Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第75話 ガイエスブルグ要塞前面の攻防戦...。

時はすこしさかのぼる。

ラインハルトから貴族たちに、リッテンハイムはみじめな最期を遂げた、降伏するなら食うに困らない程度の云々という古典的な決戦状が送られたのは7月末だった。血気盛ん、戦意過多、戦略過少の貴族たちを激発させて、ガイエスブルグから引き出すのが目的だった。

ミッターマイヤーが要塞主砲ガイエスハーケン射程ギリギリを遊弋しながら威嚇砲撃をガイエスブルグに行い、ガイエスブルグはその砲撃で振動する。

若い貴族たちは出撃をさかんに願うが、総司令官たるメルカッツはとめる。しかし貴族たちは激発してついにかってに出撃してしまう。ミッターマイヤーはわざとらしく敗走してみせたが浅はかで甘やかされて育った若い貴族たちは勝ったと思って意気揚々と引き揚げ、メルカッツを臆病者よばわりした。

そして再度出撃を願い、ブラウンシュバイク公は、「帝国貴族精神の精華を万人に知らしめ、思い上がった平民どもに正義の鉄槌を加えたものと言える。帝国万歳!出撃だ。」と若い貴族たちを励まして、出撃させた。もはや盟主の意思となるとメルカッツにも止められなかった。

「提督にはここに残っていてもらおう。」とメルカッツに告げる。メルカッツはかるく頭をさげて引き下がった。そしてブラウンシュバイク公も意気揚々と出撃する。尊大な態度で後方の安全な場所に鎮座して。

貴族連合軍の乱雑な砲撃に、ラインハルト軍は、わざとらしく後退して見せたが、貴族連合軍のフレーゲル男爵などはそれが擬態だとは思いもよらない。

「見ろ、あの醜態を。一度逃げ癖がつくと恥を恥と思わなくなる。一挙にやつを葬り、金髪の孺子もろとも絞首刑にしてやる。」

嘲笑しながら、自分の首の前で手刀を横へ振って見せる。貴族たちは艦隊を前進させる。

「深追いするな。罠かも知れんぞ。」

貴族連合軍の数少ない有能な指揮官であるファーレンハイトが警告すると貴族連合軍の艦隊は追撃スピードをゆるめる。

「なんだ、ちゃんとついてこないとだめじゃないか。」とミッターマイヤーはほくそえみ、挑発するように前進させた。貴族たちがいきり立って前進すると、ラインハルト軍は後退、それが繰り返された。

そうこうしているうちに貴族連合軍の隊列が延びきって、各艦隊の連携や通信に弊害が出はじめる。その機会を狙っていたラインハルト軍、ミッターマイヤー艦隊はそのおそるべき神速の用兵をおこなう。凄まじい光条の豪雨が貴族連合軍の先頭集団を襲い、一千数百隻余がまたたくまに血祭りに上げられ火球に変わり、爆煙をあげて四散する。

貴族連合軍は、ラインハルトとオーベルシュタインがガイエスブルグへの退路へ向けて作った巧みな縦深陣に引きずりこまれて、激しい横撃の餌食になって火球となって爆煙をあげ、金属の破片を漆黒の宇宙空間に撒き散らしていく。

「ブラウンシュバイク公をとらえた者は一兵卒でも少将にして下さるとのことだ。機会をつかめ!」

銀髪の少女と濃い栗毛色の髪を持つ少女は部下たちを励まし、貴族連合軍の艦隊は、草を刈るかのように粉砕され、火球に変わっていった。

 

ラインハルト軍が圧倒的な優位に見えたとき、彼らの心に心理的な空白が生まれ、視野が狭くなって、しゃにむに夢中になるような感覚が全軍に広がる。そういった勢いが止められなくなることによって、いつのまにか攻勢の限界点に達しているにもかかわらず、引き際を見極められず心理的なスキが生じた。その状態を目ざとく見破った者がいた。それは後方に控え反撃の機会をうかがっていた初老で、この戦場で老練さでは右に出る者がいない銀髪の名将だった。

「主砲、斉射!。」

ややだみ声(CV:納谷悟朗)の指揮官の命令は、その揮下の艦隊を手足のように動かし、その砲撃は整然かつ正確で光の壁のようにミッターマイヤーとロイエンタールの艦隊に襲いかかった。

「いかん。後退だ!」

ミッターマイヤーとロイエンタールはあわてて後退を命じるが揮下の艦隊は勢いが余って冷静さを失っているために徹底せず、いたずらに犠牲を増やし混乱する。

「ワルキューレ、宙雷艇発進せよ!」

軽快かつ縦横無尽に動き回るワルキューレと宙雷艇は、ミッターマイヤーとロイエンタールの艦隊に出血を強いる。いまや火球に変わるのはラインハルト軍のほうだった。

しかし、それも長く続かずミッターマイヤーとロイエンタールの艦隊は冷静さをとりもどして整然と陣形をととのえて後退する。

「ほほう、もう立て直したか。さすがだな。」

初老の銀髪の名将は、敵将の指揮ぶりに感心してみせる。銀髪の名将は、態度だけはでかい盟主をかばいながらガイエスブルグまで整然と後退していった。

要塞への帰還後、壮年に至るまで傲慢に育った大貴族の第一声は、恩人であるはずの銀髪の名将に対しての罵声だった。

「メルカッツ、なぜもっと早く救援にこなかった!!」

老練で初老の名将は、本来であれば出撃は軍令違反である、しかし、こういった場面は出撃せざるを得ないだろうという状況が説明できるまで、そして敵が数少ないスキをみせるまでとどまったのだったが、主君たる大貴族はそれが理解できないのに暗澹たる気持ちで軽く一礼して引き下がった。名将の若き有能な副官は理不尽さに歯ぎしりしたが、青年の上官はそれをなだめた。

 

貴族連合軍は連戦連敗より追い詰められていた。息子が死に敗勢を感じ取った貴族たちは自殺した。また生き残った者の中には、ひそかにブランシュバイク公の首をみやげに寝返ろうかと密談する者までいた。

「金髪の孺子の首さえ取れば...。」

とブランシュバイク公は味方を鼓舞して再び出撃する。

ミッターマイヤーは失笑を禁じ得ない。

「貴族のバカ息子ども。穴に引っこんでいれば長生きできたものを。わざわざ宇宙のちりになりに来たか。」

 

ミッターマイヤー、ロイエンタール、キルヒアイス、エリカ、まほの艦隊は、貴族連合軍の数度にわたる波状攻撃を撃砕した。

 

フレーゲルがエリカに一騎打ちを挑発するが、エリカは冷笑するだけで、挑発に乗らずに残存艦艇の掃討を続ける。

貴族連合軍の内部では、敗勢が明確になると、味方艦をいきなり砲撃して寝返る艦、降伏する艦艇が続々現れた。そうでない艦艇では平民兵士と下士官が貴族たちに反乱を起こしてまともに指揮系統が機能しなくなっていた。

 


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