Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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帝国暦488年(宇宙暦797年)4月下旬、アルテナ星域で、ヒルデスハイム伯の艦隊を血祭りにあげたミッターマイヤーは、背後からシュターデンの本隊を攻撃した。
「6時に敵。」
「ばかな…敵は前方のはずだ。」
「敵の本隊でしょうか?」
「ヒルデスハイム分艦隊とは連絡がとれんのか。」
「妨害が激しく通信不能。」
「いけません。直撃きます。」
シュターデンの旗艦に轟音がひびき、艦内に爆炎と爆風が走る。
「閣下、反転して後背の敵を討つようご指示を。」
「だめだ。撤退を。」
シュターデンが口から血を噴いて倒れた時、煙の中から、青みがかったストレートの黒髪で白いドレスを着た若い女が現れる。女は、装飾のある大鎌をかつぎ、薄く笑みを浮かべていた。
「これから私が指揮をとります。」
「なんだ、お前は?」
女が微笑んで艦橋内をみわたす。やがて全員が催眠術にかかったように黙り込んでしまった。
オペレーターもうしろを振り向いて、視界の一部に女の笑顔が入ると、とたんに何事もなかったように計器に向かう。
「!!」
「なんだ?」
はちみつ色の髪の青年提督は問い返す。
「敵艦隊からワルキューレ発進!」
「自、自動追尾機雷が…こちらに向かってきます。」
機雷に接触し数隻が沈む。ワルキューレが攻撃をしかけてくる。
「後退せよ!」
先ほどまでシュターデン艦隊を追い詰めていたミッターマイヤー艦隊に動揺が走る。
「敵、後退していきます。」
「追え!」
「閣下!」
後退していたはずのシュターデンの艦隊から主砲斉射がなされた。今度は数十隻が火を噴いて沈む。
「だめだ…しかし…誰が指揮しているんだ?さっきまでのシュターデンの指揮とまるで違う。」

「何?敗れたと申すか?」
「はい。ヒルデスハイム伯の分艦隊は全滅。しかし、閣下、この方が現れて、本隊は2割の損害でレンテンベルクへの撤退を成功させました。」
「こんにちは。ブラウンシュバイク公」
「おま...あ、あなたは?」
青みがかった黒髪の美女は微笑んで
「虚影の幻姫(ツェルヴィーデ)と呼んでいただくか、ゼフィーリアと呼んでいただくか」
とつぶやいた。


第8章 リップシュタット戦役...。
第70話 キフォイザー星域会戦...


【推奨BGM:好敵手です】

帝国では、キルヒアイスと銀髪の小柄な少女が60数回に及ぶ戦闘にことごとく完勝していた。

 

少女のはたらきは、分艦隊独自で行動した艦隊指揮も、地上戦も目覚ましいものだった。

 

いつしか兵士たちは尊敬してやまない赤毛の名将に加えて、有能な指揮官として少女を認識するようになる。いつしか少女-島田愛里寿という-は

「フロイライン・シマダ」「フロイライン・ヴィッツアドミラル」「フロイライン」と呼ばれていた。

 

そうこうして帝国暦488年(宇宙暦797年)7月、

 

「何事ですか、司令官。」

「ローエングラム侯よりご命令です。」

「敵の副盟主リッテンハイム侯がブラウンシュバイク公との確執の挙句、五万隻を率いてこちらへ向かっています。」

「辺境星域陣を奪還するという名目ですが...」

「おそらく仲間割れ。」

少女の発言に提督たちは苦笑する。

「それと戦って撃破せよとのことです。」

「いよいよですな。」

三次元スクリーンに星図が映し出される。

「決戦場はここ、キフォイザー星域になるでしょう。」

キルヒアイスは銀髪の小柄な少女を見でうなづく。少女はうなづきかえし、

「わたしが800隻を率いて、このようにリッテンハイムの艦隊を引き裂く。ルッツ提督とワーレン提督は本隊を率いて600万キロで攻撃してほしい。」

「たった800隻ですか?フロイライン。」

愛里寿はうなずく。

「ルッツ提督、ワーレン提督、敵の艦隊編成はどう思う?」

彼女自身が信頼もし尊敬もする提督たちに質問によって作戦の意図を告げる。

高速巡航艦、砲艦、宙雷艇、大型戦艦など火力や性能、特製の異なる艦艇が雑然とならんでいる。

「これは...烏合の衆ですな。」ふたりはあきれて答える。

「そのとおり。艦隊の編制比率がバラバラ。」

少女はぼそりと話して、かすかにほほえむ。

「キルヒアイス上級大将、ルッツ提督、ワーレン提督がいらっしゃる。一万隻の差?そんなのわたしが800隻でかきまわせば勝てる。楽勝。」

「敵の退路はこっちにする。ガルミッシュ要塞を落とすには効率がいい。」

説明しながら、少女の顔にかすかに悲しげなかげりがよぎる。

ルッツとワーレンの背に戦慄と冷汗が走る。敵の退路には敵の補給部隊がいる。補給部隊まで混乱させて叩き潰すことまで視野に入れている。この少女、ローエングラム侯かキルヒアイス提督が少女に生まれ変わってもう一人いるようだ。キルヒアイス提督はここまで知っているんだろう。だから自分の分身としてこの少女を用いているのか...。それにしても一瞬見せた悲しげな表情はなんだろう。どう考えても負けそうな不安から出たものではない。なにかを憐れむような表情だった。

 

一方五万隻を率いるリッテンハイム侯は余裕の表情である。

「敵艦隊確認、数四万隻。」

オペレーターが告げるとほくそえんだように-本人は其のつもりはないが-大言を吐く。

「ふん、どうせなら金髪のほうを相手にしたかったが、赤毛の子分じゃ不足だがまあいい。」

「敵艦隊、斜線陣で接近してきます。」

「小賢しい。数で圧倒する。撃て!」

おびただしい光条がキルヒアイス艦隊に放たれるが、エネルギー中和磁場に弾かれる。

「遠いわ。間合いもわからんか。」

ワーレンはほくそえむ。

【推奨BGM:無双です】

「分艦隊発進する。」

愛里寿の率いる800隻はワーレン艦隊の隊列に巧みに隠れて、ワーレン艦隊の砲撃が開始される直前にリッテンハイム艦隊の側面をついた。思わぬ方向からの攻撃にリッテンハイム艦隊は混乱する。

「敵艦隊側面から急進してきます。一千隻未満。」

「敵は少数ではないか。なにをうろたえる。」

「撃てば同士討ちになります・」

「うぬぬ...。」

リッテンハイム艦隊の一部がその隊列を愛里寿にほうへ向けようとした時だった。

 

「600万キロです。」

オペレーターにうなずくとワーレンは命じる。

「主砲発射!」

ワーレン艦隊からおびただしい光条がリッテンハイム艦隊へ横殴りの豪雨のように降り注ぐ。

リッテンハイム艦隊はどちらの敵に対処すべきか、混乱がひろがる。

「主砲、斉射三連。」

愛里寿がぼそりと命じて、800隻は光条を発射しながら、リッテンハイム艦隊を引き裂くように突き進む。

リッテンハイム艦隊は全く抵抗できなまま動揺する。

爆発光と爆発煙がつぎつぎとあがる。

その時点で無事な艦艇も衝撃波でゆれる。

愛里寿を沈めようとしても同士討ちの被害が避けられない。かえって混乱と傷口を大きくしてしまうので意味がないからだ。

愛里寿は、リッテンハイム侯の旗艦オストマルクを発見する。

「あれがリッテンハイム侯の旗艦。戦乱の元凶。捕まえろ。」

愛里寿がややドスを効かせてぼそりと命じる。

愛里寿の旗艦センチュリオンが迫る。

リッテンハイム侯は、恐れて逃げだした。敵の指揮官が中学生くらいの少女だと知ったら驚くだろう。しかしただの少女ではない。中身は下手をすると「赤毛の子分」か少なくともラインハルト軍の一個艦隊を率いる力量をもっているのだから。

 

 

「あ、あれはなんだ。」

「あれは長期戦にそなえた補給船団です。」

 

「撃て。」

「しかし、侯爵、あれは味方の...。」

「味方ならなぜわしの逃げ、戦略的後退を邪魔するのか。撃て、撃てというに!」

 

「エネルギー波接近。」

「敵か?」

「いえ、あれは味方の...。」

轟音がおこり、補給船の船内は火の海になる。多数の死者と多数のけが人が発生した。




ヴァレンティナは、ゼフィーリアと偽名を名乗ることにしました(12/23,10:57)

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