Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第90話 査問会です(その1)

ヤンは考え込んでいた。最高評議会が明確にヤンに害を加えてくる場合である。ヤン以上の能力と忠誠心をもつ名将が出現した時、帝国との和平を結んだ時の阻害要因、ヤンが同盟を裏切るとみなした時、最高評議会が同盟を帝国に売り渡した時の4つの場合である。一番目はちょっと考えられない、二番目と三番目は最高評議会の連中が勝手に思い込む場合である。

四番目は...と考えているとインターヴィジホンが鳴った。ベイ少将の顔が、カーナビくらいの狭い画面にいっぱいになる。

「閣下、一時間後に査問会が開始されるそうです。査問会場にご案内しますのでおしたくをどうぞ。」

 

一方、みほをのせた地上車は高級住宅街へはいっていく。

最高評議会議長の公邸の前で地上車はとまった。

そこであらわれたのは最高評議会議長ヨブ・トリューニヒトであった。

「やあ、ミス・ニシズミ。」

みほの全身に蟻走感がはしる。

「さあ、ここが君の部屋だよ。ミス・ニシズミ」

いつのまに評議会議長公邸にこんな部屋を作ったのだろう。その部屋は、防音壁があるように思える。まさか楽器の練習をするためとは思えない。では、なんのために...

「あいかわらずかわいらしいね。ミス・ニシズミ」

(いやっ。ヤン提督と同じ呼び方しないで!)

「!!」

そのときだった。ガチャリと音がしてみほの四肢を鎖付きの鉄の輪がつけられる。バタンと入口がしまる。

「いやああああ。」

トリューニヒトは、笑みを浮かべて、床にひじをついてみほににじりよっていく。

みほの左足のふとももに手を置くとわれものをあつかうかのように優しげに丹念になでまわした。

「や、やめて...ください...。」

トリューニヒトは笑みを浮かべてたちあがると、ゆっくりとみほの背後に回って、両手でみほのほおにつつみこむように触れる。

「やめて...ください...。」

「ミス・ニシズミ、君を召還したのは、その栗色の髪の毛一本にいたるまでわたしのものとするためだよ。」

トリューニヒトの手がほおから上へ行きみほの栗色の髪にふれると、その感触を楽しむように指にからめて、手ぐしのようにすく。

みほは、歯を食いしばり、両腕を動かしたが鎖が緩む気配はなく、身体をよじろうとすると、トリューニヒトのにやついた笑みがいっそうおさえきれない歓喜を含んだものに変わろうとするのに気付き、ぐっとこらえた。

トリューニヒトの手が、すこしづつ下へ下がり、再びみほのうなじをなで、耳の形をなぞって、ほおに触れる。

肩をさすり、腕をじわじわとなでて、手の甲に近づいていく。

「!!」

みほは自分の手に異様な感触を覚える。トリューニヒトが自分の手をなめているのだ。

あまりの不快感に悲鳴をあげそうになったが、この気持ちの悪いカエルのような男を喜ばせるだけだと考えてぐっとこらえた。がくがくと脚もふるえる。

片方の手は、腕から胸へ向かって這っていく。

トリューニヒトの手はみほの身体をまさぐり続けた。

みほはぐっと耐えているが、目からにじんでくるものがある。

(たすけて...。)

がくがくと身体から力が抜ける。涙が出てきてほおを伝わる。

「おやおや、戦場では気丈で、聡明な指揮官だと聞いているが、そうか。やっぱりかわいらしいねえ。」

「さて、今日はこのくらいにしておこう。明日もまた来るつもりだよ。わたしの指と舌の味を君の身体に覚え込ませるためにね。」

「さて、食事をはこばせる。本当はわたしが直接食べさせたいのだがね。今日も忙しいのだ。」

トリューニヒトが出ていき、ドアが閉まる。

みほは、うつむいて泣いていた。鼻をぐすん、ぐすんと鳴らす。

「ヤン提督...沙織さん、麻子さん、優花里さん、華さん、シェーンコップ少将...。」

これを知ったらヤンも冷静にはなれないだろう。珍しく怒気を顔ににじませたヤンとシェーンコップが顔を見合わせて頷きあうとトマホークの一閃がトリューニヒトの首を飛ばすに違いなかった。みほはそれを思い浮かべて耐えることにした。涙が床を濡らした。

 

ヤンの査問会が行われようとする部屋は、学校の体育館の1/3ほどであろうか、不必要なほど広く天井が高い。照明は薄暗い。空気は、やや冷たく乾いた感じである。

査問間の席は高い位置から、三方を囲み、被査問席の席を見下すようにして、威圧感を与えている。すべてが被査問者をひるませるよう暗い情熱によって計算されている。ヤンにとっては、悪意に満ちたこけおどしの厚化粧、戯画そのもので、生理的な嫌悪感を感じこそすれ、ひるみを感じなかった。かえってかすかな怒りを感じたほどだった。

査問官の席は正面と左右に三名づつだった。正面中央に座っている小太りの男の顔が、照明に慣れてきて浮かび上がってきた。国防委員長のネグロポンティである。

ヤンはトリューニヒトの子分どもを相手にこれから幾日か過ごさねばならんと考えると気がめいった。なにしろ軍法会議ではなく、権力をかさに着て気に入らない人物を私的制裁するという子どもじみた発想から行われている査問会である。だから公費の弁護人はつかないし、法的位置づけがないから秘密にされる。

ネグロポンティが名乗った後、右隣にいた男が自己紹介した。

「わたしは、エンリケ・ボルジェス・デ・アランテス・エ・オリベイラだ。国立中央自治大学の学長を務めている。」

ヤンは一礼した。

ほかの七名の査問官も名乗る。うち五名はトリューニヒト派の政治家や官僚だ。

無表情な細面の後方勤務本部長ロックウェル大将が名乗る。

ヤンはため息が出た。軍部へのトリューニヒト閥の浸透は予想以上だ。

最後になのったのは、唯一の非トリューニヒト派の政治家であるホワン・ルイだった。

自己紹介が終わると、ネグロポンティが言った。

「では、ヤン提督、着席してよろしい。?...いやひざを組んではいかん。もっと背筋を伸ばしたまえ。君は査問を受ける身なのだぞ。その立場を忘れないように。」

(だれも頼んだわけじゃなし、むしろあんたがたを救国会議から救ったのはわたしなのですが...)と言い返したくなった、しかし、ヤンはそのセリフをのみこみ、謹直な表情をつくって座ることにした。


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