深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase1:「召喚」

 ──Congratulation! 貴方は『深遠なる迷宮』に挑む第三次召喚者に選ばれました! 他の1,000人のプレイヤーと共に頑張ってください!

 

 ──迷宮の王(ゲームマスター)より、プレイヤー特典としてユニークスキルが贈られます! 貴方のお好きな能力を思い描いてください!

 

 ──……貴方のお好きな能力を思い描いてください!

 

 ──…………貴方のお好きな能力を思い描いてください!

 

 ──その能力は既に使用されています! 他の能力を思い描いてください!

 

 ──その能力は既に使用されています! 他の能力を思い描いてください!

 

 ──その能力は既に使用されています! 他の能力を──

 

 ──その能力は既に使用されています!──

 

 ──その能力は既に使用され──

 

 ──その能力は既に──

 

 ──その能力は──

 

 ──その──

 

 ──その能力は使用できます! よろしいですか? …………それでは、迷宮の深奥にてお会いしましょう! Good Luck!!

 

 

……

 

 

 ……変な夢を見た。

 真っ暗な空間でただ声だけが聞こえてきただけの夢。

 そのくせ妙にはっきりと覚えてる。

 『深遠なる迷宮』、『第三次召喚者』、『1,000人のプレイヤー』、『ゲームマスター』、『ユニークスキル』……何が何だかわからない、けど、何だろう、凄く気持ち悪い。そう、言うなれば、無理矢理“解りやすいように”表現したかのような……と言うか、とってつけたような雰囲気とでも言おうか。

 そう考えたところで、ふと思った。……ここ、どこだ?

 どうやら俺はベッドに寝ているらしい。

 目に映るのは天井。だけど、自分の良く知る部屋の天井でもなければ、学校の天井でもない……ゴツゴツとした岩? がむき出しの天井。

 ……っていうかなんで俺ベッドに寝てるんだ? 確か……教室で授業受けてた……はず?

 背筋にゾクリと嫌な予感が走る。

 冷や汗が止まらない。

 徐々に心臓が早鐘を打ち始める。

 一度目を瞑って、大きく深呼吸。

 落ち着け、俺。

 …………よし、落ち着いた……わけがないけど、覚悟は……決まらないけど、体を起こして周囲の様子を見ることにする。

 ……そこは部屋だった。

 7、8メートル四方程度だろうか、小さな部屋。

 角には俺が寝ている粗末なベッド。中央には木でできたテーブルと、それを挟んで向かい合う二人掛け程度の大きさのソファー。

 その奥……ベッドから見て反対側の壁には……あれ、キッチンか?

 そのキッチンらしきものの右横の壁にはドア。

 そして俺の左手側、ベッドから一番離れた壁の真ん中には、観音開きの扉。あっちはどうも出入り口っぽい。

 出入り口の左横の壁に埋め込まれた謎の端末。

 その更に横の角には、大きな箱。ゲーム何かでよく見る宝箱……といえば雰囲気が掴めるだろうか、そんな感じの箱。

 それにこの部屋、窓も照明も無いのに何で明るいんだ?

 ……まったく持って訳が解らない。ホントここ、どこだよ?

 内心でそうボヤキながら、ベッドから降りた、その瞬間だった。

 

「っ!!」

 

 突如襲ってきた頭痛。

 ガリガリと、まるで無理やり脳に知識を刻み付けているかのような激痛と共に、事実書き込まれていくのが解る、知らない知識。

 ここはプレイヤーの為に用意された『マイルーム』で、『深遠の迷宮』に挑むために準備するための場所で、俺がこの世界(・・・・)で生活するための場所で、キッチンの横のドアはバスルームとトイレに通じるドアで、あの箱はアイテムボックスで、その横の端末で色々と買い物やら何やらができる。

 そんなような怒涛の情報が一気に脳内に流れ込んできた。

 気持ち悪い。

 吐きそう。

 頭痛え。

 あ、吐く。

 

 

……

 

 

 辛うじてトイレに駆け込んで、汚物を床に撒き散らす事態は防いだ。

 けどもう気力も体力も使い果たした俺は、ヨロヨロとベッドに戻ると横になる。ぎしりとスプリングが軋む音がした。

 無理やり刷り込まれた知識で、理解したくないけど現状は理解した。

 つまり、俺を始めとした、この場には姿の無い──恐らく各自の『マイルーム』とやらに居るのだろう──他の999人の第三次召喚者とやらの『プレイヤー』は、『ゲームマスター』とやらが創ったこの『深遠なる迷宮』を攻略するためだけに「この世界」にいるのだということだ。

 『ゲームマスター』が何故わざわざ迷宮を創り、そして様々な世界から様々な人間を呼び込んで、無理矢理迷宮に挑ませているのかは知らないけれど。それが今回……『第三次召喚』とやらは俺達の世界だった、と。勘弁してくれ。

 そして俺は、この迷宮をクリアしないかぎり元の世界には還れないんだとか。

 荒唐無稽。

 滅茶苦茶。

 夢だろこれ。

 そんな思いがいくつも浮かんでは、すぐ消える。

 だって俺はもうこれが事実だと理解してしまっているもの。

 ……違うな、理解「させられている」が正しいか。

 部屋の床に立った途端に襲ってきた頭痛と、その後の情報の津波。

 あれは迷宮に挑むプレイヤーが、すぐに攻略に参加できるようにゲームマスターが仕組んだ「情報提供」らしい。

 ソレによって俺は現状が事実だと無理矢理理解“させられて”しまった。

 普通ならもっと泣き叫んで、怒鳴り散らしているだろう。けど、その段階は既に通り越してしまった。……実際にはまだなのに、そんな気分にさせられてしまっている。

 ひどく、気持ちが悪い。

 ……はぁ、とりあえずちょっと寝よう。

 そういえば、今夜はカレーだって、母さん言ってたっけ。

 自分の頬を何かが流れる感触に顔を顰めた。

 ……本当に、勘弁してくれ。

 ……帰りたい。


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