Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
「あの...。」
「ミス・ニシズミ?」
「クブルスリー大将からお聞きしました。療養からもどってきたら、ドーソン大将たち親トリューニヒト派にすっかり占領されていて、組織や命令系統が機能しなくなっている、このままでは同盟軍はトリューニヒト議長のためだけにうごく組織になってしまうって...。」
「それだけじゃないぞ。ヤン。あの元気なビュコック爺さんが幕僚人事や艦隊運用をじゃまされてうんざりしてるそうだ。」
ヤンは無言になった。辞表を出して年金生活とはとても言えない。
みほやメルカッツ、その他多くの部下たちを守らなければならない。
「まあ、とにかく保身のことは少しでもいいから気に留めておいてくれ。」
キャゼルヌは、いくら出来の悪い保護者でも二度も保護者をなくすのはユリアンにとって気の毒だ、といえば、ヤンはいやその出来の悪い保護者にユリアンを押し付けたのはどなたでしたかね、と反論する。そんな会話でユリアンを酒の肴にしながら、二人はふと話題の種である亜麻色の髪の少年本人を見やった。
キャゼルヌ家の小さなレディが二人とも眠そうだった。
「オルタンスさん、わたくしが。」
「お客人なのに。そんなこと。」
「オルタンスさん、気にしないで。華はこう見えて力持ちなの。」
「沙織さん...。」華はほおを少々赤らめるものの否定はせず、
「さあ、シャルロットちゃん。いきましょう。」
シャルロットを背中におぶる。
「お姉ちゃま...ありがとう。」
ユリアンがアンリエッタを抱き上げて、華に続いて寝室へ運ぶ。
「保護者と違ってよくできた子だ。」
「それはそう思いますが、ユリアンも一度だけ言いつけを破ったことがあるんですよ。」
「なんだ、それは?初耳だが?」
「隣の家のナイチンゲールを一日預かって、餌をやるようにと命じておいたのに、フライングボールの練習試合にでかけてしまった。」
「で、お前さんはどうしたんだ?」
「厳然として夕食抜きを命じました。」
「それはお前さんも気の毒だったな。」
「なんでです?」
みほや沙織もにやにやしている。
「どうしたんだ、ミス・ニシズミにミス・タケベまで...。」
「わたしがその時いたら、ごはん会におさそいしたかったです。」
キャゼルヌもにやにやしながら同意を求める視線で沙織を見て
「わかるだろ?沙織。」
と一言つぶやく。
「はい。よくわかります。」
「翌朝食欲があったのは事実です...。」
「ほう、ほう、食欲があったと。」
「それでは、わたしたちはお邪魔しました。」
「オルタンスさん、ごちそうさまでした。」
「いえいえ。」
「おう。また来てくれ。」
あんこうの5人はキャゼルヌ家の主人とオルタンスに頭を下げると玄関のドアが閉じられた。ヤンはトイレに行くために席を立った。
「ユリアン、ちょっと来い。」
「何ですか?」
「お前さんは、ヤン第一の忠臣だ。だから話すんだがな、お前の保護者は昨日のこともよく知ってるし、明日のこともよく見える。ところがそういう人間は今日の食事のことはよく知らない。わかるな?」
「はい、わかっているつもりです。」
「極端なたとえだが、今日の夕食に毒が盛られていたとする。それに気づかなければ明日や明後日のことがわかっても、ヤンにとっては何の意味もなくなる、こいつもわかるな?」
ユリアンは即答できなかった。逆にキャゼルヌに問い返す。
「僕にできることはなんだってやるつもりですが...。あの....ヤン提督の立場ってそれほど危険なですか?」
「今は大丈夫だ。帝国という強大な敵がいる以上ヤンの才能は必要だからな。事態なんてものはわかったものじゃない。ヤンが知らないはずじゃあないはずだが...。」
「純真な少年をへんに洗脳しないで下さいよ。先輩。」
戻ってきたヤンは肩をすくめてつづけた。
「わたしだって何も考えてないわけじゃありません。ミスター・トリューニヒトのおもちゃになるのはごめんですし、安定した老後を迎えたいですからね。」
とはいうものの、ヤンもキャゼルヌもユリアンもその悪い予感が3月上旬に一片の通信文によって的中することになるとは思いもよらなかった。