Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
「う、ううん...。」
くせっ毛の少女はおきあがってあたりを見回す。
ちかくにPKCとの看板がついた建物があった。
(あそこに行ってここはどこか聞いてみよう。)
「すみません。」
答えは英語と思われる言葉で返ってきた。
少女は
「My name is Yukari Akiyama,I'm Japanese.Where am I?Are there translater?」
名乗ると同時にたずねる。翻訳機をわたされる。小さな機械だが中国語のとなりに日本語のダイヤルがあったのであわせる。
「何だ、君は?」
「先ほど名乗ったように日本人であります。」
「そんな国はない。どうやら帝国からの亡命者かスパイじゃないようだな。」
「テイコクってなんですか?」
「うむ。わが自由の国と戦っている専制国家だ。」
プロテクター姿をみて優花里は、
「そうでありますか。すばらしいであります。...それに、みなさんかっこいいであります。」
「そうか。そうだろう。われわれこそ真に国を憂う憂国騎士団だ。」
「おおお、それはますますすばらしいであります。」
「これから街宣に向かう。君も来るか?」
優花里は、
「はい。」
と嬉しそうに答える。
プラカードを持ち「帝国からの移民はでていけ~!帝国との講和や平和主義を主張する売国奴はでていけ~。」
と叫ぶのだ。帝国からの移民反対、帝国との講和や平和主義反対のプラカードに交じって「地球をわが手に」などのプラカードもある。
優花里もそれにあわせる。
「ところで、わたしのような恰好をした女の子をほかに知らないでありますか。」
「知らんな。そういえば変な恰好をしているな。」
「あ、これは戦車道のパンツァージャケットです。」
「そうか。ん?戦車道?」
優花里は女子のたしなみだと説明する。
「そうか。愛国の婦人たちにふさわしい武芸だな。わが自由惑星同盟にも普及させるか。」
「そうですか。」
「そうだ。このごろ自由だの、権利だのを主張する者が多すぎる。国家あっての自由であり、生活であり、人権なのだ。もしそんなものがあればだが。」
実際には、自由惑星同盟は、マスコミが統制され、自由や権利を主張できなくなっていた。それでも憂国騎士団は、不満なのだった。
「国を憂えず、ただ講和や平和を唱えるマスコミ、新聞、テレビ局は何を考えているのか。誰に守られているのかわからないのか。」
「専制国家を倒して母なる地球をとりもどすために、全てを捨てて国家に尽くし、軍備を増強すべきだ。」
なぜか憂国騎士団の事務所には、教皇のような白い冠をかぶって美化された地球教の総大司教が描かれ賛美しているポスターがなぜか貼ってある。憂国騎士団の機関紙のほかに、軍拡を主張するとともに、自由惑星同盟の関税を廃止して大幅にフェザーンの企業活動を推奨する新聞コンプラレール紙やリストレエコノス紙も置いてあった。
「ああ、ところで君に協力してもらいたいことがあるのだが...。」
「なんでありますか。」
「売国の評論家を逮捕するのに協力してほしい。」
「わかりました。」
「じゃあ駅へ行こう。」
駅の建物にはHaponeplum Sta.と書いてある。優花里はホームへ向かうため、エスカレーターにのぼった。
そのとき下から声が聞こえる。
「お前何をやっている!」
見ると30台後半の背広を着た細面の男性がつかまえられている。
「なんだこれは!」
その男性がもっていたと思われるスマホのような端末にスカートの中身が写されていたのだ。
「これに見覚えはないか?」
優花里は、どう考えても盗撮されたとしか思えない画像をみて
「はい////。でもどうしてでありますか?」
「わたしはやっていない。あそこに防犯カメラがあるだろう。その画像でわかるはずだ。」
「これはお前の端末だろう。」
その男性は黙ってうなずくものの、どうしても納得できない様子だった。
「鉄道警察隊まできてもらおう。」
男性は連行されていった。
「あの男、エクセル・プランティードは評論家といわれているが、売国奴でしかも前科がある。以前も女性のひざにさわったという前科があって罰金を払っているのだ。」
「けしからんでありますね。」
「そうだろう。」
「でも...どうして?」
「われわれは、売国議員や売国学者の所在がすぐわかるのだよ。」
優花里の心に一抹の不安がよぎった。
その不安を察したかのように
「君は心配いらない。われわれの情報網をもってすれば君の仲間のいる場所もわかるかもしれないな。」
「ありがとうございます。」
「君の住むところをみつけないといかんな。」
「はい。」
車で案内され、部屋に通された。ビジネスホテルのようなこぎれいな部屋だった。
カーテンをあけると窓にはなぜか鉄格子がある。
「君は正体がよくわからないのでな。上司に相談したら機密にして、ここに住むようにとのことだ。食事はでるし、家賃はかからないから心配しないでほしい。それから例の事件は数日以内にテレビ放映される。君の知り合いが見るかもしれんな。」
優花里はなんとなく違和感を感じたが、
「はい。」といって笑顔で敬礼した。
ハポネプラム駅の「事件」は数日後にテレビで放送された。
キャゼルヌ家で沙織がそれをみて驚く。
「これって…。」
沙織は録画スイッチをとっさに押した。
沙織が良く知っているくせっ毛の少女が画面に映っている。
「経済評論家として知られるエクセル・プランティード氏がハポネプラム駅で逮捕されました。女子高生のスカートの中を盗撮したという容疑です。盗撮の被害を受けた女子高生のインタビューです。」
「盗撮されたようですが、どうしますか。」
「….。」
「突き出しますか。」
「はい…。」
「これってゆかりんじゃない!!」
「知ってるの?」
キャゼルヌ夫人がたずねる。
「はい。戦車道のチームメイトです。」
キャゼルヌが難しい顔をして画面をみつめる。
「この経済評論家を現行犯で突き出した男たち…なんか憂国騎士団のような気がするが…。」
「ユーコクキシダンってなんですか?」
「国防委員長トリューニヒトの影の軍隊と呼ばれる極右団体さ。亡命者差別発言や軍拡推進の発言、反戦団体への激しい誹謗中傷をおこなっている。意見の異なる者を暴力で押さえつけているという話だ。反戦市民団体や市民個人、運動家、政治家、軍人を路地裏で襲っているという目撃証言が報告されているが、マスコミはおそれて報道しない。暴力事件が起こった場合にやつらのプロテクターが落ちていることが散見されているといういわくつきの団体さ。」
「そんなこわい人たちとゆかりんはかかわりあいを持ってるってことですか。」
「うむ。かならずしもそうと決まったわけじゃないが可能性は高いとみていいだろうな。」
「それからテレビの画面…。」キャゼルヌは何か思い出したようにオルタンス夫人へ向かって
「おい、アルバムをもってきてくれないか。そう3年前ハポネプラムへ行った写真があるやつだ。」
「はい、あなた。」
オルタンスはアルバムをみつけて差し出す。
「この画面と、この画面」
「この写真とくらべてみてくれ。」
「へんですね。」
「この角度ではあんな写真はとれない。おそらく…。」
「合成画像!」
「そうだ。それに表情が能面みたいだったのも気になる。」
「もしかして…ゆかりんは利用されている?」
「そう考えていいだろう。テレビ放映することによってそのユカリって子の知り合いを探す協力をしているのかも知れないが自分たちが政治利用したうえに見返りとして恩を着せようって腹だろう。
やっかいなことになったな...。」
優花里が自分が発言してもいないことを合成画像で放映されたことを知るのはこの時点からかなり後のこととなる。