Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第86話 「禿鷹の城」ワープ実験準備です(前編)

その報告は、ケンプが執務室で休憩しているときにもたらされた。

「閣下。」

「なんだ。」

「ローエングラム元帥からご命令です。新たな作戦計画があるので、帝都オーディンに戻り、元帥府に出頭せよ、とのことです。」

「ルビッチ大尉。話は聞いたか。」

副官は、花崗岩の風格を持つ上官に喜色が滲んでいることを感じたが

「はつ。」

と短く返事をした。

シャトルで数千光年の旅の後、オーディンが見える。

降下して、元帥府につくと懐かしい部下がいた。

「おおリュッケ中尉ではないか。お久しぶりだな。」

「お久しぶりであります。ケンプ閣下。それではこちらに。」

ラインハルトの執務室に入ると、部屋の主である金髪の青年元帥のほかにビアホールの亭主のような人物がいるのを確認する。

(科学技術総監のシャフトだったか、なぜここに?ローエングラム公はシャフトを好いていないはずだが...。)

金髪の若者は、偉丈夫の部下に声をかける。

「早かったな、ケンプ。もうすぐオーベルシュタインとミュラーも来る。そのソファにかけて少し待て。」

やがてオーベルシュタインとミュラーが入室したのを確認すると金髪の若き元帥は

「そろったようだな。それではシャフト技術大将、卿の作戦提案を話してもらおう。」

シャフトは立ち上がったが、とさかを逆立てて勝ち誇るチャボを思わせた。

説明を聞きながらケンプは心の中で毒づく。(「不逞な叛徒ども」「自由惑星同盟などと僭称している」というセリフをなんども多用して長々と説明を行っているが、要するに、イゼルローンには叛乱軍の智将と呼ばれるヤン・ウェンリーがいるが、ここさえ落とせばアムリッツアの壊滅的敗北、先だっての内乱から再建に程遠い同盟領は無人の野に等しいからイゼルローンに匹敵する要塞、すなわちガイエスブルグ要塞をワープエンジンを取り付けて移動させ、一気にたたくってことだな、単純なことを主観的な美辞麗句と中傷で長々と…この学問への敬虔さを一辺も感じさせない俗物めが…)

多かれ少なかれ、ミュラー、ラインハルトも同じ気持ちだったが、オーベルシュタインは、

一層冷ややかに得意そうに説明する「チャボのようなビヤホールの亭主」を眺めていた。

「卿らを呼んだのはこのためだ。ケンプを司令官、ミュラーを副司令官に任ずる。科学技術総監の作戦計画に基づきイゼルローンを攻略せよ。」

 

ガイエスブルグ要塞のイゼルローン回廊へのワープ計画は、ケンプ提督の精力的な指揮のもとで、64,000人の工兵が動員され、要塞の破損個所の修復、12個のワープエンジンと同数の通常航行用のエンジンの取り付けが急ピッチで進められていた。

 

その様子をながめながら、くすんだ短めの金髪と生き生きと知性をたたえたブルーグリーンの瞳をもつ少年のように見える人物はいささか不安そうな表情をたたえていた。その人物は、ドレスこそ着ていないものの、首元にスカーフをつけ、あくまでも動きやすい服装であって、筋肉質でないすらりとした肢体などから女性であることがわかる。

(ローエングラム侯は何をお考えなのかしら。今宇宙が必要としているのは、公正な統治者としての能力なのに...なぜこの時期に出兵が必要なのかしら...新技術をためすための出兵?あまり健全なありようではないわ。)

 

3月半ばには、第1回目のワープテストが予定されている。そのためにケンプはさらに25,000名の工兵の増員を要請し、ラインハルトはそれを承諾するつもりである。

「ワープというのも存外面倒なものだ...。」

昼食の席で、金髪の若き覇者は、短くくすんだ金髪の美しい主席秘書官につぶやいてみせた。

「質量が小さすぎれば、十分な出力が得られない。大きすぎれば、エンジンの出力限界を超えるし、複数のエンジンを使った場合は、完全な連動がないと亜空間に閉じ込められて出られなくなるか、原子に還元してしまう。それにあまり重力の影響の大きい場所からは発進できないし、到着もできない。」

「ケンプ提督はよくやっておいでですわ。」

「まだ、完全に成功したわけではないが...。」

「成功してほしいものですわ。失敗したら、あたら有能な提督を喪うことになります。」

「それで死ぬとしたらケンプもそれまでの男だ。仮に今回の任務を受けずに永られたところでたいして役には立つまい。」

(キルヒアイス提督が生きておられたら...。)

金髪の覇者の美しく有能な秘書官は心の中で思わずつぶやかざるを得なかった。

ビアホールの亭主のような赤ら顔の科学技術総監は、ガイエスブルグの巨大な質量とそれを移動させるためのエンジン出力の同期及び調整さえできれば技術上なんの問題もない、ととさかをさかだてたチャボのように自信ありげに断言したものの、実際に現場に携わる兵士たちの不安は拭い去りようもないものだった。なにしろガイエスブルグは40兆トン、戦艦や巡航艦がワープするのとはわけがちがう。ワープ時の通常空間への影響、ワープアウト時に発生が予想される時空震や空間歪曲の規模及び影響、そして12個のワープエンジンの完全同期は、一方間違えば要塞ごと原子に還元するか、亜空間に閉じ込められて永久に放浪しかねないことであるため、100万人という兵士たちにとっては命がけの話だった。




文字数調整のため末尾を87話に移動(2017.2.16,22:54JST)。

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