Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

62 / 181
ヤンは自分の見破った事実をバグダッシュに発言させてハイネセンの救国会議勢力に揺さぶりをかける。


第61話 武器なき戦いです。

8月になってイゼルローン軍は、バーラト星系外延部に達した。

ハイネセンまでは4光時、43億2千万キロ。太陽系で言えば海王星軌道よりやや内側にあたる。

ヤンがじわじわ進軍してきたのには理由があった。政治的効果である。

救国会議がバーラト星系すら満足に支配しえないこと、第11艦隊の敗北で機動戦力を喪い丸裸同然であること。以上のことにより、救国会議の全面敗北、クーデターの失敗を印象付けるためであった。

救国会議の支配が及ばなくなった地方紙はヤンとみほの戦術的勝利と名声を書き立てた。

それまで最高評議会政府と現在の救国会議政府のどちらを支持するのか決断を下せずにいた者もヤンとみほにつく旨旗色を鮮明にし、参集してきた。

各星系の警備隊、巡視艦隊、退役、予備役の将兵だけでなく、義勇兵を申し出る者もいた。

ヤンもみほも民間人を戦争に巻き込みたくないと考えていた。ヤンは、戦争に参加したがる民間人についてその精神構造を疑いたい気分だったが、自発的意思から出たものであるがゆえに拒否できなかった。抵抗権、すなわち同盟憲章にある人民が権力の不正に対して実力で抵抗する権利まで持ち出された日には、しぶしぶ認めざるを得なかった。

一方、そういった状況にも関わらず救国会議側もあきらめてはいなかった。

「われわれには、まだ死角なき攻撃が可能な「アルテミスの首飾り」がある。これあるかぎりいかなヤンや小利口な小娘と言えどもハイネセンの重力圏内に侵入できようはずがない。」

エベンス大佐がいい、プリンケプスが頷いた。救国会議の面々の表情にやや晴れの光が差した。

「我々はまだ勝ってはいない。」

「「アルテミスの首飾り」ですか?」

ムライが尋ねるが、黒髪の青年提督はこともなげに答える。

「いや首飾り自体は大したことはない。無力化する案はいくらでもある。」

みほもうなずく。

「それよりも、たとえばハイネセンに住む10億の市民の命を人質にとったりすることだ。そこまでするとは考えたくないが...。わたしに考えがある。バグダッシュ中佐を呼んでくれ。」

「バグダッシュ中佐、貴官にやってほしいことがある。」

「なんなりと。ですが、なにをすればいいのです?ご命令とあればハイネセンの潜入も可能ですが?」

「それでプリンケプスとエベンス大佐のもとに駆け込むか?」

「これは心外ですな。」

あきれたように両手を広げてみせる。

「冗談だ。証人になってほしい。貴官は救国会議の内部事情に通じているからこそ可能なことだ。」

「で、具体的には?」

「今回の救国会議のクーデターが帝国のローエングラム侯ラインハルトにそそのかされたものだという証人にだ。」

バグダッシュは驚き、思わずまばたきする。

「とほうもないことを思いつかれましたな。」

「この話を持ってきた者は誰だ?知っている範囲でいいから話してほしい。」

「いまさら隠し立てできませんな。アーサー・リンチとフェザーンの商人を名乗る男たちということですが...。」

「なるほど。物的証拠はないもののやはり予想した通りだな。」

ヤンはそうつぶやくと間をおいて

「信じられないのも無理はないが、とにかく証言はしてもらう。詳しい台本や物的証拠が必要なら作ってやってもいい。少々フェアではないがやむを得ない。どうだ?やれるか?」

「わかりました。わたしは転向者だ。なんでもお役に立ちますよ。」

「中佐、さがってよろしい。具体的なことは追って指示する。」

「はつ。」

敬礼して細面の中年男が下がる。

「大尉。」

「はい。」

「「アルテミスの首飾り」を攻撃する方法について技術的な詳細を詰めたい。みんなを会議室に集めてくれ。」

「はい。」

「ああ、大尉、心配ない。「アルテミスの首飾り」を破壊するのに一隻の戦艦も一人の犠牲も出さないことを約束するよ。」

スクリーンにバグダッシュの顔が映し出された。救国会議のメンバーにとっては不快きわまる驚きだった。一名を除いては。

「自由惑星同盟の市民諸君、兵士諸君。わたしは救国会議のクーデタに参加したバグダッシュ中佐である。私は諸君らに隠された重大な事実を伝えねばならない。わたしはこのクーデターが国を憂える大義と考えて参加した。ところがそうではなかったのだ。現在わが国だけではなく銀河帝国でも史上最大といってもいい大規模な内戦が行われていることは周知のことと思う。これは偶然だろうか?いやそうではない。このクーデターはその帝国の内戦の一方の当事者であるローエングラム侯ラインハルトの策謀によって引き起こされたものであったのだ。彼は、帝国を二分する内戦をひかえ、われら同盟軍に介入させないため、われわれを分裂させたのだ。私はその事実を知り、この軍事革命が帝国の野心家どもとそれらに踊らされた一部不平分子よる暴挙でしかないことを知った、諸君このクーデターには正義はない。このうえは一刻も早く内乱を収拾して国家の再統合を図るべきだ。」

「バグダッシュめ。恥知らずの裏切者め。よくもまあぬけぬけと人前に顔を出せたものだな。」

首席最高執政官ライトバンクは、

「反撃の手はもう打ってある。心配するな。」

とほくそえんでみせた。

数日後、同盟中にリストレエコノス、コンプラレール、週刊誌デレチャプリマの紙面に

「ヤン・ウェンリー、副官と副司令官ミホ・ニシズミとのただれた関係。」

「ヤン・ウェンリー、ロリコン疑惑。」

などの文字が躍った。

フレデリカが、軍に入隊してまもない時期の休暇に、酒の入ったヤンにさそわれ、強引にキスを迫った。いやがると「大人の恋愛はこういうものだ、もう二十歳にもなってバージンとはねえ。」などといわれ、翌日はラブホテルにさそわれた。フレデリカは拒否したのでさたやみになり、そのことを隠したいヤンが、キャゼルヌに働きかけ、副官にした。実は父親であるグリーンヒル大将は怒っている。だから救国会議に参加しないのに、フレデリカの副官の任を解かないのだ、といった記事、また、ヤンは、野党議員ジェシカ・エドワーズとグリーンヒル大尉だけでなく、ミホ・ニシズミの三またをかけている。たとえば、アムリッツア会戦前の作戦会議で見つめあってるような画像、みほがヤンの執務室へ出はいりしている様子が載せられ、執務室からみほの嬌声がもれているなどのあやしげな一兵士の証言が掲載されていた。ミホ・ニシズミは海賊討伐ののみでいやけがさし、ヤンにさそってもらえるよう猟官運動をして、ヤンも人事権を使い、クブルスリー、シトレのラインでイゼルローンに配属された。特別な戦艦ロフィフォルメも与えられた。ヤンはかってブルース・アッシュビーを研究していたことがあり、英雄と同じ手口で口説こうとしたが、ミホ・ニシズミは、ヤンが下手なのでいやになって、ヤンは強引に手籠めにしようとした。ヤンには帝国からの亡命者で強力な白兵戦部隊薔薇の騎士がいるために二人は逆らえず、ヤンも自分の淫行がばれないよう二人を手元において見張っている売国者だ、という記事もあった。




一方、プリンケプスはアムリッツアの作戦会議を通したように巧みな対抗手段を打ってきた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。