Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
そしてⅣ号の砲手をしていた上品な華道家元の少女は...
「う、ううん...。」
黒いストレートの長髪の上品な少女は、上体を起こして起き上がろうとする。
彼女は
「はつ...。」
と小さく叫んで何かに気が付いたように左右に激しく頭を振ってあたりを見回す。
最初の校内試合で彼女がⅣ号戦車を初めて操縦した時のように、はげしい衝撃で気絶していたらしい。しかし、今度はどうやらⅣ号の中ではないようだ。
「ここはいったいどこでしょう...。」
「おい、これはどうしたことだ!」
黒い髪の少女はその声がしたほうへ顔を向ける。
彼女がいるのはもの置き場にされている暗い部屋だった。しかし、隣の部屋を仕切っているスライド式の扉が開けっ放しなので、照明が明るく差し込んでおり、テレビ画面も丸見えだった。
テレビに金髪の実年の男が映しだされ、黒髪の東洋人風の若い男性の肩をつかんでいる場面になる。その男の前には小学生くらいだろうか、少女がいる。黒髪の東洋人風の青年はとまどいの色を顔に浮かべている。
「紹介します。アスターテの英雄、ヤン・ウェンリー中将です。」
少女はヤンが政治宣伝に使われていて迷惑そうな表情をうかべていること、戦災孤児として紹介された少女の沈んだ表情をみのがさなかった。
「ヤン中将、花束を。」
少女はヤンに花束をわたすが、なにかいやなものを見るような沈んだ表情であった。
ヤンは少女の表情のそこにある彼女の気持ちを察し、悲しさとかすかな怒りを覚えた。
「この少女は戦災孤児なのです。この娘の父親は先般のアスターテ会戦で戦死したのです。祖国のために、自由と平和のためにその尊い命を捧げたのです。
このような命を無駄にしない方法はないのだろうか。それは戦って帝国に勝つことである。自称平和主義者どもは帝国との講和を主張するが専制的な絶対主義者との共存が可能と信じているようだがそれは妄想にすぎない。帝国に対する反戦主義などなりたちえない。わが自由惑星同盟が自由な国だからこそそのような主張が許されるにすぎないのだ。自称平和主義者どもは甘えている。自らは戦場にいきたくないという甘ったれの寄せ集め、利己主義者に過ぎないのだ。」
「そうだ!そうだ!」
周りの支持者と思われる群衆がはやしたてる。
「テルヌーゼン地区の補欠選挙には、ぜひともこのレイモンド・トリアチに一票を!個人主義でなく、公益を考えれば当然のことである。是非とも皆さんの賢明な選択をお願いしたい。それこそがあすへの勝利につながるのだ。
同盟万歳!共和国万歳!帝国を倒せ!」
同盟の国歌がハミングで唱和される。少女はうつろな目をしてうつむいていた。
そこへ、ナグラシッテという記者がたずねる。
「ところで、トリアチ候補、あなたの親族は当然最前線にいっておられるので?」
トリアチの表情はかたくなった。
他の記者も
「一説によるとリベートで兵役の..」と質問した。
トリアチは顔を真っ赤にする。
「くだらん。愛国者であるわたしを侮辱するのか。」
「そうだ、そうだ。」
「売国記者!こいつらをつまみだぜ。」
「トーリアチ、トーリアチ」
「ありがとう。ありがとう。」
ナグラシッテが質問した場面はもののみごとに削除されて放映された。
ナグラシッテは、会社に帰った。表札にはRiseliberta Newspapaer Co.Ltdとなっている。
ライズリベルタ社は、テルヌーゼンでもそれなりの部数を誇る中堅どころの新聞社だった。ナグラシッテは自分の机に向かい、記事をまとめようとすると、デスクに呼び止められる。
「ナグラシッテ、トリアチ候補に余計な質問をしたようだな。」
「え?」
「異論は認めん。それは記事にするな。じゃあわたしは帰るからな。」
デスクが帰った後、銃弾が一斉に撃たれた...。
翌日、過激派マフィアがライズリベルタ社を銃撃し、ナグラシッテ記者が死亡したという記事が掲載され、各紙は形ばかりの言論の自由の侵害は許さない旨の論説を載せた。
そのマフィアとされる男は「むしゃくしゃしてやった。どこでもよかった。」と発言している様子が放映された。
一方、ナグラシッテの上司であるデスクの端末にはearthと名乗る者の脅迫メールがとどいていた。
「ナグラシッテ記者の記事を載せるな。のせたらあすお前は海の上に浮かぶか、いずれにしろこの世から退場してもらうことになる。」
という文面であった。銃撃事故が起こった数時間後なぜかそのメールはデスクの端末から消えていた。気が変わって警察にとどけないようにするためだったが、もっとも警察もいたずらだとと言ってとりあわないのは目にみえていた。earthという送り主こそ、警察官自身が身の安全のために捜査を行うなという警告にもなっているからだった。
「ニュースをお伝えします。テルヌーゼン地区代議員補欠選挙の状況をお伝えします。国民平和会議のレイモンド・トリアチ候補は、支持率が15ポイント上昇して55%、反戦市民連合のジェームズ・ソーンダイク候補は、10ポイント落ちて支持率45%となりました。」
「逆転されちゃったじゃないか。」
「とんでもないことになった。」
「ヤン・ウェンリーの野郎!」
「みんな落ち着いて。あれはヤンの本意じゃないわ。みんなにも話したでしょう。」
「ジェシカ、そうは言うが現実にテレビに映って逆転しちゃったじゃないか。」
ジェシカはだまってしまった。
ガサッツ...
黒い髪の上品な少女は物音をたててしまう。
「だれだ。」
「...ここはどこでしょう...。」
「それは、こっちこそ聞きたいな。お前はだれだ。」
華には英語に聞こえた。しかし、そのまま日本語で答える。
「わたくし、五十鈴華と申します。」
どうやら帝国語ではないらしい。
「ワタクシ...だと?」
自動翻訳機をもってくると日本語の一人称単数のひとつであることがわかる。
「なんだなんだ?」
「変な娘がいる。もう数千年前に滅んだ言葉を喋っている。」
「わたくしの仲間はいないでしょうか?同じ服を着ていっしょに戦車に乘っていたのですが....。」
「戦車だと?トリューニヒトの野郎はここをかぎつけたのか。」
「おい、お前は、トリアチか憂国騎士団の手先か?」
「はやまらないで。この娘さんはなにも状況が分かっていないようだわ。」
「トリアチっておっしゃるのはあのテレビに出てた方ですか。」
「そうだ。」
「あの方はどのような方かはわかりません。しかし、あの女の子は、すごく悲しそうでした。またヤン中将という方もあまり嬉しそうに見えませんでした。お二人とも強いられてあの場にいるような感じでした。わたくしにはにおいといいますか、あのトリアチという方は理由はわかりませんがなんとなく信用できない方のように思えました。」
「そうか。そう思うか。」
「はい。わたくし、華道をやっています。華道には集中力と観察力が必要です。あの場面をいけ花にした場合、少女とヤン中将のお二人の悲しい気持ちは素直に表現できるのですが、トリアチさんを表現しようとすると、うまく言葉で言い表せませんが、においといいますか、なにか非常に違和感といいますか不安な気持ちがわきおこってくるのです。」
「へええ...といってもどうにかできることじゃない。」
「あの...わたくしのお友達にみあたりは?」
「ないな。」
「どうする?この娘。」
「仕方ないな。とりあえずうちらの仕事を手伝ってくれないか。食事はだすから。しばらくはここにいるといい。」
「はい。」
華は明るく答える。
「よく見るときれいなお嬢さんだな。」
「華道やってるんだってな。花を活けてくれないか。あんたと花があれば事務所もはなやいで前向きになれるかもしれないからな。」
「はい。」
華はほほえんだ。
「皆様を勇気づけられるのならお花を活けさせていただきます。」
(はやく「あんこう」のみんなに会いたいです。それまでのがまんです。)
翌日からビラまき、電話当番など華は反戦市民連合の事務所で手伝うことになった。
華は反戦市民連合の事務所を手伝うことになったが、どうにか普通の仕事を紹介してもらうか、あんこうの皆に会う手がかりをどうにかしてつかめないか祈るような気持ちだった。
華のイメージにぜんぜん合いませんが、どこで5人を会わせるか考えていたときにこういう話になりました^^;。その後気が変わったのですが、ほかの案が思いつかなかったので...ご容赦を...
イゼルローン要塞のトールハンマーをぜークトの旗艦に狙いを定めて撃つ役にいきなりだそうかなとも考えましたが、なんかいきなりだとさすがに脈絡がないし、「鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん」という形になるのでやめました。