深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase33:「水禍」

「ジャアアアァァァァアーーーーーーーーー!!!!」

 

 響き渡る咆哮。立ち上がる巨躯。怪しく輝くは、俺達を睥睨する4つの瞳。

 『狂おしき水禍(メイルシュトロム)』クェールベイグ。名前しか解らぬその大蛇は、ゆらりと鎌首をもたげて俺達を見据え、チロリと血のように赤い舌を覗かせる。

 次の瞬間、俺達を押し潰さんとするように、クェールベイグがその巨躯を倒すように降らせてくる。

 

「っ!」

「葉月!」

 

 フェイトと同時に、弾かれるようその場を飛び退き、その巨躯が祭壇を粉砕するのを横目に、抜き放ったクリムゾン・エッジを一閃。

 ギャリッと金属の擦れるような音を立て、刃が大蛇の鱗に僅かながらの傷を付ける。

 ──硬い……けど、鱗のない場所を狙えば何とか、と言うところか。

 そう判断し、一旦下がろうとした俺を影が覆う。

 

「葉月、横に避けて! 『アークセイバー』!!」

 

 フェイトの警告の声に、咄嗟に横へ飛びのく。

 避けながら上を見上げれば……長い身体を利用して死角に廻してきたのか、俺に叩きつけようとされているクェールベイグの尾と思わしきもの。どうやら『ネームドモンスター』何て謳われているだけに、知能も高いらしい。

 僅かに躱しきれないかと思った矢先、フェイトが放った魔力刃が尾に直撃。とは言えそれで大きな質量を持つ大蛇の尾を凌げるはずもなく──

 

《Saber Explode》

 

 バルディッシュの声が耳に届くと同時に、突き刺さっていた魔力刃が爆発を起こし、僅かにクェールベイグの尾の軌道が逸れる。

 ズンッと言う重い音を立て、俺の目の前を掠めるように、クェールベイグの尾が地面を揺らした。その直後、俺に当たらなかったことを感触から判断したのだろう、大蛇はそのまま尾を薙ぎ払うように振るってくる。

 これは躱せない。そう判断した俺は、自分の身体と尾の間に割り込ませるように、咄嗟にラウンドシールドを展開しながら、衝突の瞬間に合わせて後ろに跳んだ。

 ガンッと凄まじい音を立て、俺の全身を衝撃が襲う。

 

「グッ」

 

 かみ締めた口から呻き声が漏れ、吹っ飛ばされた先で地面を幾度かバウンドし、転がったところで受け止められた。

 

「大丈夫!?」

「……ありがと。何とか生きてる」

 

 受け止めてくれたフェイトに礼を言って、その場に立ち上がる。

 身体の各所は痛むが、まだ戦闘は可能。……着てる防具がバリアジャケットだったのと、立ち位置が敵に近かったのが幸いしたってところか。

 どうやら剣は落とさなかったらしい。……って言うか刃がむき出しのまま吹っ飛んだのか、俺。改めて見ると、マントの一部がスッパリ切れていた……危ねえ。

 一方でクェールベイグは、吹っ飛ばした俺が立ち上がったのを見て、ゆらりと身体を揺らす。

 それを見て嫌な予感……がしたのは、俺だけじゃなかったらしい。

 次の瞬間、俺を抱えて飛び上がったフェイト。そんな俺達の真下を、クェールベイグの身体が轟音を立てて通り過ぎる。今度は頭の方を使った薙ぎ払いか。

 それが通り過ぎたのを見て、フェイトに離してもらって着地。直ぐに再び鎌首をもたげたクェールベイグへ向けて駆け出す。

 俺に気がついた奴がこちらに視線を向け──その時を狙ったか、フェイトのフォトンランサーが数発、奴の鼻先に突き刺さり、雷撃を伴った小規模の爆発を起こす。

 

「シャアア!!」

 

 苦悶の声、とでも言えばいいか。咆哮とは違う声を上げて、空中に居るフェイトへ視線を向けるクェールベイグ。

 フェイトはフォトンランサーを撃った直後にバルディッシュをサイズフォームへ変え、クェールベイグへ向かって飛ぶ。

 その隙に俺は奴の懐に飛び込み、鱗の無い腹に向けて剣を横薙ぎに一閃。血のように金の魔力が噴き出し、大気に溶ける。

 それを視界に収めつつ、そのまま返す刃で上段から縦に一太刀。振り下ろした刃を左下から右上に切り上げの一閃。腕を廻して右から左に横薙ぎに切り払う。

 

(葉月、右後ろから薙ぎ払い)

 

 流石にこれだけ斬られれば俺にも奴の注意が向くのか、自身の身体の直ぐ近くに居る俺に対し、尾で薙ぎ払いを掛けてきたらしい。

 フェイトの念話に従って、左前方に駆け出してクェールベイグの横に回り込むと、その直後、俺の後ろを猛烈な風切り音が通り過ぎた。

 それに構わず身体を回すように一閃。とは言えこれは鱗に阻まれ、余り効いていないようだ。その時、クェールベイグがゆらりと頭を揺らし、次の瞬間急激に大きく振るう。

 視界の端にフェイトが離れるのが見えたことから、恐らく彼女を狙っての行動かと判断し、俺も一旦離れて仕切り直すかと大蛇の動きに注意しつつ後ろに下がり──再びの風切り音。

 視線を向けた先から迫り来る尾……って、フェイトを狙うように見せかけて、彼女を遠ざけてから俺か!?

 前後左右に逃げ場は無い……残る場所は一つ──

 ……飛翔魔法を使って飛ぶ際、全力機動を行うと術者の身体を魔力光が取り巻く。それはすなわち、飛翔魔法を使っている時は、術者の身体は常に魔力で覆われていて、全力機動を行うために魔力の密度が上がり、魔力光が見えるのではないか。

 つまり今俺がすべきは……リンカーコアから魔力を引き出し、全身を覆うように纏わせること。

 そして魔力自体には指向性を持たせ──上へ!

 

「くっ……飛べぇ!」

「葉月ぃ!!」

 

 咄嗟に自分の口から漏れた声と、フェイトの悲痛な声が耳に届く中──俺の真下(・・)を、蛇の尻尾が轟音を立てて通り過ぎた。

 その直後フェイトが俺の元へ飛んで来て、すぐに俺を抱きかかえるように大蛇から離れる。

 

「葉月、大丈夫!?」

 

 島の端の方まで離れ、地上に降りたところでフェイトに問われ、「大丈夫だよ」と返し──ほっと、息を吐く音が聞こえた。

 

「ぶっつけ本番で飛べたのは凄いけど……余り無茶しないで」

「ごめん。けど、何ていうか、何とかなるもんだな」

 

 方法が合っているかは知らないけれどと、飛べたことを指して言う俺に、フェイトは「もうっ」と一言。

 その時だった。

 

「ジャアアアア!!!」

 

 今のでも俺を仕留められなかったことに苛立っているのか、クェールベイグの咆哮が響き渡る。

 そしてそれに呼応するかのように、周囲から聞こえる、ザバリと言う水音。

 クェールベイグの動向に注意しつつ、後ろ──湖の方を窺えば、そこに居たのは、魚の頭に人間の胴体を付けたような、背中や肘、足にヒレが生えた、緑色の表皮をした二足歩行のモンスターが沢山。パッと見ただけでも10匹以上は居るだろう。

 その手には三又の矛(トライデント)が握られている。

 クェールベイグとは少しだけ距離が離れたので──とは言えあの巨体にとっては大した距離ではないだろうが──新たに現れた半漁人に『アナライズ』を使用する。

 

 

 

名前:サハギン

カテゴリ:魔造生物(モンスター)/亜人

属性:水

耐性:水

弱点:火・雷

「主に湖や大河、海に棲息する水棲型モンスター。亜人のカテゴリに分けられているが、知能は然程高くなく、魔獣として扱われる。水竜やシー・サーペントを神として崇め、またそれらの眷属として使役されることも多い。主な武器は三又の矛(トライデント)

 

 

 

 直ぐにウィンドウを消し、フェイトに簡単に情報を伝えると「解った」と返ってくる。

 その間にもクェールベイグはこちらに接近してきており──最初と同じように、俺達の上に倒れこむように、押し潰す攻撃を仕掛けてきた。

 俺達はそれを左右に別れるように回避。俺とフェイトの間を両断するように、地響きを立ててクェールベイグの巨体が地面を揺らす。

 それに体勢を崩されないよう脚に力を入れながら、距離を空ける前になるべく鱗に覆われてない場所を狙い、低めに剣を一閃。

 クェールベイグが「シャアアッ」と声を上げ、その直後、俺の上空に飛び出したフェイト。その手に持つバルディッシュがサイズフォームなところから見て、俺と同じように躱した直後に攻撃したんだろう。

 

(葉月、後ろ)

 

 フェイトの念話に後ろを窺えば、俺に向けてトライデントを突き出そうとしているサハギン。それを右に跳んで躱し、振り向き様に横薙ぎに剣を振るう。

 その間にクェールベイグは上空のフェイトに顔を向け──それによって上がった頭の内側に飛び込み、鱗に覆われていない胴体を斬り付ける。

 血飛沫のように魔力が舞う中、俺に向けてサハギン達が殺到する。

 クェールベイグは自身の下で斬りつけてくる俺が鬱陶しいのか、上げた頭を落としてこようとし──バチリと言う放電と共に、敵の動きが静止した。その巨体故にクェールベイグの静止は僅かだったが、それでも脱出には充分。

 サハギン達の間をすり抜けるように下がる俺と、それまで俺の居た場所を押し潰すクェールベイグの巨体。それとほぼ同時に響き渡るフェイトの声──

 

「サンダーー!」

《Thunder Rage》

「レーーーーイジッ!!」

 

 降り注ぐ雷光は十数匹居たサハギン達を尽く魔力へ還し、クェールベイグを蹂躙する。

 

「ジュルァァァァアアアアア!!!」

 

 それによって、今までにない苦悶の声を上げてのたうつ大蛇。

 その様子にもしかしてと思った俺は、弱った今ならと思いながら、もう一度クェールベイグへ『アナライズ』を使用した。

 現れたウィンドウに表示された文字をざっと流し見て──やっぱりと独り言ちる。

 

 

 

名前:『狂おしき水禍(メイルシュトロム)』クェールベイグ

カテゴリ:魔造生物(モンスター)/魔獣/ネームド

属性:水

耐性:水・火

弱点:雷

「『凪の地底湖』の主。かつてエルジアイナ地方にあるアイナ湖に生息し、湖畔の町や村を幾度と無く脅かした、淡水に適応したシー・サーペントの亜種。『湖畔の聖女』によって、湖の一部ごと『大洞窟(グラン・ホール)』に封じられた」

 

 

 

(フェイト、弱点が解った。雷属性だよ)

(解った、任せて)

 

 フェイトとそんなやり取りを交わしたのを察した……と言うわけではないだろうが、クェールベイグが水中へと入っていく。

 ある程度の追撃をかけるも、それに反応を示さず水中に入る奴の姿に一瞬逃げるのかと思ったが、すぐに50メートル程離れた場所に現れた奴の姿を見て、そんな考えは捨て去った。

 クェールベイグは俺達に向けて口を開き──ドッと空気を震わせる音を立て、そこから俺の背丈程もありそうな、巨大な水球を撃ち出して来た。

 

「伏せて!」

 

 フェイトの声に従って地面に身を投げ出すように伏せると、俺の頭上を掠めて水弾が背後に着弾。水が轟音を立てて弾け、地面を抉る音が聞こえた。

 後ろの様子を窺う暇もなく、クェールベイグは第2射を放ってくる。今度は……直撃コースかっ!

 起き上がった俺の隣に降り立ったフェイトと、ほぼ同時にラウンドシールドを展開。

 

「葉月、角度を調整して逸らすようにするから、私に合わせて」

「解った」

 

 重ね合わせるように展開したラウンドシールドを、フェイトのものに合わせて調整したところで、水弾が直撃。凄まじい圧力に襲われるも、水弾はラウンドシールドの上を滑るように流れ、俺達の背後に着弾した。

 凌いだか、と息をつく間もなく、クェールベイグはもう一度潜水と浮上を繰り返すと、再び俺達に向けて口を開く。

 あれは……水弾に使う水を補給してるのか。

 再び放たれる2発の水弾。

 それのコースを見て躱す間に、クェールベイグは再度水を補給していた。

 撃たれる前に反撃をと思うが、自分に遠距離攻撃が無い事が悔しく──いや、違う。手段ならあるだろう。フェイトにはやり方は教わった。もう大分形にはなっている。後は俺が成功させるだけじゃないか。

 

「……フェイト、俺が何とか隙を作るから──」

「葉月……うん、信じてる。バルディッシュ」

《Get set》

 

 大丈夫。飛ぶことだって出来たんだ。これぐらい!

 フェイトが上空に飛び上がるのを見送りつつ、リンカーコアから引き出した魔力を使って、『槍状の魔力弾を撃ち出す』と言うプログラムを持たせた発射体(フォトンスフィア)を形成。

 再びクェールベイグが姿を現した、今!

 

「『フォトンランサー』、ファイア!」

 

 俺の発したトリガーに応じて、形成したフォトンスフィアから3発の魔力弾(フォトンランサー)が射出された。

 1発は胴体を掠めて後方の水中へ、1発は胴体へ、そして最後の1発はその顔面、丁度目の辺りに直撃。

 全部顔面を狙ったつもりだったんだが、流石に精度は甘いか。……それでも当たった……っていうか、上手く撃てただけ良しとすべきだな。

 そして当たった場所が場所だけに苦悶の声を上げたクェールベイグの注意は完全に俺に向いているようで──

 

「撃ちぬけ、轟雷!」

《Thunder Smasher》

 

 その時点でようやく、奴が最も警戒すべきフェイトの気配が、自分の真上にあることに気がついたのだろう。水弾を放とうとしたのか、顔を上に向けて口を開けたクェールベイグの巨体を、直上の天井付近から撃ち放たれた砲撃魔法が呑み込んだ。

 声も上げることなく倒れ、派手な水柱を上げて水中に沈みこんでいくクェールベイグ。

 その間にフェイトが俺の隣に戻ってきて、

 

「……葉月」

「ん?」

「流石だね」

 

 そう言ってふっと小さく微笑む。

 俺が土壇場で成功させたことについてだろう。むしろフェイトの砲撃魔法の方が流石だなと思うんだけどと思いつつ、「ありがとう」と返した、その時だ──。

 爆音と言って差し支えない音を立てて、俺達の眼前に現れた大蛇。

 その身は先ほどのサンダースマッシャーによって、いたるところが焼け焦げ、満身創痍と言える状態ながらも、俺達を喰らおうと迫る(あぎと)

 

「葉月!」

「解ってる!」

 

 奴が魔力に変わったのを確認していない以上、生きている可能性は充分にあるのは言うまでも無いことだった。だからこそ、油断だけはしないようにしていたので、奇襲に焦ることなくその噛みつきを後ろに跳びすさり、躱すことができた。

 俺とフェイトに躱されたことで、空を切ったクェールベイグの顎が大地を喰らうように突き刺さり、余りの勢いに奴の動きが止まる。

 

《Scythe Slash》

「はああ!」

 

 その瞬間にフェイトが斬りかかり、タイミングを同じくして、恐らく俺のフォトンランサーが当たった場所だろう、潰れた右目に、渾身の力を込め、体当たりするように剣を突き刺し──

 

「ジャアアアアアアア!!!」

 

 クェールベイグの咆哮と共に、半ば地面にめり込んでいる口腔から水弾が噴き出し、地面を爆砕する。

 弾けとんだ土石が間近に居た俺を撃ちつけ、手の中からクリムゾン・エッジが弾かれてしまった。

 攻撃の手が止まったのを察したか、その隙に身を捩り、脱出しようとするクェールベイグ。けど、まだ!

 

「おおおおおお!!」

 

 溢れるように、裂帛の気合を上げていた。

 振り上げた右手に魔力が集中され、そのまま殴りつけるように、先程狙ったのと同じ場所に向けて、

 

「『スプラッシュエッジ』!!」

 

 叩き込む!

 

「ァァアアアアアアア……」

 

 上がったのは断末魔の声か。

 俺の右手から伸びるように生成された魔力刃が、クェールベイグの眼窩を貫いて突き刺さる。そしてそれが致命傷になったのだろう、ビクリと一度大きく身体を震わせ、今度こそ、魔力に還っていくクェールベイグ。

 ……その光景を見てようやく勝てたことを実感し、ガクリと力が抜け、その場に座り込んでしまった。

 そんな俺にフェイトが駆け寄って来て、その顔に浮かんだ笑顔を見て、ようやく大きく安堵の息を吐いた。

 

 

 

 

※※新たな【称号】を獲得しました!※※

 

『討伐者・狂おしき水禍』:ネームドモンスター『狂おしき水禍(メイルシュトロム)』クェールベイグを討伐した。

 

 

※※【称号】情報が更新されました!※※

 

『魔導師』:特定異世界の魔法を使用する者。Unknown。スキル『リンカーコア』を前提条件に持つ魔法の使用・習得にボーナス。前提条件:スキル『リンカーコア』。

 

 

※※【称号】がレベルアップしました!※※

 

『魔法剣士・Lv3』:剣と魔法を駆使して戦う者。『ソード』の扱いにボーナス。魔法使用全般にボーナス。

 

 

※※【スキル】がレベルアップしました!※※

 

『戦場の心得・Lv3』:パッシブ。格上の敵と戦い、勝利した。戦闘時に平常心を保つことができる。各種精神系バッドステータスからの回復にボーナス。各種精神系バッドステータスにかかる確率が減少する。

 

 

※※【スキル】情報が更新されました!※※

 

『リンカーコア』:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器官。特定異世界の魔法を使用することができる。保持魔力量にボーナス。魔法使用全般にボーナス。Unknown。

『ミッドチルダ魔法』:アクティブ。特定異世界に属する魔法の一系統。前提条件:スキル『リンカーコア』。

  [念話] [バリアジャケット] [リングバインド] [ラウンドシールド] [飛翔魔法] [フォトンランサー] [スプラッシュエッジ]

 

 

※※新たな【スキル】を獲得しました!※※

 

『直感』:パッシブ。所謂第六感。気配の察知等に鋭敏になる。前提条件:スキル『戦場の心得・Lv3』。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

「フェイト、少しいいか?」

 

 次元空間航行艦船『アースラ』。

 自室に戻るために通路を歩いていたフェイトは、後ろから呼び止められて振り返ると、真剣な面持ちのクロノが立っていた。

 

「いいけど、どうしたの?」

「君に頼まれていた件なんだが──」

 

 そう言われ、思いつくのは葉月のこと。

 フェイトは『時空管理局嘱託魔導師』と言う肩書きを持ってはいるが、現在の彼女の立場も相まって、そう自由に動けるわけではない。

 葉月の事例に関しても、本来であれば『無限書庫』と呼ばれる時空管理局本局にある、膨大な資料を所蔵しているアーカイブで調べたいところではあったが、彼女自身ではそれも適わない状況だった。

 とは言え何もしないのは嫌だ。今すぐに彼を帰せないとしても、せめて家族の状況を調べて知らせてあげたい。

 そう思った彼女は、数日前にクロノに頼んでいたのだ。

 恐らくその件だろうと思い、「もしかして、葉月のこと?」と問うと、思った通り「そうだ」と首肯するクロノ。

 だが、彼の表情は決して明るいものではなく、フェイトは言いようの無い嫌な空気を感じて、知らずゴクリと喉を鳴らした。

 

「『長月葉月』。彼は確かに、『地球』の『日本』出身のはずだな?」

「うん、そう言ってたけど……?」

「フェイト、落ち着いて聞いて欲しい。実は──」

 

 聴きたくない。でも、聴かなきゃいけない。

 そんな背反する想いを抱き、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られるフェイトに、彼女の想像もしていなかった言葉が突きつけられた。

 

「『日本』に『長月葉月』と言う人間は存在しない」




【プレイヤー名】
 長月 葉月 [Hazuki Nagatsuki]

【称号】
『第三次召喚者』:異世界から召喚された『深遠なる迷宮』第三次攻略者。出身世界は『地球』。
『召喚師』:召喚術を使用して戦う者。
『魔導師』:特定異世界の魔法を使用する者。Unknown。スキル『リンカーコア』を前提条件に持つ魔法の使用・習得にボーナス。前提条件:スキル『リンカーコア』。
『魔法剣士・Lv3』:剣と魔法を駆使して戦う者。『ソード』の扱いにボーナス。魔法使用全般にボーナス。
『討伐者・血染めの赤骨』:ネームドモンスター『血染めの赤骨(スカーレット・ボーン)』エルヘイトを討伐した。
『討伐者・狂おしき水禍』:ネームドモンスター『狂おしき水禍(メイルシュトロム)』クェールベイグを討伐した。

【ユニークスキル】
『キャラクター召喚・Lv1』
 :術者の知る創作物のキャラクターを召喚することができる。連続召喚時間は最大3時間。送還後、召喚していた時間と同時間のスキル使用不能時間(ディレイ)が発生する。
  召喚可能キャラクター
  『フェイト・テスタロッサ』

【スキル】
『アーサリア言語』:パッシブ。迷宮の王より付与された初期スキル。この世界の言語を使用することができる。
『戦場の心得・Lv3』:パッシブ。格上の敵と戦い、勝利した。戦闘時に平常心を保つことができる。各種精神系バッドステータスからの回復にボーナス。各種精神系バッドステータスにかかる確率が減少する。
『リンカーコア』:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器官。特定異世界の魔法を使用することができる。保持魔力量にボーナス。魔法使用全般にボーナス。Unknown。
『召喚師の極意・Lv2』:パッシブ。特定条件を満たす事により、最大召喚時間が延長され、スキル使用不能時間(ディレイ)が減少する。──重ねた心は力となり、繋いだ想いは強さとなる。それはやがて、未来を繋ぐ翼とならん──。
  【延長時間】フェイト・テスタロッサ:1時間15分
  【減少時間】フェイト・テスタロッサ:35分
『ミッドチルダ魔法』:アクティブ。特定異世界に属する魔法の一系統。前提条件:スキル『リンカーコア』。
  [念話] [バリアジャケット] [リングバインド] [ラウンドシールド] [飛翔魔法] [フォトンランサー] [スプラッシュエッジ]
『アナライズ』:アクティブ。解析魔法。アイテムやモンスター等の情報を取得する事ができる魔法。術者の能力と、対象の性能や能力によっては、情報を取得できない場合がある。
『フィールド・アナライズ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。術者が居る階層の地図を表示する。但し、術者が移動したことのあるエリアに限る。前提条件:スキル『アナライズ』
『アーカイブ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。『アナライズ』を使用した時に自動取得される。『アナライズ』によって得た情報を閲覧する事が出来る。前提条件:スキル『アナライズ』。
『直感』:パッシブ。所謂第六感。気配の察知等に鋭敏になる。前提条件:スキル『戦場の心得・Lv3』。
願い(ウィッシュ)』:Unknown。──希望は、願いの先に──。

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