深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase27:「フェイト・テスタロッサ」

 翌日の朝、召喚を行った俺の前に現れたフェイトは、まるで一晩中泣き明かしたかのような眼をしていた。

 思わず「大丈夫?」と問う俺に対し、彼女は「何のこと?」と言うように小首を傾げた後、すぐに俺の問いの理由に思い至ったのか、淡く笑みを浮かべる。

 

「うん、大丈夫。その……嬉しいことがあっただけだから」

 

 凄く嬉しくて……嬉しすぎて、泣いてしまったのだと、フェイトは言う。その言葉の通り、本当に嬉しそうな表情を浮かべて。

 フェイトが言う「嬉しいこと」が何なのかは解らないけれど、そんな彼女の様子を見ているだけで、何だかこっちも嬉しくて、

 

「それなら良いんだ」

 

 だから、と言うわけではないのだけど、何となく、目の前にあるフェイトの頭を撫でると、少しくすぐったそうにしながらも「どうしたの?」と訊いてきた。

 

「いや……フェイトが嬉しそうだったから、何となく」

「そっか」

 

 俺の答えにくすくすと鈴を転がすように笑うフェイトは、やおら俺の胸に額を当てるように、身体を預けてくる。その際に見えた彼女の表情は、つい先ほどまでとはまるで違う、憂いを帯びたもので──。

 フェイトの行動に少し驚き、「どうした?」と訊いた俺に、フェイトはそのままの姿勢で小さく首を横に振った。

 

「ん……何となく」

「そっか」

 

 そんなやり取りが何となく嬉しくも楽しく、思わず笑みが漏れる。けれどその一方で、一瞬見えた彼女の表情が気になるのも確かで。

 もう一度フェイトの頭を撫でると、サラリとした髪の毛の感触が手に感じられて心地良い。

 

「……フェイト」

「なに?」

「良い事ってなんだったのか、訊いても?」

 

 俺の発した問いに対し、少しの間沈黙が流れる。しばらくの間そのままでいると、不意にフェイトが頭を上げ、俺の顔を見上げるように見つめてきた。

 そこに浮かぶ表情は、感じさせる雰囲気は、先ほどの表情と同じで、どこか憂いを感じさせるもので──次の彼女の言葉を待っていると、

 

「……あのね、葉月」

 

 ポツリと、フェイトの口が言葉を零した。

 

「少しだけ長くなるけど、聞いてもらってもいい……?」

「うん、もちろんいいよ」

 

 彼女の言葉に頷いて返すと、フェイトは「ありがとう」と言ってから、言葉を続ける。

 

「私ね、今、ある事件のことで、裁判を受けてるんだ」

 

 そう言って「驚いた?」と問い掛けて来たフェイトは、少しだけ寂しそうに笑った後、顔を俯かせてもう一度、額を俺の胸に押し当てるように身体を預けてきた。

 そしてそのまま、彼女は静かに言葉を紡ぐ。

 春先に起きた出来事のこと。

 プレシア・テスタロッサ(PT)事件と呼ばれる、彼女が深く関わり、彼女の人生そのものを大きく変えた事件のことを。

 ずっと側に居てくれた使い魔であるアルフ。母親であるプレシア・テスタロッサ。時空管理局のリンディ提督。クロノ。真っ直ぐに、諦めずに、何度もぶつかってきてくれた……初めての友達、高町なのは。

 そして、ロストロギア『ジュエルシード』を巡る争いの果てに、何があったのか。

 

「リンディ提督が言ってくれたんだ。裁判が全部終わって落ち着いたら、『地球』に移住しましょうって。『地球』に移住して、なのはと同じ学校に通ってみない? って。……私ね、すごく嬉しかった。嬉しくて、嬉しすぎて──」

 

 そう言って、フェイトは俺の胸に顔を押し当てたまま、背中に手を回してきた。まるで、今の自分の顔を見せないようにするように。

 

「私ね、今、すごく幸せだよ。

 今はまだ会えないけど、大切な友達が、なのはがいる。まだ実際に会えたわけじゃないけれど、アリサやすずかって言う新しい友達もできた。アルフはいつも私の側にいてくれるし、リンディ提督やクロノ、それにエイミィも、すごく温かくしてくれてる。それに……葉月に出逢えて、こうして一緒にいられる。ほんとうに、幸せで──」

 

 キュッと、俺の背に回された手に力が篭るのが解る。

 

「前にね、リンディ提督に聞かれたんだ。母さんのこと、今はどう思ってる? って。今でも眼に焼きついてる。母さんが、アリシアが、虚数空間に落ちていく姿が。それを考えると、私、答えることが出来なかった。……今でもきっとそう。

 だからかな? 思っちゃうんだ。今が本当に幸せで、温かくて。けど、こんなに幸せで、いいのかなって。だって、私は──」

「フェイト」

 

 それ以上を言わせてはいけない気がして、彼女の名前を呼びながら抱き締め返すと、一瞬身体を震わせて口を噤むフェイト。

 ……これは、俺が言って良い事じゃないのかもしれない。

 その当時の彼女を実際に見たわけじゃないだけではなく、彼女が話してくれたことを『別の話』として知っている俺は。

 今しがたフェイトが話してくれたことは、細部は違う部分は多々有れど、大筋は“俺が知っている話”と同じだった。そしてその事実が、否応無く俺の胸を締め付ける。

 けど、今は……。

 

「頑張ったな」

 

 俺がそう言うと、フェイトは「え?」と言ったような表情を浮かべながら顔を上げる。そんな彼女の顔を見ながら、もう一度そっと撫でる。労わるように、想いを篭めて。

 

「辛いことも、苦しいことも有ったんだよな?」

 

 俺の言葉にフェイトはこくりと頷いて、そのまま顔を伏せた。

 

「挫けそうになったり、身体も……心も、傷つくこともあったかもしれない」

 

 顔を伏せたまま、もう一度、注意していなければ解らないぐらいに本当に小さく頷くフェイト。

 

「けどさ、それでも立ち上がって、前を向いて、一生懸命に進んできた結果が、今のフェイトだろ? ……そのフェイトが、幸せになっちゃいけないなんてことは、絶対にないよ」

 

 もう一度顔を上げて、俺を見るフェイトに視線を合わせる。嘘や、この場しのぎの言葉なんかじゃなく、本当に心からそう思っているんだって伝わるように。

 

「フェイト……良かったな」

 

 彼女はその表情をくしゃりと歪ませて──もう一度、顔を伏せる。

 俺はただ、そんな彼女を抱き締めて、撫で続けていた。

 

 

 

 その後しばらくの間そのままでいた俺達は、フェイトが落ち着いたのを見計らってそっと身体を離す。その際に名残惜しく感じてしまったけれど、それはまぁ仕方の無い事だろう。

 

「……だめだね、私。昨日いっぱい泣いたのに、今日もいっぱい泣いちゃった」

 

 ソファに並んで座ったフェイトが、そう言って恥ずかしげに頬を染めた。

 そんな彼女の様子に苦笑して、「いいんだよ」と言いながら、少し乱暴に撫でてやる。……今日はよくフェイトを撫でる日だな、なんてことが頭を過ぎって、もう一度苦笑が漏れたが。

 

「哀しい涙は止めないといけないけど、嬉しい涙は幾らだって流していいんだよ。知らなかったか?」

「……さっきの私は、どっちだったのかな」

 

 俺の言葉にそうぽつりと漏らしたフェイトは、直ぐに淡く笑みを浮かべた。

 

「ねえ、葉月。葉月はすごいね」

 

 そう言って、優しく笑うフェイトと視線が絡む。

 

「葉月に全部話しちゃったら、少しだけ、心が軽くなった気がする。私ね、もう葉月に隠すようなこと、無くなっちゃった。だから、いつか──」

 

 うん、解ってるよ、フェイト。

 ……いつか、彼女には全てを話さないといけないだろう。俺が“知っている”こと。俺にとって『フェイト・テスタロッサ』がどんな存在か。……その結果、例え彼女に嫌われることになったとしても。

 今は、今すぐは勇気が持てないけれど、いつか──きっとそう遠くないうちに、必ず。

 

 

 

 

※※【スキル】がレベルアップしました!※※

 

『召喚師の極意・Lv2』:パッシブ。特定条件を満たす事により、最大召喚時間が延長され、スキル使用不能時間(ディレイ)が減少する。──重ねた心は力となり、繋いだ想いは強さとなる。それはやがて、未来を繋ぐ翼とならん──。

  【延長時間】フェイト・テスタロッサ:1時間15分

  【減少時間】フェイト・テスタロッサ:35分




【プレイヤー名】
 長月 葉月 [Hazuki Nagatsuki]

【称号】
『第三次召喚者』:異世界から召喚された『深遠なる迷宮』第三次攻略者。出身世界は『地球』。
『召喚師』:召喚術を使用して戦う者。
『魔導師』:特定異世界の魔法を使用する者。Unknown。前提条件:スキル『リンカーコア』。
『魔法剣士・Lv1』:剣と魔法を使用して戦う者。『ソード』の扱いにボーナス。魔法使用全般に若干のボーナス。

【ユニークスキル】
『キャラクター召喚・Lv1』
 :術者の知る創作物のキャラクターを召喚することができる。連続召喚時間は最大3時間。送還後、召喚していた時間と同時間のスキル使用不能時間(ディレイ)が発生する。
  召喚可能キャラクター
  『フェイト・テスタロッサ』

【スキル】
『アーサリア言語』:パッシブ。迷宮の王より付与された初期スキル。この世界の言語を使用することができる。
『戦場の心得・Lv1』:パッシブ。戦闘時の錯乱/混乱状態より回復・生還した。戦闘時に平常心を保つことができる。各種精神系バッドステータスからの回復にボーナス。
『リンカーコア』:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器官。特定異世界の魔法を使用することができる。魔法使用全般にボーナス。Unknown。
『召喚師の極意・Lv2』:パッシブ。特定条件を満たす事により、最大召喚時間が延長され、スキル使用不能時間(ディレイ)が減少する。──重ねた心は力となり、繋いだ想いは強さとなる。それはやがて、未来を繋ぐ翼とならん──。
  【延長時間】フェイト・テスタロッサ:1時間15分
  【減少時間】フェイト・テスタロッサ:35分
『ミッドチルダ魔法』:アクティブ。特定異世界に属する魔法の一系統。前提条件:スキル『リンカーコア』。
  [念話] [バリアジャケット] [リングバインド] [ラウンドシールド]
『アナライズ』:アクティブ。解析魔法。アイテムやモンスター等の情報を取得する事ができる魔法。術者の能力と、対象の性能や能力によっては、情報を取得できない場合がある。
『フィールド・アナライズ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。術者が居る階層の地図を表示する。但し、術者が移動したことのあるエリアに限る。前提条件:スキル『アナライズ』
『アーカイブ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。『アナライズ』を使用した時に自動取得される。『アナライズ』によって得た情報を閲覧する事が出来る。前提条件:スキル『アナライズ』。

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