深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase21:「解析」

 明けて翌日。

 午前中の召喚はいつものように鍛錬に。魔法は『リングバインド』を──とりあえずは──使えるようになったので、今日からは『ラウンドシールド』を習う。

 流石にと言うか残念ながらと言うか、今日だけでは上手く感覚が掴めなかった。バインドの時は偶々上手くハマッただけだと気を引き締める。

 これに関しては毎度のことながら、焦らずしっかりとやっていこう。

 そして午前中の召喚のディレイが終わった午後4時頃。再度フェイトを召喚し、迷宮に入る。

 『フィールド・アナライズ』によるマップを見て気付いたんだが、1階もルートを変えれば階段までの距離を短縮できそうだった。

 実際にマップを出してフェイトにも確認してもらったが同意見で、あとは実際に歩いてみるか、と頷き合って歩を進める。

 結果はというと、5分程度時間を短縮できたわけで。

 

「たかが5分。されど5分ってな」

「3時間半しかないうちの5分は、貴重だよ」

「そう言う事」

 

 そんなやり取りをしながら2階へ下り、前回の探索の続きに移る。

 とりあえず『フィールド・アナライズ』でマップを出し、未踏破区域がどの辺りにあるかを確認。……残っているのは、前回アイテムボックスが有った場所に続く三叉路、そのアイテムボックスが有った場所とは反対の通路の先だけのようだ。

 

「思ってたよりしっかりと回ってたみたいだね」

 

 マップを見たフェイトがそんなことを呟く。

 確かに俺も、行っていない通路とか結構有るかと思っていたけど……まぁ、まだ2階だってことを考えれば別に不思議なことでもないけどな。

 それからフェイトともう一度確りとマップを確認しあい、最短距離を通って件の三叉路へと向かった。

 流石にあのアイテムボックスを守っていた石像のような敵が頻繁に出てきたら困るが、普通に出現するネズミやカエル、蝙蝠程度なら、俺一人でも特に苦戦する事もなく進むことが出来る。この階に出る敵の数は1階と同じで、1匹から2匹、多くても3匹程度だしな。

 それもこれも『ミッドチルダ魔法』の存在が大きい。バリアジャケットがあるお蔭で、無い時よりもより深く踏み込むことが出来るし、バインドがあるお蔭で多対一になった場合でも、ほぼ確実に1対1に持ち込むことが出来たり、相手の動きを阻害したりと戦闘自体にアドバンテージを取ることが出来る。

 まぁ、何かミスっても隣にはフェイトが居るって言うのが一番かもしれないけど。

 それにしても、【称号】や【スキル】の恩恵や、フェイトに毎日訓練をつけてもらっているお蔭であるとはいえ、一週間前の、この世界に召喚されたばかりの頃と比べると雲泥の差だな、なんて我ながら思う。この成長ペースが──迷宮の攻略者として──早いのか遅いのかは、他の『プレイヤー』と会った事の無い俺には判断はつかないけれど。

 ……それにしても、未だに他の『プレイヤー』に会っていないってのはどうなんだろうか。……恐らくは、迷宮のもっと先に進めばその機会もあるんだろうけど……こればっかりは考えてもどうしようもないか。

 その後は幾度かの戦闘を経て、無事に三叉路へ到着。前回は左へ曲がったので、今回は右へと向かう。

 結果としてはまあ、

 

「行き止まり、だね」

「うん。特に怪しいところもなし、か」

 

 そんな訳で踵を返し、とりあえず階段のある広間へと戻ることにした。

 これで1階と2階は終了だね、なんてフェイトと話しながら歩く事しばし。更に幾度かの戦闘を経て1階への階段がある小広間に着いたのは約45分後だった。

 これは行きに掛かったのと同じ時間。すなわち、2階の奥との往復に掛かったのは約1時間半であり、今回の探索を開始してから既に2時間が経過したことになる。

 帰りの時間も考えると、3階の探索に使える時間はせいぜい40分から50分ってところか。それでもやっておいて損はないだろう。……とは言え今日のところは、3階では主に階段付近の未踏破区域を集中的に探索することになるだろうけど。

 そんな風に考え、フェイトにもそれを伝えてそのまま3階に下りる階段へと向かった。

 道中、1度カエルと戦闘を行った後階段へ辿り着き、2人並んで階下へ降り──その途中、フェイトが「そういえば」と不意に声を上げた。

 

「何かあった?」

「葉月が『フィールド・アナライズ』と一緒に覚えたもう一つの……『アナライズ』だっけ。そっちは使ってみないの?」

「あ」

 

 忘れていた。

 思わず声を上げた俺に、フェイトは「忘れてたんだ?」と苦笑を浮かべた。バレバレのようだ。面目ない。

 

「それじゃあ、次に敵に会ったら私が数を減らすから、試してみよう?」

 

 次いで述べられたフェイトのそんな提案に「お願いするよ」と了承の返事をし、3階へ入った。

 階段を下りた直後に『フィールド・アナライズ』を使用し、未踏破区域の場所を確認。そこへ向かうために正面に延びる通路を進み、最初の別れ道を左へ曲がる。

 そのまま進むことしばし、道の先から複数の気配と足音がして、直後姿を現す4匹のネズミの一団。

 咄嗟に臨戦態勢を取る俺とフェイト。対して向こうもこちらに気付いたのだろう「キキッ」と鳴きながら一斉にこちらへ向かって駆け出し──。

 

《Photon Lancer》

 

 フェイトの前方に生成された2機のフォトンスフィアから射出された3発ずつ、計6発の魔力弾が、1匹につき2発ずつ見事に着弾し、3匹のネズミを魔力へ還した。

 スフィアの生成速度、威力、精度、どれをとっても鮮やかと言うしかない一連の攻撃に、思わず「おぉ」と感嘆の声が漏れるのと同時に、俺じゃまだまだフェイトには追い付けそうもないな、と改めて思い知る。

 ……いやまぁ、戦いにしろ魔法にしろ、昨日今日始めたばかりな俺が、そんなに簡単に追い付けるワケがないんだけどさ。

 一方の、一匹だけ残ったネズミもまた、一瞬にして仲間が倒されたことに動揺したのか、その動きが止まった。

 そこを見計らって、俺は例によって“何となく解る”使い方に従ってスキルを使用する。

 

「『アナライズ』」

 

 ターゲットをロックするように、ネズミに向けて右手を伸ばし、トリガーとなるスキル名を唱えると、僅かな間を置いて俺の前に半透明のウィンドウが現れた。

 ウィンドウに視線を向ければ、そこには目の前のネズミに関する情報が載っているのが解る。

 

 

名前:ケイブラット

カテゴリ:魔造生物(モンスター)/魔獣

属性:地

耐性:無

弱点:火

「体長50センチ程の大きさのネズミ。後ろ足が大きく発達しており、それによって跳躍し、獲物に襲い掛かる。性格は獰猛。人間の子どもであれば軽く平らげる食欲を持つ」

状態異常:混乱

 

 

 弱点から耐性、現在の状態まで解るんだな……情報量としては充分すぎるレベルだろう。

 そんな折、ネズミを警戒しつつフェイトが横からひょいっと覗き込んだ。

 「読める?」と訊いてみるが、ふるふると首を振って残念そうな表情を浮かべたので、「まあ仕方ないよ」と声を掛け、書いてある情報を読んであげようとしたその時、「キィッ」と甲高い声を上げて、残った一匹のネズミが跳びかかってくるのがウィンドウ越しに見えた。

 俺は咄嗟にウィンドウを消しつつ、ショートソードを下から掬い上げるように振り上げてネズミを迎撃し──その刃がネズミに届くより前に、フェイトがバルディッシュを横薙ぎに一閃。ネズミを吹っ飛ばした。

 壁に激突したネズミはフラフラと立ち上がるが、その間に接近した俺が剣を突き立て、止めを刺す。

 

「情報を得られるのは良いけど……気をつけないと危ないね」

「そうだなぁ……ちなみに書いてあったのは、名前とカテゴリ、それと弱点と現在陥ってる状態異常、あとは……なんだっけ、属性と耐性、それと説明文……で、全部だったかな?」

 

 魔結石を回収しているところに掛けられたフェイトの言葉に頷いて、改めて先ほど見たウィンドウの中に書いてあった項目を思い出しつつ教えておく。

 「解らないところはあるか?」と訊いたところ、フェイトは少し考え、

 

「一応、それぞれに解る範囲で説明してもらっていい?」

「もちろん。名前……はいいよな。カテゴリはその相手が属する種類……とでも言えばいいのかね。ネズミなら魔造生物(モンスター)で魔獣だったかな。これが例えば俺だと、『人間』とかになるんだと思う。

 で、属性が『地』で弱点が『火』って書いてあったんだけど……耐性も含めて、恐らく魔法なんかで戦う場合に適用されるんじゃないかな」

「えっと……火が弱点だから、火の魔法や炎で攻撃するのが効果的……って言う感じ?」

 

 ミッドチルダ魔法が当たり前な彼女にとっては、こういった魔法の属性による耐性、弱点なんかは今一ピンとこないのか、少し考えてから訊いてきたフェイトに「うん」と頷いて、「この世界の魔法にそう言うのが有るかは解らないけどな」と続ける。

 俺とか、多くの日本人ならゲームなんかでこういったものは馴染み深いんだけどな。

 

「じゃあ、雷が弱点の敵が居たら、私の魔法が効果的だね」

 

 そう言ってくすりと微笑むフェイトに、その時は頼りにしてる、と返して──別にその時じゃなくても頼りにしてるが──残りの状態異常と説明文に関して説明する。

 

「続けるぞ? ……って言っても、後は言葉通りなんだけど、状態異常はそのまま、その相手が陥ってる状態に関することだな。ちなみにさっきのネズミは『混乱』になっていた。……きっとフェイトにあっさり仲間を全滅させられたせいだろうな。

 説明文は、そのモンスターがどんなやつかって言うこと……なんていえばいいのかな。さっきのネズミだと……何だっけ、確か、後ろ足が発達してて、それを使って襲い掛かってくる……みたいな感じだったと思う」

 

 これで全部かな? と言うと、フェイトは「良く解ったよ。ありがとう」と一つ頷いたあと、

 

「敵に対して『アナライズ』をするときは、なるべく葉月の側に居て守るからね」

 

 任せて、と微笑むフェイトに「ありがとう」と返事をして、『アナライズ』に関して切り上げた俺達は、そのまま探索を続けた。

 ……まぁ、特に何も無く終わったんだけど。

 その後は『マイルーム』に戻ったところで、丁度フェイトの召喚時間が終わり、この日の探索を終えた。

 明日は3階の続き。すんなり終われば4階に入れるだろうか。

 以前に下りた時の雰囲気からするに、よほどの事が無い限りは4階も無難に終わると思うんだけど。

 問題は未知の5階か。中間点って感じで、何かありそうな気がするなぁ……なんて考えたところでいやいや、と首を横に振る。

 まずは目先の3階と4階だ。先を望みすぎて足元が疎かにならないようにしないとな。

 

 

 

※※新たな【スキル】を獲得しました!※※

 

『アーカイブ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。『アナライズ』を使用した時に自動取得される。『アナライズ』によって得た情報を閲覧する事が出来る。前提条件:スキル『アナライズ』。

 

 

※※【スキル】情報が更新されました!※※

 

『召喚師の極意・Lv1』:パッシブ。特定条件を満たす事により、最大召喚時間が延長される。──心を重ね、想いを繋げ。それはやがて、遥か高みへ届く刃とならん──。

  【延長時間】フェイト・テスタロッサ:45分




【プレイヤー名】
 長月 葉月 <Hazuki Nagatsuki>

【称号】
『第三次召喚者』:異世界から召喚された『深遠なる迷宮』第三次攻略者。出身世界は『地球』。
『召喚師』:召喚術を使用して戦う者。
『魔導師』:特定異世界の魔法を使用する者。Unknown。前提条件:スキル『リンカーコア』。
『魔法剣士・Lv1』:剣と魔法を使用して戦う者。『ソード』の扱いにボーナス。魔法使用全般に若干のボーナス。

【ユニークスキル】
『キャラクター召喚・Lv1』
 :術者の知る創作物のキャラクターを召喚することができる。連続召喚時間は最大3時間。送還後、召喚していた時間と同時間のスキル使用不能時間(ディレイ)が発生する。
  召喚可能キャラクター
  『フェイト・テスタロッサ』

【スキル】
『アーサリア言語』:パッシブ。迷宮の王より付与された初期スキル。この世界の言語を使用することができる。
『戦場の心得・Lv1』:パッシブ。戦闘時の錯乱/混乱状態より回復・生還した。戦闘時に平常心を保つことができる。各種精神系バッドステータスからの回復にボーナス。
『リンカーコア』:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器官。特定異世界の魔法を使用することができる。魔法使用全般にボーナス。Unknown。
『召喚師の極意・Lv1』:パッシブ。特定条件を満たす事により、最大召喚時間が延長される。──心を重ね、想いを繋げ。それはやがて、遥か高みへ届く刃とならん──。
  【延長時間】フェイト・テスタロッサ:45分
『ミッドチルダ魔法』:アクティブ。特定異世界に属する魔法の一系統。前提条件:スキル『リンカーコア』。
  [念話] [バリアジャケット] [リングバインド]
『アナライズ』:アクティブ。解析魔法。アイテムやモンスター等の情報を取得する事が出来る魔法。術者の能力と、対象の性能や能力によっては、情報を取得できない場合がある。
『フィールド・アナライズ』:アクティブ。スキル『アナライズ』よりの派生スキル。術者が居る階層の地図を表示する。但し、術者が移動したことのあるエリアに限る。前提条件:スキル『アナライズ』
『アーカイブ』:アクティブ。スキル『アナライズ』からの派生スキル。『アナライズ』を使用した時に自動取得される。『アナライズ』によって得た情報を閲覧する事が出来る。前提条件:スキル『アナライズ』。

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