Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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「耳寄りなお話をしましょうか?」
「はい。」
「イゼルローンに帝国軍の大規模な攻勢があるようなのです。」

「それはどのくらいの規模ですか?」

「さあ、わたくしもくわしくは....」

大鎌をかついだ青みがかった黒髪の若い女は言葉を濁す。

「5万隻相当の大規模な攻撃...と申し上げましょうか。」

「5万隻...。」
それを聞いた栗色の髪の少女は絶句せざるを得なかった...




第94話 イゼルローンに「禿鷹の城」出現です。

キャゼルヌがふりむくと見覚えのあるグレーのパンツアージャケットに白いプリーツスカートをはいた少女が微笑んで立っていた。

キャゼルヌの顔はあかるくなった。

「西住中将...。」

「帝国軍の大規模な攻勢があります。残念ながら詳しいお話はきけませんでしたが...回廊の帝国側出口を機雷で封鎖してください。」

「わかった。ただちに指示する。」

回廊出口が機雷で封鎖されるとキャゼルヌはみほに確認した。

「西住中将。これでよろしいですか。」

「大規模な攻勢があると聞いただけで詳しくは...5万隻以上の敵が攻めてくると考えて、とにかく警戒を厳にしてください。」

「それから副司令官が戻ってきたのだから...。」

「いいえ、キャゼルヌさん。わたしはまだいないことになっています。しばらく行方不明ということにしておいてください。」

 

「西住殿が戻ってきたんですか。」

「ああ、秋山中佐。俺も驚いた。信じられない話だが青みがかった黒髪の若い女性が大鎌で空間に穴をあけてここまでつれきてたそうだ。」

「みほさんが...よかった。」

「うむ。隊長が戻ってきてくれてよかった。これで最悪な事態は避けられたな。」

「ただ、予断は許さない。近いうちに5万隻以上の大艦隊で帝国が攻めてくる可能性があるらしい。帝国側回廊出口を機雷で封鎖した。」

「哨戒も厳とする必要がありますね。キャゼルヌ司令官代理。」

「そのとおりだ。秋山中佐殿。」

二人は顔を見合わせて苦笑する。

みほから、首都でなにがあったかチームあんこうの皆が聞いたとき、

「西住殿...。」

「ひどい話だな。」

麻子の頭には、マスコミに告発しようかという考えも浮かんだが、それが二次的なセクハラにつながらないかと思い思いとどまって、二の句を継がなかった。

一方、みほはただ「うん...。」とつぶやき、やや悲しみをうかべてうなづいた。

華は「みほさん、わたしがあんなことを言ったばっかりに...ほんとうにごめんなさい。」

とひたすら謝る。

「いえ、華さんのせいじゃないです。」みほは、即座に首をふった。

「そうだ、五十鈴さんは悪くない。 召還命令には逆らえないし、普通は大事な軍務上の指示があるって当然考える。でも実際にやったのはただのセクハラ。権力者の驕り。許されない。」

「冷泉殿の言う通りです。五十鈴殿。むしろ行くなという方が軍令違反なのですから。あとでどんないいがかりをつけられたかわかりませんし。」

イゼルローンでは帝国の攻勢に警戒はしたものの、数日間が平穏にすぎていった。

 

戦艦ヒスパニオラ、巡航艦コルドバなど16隻の哨戒グループが「それ」を発見したのは4月10日のことである。

巡航艦コルドバのオペレーターが何杯かのコーヒーを飲みながら計器を眺めていたが、前方の空間に異常が起こりつつあることを計器が示していた。オペレーターは目を光らせていた。

「前方300光秒の空間にひずみが発生。」

「ひずみは拡大中。なにかがワープアウトしてくるようです。」

「!!」

「どうした?」

オペレーターは質量計に示された数字に信じられない数字をみとめ、背筋が凍りつくような感覚を覚えて息をのみこむ。

「し、質量は極めて大。」

「もっと正確に報告せんか。」

艦長がどなり、オペレーターは2、3回ほどせきばらいをして、のどにひっかかった言葉を吐き出す。

「質量、約40兆トン。戦艦や艦隊などではありません。」

「急速後退だ。時空震に巻き込まれるぞ。」

みほが設置させた機雷網は時空震にまきこまれ半数は爆破された。

哨戒グループの諸艦は、索敵の義務を忘れずスクリーンをにらみ続けていた。

そして信じられない規模の巨大な球体をみとめて、彼らは、恐怖のゆえに言葉を飲み込み声なき悲鳴をあげていた。

イゼルローンの中央指令室はざわついていた。オペレーターたちの報告と、不安をまぎらわすために私語が飛び交っている。

「司令官代理、形状は球形もしくはそれに準ずるもの、材質は合金とセラミック、表面のうち半分ほどを流体金属層がおおっています。質量は...。」

「質量は、概算ですが40兆トン以上です。」

「ち、兆だと!?」

「質量と形状から考えて、直径40~45km以上の人工天体と思われます。」

「つまり、イゼルローンのような要塞というわけか...。」

「映像出ます。」

メルカッツの目が見開かれる。シュナイダーが目を瞠目させて思わずつぶやく。

「ガ…ガイエスブルグ要塞…。」

「あれが…。」

同盟の士官たちが振り向くと、二人はうなづく。

「さすがに友好親善使節を送ってきたとはおもえませんな...。」

「艦隊の根拠地ごとここまでワープさせてきたというわけか...。」

「見上げた努力というべきか...。」

「それにしてもとんでもないことを考えたものですな。要塞をワープさせてくるとは...帝国は新しい技術を完成させたと見える。」

「新しい技術というより、スケールを大きくしたというわけだろう。それも、どちらかというと開いた口がふさがらないといった類のものだ。」

「だが、意表をつかれたこと、敵の兵力が膨大であること、それは確かだ。」

「しかもヤン司令官が不在だ。至急連絡したとしても4週間はかかるだろう。これは長くなることはあっても短くなることはない。」

「楽しい未来図ですな。」

パトリチェフが皮肉いっぱいにつぶやく。

「それまで我々だけで持ちこたえなくてはならん。とにかく打てる手はすべて打っておく。」

「わたしに考えがあります。」

「西住中将...。」

 

「別働隊に回廊境界面ぎりぎりにミサイル艦を率いて敵要塞を攻撃してもらいます。そのときにあらかじめスパルタニアンを発進させておきます。」

「別働隊って...もしかして最近まであのクブルスリー大将のところで活躍していたという『トータス艦隊』か。」

「はい。」

みほは微笑んで答える。

「敵も要塞主砲をもっているはずです。だから敵にも「トゥールハンマー」があると考え、射程外ぎりぎりに艦隊を展開させ、その射程外にわたしが率いる主力艦隊は、このように配置します。」

「西住中将、イゼルローンはもろ射程内ですが...。」

「はい。おそらく撃ちあいになります。ですから外壁周辺の市民や将兵の皆さんは避難させてください。」

「わかった。」

オペレーターが呼びかける。

「外壁、LA00ブロックからRZ99ブロックの将兵及び住民はただちに避難してください。」

「艦隊の出撃準備と、避難の準備はとりあえずこれでいいか。あと全要塞に第一種臨戦態勢、それから万一に備えてコンピューターのデータをいつでも消去できるように。そしてハイネセンヘ超光速通信を。4月10日、帝国軍ハイゼルローン回廊ニ大挙侵入セリ。巨大移動式要塞ヲモッテナリ。至急来援ヲ請ウ、と。」

「はっ」

オペレーターはキャゼルヌ司令官代理に答えた。




クブルスリー大将のところで活躍していたという「部隊」
の部隊名を伏線になるように『トータス艦隊』に変更。2017,5,9,20:49(JST)

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