Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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トリューニヒト派の政治屋たちが暖衣飽食して密談と女性歌手にうつつを抜かしているときに前線の兵士たちは命がけの戦闘を行っていたのであります。




第80話 安全な場所での密談と前線の艦隊戦であります。

トリューニヒト派の政治屋たちは、まともな同盟市民が聞いたら鼻白む密談を続けている。自分たちの権力を維持することが自己目的化させることが正義であり、そのためにマスコミ幹部との会食をし、人事に介入し、都合の悪い報道を抑え、自分たちの都合の良いように報道させて、政敵を追い落とす、それが彼らの本能であり、発想の出発点なのだった。

「やはり危険だな。あのミホ・ニシズミもヤンにべったりだ。あのフォークの報道が裏目に出て事実無根ということにせざるを得なかったからますます二人の結束は強まっている。政界に出たら男性票をさらうだろう。」

「いっしょに出させなけれないいのだ。」

「ドーリア星域の会戦のとき、ヤンは全軍の将兵に言ったそうです。国家の荒廃など個人の自由と権利に比べればとるに足らない、と。けしからん言いぐさと思いませんか。」

「危険ですな。」

「国家あってこその自由と権利だというのに。国益及び公の秩序をなんと心得ているのかな。」

「それを敷衍すれば、個人の自由と権利さえ守れるなら、同盟が滅び、帝国にとって代わってかまわないことになる。愛国心や祖国愛が足りない輩ですな。」

「もっとつつけば出てくるだろう。調査しておいていざという時に一斉に流すのだ。」

「ネット上でもヤンとミス・ニシズミのサイトは盛況です。われわれも特定の大掲示板やニュースサイトだけでなく、個人ブログも監視しないと。」

「帝国と言う存在がある限り、ヤンの才能は同盟にとって必要だ。致命的なものでなければときに失敗するのも本人のためだろう。」

トリューニヒトがつぶやくように言う。同盟の国力は、長年の戦争により、疲弊していたところ、アムリッツアの敗戦が決定打になって衰退しつつあり、フェザーン、地球教、そして崩壊して、ローエングラム体制のもとで生まれ変わる帝国の草刈り場になるなどとは全く見えていないのだった。かれらは「同盟」という器さえあれば自己の権力が安泰であるかのような錯覚に陥っていることに思いもよらない。ただ近い将来に政敵になりうるヤンの存在をいかに押さえつぶすかしか考えられないのだった。

「まあ難しい話はこれくらいにして、最近ハイネセンでは、ボニータ・ライスフィールドという歌手がいて、われわれの集会にもよく顔を出してくれるんだ...。」

「ほお...。」

トリューニヒトは、自分たちのシンパでもあるという人気歌手についての雑談を聞き流しながら、ヤンのことを考えていた。あの青年は、自分の演説の時に総立ちの中、座っていたり、先日の式典の時も心を許していないことを悟っていた。無礼なやつとおもいつつも、その才能に舌をまかざるをえない。しかもイデオロギー的にも危険だ。できることならヤンを味方につけたいが、どうしてもだめなら排除せざるをえない。上手くいけば目の前にいる飼い犬のような連中と違って自分の権力はより盤石になる。そうなってほしいものだ、と考えていた。しかしそのためにはレベロ以上に良心的な政治家にならなければならないが、国民を風に流される凧のようにしか考えていないこのポピュリストには思いもよらないことだった。

 

さて、宇宙暦798年(帝国暦489年)1月22日に、イゼルローン回廊で起こった同盟軍アッテンボロー少将の率いる分艦隊と帝国軍アイヘンドルフ少将の分艦隊が偶発的な接触によって戦闘に入った。植物園のベンチで昼寝をしていた黒髪の提督は副官グリーンヒル大尉に呼び出され、最初は眠そうに返事をしていたが、副官の報告を聞き終えると、

「辺塞、寧日なく、北地春光遅しか....めんどうなことだなァ、ユリアン?...。」とぼそりとつぶやいて被保護者の名前を呼ぶ。きょろきょろと、周囲をみまわし、件の被保護者がいないことを確認して小さくため息をつき、改めて副官の顔を見る。

ヤンは黒髪を片手でかき回して、立ち上がり、軍用ベレーをかぶると

「安全だと思ったから送り出したんだがなあ...。」

と独語する。フレデリカはなぐさめるように

「きっと無事にかえってきますわ。ユリアンには才能も運もありますから。」

ヤンは、てれかくしに、ことさらに不機嫌そうな表情と声をつくってつぶやくように言う。

「さて、アッテンボローも大変だろう。今回は新兵ばっかりってことだからな。早く助けに行ってやらないとな、ということで大尉。」

副官にかけるヤンの声がやや明るくなる。

「はい。」

「至急幹部会を開く。皆を会議室にあつめてくれ。」

「はい。」

会議室の机を囲んだ部下たちの意見をひととおり聞いた後、ヤンは、司令官顧問となった初老の提督にたずねる。

「客員提督のお考えは?」

場の空気が緊張を帯びた。しかし、元帝国軍の練達の名将は、軍服こそ帝国軍のそれであるが、民主国家防衛の最前線を支える指揮官として頭を切り替え、才覚にふさわしいごくまっとうな意見を述べた。

「増援なさるのであれば、緊急に、しかも最大限の兵力をもってなさるのがよろしいかと小官は考えます。それによって敵に反撃不可能な一撃を加え、味方を収容して、すみやかに撤退するのです。」

敵と発言した時、初老のメルカッツの表情にわずかではあるが苦渋の色が見えた。やはりラインハルトの麾下であっても、帝国軍と聞けば虚心ではいられないのである。

「客員提督のお考えにわたしも賛成だ。兵力の逐次投入は、この際かえって収拾の機会を減少させ、かえって戦火の拡大を招くだろう。全艦隊をもって急行し、敵の増援が来る前に一戦して撤退する。言い換えれば、敵が賢明であれば、撤退の判断を下すことも期待できるというわけだ。ただちに出動準備にかかってくれ。」

幹部たちはザツと軍靴を揃えて敬礼し、司令官に応える。

「メルカッツ提督には旗艦に同乗していただきたいのですがよろしいですか?」

階級が上であっても、ヤンはメルカッツに対して丁寧な口調になってしまう。心から尊敬する、用兵学の生きた教科書のような帝国の名将が目の前にいるのだ。自然と賓客を遇する口調になる。帝国軍との直接戦闘する場にメルカッツを引き出したくないと考えつつもヤンが艦隊を率いて出撃したあとに、メルカッツが居残ると司令官の留守中の間の危険を危惧する声がでてきて要塞内がざわつくのを防がなければならない。ばかばかしい懸念だがヤン同様、メルカッツも充分に承知していた。

「承知しました。」

亡命の客将は短く答えた。

 


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