深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase18:「習得」

 明けて翌日。

 今日もまた午前中はフェイトとの訓練に費やして、午後──と言うよりも夕方だが、迷宮へと入る。大分このサイクルにも慣れてきたな、と思いつつ……それにしても、こう何日も日の光を浴びていないと、そのうち体調を崩しそうだなぁなんて考えが頭を過ぎる。

 そうは言っても、現状どうする事もできないんだけど。日の光が恋しいなぁ。

 ちなみに、大分魔力の扱いにも慣れてきたのか、リングバインドの習得に関しては、思っていたより早く済みそうである。とは言え、しっかりと習熟しないと強度が弱かったりするようではあるのだが。

 それはそれとして。

 今回俺達が向かうのは地下2階。

 この階は階段を下りた直ぐの小部屋から左右に道が伸びており、左の道を5分ほど進むと行き止まりに3階への階段がある。

 最初にそちらへ行ったために、右の通路の先へは足を踏み入れておらず、言ってしまえば9割以上が未探索の階だ。恐らくは今日だけじゃ探索しきれないだろうなぁ。

 確認の意味も含めて、そんなことをフェイトと話しながら歩く事しばし。

 幾度かの戦闘を経て、2階へ降りる階段に辿り着くと、そのまま並んで階下に降り──降りきったところでバサリと言う羽音。

 

「葉月っ」

 

 上がったフェイトの声に「気付いてる」と返して、直後上から降って来たモノを咄嗟に掲げた盾で防いで叩き落し、甲高い声を上げながら地面に落ちたそれ──蝙蝠を剣で突いて魔力へ還す。

 ふぅ、と一息吐いたところで、フェイトがふふっと小さく笑みを漏らした。

 

「どうした?」

「ううん。ちゃんと警戒してたんだなって思って」

 

 そう言うフェイトに「そりゃな」と返して、あの時の事を思い出して苦笑する。

 一日一日が濃密過ぎて、もう随分と長く居るような気がするが、実際のところあれからからまだ一週間と経っていないんだ。幾ら俺でも警戒を怠ったりはしないさ。

 そんなことを言うと、フェイトは「ほんとうだね」と言って微笑むと、

 

「私、葉月とはもう何ヶ月も一緒に居るような気がするよ……って言ったら、ちょっと大げさかな?」

「いや、俺もそう思うよ。特に俺の場合、他に接するのがフェイトしか居ないせいかな。最近じゃフェイトの顔を見ないと、一日が始まった気がしないよ」

 

 肩をすくめながらそう言うと、「もうっ」と言いつつ、くすくすと笑うフェイト。

 そうした後、階段から見て右に伸びる通路へと視線を送り、「そろそろ行こうか」と促すと、フェイトがうんと頷いたので、そのまま右の通路へと足を踏み入れる。

 それから、フェイトと並んで歩く事30分程。

 いくつかの曲がり角や分かれ道を通り、道中ネズミやカエル、蝙蝠と散発的に戦闘を繰り返しつつ進んでいて、俺はしみじみと思っていた。

 地図が欲しい。

 そんな考えに押されてか、思わず「失敗したな……」と言葉に出て、それを聞きとめたフェイトが「何が?」と訊いてきた。

 

「いや、思ったよりも広いからさ、紙とペンでも用意して、簡単にでもマッピングしながら進めばよかったかなってさ」

「そう、だね……うん、それは確かにそうかも」

 

 俺の言葉に首肯して同意するフェイト。

 ちなみに今は、分かれ道があるたびに地面に傷をつけて、簡単な目印を付け、どの通路から来たのかが解るようにはしている。帰る時はこの目印を辿っていけば、少なくとも──最短距離ではないにしても──迷うことなく1階への階段へ戻ることは出来るわけだ。

 そんな事を話しながら歩くうちに、通路の先がT字路になっているのが見えた。

 壁際まで着いたところで、左右に伸びる通路の地面を確認し、目印が無い事を確かめる。ここで目印があった場合、ぐるりと回って来た事を示すからだ。

 どうやらこのT字路は初めての場所らしく、左右どちらの地面にも目印は無い。となると、次に決めるべきは、左右どちらの道に行くかだけど……。

 

「……フェイト、どっちの道がいい?」

「えっ……っと、ん……左かな?」

 

 何となくフェイトに訊いてみると、突然話を振られたからか、少し驚いた様子を見せつつも左の道を選んだので、それに「了解」と答え、左に曲がって歩みを進める。

 そして5分程行った頃だろうか、道の先にソレ(・・)が見えたのは。

 この洞窟の風景には合わない、2つ並んだ石像。

 向かって左は剣を、右は槍を持った形をしているだけの、特に細かな造詣もないのっぺりとした人型で、特徴と言えるのは胸の中心に赤い宝石のようなものが埋め込まれていることぐらいだろうか。

 

「……石像? 何だろうね、あれ……あ、葉月、あそこ」

 

 石像に疑問の声を上げたフェイトが、次いでその石像の奥を指差した。

 そこにあったのは、『マイルーム』にある『アイテムボックス』をそのまま小さくしたような『箱』。……もしあれがその見た目の通りアイテムボックス……つまりは『宝箱』なのだとしたら、この石像は──。

 そう思ったところで、フェイトが一歩踏み出した、その瞬間だ。

 ギギッと言う、軋む様な──けれど決して金属質ではない──音を立てて石像が動き、右の石像がおもむろにその手に持った槍を突き出してきた。

 槍の長さは2メートルほどだろうか。

 恐らく何かあったとしてもまだ距離はある、そう思っていた俺達の予想を裏切り、その槍の長さを生かした刺突は彼我の距離を一瞬で詰め、こちらに迫る。

 

「え?」

「フェイト!」

「……っ!」

 

 突如石像が動く、と言う事態に一瞬途惑ったフェイトが、俺の声で我に返ったか、突き出された槍を身を翻して避ける。

 その間に近づいてきていた左の石像が、槍を躱した直後のフェイトに剣を振り下ろし、斬撃を見舞う。

 

《Defenser》

 

 それはバルディッシュが張った防御魔法によって防がれ、次いで再度突き込まれた石像の槍は、俺がフェイトと石像の間に身体を入れ、盾で受け流して攻撃を逸らした。

 盾が削られる感触と共に、勢いに押されて弾かれる左腕。結構力が強いな。

 追撃を避ける為に、その時点でフェイトと共に一旦石像から距離を空けると、2体の石像は元の位置に戻って動きを止めた。

 

「……ごめん、葉月、ありがとう。……バルディッシュも、ありがとうね」

「いや、それより大丈夫だったか?」

「うん。いきなりでちょっとビックリしちゃっただけだから。ゴーレムか……傀儡兵みたいなものかな。見た目で油断しちゃった。……失敗したな」

 

 そう言って、油断無く石像に注意を向けながらも、ばつの悪そうな苦笑を浮かべるフェイト。

 

「あの様子だと……あの箱を守ってるのかな?」

 

 フェイトの予測に「多分そうだろうな」と同意を示すと、フェイトはこちらに視線を向けると「どうする?」と問いかけてくる。

 今の一戦の感じから、石像の動き自体は対処できないものではない。問題は石である以上、俺のショートソードでは有効打が撃てないことだろうか。

 ただ、あの『箱』が気になるのは事実で……。

 

「……よし、やってみようか。俺の攻撃が通るかどうかは解らないけど……まぁ、あからさまに怪しい感じのあの胸の宝石でも狙ってみるさ」

 

 そう決断すると、フェイトはくすりと笑って「わかった」と一言。

 

「じゃあ、私が槍をやるから、葉月は剣ね。いい?」

「了解」

「……行こうっ」

 

 フェイトの言葉を合図に再度踏み込む俺達。それに反応し、2体の石像は再び動き出す。

 左の石像が剣を、右の石像が槍を構え──その瞬間、俺の隣を走っていたフェイトの姿が掻き消えた。

 そして次の瞬間には、フェイトの姿は槍の石像の眼前に移動している……って、速いな、ホント。

 

《Scythe Form》

 

 振り上げたバルディッシュの刃の部分が、柄と水平に立ち上がり、そこから鎌状の魔力刃が瞬時に伸びる。

 

「ハァッ!」

 

 一閃。

 振りぬかれた魔力刃は、それを受けようと縦に構えられた石像の槍を半ばから易々と断ち切り、石像の胴体に食い込み、そのまま吹っ飛ばした。

 その時点で俺はもう一体の、剣の石像へと肉薄する。

 迫る俺を迎撃するように、振り上げられた剣が袈裟懸けに振り下ろされる。

 それを盾で受け止め、その力に逆らわないように受け流し、その隙に石像の胸にある赤い宝石へと剣を突き出すと、石像は崩れた体勢ながらも左腕を上げ、俺の刺突を防いだ。

 弾かれた反動を使うように剣を戻し、刺突を防いだために上がった腕の下、石像の胴体を薙ぐように、駆け抜けざまに斬り払う。

 ギャリッと、剣と石が擦れる音を立てて、腕に伝わる硬質の手ごたえ。

 振り返ったそこに有るのは、何ら痛痒としていない石像の姿。……やっぱり、このショートソードの斬撃じゃ欠片も効かないか。

 とは言え、先ほど刺突を防いだところからみると、やっぱりあの胸の宝石っぽい石が弱点か。

 再度石像へ肉薄し、それに合わせて横薙ぎに振るわれた石の剣を、姿勢を低くして躱す。

 踏み込むのは左前方。石像の剣を持った右腕側に回り込み、その肩口から宝石へ向けて剣を突き込むと、石像は剣を振り抜いた勢いを利用するように身体を回し、俺の突きを背中で受けて宝石を守る。

 そしてそのまま、身体を一回転させるように剣を横薙ぎに振るって来る石像。

 それを盾で受け止めると、ガッと鈍い音を立てて石像の剣が盾に食い込むように止まった。

 ビキッと、何とも嫌な音が響き渡る。

 一瞬の膠着。

 直後、石像は無理矢理振り切るように剣を押し込んできた。

 勢いに押され、弾かれるように下がらされた時、その力に逆らうように堪えたためか、これまでに使い続けてきた限界が達したか。石像から若干距離を空けた直後、乾いた音を立てて盾が真っ二つに割れて落ちた。

 その時だ、ガラガラと何かが崩れるような音がし、目の前の石像が猛烈な勢いで突進して来て──それに身構える俺を無視するように通り過ぎる。

 

「は?」

 

 何だ、と思い、石像が向かった方を見た俺の目に映ったのは、崩れ落ちたもう一体の石像──さっきの何かが崩れる音は、フェイトが槍の石像を倒した音か──だったものだと思われる瓦礫を前にした、フェイトの姿と、そこに迫る剣の石像の姿。

 慌てて石像の後を追うが、追いつけそうにない。

 石像が駆け寄る音に気付いたか、フェイトがこちらを振り向き──その彼女へ向けて振り上げられた石像の剣。

 

「フェイト!」

 

 フェイトなら大丈夫。そう思っていつつも思わず慌てた声が出て、当然届くわけもないけれど、石像の攻撃を止めるために咄嗟に手が伸びて──キンッと、何か(・・)が収束する音を立て、振り上げられた石像の右手首に藤色とでも言えばいいのか、淡く青みがかった紫色のリングが現れ、その動きを拘束した。

 石像に対してバルディッシュを構えていたフェイトはその光景にその手を止め、その間に俺は石像に追いつくと、不自然な体勢のためにまともに行動できていない石像の胸部、そこの中心にある赤い宝石へと剣を突き立てる。

 パキンッと乾いた音を立てて砕け散る宝石。そしてそれに連鎖するように、動きを止めた石像はガラガラと崩れ落ちた。

 その光景を見届け、ふぅと息を吐き、剣を鞘に納めたところで、バルディッシュの魔力刃を納めたフェイトが駆け寄ってくる。

 

「葉月、凄いね。もうバインドが使えるようになったんだ」

 

 そう言って、まるで自分のことのように嬉しそうに笑うフェイト。

 そのフェイトの言葉で、先ほど石像の腕を拘束したリングが、俺が使った『リングバインド』らしいと言う事に思い至った。

 

「いや、何か夢中でと言うか、咄嗟にと言うか、無意識にと言うか……余り自分が使ったって言う実感がない」

 

 いやはや、と思わず苦笑を浮かべながら現在の心境をそのまま口にする。

 まぁ、この場に俺とフェイトしか居らず、フェイトの魔力光が金色である以上、消去法で先ほどのアレは俺がやったってことなんだろうけど……って言うか、俺の魔力光って藤色なんだな。

 俺の言葉を受けて、フェイトは「ん~……」と小さく唸ったあと、

 

「それじゃあ葉月、さっきの感覚を忘れないように、私に『バインド』をかけてみようか?」

 

 そんな事をおっしゃった。

 

「え……っと……解った、やってみる」

 

 まぁ、俺としても意識してやってみるに越した事はないしな。そう思って、フェイトの好意に甘えることにし、「いつでもいいよ」と言って俺を見つめてくるフェイトに、左手を伸ばしてそこを起点に意識を集中する。

 フェイトの右手に魔力が集まり、固まるイメージ。

 胸の中心、リンカーコアが活性化し、魔力が引き出される。

 ぐっと力を篭めると、その瞬間、フェイトの右手首に藤色のリングが出現し、拘束した。

 

「……おぉ」

「ん、ちゃんと出来たね。……うん、強度も申し分ないみたい」

 

 何度か右腕を動かそうとし、しっかりと固定されていることを確認したのか、「やったね」と嬉しそうに言うフェイト。

 その彼女は自身の右手を拘束するリングをじっと見て、ふふっと小さく笑みを漏らした。

 

「ん……何かあった?」

「ううん。葉月の魔力光、柔らかくて綺麗な色だなって思って」

 

 思わぬ言葉にちょっと驚きつつも、そう言ってもらえるのは何となく嬉しい。

 

「ありがと。俺もフェイトの色、好きだよ。フェイトの髪と同じで、綺麗だよな」

 

 お返し、と言うわけではないが、フェイトの魔力光の色に思ったことを告げると、「えっと……その、ありがとう」と、はにかんで笑う。

 そんな彼女に「どういたしまして」と返してからバインドを解除した。

 それにしても、改めてしっかりと意識して使ってみると、こう、ちゃんとできた事実にじわじわと嬉しさがこみ上げてくる。ついつい頬が緩んでしまうのは仕方がないだろう。

 何と言うか、人間やれば出来るものである。

 

「葉月、嬉しそうだね」

「おう、まぁな」

 

 そんな言葉を交わして、互いにくすりと笑いあう。

 

「あとは、これからも積極的に使って、しっかりと習熟することかな」

 

 フェイトのその言葉でバインドに関しては切り上げて、石像が残した魔結石を回収すると、その奥──石像達が守っていたと思われる箱に向かう。

 さて、いったい何が入っているやら。

 

 

 

※※新たな【称号】を獲得しました!※※

 

『魔導師』:特定異世界の魔法を使用する者。Unknown。前提条件:スキル『リンカーコア』。

 

 

※※【称号】が変化しました!※※

 

『剣士・Lv0』→『魔法剣士・Lv1』:剣と魔法を使用して戦う者。『ソード』の扱いにボーナス。魔法使用全般に若干のボーナス。

 

 

※※新たな【スキル】を獲得しました!※※

 

『ミッドチルダ魔法』:アクティブ。特定異世界に属する魔法の一系統。前提条件:スキル『リンカーコア』。

  [念話] [バリアジャケット] [リングバインド]

 

 

※※【スキル】情報が更新されました!※※

 

『リンカーコア』:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器官。特定異世界の魔法を使用することができる。魔法使用全般にボーナス。Unknown。




【プレイヤー名】
 長月 葉月 [Hazuki Nagatsuki]

【称号】
『第三次召喚者』:異世界から召喚された『深遠なる迷宮』第三次攻略者。出身世界は『地球』。
『召喚師』:召喚術を使用して戦う者。
『魔導師』:特定異世界の魔法を使用する者。Unknown。前提条件:スキル『リンカーコア』。
『魔法剣士・Lv1』:剣と魔法を使用して戦う者。『ソード』の扱いにボーナス。魔法使用全般に若干のボーナス。

【ユニークスキル】
『キャラクター召喚・Lv1』
 :術者の知る創作物のキャラクターを召喚することができる。連続召喚時間は最大3時間。送還後、召喚していた時間と同時間のスキル使用不能時間(ディレイ)が発生する。
  召喚可能キャラクター
  『フェイト・テスタロッサ』

【スキル】
『アーサリア言語』:パッシブ。迷宮の王より付与された初期スキル。この世界の言語を使用することができる。
『戦場の心得・Lv1』:パッシブ。戦闘時の錯乱/混乱状態より回復・生還した。戦闘時に平常心を保つことができる。各種精神系バッドステータスからの回復にボーナス。
『リンカーコア』:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器官。特定異世界の魔法を使用することができる。魔法使用全般にボーナス。Unknown。
『召喚師の極意・Lv1』:パッシブ。特定条件を満たす事により、最大召喚時間が延長される。──心を重ね、想いを繋げ。それはやがて、遥か高みへ届く刃とならん──。
  【延長時間】フェイト・テスタロッサ:30分
『ミッドチルダ魔法』:アクティブ。特定異世界に属する魔法の一系統。前提条件:スキル『リンカーコア』。
  [念話] [バリアジャケット] [リングバインド]

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