Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
(へえ、こんな茶番に権威や品性?どの面下げて...。)とヤンは怒りを飲み込む。
一方で、上からおさえつけるつもりが、おちょくられてネグロポンティの額には興奮のあまり血管が太く浮き上がっていた。オリベイラがなにやら耳元にささやいているのをヤンは横目にみながら退出した。
こうしてヤンはようやく査問会の第一日目から解放されたが、世話係だという下士官に会うと、食事のために外出したい、と言った。
「お食事はこちらで用意いたします。わざわざ外出するにおよびません。」
「外で食事をしたいんだ。こんな殺風景なところじゃなくて。」
「門から外へお出になるときはベイ少将の許可を必要とします、」
「?どういう権限で許可が必要なのだ?」
「とにかく許可なしには外出できないことになっています。」
「君はそんなことが軍令になっているのをおかしいと思わないのか。」
「わたしは、指示にしたがっているだけですので。」
「それじゃあベイ少将に会わせてくれないか。」
「少将は最高評議会議長オフィスに公用で出かけています。」
(ははん、トリューニヒトの腰巾着め)とヤンは心の中で毒づく。
公用が聞いてあきれる。おそらく権力者への追従か悪巧みとたいして差のない話に違いなかった。
「いつ帰ってくる?」
「わかりかねます。で、ご用はそれだけで?」
「ああ、それだけだよ。」
下士官が形だけは立派に敬礼して出ていくと、ヤンはドアをにらみつけ、盗聴器があるのを承知のうえで怒鳴らざるを得なかった。
「やってられるか。」
ベレーを床にたたきつけ、彼らしくもなく怒りに震え、やめてやる、やめてやるぞとつぶやきながら腕組みをして室内を歩き回った。
しばらくして気持ちがおちついてくると、デスクに向かって辞表の文面を考え始めた。
みほは最高評議会議長官邸の秘密部屋に閉じ込められ三日ほどたっていた。
空間が切り裂かれ、大鎌をもち美しいワンレングスの青みがかった髪の美女が現れた。
「あ、あなたは...。」
「ふふふ...。今だけはあなたの味方...。さあ。」
美女はみほの手をとって、自らが大鎌であけた直径2mほどの孔のなかにみほをつれこんた。
大鎌であけられた孔は数秒経たないうちに消えていた。
トリューニヒトは帰ってきて驚いた。しかし、自分以外は知らないはずの部屋だ。マスコミはだまらせてはいるが、だれかを疑ったら自分がしたことが明るみに出る。公邸に勤務している人間をだれかこっそり処刑しても家族が不審に思うだろう。地球教の支所に問い合わせたがわからないという。人をだまし、国民をだまして狡猾に生きてきた彼にとっては珍しい敗北だった。自分がだまされる側の立場に立ったのだ。歯ぎしりしてあきらめるしかなかった。
一方、ヤンの副官フレデリカと沙織は、なすがままではなかった。三時間のうちに14ヶ所に手分けして電話し、ベイ少将の居場所をつきとめた。トリューニヒトのオフィスを出たところをマシュンゴ准尉を伴ったフレデリカにつかまってしまった。
「ヤン提督の副官として上司との面会を要求します。提督はどこへおいでですか。」
「みぽ、西住中将の副官として、上司との面会を要求します。提督はどこへおいでですか。」
沙織は、フレデリカにならってあわててタメ口を改める。
「国家の最高機密に属することだ。面会など許可できないし、提督の居場所も教えられない。」
「わかりました。査問会とは非公開の精神的拷問を指して言うのですね。」
「グリーンヒル大尉、言葉を慎みたまえ。」
「ちがうとおっしゃるのなら、査問会の公開、弁護人の同席、および被査問者との面会を重ねて要求します。」
「そんな要求には応じられない。」
「応じられない理由はなんでしょうか?」
「答える必要を認めない。」
「では、国民的英雄であるヤン提督を、一部の政府高官が、非合法、恣意的に精神的l私刑にかけた、と報道機関に報せてよろしいのですね。」
「どこの報道機関も応じてくれないよ。それどころか君自身が国家機密保護法の適用をうけ、軍法会議でしかるべき罰を受けることになるが...。」
ベイはほくそえむ。
「軍法会議には該当いたしません。国家機密保護法には、査問会なるものの規定はございませんし、その内情を公開したとところで犯罪を構成することはありえません。どうしてもヤン提督の人権を無視して秘密の査問会を強行なさるのでしたら、こちらも可能な限りの手段をとらせていただきます。」
「父親が父親なら、娘も娘だ。」
とベイは毒を含んだセリフを吐いた。
「ひどい。そんな言い方ないでしょう!」
沙織も抗議するが、ベイは余裕だ。提出されたが、反対論が多く、「議場騒然」として議決されなかった法令の議事録を、議決されたことにして、合法化させればいい。データの改ざんなどいくらでも可能だ。情報公開法を悪用して、意思決定過程の情報だから公開できなかったとすればクリアーだ。なにしろトリューニヒトという後ろ盾がいる。不正はやり放題だ。自分は言われたとおりにしただけと言うだけだ。
マシュンゴは憤然として腕をふるわしたが、フレデリカがなにもいわなかったので動かなかった。
フレデリカのへイゼルの瞳は、ひそかな怒りでたとえれば炎に映えるエメラルドの色に燃え上がるかのようだった。沙織の瞳も、彼女には珍しく怒りの色がうかんでいる。
「フレデリカさん、こうなったら、ビュコック長官に...。」
「沙織、上からそういうことをやるのは本当は好ましくないの。何事にも手続きがあるのよ。」
とフレデリカはなだめるものの、
「でも、正論が通用しない人たちや権力に媚びる人たちばかりになっているようなら、仕方ないわ。沙織、マシュンゴ准尉、やりたくはなかったけど最後の手段よ。ビュコック司令長官にお目にかかって事情を聞いていただきましょう。」
「はい。」
マシュンゴはだまってうなずき、沙織は明るく答えた。
さて、何十枚も紙を無駄にしたが、ヤンはようやく辞表を書き上げた。イゼルローンで待っている皆に申し訳ない気持ちもあったが、トリューニヒトの子分たちとこれ以上つきあいきれない。あんな手はそうそう使えるものじゃない。ヤンは、自分がいなくてもイゼルローン要塞なら落ちないだろうと考えて気分を鎮めたのだった。
ところでそのころイゼルローン要塞では...
「キャゼルヌ少将...。」
聞き覚えのある、おとなしいがどこかはりのある少女の声がキャゼルヌの耳に入ってきた。