はないだろうとは思うけど……正直、協力してくれるのだろうかと思わざるを得ない。なんと言っても俺には“彼女”に提示してあげられるものが何一つないのだ。
……まあ、とりあえずは喚んでみないとわからない、か。そう、結局俺に出来るのはフェイトの時と同じなんだから。
一度大きく深呼吸をして、覚悟を決める。
「──
【ユニークスキル】がレベルアップしたことによって、新たに召喚できるようになった人物を呼び出すためのキーワードを唱えると、伸ばした右手の先に、フェイトの時と同じように、人ひとりが入る大きさの球状魔法陣が現れる。
……やはり“彼女”の第一声は
いつもであれば、これがガラスのように砕けて、中から召喚した相手が現れるのだけれど──この時は、違った。
「なっ……くっ!」
思わず呻いた俺の目の前では、突如魔法陣が強く眼を焼くような強い光を発した。
バチバチと、火花のように魔法陣を構成する魔力がはじけ、咄嗟に腕を引いてしまったけれど、まるで右腕だけが凍り付いてしまったかのように動かすことができなくて。
次いでその光は弱くなり、また強くなり……幾度と無く明滅を繰り返す。
そうしているうちに、不意に俺の中から大量の魔力が、吸い出されるように球状魔法陣の中へと流れ出した。
ほんの僅かな間に大量の魔力を、それも不意打ち気味に失ったために、一瞬目の前が真っ暗になって意識が飛びかけた。
強く頭を振って意識を保ち、『リンカーコア』が不足した魔力を補うために、大気に満ちる『
吸収と流出のサイクルが余りにも短く、若干気分が悪くなってきたところで、始まった時と同じように唐突に魔力の流出が止まると共に魔法陣の明滅も止まり、淡く光る形で落ち着いた。
中を窺い知ることはできないけれど、球状魔法陣の中では膨大な──俺からのみならず、周囲の空間からも魔力を取り込んだようで──魔力が渦巻いているのが感じられる。
魔法陣に中に感じる渦巻く魔力は、やがて集い、濃密に凝縮していって一つの形を成していく。
その時、伸ばしていた俺の右手の甲に鋭くも熱い痛みを感じ、それと同時に“魔法陣の中にあるもの”と、俺の中でナニカが繋がったような感覚を覚えて──次の瞬間、爆発するように球状魔法陣が砕け散り、その衝撃で吹っ飛ばされ、壁にしたたかに背中を打ち付けてしまった。
上げそうになった声を我慢して、何があったのかと視線を上げた先。そこには──
白い
俺を見る凛とした双眸は、蒼穹の如く深く、静かで。
俺に向けて一歩踏み出した彼女の動きに合わせ、黒いリボンで後頭部でポニーテールに纏められた、サラリとした金の髪が揺れる。
その姿は、気高くも美しい──白百合の姫騎士。
そして彼女は俺の前に立つと、一瞬──ほんの一瞬微苦笑を浮かべ、直ぐに真剣な眼差しになって俺を見据え、言葉を紡ぐ。
「──問おう、貴方が私のマスターか」
※※新たな【スキル】を獲得しました!※※
『令呪』:アクティブ。三画からなり、一画それぞれに膨大な魔力を内包する、特定異世界に由来する魔術刻印。その性質は本来のものとは大きく変質している。
・召喚者と被召喚者との間に強いパスを構築する。
・篭められた魔力を開放することにより、召喚者とのパスを通して被召喚者へ魔力を送ることができる。
・魔力の回復及び全能力を強化させる。
・『令呪』が由来する特定異世界と同じ世界から召喚された被召喚者に対しては、効果が増幅、および強化に寄らない特殊な現象を起こすこともできる。
・使用した令呪は72時間に一つのペースで魔力が充填される。
・『リンカーコア』との複合効果:充填時間が24時間に短縮。
【プレイヤー名】
長月 葉月 [Hazuki Nagatsuki]
【称号】
『第三次召喚者』:異世界から召喚された『深遠なる迷宮』第三次攻略者。出身世界は『地球』。
『召喚師』:召喚術を使用して戦う者。
『魔導師』:特定異世界の魔法を使用する者。前提条件:スキル『リンカーコア』。魔法使用全般にボーナス。スキル『リンカーコア』を前提条件に持つ魔法の使用・習得にボーナス。
『魔法剣士・Lv4』:剣と魔法を駆使して戦う者。『ソード』の扱いに中程度のボーナス。魔法使用全般にボーナス。
『
『討伐者・血染めの赤骨』:ネームドモンスター『
『討伐者・狂おしき水禍』:ネームドモンスター『
『討伐者・不動の鉄壁』:ネームドモンスター『
【ユニークスキル】
『キャラクター召喚・Lv2』
:術者の知る創作物のキャラクターを召喚することができる。連続召喚時間は最大3時間。送還後、召喚していた時間と同時間の
派生スキルの効果を除き、1日に於いて召喚できるのは1キャラクターのみである。また、連日で同じキャラクターを召喚することはできない。1日の基準は午前0時であり、それを基準にしてスキル使用不能時間もリセットされる。
召喚可能キャラクター
『フェイト・テスタロッサ』
『アルトリア』
派生スキル
『
【召喚可能キャラクター】フェイト・テスタロッサ:『高町なのは』
【スキル】
『アーサリア言語』:パッシブ。迷宮の王より付与された初期スキル。この世界の言語を使用することができる。
『戦場の心得・Lv4』:パッシブ。圧倒的不利な状況から生還した。戦闘時に平常心を保つことができる。各種精神系バッドステータスからの回復にボーナス。各種精神系バッドステータスにかかる確率が大きく減少する。格上及び対複数との戦闘時に能力補正+。
『リンカーコア』:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器官。特定異世界の魔法を使用することができる。保持魔力量にボーナス。魔法使用全般にボーナス。魔力回復にボーナス。
『召喚師の極意・Lv2』:パッシブ。特定条件を満たす事により、最大召喚時間が延長され、
【延長時間】フェイト・テスタロッサ:2時間05分
【減少時間】フェイト・テスタロッサ:1時間00分
『ミッドチルダ魔法』:アクティブ。特定異世界に属する魔法の一系統。前提条件:スキル『リンカーコア』。
[念話] [バリアジャケット] [リングバインド] [ラウンドシールド] [飛翔魔法] [フォトンランサー] [スプラッシュエッジ] [フィジカルヒール] [ディバイドエナジー]
『令呪』:アクティブ。三画からなり、一画それぞれに膨大な魔力を内包する、特定異世界に由来する魔術刻印。その性質は本来のものとは大きく変質している。
・召喚者と被召喚者との間に強いパスを構築する。
・篭められた魔力を開放することにより、召喚者とのパスを通して被召喚者へ魔力を送ることができる。
・魔力の回復及び全能力を強化させる。
・『令呪』が由来する特定異世界と同じ世界から召喚された被召喚者に対しては、効果が増幅、および強化に寄らない特殊な現象を起こすこともできる。
・使用した令呪は72時間に一つのペースで魔力が充填される。
・『リンカーコア』との複合効果:充填時間が24時間に短縮。
『アナライズ』:アクティブ。解析魔法。アイテムやモンスター等の情報を取得する事ができる魔法。術者の能力と、対象の性能や能力によっては、情報を取得できない場合がある。
『フィールド・アナライズ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。術者が居る階層の地図を表示する。但し、術者が移動したことのあるエリアに限る。前提条件:スキル『アナライズ』
『アーカイブ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。『アナライズ』を使用した時に自動取得される。『アナライズ』によって得た情報を閲覧する事が出来る。前提条件:スキル『アナライズ』。
『直感』:パッシブ。所謂第六感。気配の察知等に鋭敏になる。前提条件:スキル『戦場の心得・Lv3』。
『