Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
メルカッツの率いる艦隊は、勝ち誇るラインハルトの艦隊の近くに孤立していた。もはやガイエスブルグに戻ることもできない。
一将功成らずして万骨は枯る...か...
それは奇しくも数年後にかっての敵国の老将がラインハルトとの戦いに敗れた時に抱いたものと全く同じ感慨であった。
メルカッツは自室へいきブラスターをこめかみに当てた。
「おやめください。閣下、お命を大切に。」
ドアが開き、若い副官がとびこんできた。
「シュナイダー少佐...。」
「お許しを。閣下。もしやと思いまして。」
シュナイダーは、手に握ったエネルギーカプセルを上官にみせる。
メルカッツは苦笑してブラスターを机の上に投げ出し、少佐がそれを拾う。
「それにしても気付かなかった。いつカプセルを抜き取ったのかね。」
シュナイダー少佐はブラスターの銃身を折って見せた。エネルギーカプセルは抜き取られていない。
「ふふ...こいつはだまされたな。そうまでしてわしに死ぬなと言うのかね、少佐?」
「はい。そうです。」
「だが、どうやって生きろというのだ?わしは敗軍の将で、彼らからすれば叛逆者でさえある。
もう帝国のどこにもわしが生きていく場所はない。ローエングラム侯のことだ。降伏すれば許してくれるかもしれんが、総指揮官だったのは事実だ。わしも武人として恥を知っている。」
「お言葉ですが閣下、ローエングラム侯とて全宇宙を支配したわけではありません。彼の手が及ばない場所がまだまだ残っています。そこでお命を保たれ、捲土重来をお図りください。」
「...亡命しろというのか。」
「さようです、閣下。」
「捲土重来と言うからには、亡命先はフェザーンではあるまい。もう一方か...。」
「はい。閣下。」
「自由惑星同盟か...。」
「わしは、40年以上も彼らと戦い、部下を数多く殺され、わしも同じくらい彼らを殺してきた。そのわしを彼らは受け入れるだろうか...。」
「高名なヤン・ウェンリー提督をたよってみましょう。いささか風変りですが、智者や勇者を遇する道を知っている人物に思われます。
だめでもともとではありませんか。もしだめならそのときはわたしもお供いたします。」
「ばかな卿は生きることだ。卿の能力ならばローエングラム侯は重く用いてくれるだろう。」
「ローエングラム侯が嫌いではありませんが、わたしの上官は閣下おひとりと決めております。どうかご決断を。」
どのくらい時間がたっただろうか。しかし、数分とたっていないはずだった。
「わかった。卿にわしの身柄を預ける。ヤン・ウェンリーをたよってみよう。」
ガイエスブルグは陥落寸前であった。
「アンスバッハ准将....アンスバッハはいないか....。」
かって権勢をほこった大貴族は、服ばかりは豪奢だが、あせりとおびえで動揺している中年オヤジにすぎなくなっていた。うろうろふらふらとあてもなく要塞内を歩いている。
「閣下。ここにおります。」
「おう、そこにいたか。もう逃げてしまったかと思っていた。」
「部下たちが助け出してくれたのです。それよりも閣下無念をお察しします。」
「まさかこうなるとは思わなかったが、ここに至っては講和しかあるまい。」
「講和とおっしゃいますか...公爵閣下、どのような条件で講和なさるおつもりですか?」
ブラウンシュバイク公は、ラインハルトの宗主権を認め、娘のエリザベートを与える、皇統を継ぐ正当性を得られるのだから簒奪者の汚名を着るよりはいいだろう、というのだった。
「閣下。それは無益です。彼はあなたが比類ない帝国貴族の名門だからこそ、旧体制を払拭するとともに、人道の敵として処刑して見せなければならないのです。」
「人道の敵?」
「ヴぇスターラントの核攻撃のことです。」
「ばかな...身分卑しき者どもを始末するのは支配者として当然の権利だ。」
「平民たちやローエングラム侯はそうは思いますまい。これからは貴族の論理とは異なった論理が宇宙を支配するようになることを示すためにもローエングラム侯は、閣下を殺さねばならないのです。」
「わかった。わしは死ぬ。しかし、金髪の孺子が帝位を簒奪するのは耐えられん。アンスバッハよ。奴の簒奪を阻止してくれ。それを誓ってくれればわしは自分の命を惜しみはせぬ。」
「わかりました。ローエングラム侯を殺害して御覧に入れます。」
「なるべく....なるべく...楽に死にたいのだがな...。」
「お気持ちはわかります。毒になさるのがよろしいでしょう。すでに用意してあります。」
「急速に眠くなり、なんの苦しみもなくそのまま死ねます。」
アンスバッハは、ワインを取り出してグラスにつぐと二種類の毒薬の粉末を振りかけた。
ブラウンシュバイク公は、おびえのあまり全身をわななかせ、
「アンスバッハ、いやだ。死にとうない。わしは死ぬのは嫌だ。奴に降伏する。領地や地位を差し出して命だけはまっとう....。」
アンスバッハは合図をすると屈強な男が公爵の身体と鼻と口を押さえつける。
「何をする。無礼な!離せ!」
「ブラウンシュバイク公爵家最後の当主として潔く自決なさいますよう。」
毒入りのワインは深紅の滝となって公爵の喉深く注ぎ込まれ、公爵の目は恐怖のあまり一瞬見開かれたものの数秒のことであった。瞼が下がり、顎ががっくりと下へ向く。腕はだらりとさがって、帝国最大の権勢を誇った大貴族はこときれていた。
ほぼ原作沿いです。