深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase37:「順調」

午後フェイトを召喚した際、召喚可能時間に何となく違和感を覚え、もしかしてと思いながらステータスウィンドウを開けば、そこに表示されている『※※【スキル】情報が更新されました!※※』の文字。

 

「葉月、何かあった?」

 

 不意にウィンドウを開いたからだろう、フェイトに問われて「召喚時間が20分ぐらい延びてる」と答えると、「え?」と驚いた表情を浮かべるフェイト。

 

「……午前中って何か特別なこと、あった?」

「いや、無い……と思うけど、この延長の条件がよく解らないから、正直なところは何とも」

「だよね」

 

 顔を見合わせて互いに首をかしげ、しばしの間考えるも、特には何も思いつかない。

 ……結局のところ、時間が増えたのは悪い事じゃないから良いかと、棚上げする形ではあるけれど、一旦置いておく事にした。悩んでいる時間も惜しいしな。

 さて、気を取り直して。

 今日は昨日の続きである7階の探索の残り。これはそれほど時間をかけずに終わるだろう。その後は8階の探索だ。

 7階は思っていたよりもすんなりと行きそうだけど、8階も同じように行くとは限らないし……いやそれ以前に、7階だってまだ何があるか解らないんだから、慎重に、気を引き締めて行こう。

 そんな事を軽く打ち合わせしてから、よしっと気合を入れてフェイトと共に迷宮へと入る。

 6階は例の如く、飛行の練習を兼ねて湖の上を飛んでショートカット。余り高度を上げずに飛んでいると、時折湖の中からこちらを窺うサハギンの姿が垣間見える。とは言え流石に向こうの攻撃が届く範囲には入らないようにしているので、何かされると言う事はないのだけど。

 昨日と同じように、途中で祭壇のあった島へ一度降り、フェイトに飛翔魔法についてアドバイス等を受けたりしつつ、7階へ入る。

 迷宮に入る前に話した通り、残り僅かと言えど慎重に探索を進めること1時間ほど。結論から言うと、7階の探索は特に何か有る訳でもなく、順調に終わった。

 今は8階に下りるための階段の前に居る。フェイトの召喚可能時間は残り3時間40分程度。ここまでの移動時間を考えるに、8階の探索に使えるのは2時間と40分と言ったところか。

 時間の確認をした後、フェイトと並んで階段を下りる。そして下まで下り切り、出口をくぐって8階に足を踏み入れた、その時だった。

 耳に届いた、ヒュッと言う複数の風切り音。それとほぼ同時に──

 

《Defencer》

 

 聞こえたバルディッシュの声とともに、俺とフェイトの前方を半球状に包むように魔力障壁が生み出される。その直後、障壁に連続で矢が当たり、貫くことなく弾かれて地面に落ちた。

 それを合図に咄嗟に武器を構えた俺達の視線の先には、5体のスケルトン・アーチャーと2体のスケルトン・スピア。そして1体のスケルトン。

 敵の戦力を把握しているうちに、スケルトン・アーチャー達が再び弓に矢を番えるのが見えた。それに対し、フェイトが自分の前に3つのフォトンスフィアを生成する。

 そこにスケルトンと2体のスケルトン・スピアが武器を構えて突っ込んできて、同時に斉射されるスケルトン・アーチャーの矢。

 フェイトの直ぐ側に居た俺は、彼女を範囲に含むようにラウンドシールドを展開。飛来した矢を防ぐと同時に、迫ってくる敵前衛にバインドを掛ける。

 3体の敵前衛のうち、完全に拘束できたのはスケルトン・スピアが1体。スケルトンは左腕のみをリングバインドが拘束し、もう1体のスケルトン・スピアは失敗だった。

 まあ、もとより全部を拘束できるとは考えていない。俺はクリムゾン・エッジを構えると、間近まで迫ったスケルトン・スピアに相対し、突き込まれた槍を受け流して切り結ぶ。

 

「ファイア!」

 

 その間にフェイトがフォトンランサーを撃ち放つ声が聞こえ、5体のスケルトン・アーチャーのうち、3体の頭蓋骨が弾けて砕け、残りの2体の弓を持つ腕が肩口から粉砕されるのが見えた。

 そこにスケルトン・スピアが再び槍を突き込んでくる。

 俺はそれを下から掬い上げるように剣を振るい、槍を跳ね上げて防ぐと同時に、それによって空いた懐へと飛び込んで横薙ぎに一閃。腰骨の辺りからスケルトン・スピアの胴体を両断する。

 グラリと上半身が崩れたところに、頭蓋骨を剣で突き砕くと、そのままバインドで拘束したスケルトンへ。

 どうやらもう1体のスケルトン・スピアは、残ったスケルトン・アーチャーへ止めを刺しにいく途中に、フェイトが処理して行ってくれたようだ。

 接近したところで、スケルトンは拘束されていない右手にもった剣を振るってくるが、制限された動きとバランスで振られたそれに当たる道理はなく、問題なく躱して頭蓋骨を両断する。

 ザラッとスケルトンが魔力へと変わるのを確認し、スケルトン・アーチャーが居た方へと視線を向けると、既に倒し終わったらしく、フェイトが周囲を警戒しているところだった。

 俺の視線に気付いたのだろう、近寄ってきて「お疲れ様」と声を掛けてくるフェイト。

 フェイトが差し出してきた魔結石を受け取って、自分が倒した分も回収する。

 

「それにしても、いきなりスケルトンの混成部隊の奇襲とは……びっくりした」

「うん。やっぱり、階段とか部屋に入った直後とかは、特に気をつけないとね」

「だなぁ。バルディッシュに感謝だ」

《No problem》

 

 ひとしきりそんな会話をした後、「それじゃ、改めて気を引き締めて行こうか」と声を掛けて促し、探索に移る。

 やはり油断は大敵だ。頑張っていこう。

 

 

……

 

 

 8階の探索を開始してから解ったのは、どうやらこの階はいくつもの小さな部屋が繋がって構成されていると言うこと。

 それぞれの部屋は1~2メートル程の壁で隔てられて隣り合っており、長い通路のようなものは今のところ存在していない。

 部屋と部屋を結ぶのは、壁の一部に空いた穴で、扉のような構造物は無い。

 そして1つの部屋毎に、それぞれ5~8体程のスケルトン系モンスターが部隊を組んで常駐しているようだ。

 

「何だか、急に人工的になったね」

 

 フェイトのそんな言葉に首肯して同意する。

 今までの階は、例えば階段なんかに人工的な要素は見受けられたけれど、その他の構造は飽くまで自然の洞窟の様相を崩してはいなかった。けどこの階の作りは、明らかに「人の手が入っている」と思わせるものだからだ。

 とは言えそれが俺達に何か関係するのか、と問われれば、首を傾げざるを得ないのだけれど。

 そもそも、この『深遠なる迷宮』とか言うもの自体の、存在と言うか成り立ちと言うか、全貌どころか概要すら解らないのだから、その一部を構成するだけの『洞窟エリア』のことがよく解らなくても無理も無いだろう。

 その後も順調に探索を続けること1時間ぐらいだろか。地図で言えば南東の端の方にある小部屋でソレを見つけた。

 他に出入り口の無い行き止まりの部屋の、更に奥まった辺りに佇む、胸の辺りに赤い宝石のような核を持つ、のっぺりとした2体の人型の石像。

 

「葉月、あれって……」

「うん、2階で見たやつだな。ってことは……」

 

 そう言いつつ石像の後ろの方を見てみれば、そこに見えるのは俺の膝丈ぐらいの小さめの箱。

 「やっぱり」とフェイトと視線を交わす。

 以前戦った時のことを考えると、あれは一定の範囲に入ると動いて襲い掛かって来るはず。そんなわけで、反応しない程度に近付いて、改めて石像を見やる。

 2階に居たのは剣と槍を持ったやつが1体ずつだったけど、ここにいるのは両方とも石で出来た剣を持っているようだ。

 それ以外の見た目は全部同じだし、恐らく弱点も変わらないと思うけど……。

 いきなり動くなよ? と思いつつ、フェイトに警戒を頼んでから石像の1体に対して『アナライズ』を使用する。……うん、これに反応するってことは無いようだ。

 

 

---

 

名前:『財宝を守護するモノ(トレジャー・ガーディアン)』レッサーストーンゴーレム

カテゴリ:魔造生物(モンスター)/ゴーレム

属性:地

耐性:物理

弱点:風・水/核

「迷宮内に点在する『宝箱(トレジャーボックス)』を守るように存在するゴーレム。一定範囲内に侵入すると反応して動きだし、攻撃を仕掛けてくる。

 人型ではあるが、装飾もなくのっぺりとした外見。胸の中心あたりに、赤い宝石のような石がはまっており、それが核である」

 

---

 

 

 どう? と訊いてくるフェイトに、ウィンドウに表示された情報を読んで聞かせる。

 

「2階に居たのと同じなのは確かみたいだね。どうする?」

「ん……アレの中身も気になるし、やるよ」

 

 彼女の問いに答えた俺の言葉に、「解った」と頷いたフェイトは、改めてレッサーストーンゴーレムをざっと観察する。

 

「それじゃあ……どうしようか。一番安全確実なのは、ここからフォトンランサー辺りで核を撃ち抜くこと、だけど……」

 

 フェイトの言葉に「それは確かに」と同意する。

 見も蓋もないようだけど、弱点が解ってる上に、そこを遠距離から高速で攻撃できる手段が有る以上、それが一番確実だろう。

 正直言えば、前回フェイトが居なければ確実に勝てなかったであろう敵に対し、今の自分がどれだけ通用するようになったかを知りたい気もするけど……。

 

「……うん。やっぱり安全に行こう。無理しなくて良い時は無理しないのが一番だ」

「了解。じゃあ私がやるね」

 

 そう言うなり、フェイトの前に2基のフォトンスフィアが生成される。

 連射よりも同時発射の同時破壊を選んだようだ。恐らく連射にした場合に、2発目に対応されるのを防ぐためだろうな。そんなことを予想した直後、スフィアからフォトンランサーが射出される。

 飛来するそれに一瞬反応を見せたレッサーストーンゴーレムだったが、フォトンランサーの弾速に対応することも出来ずに核を正確に撃ち砕かれた。

 

「お見事」

 

 哀れ石像は、その使命を全うするどころかまともに動くことなく、ザラリと魔力の粒子へと変わっていった。それを見届けて安全を確認し、途中で魔結石を回収しつつ宝箱(トレジャーボックス)へ向かう。

 「何が入ってるかな」なんて、いつかと同じようにどことなく楽しみな様子のフェイトに思わず笑みが漏れた。

 

「役に立つものだと良いけど」

「だね」

 

 そんなやりとりを交わしつつ、それでもやはり慎重に、念のため宝箱を一頻り調べて、罠の類が無いかを確認し──とは言え本当にざっと調べる程度なんだけど──一度フェイトと顔を見合わせて頷きあった後、蓋を開いた。

 ギギッとどこか軋むような音を立てて開いたそこには、10センチほどの大きさの、両端が角錐状になっている水晶が一つ。……記憶の水晶(メモリークリスタル)だ。

 

「覚えられるスキルは……『アローレイン』だってさ」

「スキルの詳細は解らないんだっけ……ねえ、試しにそれに『アナライズ』を掛けてみたらどうかな?」

「おお」

 

 思いがけないフェイトの提案に、思わず感嘆の声が漏れた。なるほどと言うか目から鱗と言うか……何にせよ試してみる価値はあるな。

 流石はフェイト、と一頻り感心してから早速『アナライズ』を使用する。

 

 

---

 

名前:記憶の水晶(メモリークリスタル):『アローレイン』

カテゴリ:道具/魔法道具

「『先人達の遺産、魂の残滓、可能性の鍵』。【スキル】が封じ込められた水晶で、使用することによってその中に篭められた【スキル】を身につけることができる。

 中に封じられているスキルは、水晶の中に文字で表記されており、『ロード:スキル名』のキーワードを唱える事によって習得が可能」

  ・習得可能スキル:『アローレイン』

   「撃ち出した矢の周囲に、魔力で出来た複製体の矢を生成する。生成される複製体の数は、本体の矢に篭められた魔力量に比例する。前提条件:称号『弓士』及び派生称号」

 

---

 

 

「……むぅ」

「だめだった?」

「ん? ああ、いや、解ったんだけど……俺じゃ覚えても意味が無い事も解った」

 

 表示された情報からそう言った俺に、フェイトは「どういうこと?」と小首を傾げる。

 その問いに「どうやら特定の【称号】が必要みたいだ」と説明し、表示された内容を読み上げると、フェイトは「なるほど」と頷いた。

 

「それじゃあ、これは置いていく?」

「いや、この先弓を使うプレイヤーに会った時に役立つかもしれないから、とりあえず持っていくよ」

 

 折角手に入れたものだしね、そう続けると、フェイトは「そうだね」と同意して、

 

「じゃあ、今日はもう戻ろうか? 帰りの時間を考えると、そろそろ限界だよね?」

 

 フェイトの言葉に改めて時間を確認すると、確かに戻るのにかかりそうな時間を考えると潮時のようだ。

 フェイトに「そうだね」と返事をしつつ、一度『フィールド・アナライズ』を使用して現在のマップ状況を確認。……今のところ3分の1も埋まっていなさそうだ。

 この階は小部屋に別れているために全体の把握はしやすいのだけど、部屋毎にスケルトン達との戦闘があるために中々探索が進まなさそうである。

 一度倒した敵がどれほどで再出現するのか──それともしないのか──はまだ解らないが、それも恐らくこの帰り道である程度は把握できるだろう。

 とは言え──

 

「……先は長そうだ」

 

 そんなことを声に出してしまったところで、不意に右の二の腕に触れる感触。

 そちらを見れば、フェイトが手を添えていて、

 

「順調に進んでるのは確かなんだし、焦らずしっかり、頑張っていこう」

 

 「私も頑張るから」そう言って微笑むフェイトの気遣いが嬉しく、「ありがとう」と返し、開きっぱなしだったウィンドウを閉じて帰路に着いた。


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