Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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ヤンはユリアンと久しぶりにレストランで食事をしていた。
店主に、「ヤン中将ですね。」
とたずねられ、
「そうだが。」と答えると
「お客様が、サインをと。」と求められる。
「いまプライベートなので。」
と断るものの繰り返し、女性二人組を指して
「あのお客様がサインをと。」と
求められたので、やむなく差し出された手帳にサインすると店主が指を鳴らし、照明が落とされる。
「ヤン中将万歳!」の掛け声といきなり国歌が歌われだした。
(これはまいった)
「出ましょうか。」
「そうしよう。」
とそそくさとヤンとユリアンはさっさと会計をすませ店を出た。


第8話 少し疲れたので外出いたします。

「こんなもの町の美観を損ねるだけなのに。」

いらついて、選挙の電子ポスターをヤンは指でたたく。

ヤンはユリアンとともに食事から帰る途中、あまり明るくない側道にさしかかった。

路地裏にはいると

ビシッツ、ビシッツと皮膚のこすれる音やにぶい殴打音が聞こえる。

「けんか…でしょうか?」

ユリアンがヤンに話しかける。

「そう…みたいだな…。」

道路のガード下の通路からプロテクターをつけた男があらわれる。

「憂国騎士団!」

ヤンとユリアンはそのガード下へ向かっていると一人の若い男をよってたかって殴りつけているところだった。

「やめろ!何をしている!」

憂国騎士団のリーダーの男が「ひきあげろ!」

といい、クモの子をちらすように逃げていった。

ヤンとユリアンは駆け寄り、

「君、大丈夫か?」

と声をかけ、若い男を助け起こす。

若い男はぜいぜい言いながらも吐き出すように

「アーノルド・ストリートの…反戦市民連合の本部へ…。」

とつぶやいた。

ヤンは「わかった。しっかりしてくれ。」

腕をつかんで肩で背負う。

「ユリアン、手を貸してくれ。」

「はい。」

かついでいき少し広い路地を出るとヤンはカードを発光させ無人タクシーを呼んだ。

若い男を乗せると運転席に座りウィンドウを閉じる。

「ユリアンはホテルへ帰っていなさい。早く寝るんだぞ。」

亜麻色の髪の少年はやや不満そうな色をうかべたが仕方なくホテルにもどることにした。

 

「近所のビラ配りと食事へいってきます。」

華は事務所の皆に告げる。

「そうだな。ずうっとここにいては息が詰まるからな。この店とこの店がおすすめだ。いってみるがいい。」

華は笑顔でうなずいて「ありがとうございます。」と告げて出て行った。

静かな事務所にカチャカチャとパソコンのキータッチ音がする。

そこへ自動ドアがひらき、若者をかついだヤンがあらわれる。

事務所の男たちは驚き

「ヤン・ウェンリー!」

と叫ぶ。ヤンは若い男をソファに寝かせようとした。

「きさま、ピーターになにをした?」

「あわてるな。憂国騎士団に襲われていたんだ。」

「ヤン!」

ジェシカが上の部屋から降りてくる。

「ひどい傷だが、骨折はしていないようだ。」

「ヤンを応接室へ案内して。」

「わかった。」

ヤンは広い部屋に通された。

 

しばらくするとジェシカと反戦市民連合の運動員は金髪の温和そうな男性をつれてくる。

「ジェームス・ソーンダイクと申します。ヤン中将、うちの運動員を助けてくれたそうだね。本人にかわってお礼をいいます。」

「ヤン・ウェンリーです。」

ヤンが手を差し出すと、ソーンダイクの運動員の一人がカメラのシャッターを数回にわたって切る。

ジェシカは「やめなさい。」

ととめた。

運動員は

「これを発表すれば主戦論者の連中にひとあわふかせられるんだ。どうして?」

「そんなことをすれば、あの連中と同じになってしまうわ。それから先日のテレビのヤンと少女の表情はどうおもった?。」

「どうおもったって?」

「ヤン中将は政治に利用されるのが好きじゃないの。」

「もうしわけない。本当にそうなんだ。こないだはうかつだった。赦してほしい。」

ヤンは運動員たちに頭を下げた。

ヤンがジェシカと出かけると華が帰ってきた。

「おお、おかえり。」

「皆さん、ただいま。」

華は自分の席に戻って宛名書きのつづきをはじめた。

 

数日後、ソーンダイク候補は、運動員たちに

「トリアチが軍需産業から多額の献金をもらい、テルヌーゼン市議時代に入札情報の漏洩や、親族の徴兵逃れの工作を行い、トリューニヒトに多額の献金をしていることがわかった。」

と伝えた。

「それを演説に使いますか?」

「正々堂々と論戦を挑むにいいかともおもったが、誹謗中傷ととられるし、コンプラレール紙やリストレエコノス紙なんかは大々的に意見広告を出し、風評被害だという大キャンペーンをはるだろう。うちのサイトにDdos攻撃や抗議電話やFax、eメールが多量に送られてきてその対処に無駄なエネルギーを使うことになるだろう。」

「それも…そうですね。」

「最近、ライズリベルタ紙社屋の銃撃事件は知ってるだろう。それもあるから取り上げてもらえるかどうかわからないが、これをマスコミに伝えてほしい。そのような候補が代議員としてふさわしいのか市民たちに考えてもらいたいのだ。」

「そうですね。無駄かもしれませんがやるだけやってみます。」

 

さて選挙の前日になった。その前の日は雨だったがうそのように晴れている。

午前9時30分、ナイトクラブの経営者のションソン・ガーネットは、中心街へ向かった。彼はマフィアの手下で、トリアチやテルヌーゼンの警察署長エドガー・ハーデイングとも通じていた。

10時50分、ジュリア・アマンダがテルヌーゼンの西部地区に向かって車を走らせていた。エブリー・プラザにさしかかったとき、行く先にトラックが止まっていた。

「こまったわねえ。早くいかないかな。」

トラックからは二人の男が降りて、なにやらライフルのようなものを箱に入れて降ろして草むらのほうへ下って行った。トラックはそれから移動したのでアマンダは不審におもったが通りすぎて、車を走らせたときには、

「さて、何を買わなきゃいけないかな。」と本来の用事である買い物のことを考えはじめた。

正午になった。

新聞記者であるデニー・ワーズは、ジョンソン・ガーネットとブエノアイレ・ホテルで鉢合わせた。

エブリー・プラザをよごぎっている陸橋上の線路を整備していたバウワー・ヤングは、ハポネプラムのナンバーのついた三台の車がメイン通りからみて草むらの死角に隠されたのを見る。運転している二人の男のうち一人は携帯端末でなにやら連絡をとっている。

ソーンダイクの支持者だったエドワード・ハフマンは、ビブリオストック社のビルの西側に車をとめて、ソーンダイクの選挙カーを待っていた。ここからは公園の柵の向こう側までみわたせる。

縫製工場につとめていたキャロライン・ウオーリーは、同僚に話しかける。

「お昼だね。」

「そうだね。どうする?」

「近くにおしゃれなカフェがあるの。ランチ食べにいってくる。」

「わたしもつれてって。」

「いいよ。」

キャロラインは笑顔で答える。対面の赤レンガのビブリオストック社のビルの六階あたりに二人の男がいて、一人はライフルをかまえているのを見る。

「なんか、ものものしいね。」

「いこ、いこ。」

キャロラインと同僚は、その男のことを頭からおいはらって、そのビルの反対側にあるお目当てのカフェへむかった。




OVAだとソーンダイク候補は事務所の爆発に巻き込まれて死亡しますが、本作では相手候補のスキャンダル情報をつかみました。しかし、その情報が的確に公開されることさえもあやぶまれるほどマスコミが統制されていました。「まだ雨はふりだしてはおらんが雲の厚さたるや大変なものだ。」とビュコック爺さんが評していたようにです。
同盟では「盗聴の記録自体は証拠能力がないし、人権侵害として訴える材料になる。政府に同盟憲章を尊重する気があればだが...」「民主主義の建前を公然と踏みにじることは出来ませんわ。いざというとき武器に使えます。」だそうですが、前者に証拠能力があって、憲法や民主主義の建前を...おやだれか来たようだ。

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