Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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ヤン提督は連日査問会で、このときついに耐えきれなくなったんだって。それから読者のみんなはもう知ってるんだよね。でも、わたしはみぽりんの消息をこのときまで知らなかったから...


第98話 査問会どうなるのかな。

タブレットの画面には、故グリーンヒル大将が救国会議の首謀者であったこと、にもかかわらずフレデリカが軍籍にあることや、ヤンがアルテミスの首飾りを破壊したのは、後日政権を自分が握るための布石であり、クーデターを成功させるための情報を得ていたのだ、そしてヤンは自分が攻撃されないよう、また救国会議の政権が失敗しても復活させられるよう救国会議と通じていて、フレデリカとミス・ニシズミとふたまたをかけている、という悪意にみちた報道だった。ヤンについても、士官学校時代にひそかにホテルに女子大生を言葉巧みにつれこんで、キスをせまって、嫌がる彼女の身体をまさぐったという主体不明の夫婦の談話まであった。救国会議時代と攻守を変えても全く内容は変わらない。

「ウソだらけの、けしからん記事です。」マシュンゴは憤然としてみせた、というより心から憤然としていたのだが、当のフレデリカは、ヤンをどうやって救い出そうかということが頭にいっぱいだったこともあって、あきれて怒る気にもなれなかった。

そのときビュコックから急な連絡が入る。

「大尉か?」

「はい。わたしです。」

「えらいニュースだ。イゼルローン回廊に敵の巨大要塞が出現し、攻撃を受けておる。そうだ、そこにミス・タケベがいるか?」

「はい、一緒です。」

「そうなら伝えてくれ。西住中将は無事帰還して、艦隊の指揮を執っているそうだ。なぜ帰還できたのかは政府は口をつぐんでおる。詳しいことは改めて本人に直接話したいと。」

フレデリカは、直接沙織に話す。

「沙織、ミス・ニシズミは無事に帰還できたそうよ。ビュコック提督は、盗聴の危険があるから電話ではなく改めて直接話したいそうよ。」

「よかった...みぽりんは無事なんですね。」

「そのとおりよ。」

フレデリカはうなずきながら、うれしそうに話す。

「ということは、ヤン提督も無事に査問会から解放されるんですね。」

「そのとおりだ。この際は帝国軍が救いの神というわけさ。皮肉なものだ。」

フレデリカは生まれて初めて帝国軍に感謝した。

 

何回目の査問会であろうか。査問官の一人、ブレイブ・ヴィステリア・ノーブルマンは、トリューニヒト派のいつもの議論、前線へ行くのを拒否する者や反戦政党、エドワーズ委員会を愛国心に欠ける売国奴と中傷し、民主主義国家を守るためにすすんで命をささげるべきだと演説した。

「政治家には、政治家の役割がある。大企業やその役員及びその子弟もだ。それ以外の者が前線に行くのはあたりまえではないか。きみは軍に長く勤務していながらそんなこともわからないのか。一般市民が権利のみを主張し、戦争へ行きたくないとか徴兵を拒否するなどは、自己中心でただのわがままだ。」

「ブレイブ・ヴィステリア・ノーブルマン査問官。あまりこのようなことを申し上げるのもなんですが、あなたが、運動員に選挙報酬を支払わないために騒動になり、50万デイナール支払って和解したとか、インサイダー取引を自分でやって知人にも進めていたこと、それから美少年を買春していたことが、エステ・メトロ紙やタブロイドのプレセンテに書かれていますが?それでもご自分は自己中心でわがままでないと?」

「話をそらすな。わたしは...。」

若い査問官の顔から血が引き屈辱を覆い隠して反論しようとこきざみに身体を震わせているのを横目にちらりと見て、ネグロポンティもすこしばかり青筋をたてた。

「君は査問を受ける立場だろう。査問官に質問をするなどおこがましい。自分の態度をわきまえたまえ。」

ネグロポンティは、それでも自分たちが不利な議論に追い込まれていることは自覚できたので、助けを求めるよう自治大学長のオリベイラのほうを向いた。オリベイラは、戦争の意義とやらについてヤンに講義し始めたのである。

「提督、君はまことに優秀な男だとおもうが、まだ若いな。どうも戦争の本質を「理解しておらんようだ。いいかね。緊張感を欠く平和と自由は人間を堕落させるものだ。活力と規律を生むのは戦争であり、戦争こそが文明の発達を加速し、人間の精神的肉体的向上をもたらすものだ。一滴期間続いた平和と自由は享楽と退廃の世紀末を現出させてきた。それは君の好きな歴史が証明しているのではないかね。」

「すばらしいご意見です。戦争で命を落としたり、肉親を喪ったことのない人であれば信じたくなるかもしれませんねえ。まして戦争を利用して他人の犠牲の上に自らの利益を築こうとする輩にとっては非常に魅力的な考えでしょう。ありもしない愛国心を有ると見せかけて他人を欺くような人にとってもね。」

「君は私たちの愛国心が偽物だというのか。」

「あなた方が口で言うほど愛国心や犠牲心が必要だというなら他人にどうしろこうしろと命令する前に自分たちで前線に行ってはいかがですか。人間の行為の中で何が最も卑劣で恥知らずか。それは権力を持った人間や権力に媚を売る人間が安全な場所に隠れて戦争を賛美し、他人には愛国心や犠牲心を要求して戦場へ繰り出すことです。

それだけではありません。あなたは、フェザーン企業から賄賂をもらい、同盟の医療保険、水道事業、農業、種子管理権を売り渡す自由貿易及び経済連携協定に賛同して推し進めてきたではありませんか。」

「それは...民主主義を軍国主義者からとりもどすための一時の方便だ。君も歴史を学んでいるならはるか18~19世紀のイギリスの民主主義の発展過程でそのようなことはあったし、同じころとある東洋の国では国では、タヌマという...」

「話をそらさないでください。それは外国との関係の話ではないし、フェザーンもそう思ってはいないでしょう。もし本当に愛国心があるなら、いつまでもこの墨塗り資料のみをマスコミに公表して意思決定過程の情報だと主張するのですか?

 

市民には戦場へ行くようにけしかけ、自分ではフェザーンと組んで私腹を肥やす。宇宙を平和にするには、帝国と無益な戦争を続けるより先に、その種の寄生虫を駆除することから始めるべきではないでしょうか。」

「寄生虫とは我々のことかね。」

「それ以外のものに聞こえましたか。」

「いわれなき侮辱、想像の限度を超えた非礼だ。君の品性そのものに対して告発すべき必要がある。査問はさらに延長される。」

「異議を申し立てます。」

「発言を禁ずる。」

「どういう根拠で?」

「説明の必要はない。秩序に従いたまえ。」

「いっそ退場を命じてもらえませんか。はっきり申し上げますが、見るに堪えないし、聞くにも堪えませんよ。忍耐にも限度があります。」

ヤンは、もはや我慢の必要を認めなかった。ネグロポンティをにらみつけ、胸から紙の包みをとりだした。査問官たちは一瞬ぎょっとした。ネグロポンティも負けずと睨み返す。ヤンは怒りのこもった眼でネグロポンティをにらみつけながら、辞表をとりだしてつかつかとあゆみよった。


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