Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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「彼」が還ってきた。某映画のタイトルではありませんが...


第67話 還ってきた「扇動者」です。

みほはビュコックの病室をでて帰ろうとしたときだった。

「そこの、おじょうさん。」

「はい...。」

病院のロビーで呼び止められ、振り向いた。すると...

「!!あなたは...。」

そこにいたのは同盟では知らない者のほうが少ないだろう、細面のダンディな男だった。

「君のことは知っているよ。イゼルローン要塞副司令官ミホ・ニシズミ中将だね。すばらしく有能な女性指揮官と聞いている。救国のプリンセスとか軍神アテナだとか報道されていたね。ところで、わたしはといえば、自由惑星同盟最高評議会議長のヨブ・トリューニヒトだ。ここで会えたのも何かの縁だろう。よろしくたのむよ。」

トリューニヒトは手を差し出した。

彼の周りには、「Earth is Mather,Earth is in my hand」というタスキをかけた男女が10名ほどが彼を守るように取り囲み、みほの動作を見守るかのようだった。

みほはおすおずと手を差し出すと、トリューニヒトはぐっと握ってもう片手の手のひらでみほの手をつつみこむ。

そこでパシャパシャっと音がして撮影される。

「ああ、紹介しよう。この皆さんは、私をかくまってくれた地球教徒の皆さんだ。わたしはこの皆さんの地下教会にこもって非道な軍国主義者を倒すべく、長い間,努力していたのだよ。」

「あの...。」

「何かね。」

「あの...放送が変わったんです。わたしたちがハイネセンに接近した時に。」

「おお、わかってくれたかね。もちろんわたしの力だよ。」

ぶっちゃけた話、トリューニヒトがやったのはそれだけだった。しかも実際には中央銀行と新貨幣に不満を持ったフェザーンの工作員が同盟内のマスコミに仕掛けただけで、ヤンが兵法の妙を尽くして救国会議を壊滅させたのに対し、野合で利害が一致しただけであって、直接トリューニヒトの功績ではない。しかし、反面この工作がなければメディアでどっちもどっちの悪役にされかかっていたのも事実だったから、本来人がいいみほは、口をついて一瞬礼を言いそうになった。しかし握手をしているだけなのに身体をまさぐられているような、不快な蟻走感と寒気と怖気が走った。

(いやああああ。)

白いプリーツスカートからのぞく両脚がいつのまにか内またになって小刻みにふるえる。

みほは、礼を言いそうになったのを、悲鳴と不快感をがまんすることによって呑み込んだ。

「さあ、わたしを公邸に連れて行ってくれたまえ。わたしが無事なことを全市民に知らせて喜んでもらわなければならないからな。」

議長専用の地上車があらわれ、みほと一緒である様子を撮影をすると、公邸の前までつきそわされた。

公邸の前につく。

「シェーンコップ准将。」

「西住中将?。」

「あの...お願いします。」

みほはかすかに苦笑をうかべて、ぺこりと頭を下げ、シェーンコップとその部下たちにトリューニヒト一行の身柄をあずけた。シェーンコップは、みほの表情の奥にあるものを読み取って、かすかな怒りをひらめかせたがヤンとみほのために平静を装い、苦笑をうかべてそれを受けた。

 

パトロールをしていたシェーンコップが報告のためにヤンの執務室を訪れる。

みほもそこへはちあわせた。

「ヤン提督。」

「何かあったのか?」

シェーンコップとみほは顔を見合せる。

「あの...ヤン提督。」

「西住中将?」

「名前を聞くのさえいやかと思いますが...。われらがさい...」

シェーンコップが話し出す。

「えっと...准将。元...では?」

みほが冷静さをよそおいながら訂正し、

「ああ、そうでしたな。元最高評議会議長のトリ...」

「いや、わかった。最後まで言わなくていい。」

 

「生きていたんですか?」

華が驚く。

「いや、あの手のたぐいは無駄に生命力があるからな。わたしはやっぱりと思ったが...。」

麻子も不愉快そうだ。

「西住殿...。イゼルローンに来た人たち(マスゴミと政治屋)の親玉ですよね。」

「うん...。」

「実は...。」

みほはあんこうの皆にトリューニヒトに出会った話をする、

「ええっ...」

沙織と優花里が同時に叫ぶ。

「みぽりん...手を握られたの?」

「西住殿...手を握られたんでありますか?」

「うん....。」

沙織は、額にややしわを寄せ、いたわるような視線でみほをみつめて、

「気持ち悪かったでしょう。みぽりん?」

「うん....。」

「わたしもあの人いやぁ~。」

 

「西住中将。命令だ。チームあんこうは、カッファー、パルメレンドへ行って降伏勧告をしてほしい。」

「はい。」

みほはほほえむ。チームあんこうの面々もなぜか嬉しそうだ。

「ああ、時間が多少かかってもかまわない。休暇が必要なら言ってほしい。病気休暇でもなんでも。」

多少投げやりな言い方だが、みほへの同情とトリューヒトに対する怒りと嫌悪感が含まれているのが明らかだったのでチームあんこうの面々は全く不快に感じなかった。

ヤンのせめてもの思いやりだった。くだらない式典でみほにまで再び握手させられる可能性がある。(式典に出るのはいやだが、またミス・ニシズミに不快な想いをさせるのはもっといやだ。)

「わたしは、ネプティスに降伏勧告へ向かう。」

「ヤン提督は...式典に出るんですか...。」

みほが心配そうにたずねる。

「気にしなくていいんだ。」

「お顔に書いてあります。なんだってあのトリューニヒトの野郎なんかと、って。」

華は苦笑する。

「ミス・イスズ。」

ヤンも苦笑する。しかし...と思う。勝ち続けることは自分の政治的利用度が増すことになり、トリューニヒトと握手するような機会が増えることになる。負ければ、声望が地に落ちるからさっさと退職してひっそりと隠遁生活が可能になるのではないか。しかし...

負ければ、ミス・ニシズミが勝ち続けなければならない。指揮官として優れているだけでなく、女性としても魅力がある。ウランフ、ボロディン健在と言えどもマスコミ受けを考えるとみほが政治的に利用されるのが明らかだった。

 

(ミス・ニシズミがいれば昼寝出来るかと思ったが...彼女を守るためにもわたしが勝ち続けなければならないか....。)

ヤンは今後のために真剣に思いを致さなければならなかった。

 


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