Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第79話 ごそごそうごめいています。

さて、ハイネセンから何千光年か離れた暗がりの一室である。

「過去や未来へ行き、歴史改変を行う時空転移をするシステムが教団内部で発明されているのか...。」

「その可能性があるということです。」

「たとえばアスターテ会戦やアムリッツア会戦時に通常のワープでは説明できない種類の時空歪曲場が確認されています。」

「なぜ、それがわしに知らされていないのだ?」

「不逞な輩なのか実験段階なのか...同盟と帝国を共倒れさせるという目的は変わらないから目立ちはしませんが...。」

「ルパートやルビンスキーは知っているのか。」

「いまのところ知っている様子は見受けられません。もちろん知っていて巧妙にとぼけている可能性は否めませんが。」

「ゼフィーリア。」

「はい、猊下。」

「そちは、何か知っているか。」

「心当たりがないわけではありませんが、その前に大司教猊下。お忘れになっていることがありませんでしょうか。」

「そんなものは記憶にないが。」

「このたびのリップシュタット戦役において、貴族連合軍の援助をいたしました。そのことについて報酬があることをお聞きしているのですけれど。」

「地球の神聖が守られる以外に何の報酬があるのだ。そちは忠実なる信徒ではないのか?」

その場の空気がどす黒く重くなった。美女と黒いフードの老人が激しくにらみ合って火花が散る。

黒いフードの老人が口元をゆがめると、そばにいた信徒たちが美女に襲いかかった。

美女はにやりと微笑むと大鎌をふるって狂信者たちを切り裂き、血しぶきがあがる。狂信者たちは激痛に悲鳴を上げ、生首がころがる。

総大司教の杖と大鎌が激しくぶつかり火花を散らす。

「ふん。結局ローエングラム侯は勝利を得たではないか。邪魔をして相打ちさせるか、ローエングラム侯が勝利してもアムリッツアの同盟軍のように決定的な損害を得ていなければ意味がない。」

「その話まではわたくし寡聞にしてお聞きしていませんけれど。ローエングラム侯は、キルヒアイス提督を喪いました。決定的な損害といえないでしょうか。さらにわたくし、島田愛里寿を、元の世界に戻しましたけれど。」

「ふん。時空転移技術を開発した輩を引き渡した時に上乗せする。」

ゼフィーリアは一礼して消える。

「あの女もくせものだな。はやいうちに始末するのだ。」

黒衣の信徒がかしずく。

別の信徒がかしずいてないやら報告する。

「同盟のほうは、なんとかトリューニヒトは復権させたか...。」

「ふむ。今日のところはこの程度にしておく。」

円陣のように並んだ地球教徒たちはこうべを垂れ、その中央に現れていた総大司教の幻は消えた。

またそこから少なくとも数百光年離れた似たような暗がりの部屋で、方向性は正反対だがその性質はそっくりな会話が交わされていた。

「救国会議のクーデターは失敗したが、同盟を弱体化させることには成功した。それから21世紀から実験的に同盟に送り込んだ娘たちは有能すぎた。」

「最初のひとりは帝国におくりこんだはずだが、エルラッハの愚か者が...。」

「まあいい、改めて島田流と黒森峰を送り込んだではないか。」

「こんにちは、みなさん。」

「ゼフィーリア殿。」

「このたびは、ゼフィーリア殿のおかげで死を免れたことは礼を言う。」

「わたしたちはもっと大きなことができるはずですよ。「エリオット王子」。」

「あの老人にこの秘密を知られるわけにいかん。」

「あの老人は知っています。ただ、だれがということまではつきとめていないようですけれど。」

そのとき美女がやにわに大鎌をふるった。

黒衣の狂信者がグエっとくぐもった声をあげて、血を噴き出して床にころがっていた。

「やはり油断ならなくなったな。」

「かぎつけ始めたのでしょう。いままで総大司教猊下に協力してきたことを後悔しています。」

 

そして、ハイネセンで、この惑星の名前に冠された国父が知ったら悲しむであろう内容の会話が、やはり似たような暗がりの部屋で、交わされていた。

「そうか。ネグロポンティ君。」

「はい。地球教団は二つに割れているということです。憂国騎士団も閣下のいない間に二つに割れていた次第で。」

「フォーク君の風向きが悪いとなったらわたしになだれをうつようについたというわけだ。」

「地球教団で、地球が過去や未来へ行き、歴史改変を行う時空転移をするシステムが発明されたようです。あのミホ・ニシズミをはじめとするチームあんこうは過去からつれてこられた連中のようで...。」

「ミホ・ニシズミもそうだがヤン・ウェンリーも問題だな。」

「今回は内戦だから勲章ですませ、シェーンコップだけ昇進させた。シャンプールの市民の請願がうるさくてな。仲間割れのくさびにちょうどいいからな。」

「しかし、次に武勲をたてれば昇進させざるを得ない。クブルスリーを復帰させたのだからかならず昇進させたがるだろう。」

「ドーソンはたいした功績もないのに昇進してきたからな。」

「われわれにとっては、軍部を統制するのに使えるコマです。軍部は、今回のクーデターで何もできなかった。軍部の士官たちの中にはわれわれの同志がおおくいます。彼らで固めれば、クブルスリーもあの頑固者の老人もなにもできんでしょう。同時にヤンも抑え込めるというわけです。」

「かりにヤンが武勲をたてれば元帥だ。しかし、われわれの政権維持のためにも戦勝の事実があれば大いに宣伝しなければならないから、ヤンを昇進させないわけにはいかない。」

「30そこそこで元帥か....」

「そして退役して政界入りするとすれば、不敗の名将で若くておまけに独身だ。大量得票で当選するでしょう。あのジェシカ・エドワーズと親しかったことからイデオロギー的には反戦市民連合に入る可能性がある。」

「風が吹いて、やつの周囲にむらがる連中が出てくるだろう。なんの理想もなく、政治的才能もないのに権力ほしさだけでな。そうなると量的には無視できない勢力になる。」

まともな同盟市民が聞いたら鼻白むセリフをトリューニヒト閥のボネが平気で言う。なんの理想もなく、前向きの政治的ビジョンもないくせに、自分のことは棚に置き、権力を維持することが自己目的化させた、いわば国家を食いつぶす寄生虫にすぎないことの自覚がないために恥知らずな密談ができるのだった。今回の話題はたまたまヤンが出馬した場合の危惧や対策であったが、マスコミを押さえて、自分たちの都合の良いことを「公平な」報道とし、都合の悪いものを「不公平な」報道とし、裁判を辞さないなど圧力をかけてテレビ局、雑誌社のキャスターや編集者をやめさせ、政敵を追い落とす、そのための悪だくみの延長線上の密談なのだった。




末尾を改変(1/25,1:45a.m.)

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