Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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ヤンは内心じりじリとしていた。第11艦隊の情報をつかんで、はやめに叩けないと大したしたクーデターでないはずが、本格的に救国会議が足元をかためかねないからだった。


第55話 ドーリア星域会戦(前編)

偵察衛星からの通信文と画像データが送られてくる。

「これもダメだな。」

出力されたデータをユリアンから受け取ると黒髪の魔術師はつぶやいた。

「なかなかこれといった情報がこないものですね。」

「そうだな...ユリアン。網を張っているとはいえ、宇宙は広大だ。漁業であればとにかく魚群をさがせばいいのだが、今回の場合、第11艦隊という特定した「魚群」をさがすだけでなく、その行動を予想しなければならない。ある意味、海の中で、たった一匹の魚を探すようなものだよ。」

「わかりました。」

そのようなことを繰り返して5月18日になる。その日も19通目の通信文をみて、これもだめ、とヤンは、心の中でつぶやき、まるめて床に投げ捨てた。

ヤンは部屋の中を円を描くようにぐるぐるまわるように歩いている。

「提督。」

「なんだい、ユリアン。」

「本日の20通目です。」

「どれどれ。」

ヤンは文面と画像に目を落すと、目をみはる。その瞳孔は大きく開かれているのがはたからわかるくらいだった。

ユリアンとヤンは、一瞬息を飲み込んでいた。その直後、ヤンの口からは

「よし!やった、やった、わかったぞ。」

と歓喜の叫び声が上がった。黒髪の若い学者風司令官は、新しい歴史的事実やさがしていた資料を見つめたときのように、報告書を天井に放り上げ、躍り上がって喜ぶ。

亜麻色の髪の少年はあっけにとられているが、その両手をとって部屋中を踊りまわる。

「提督、勝つんでしょう?勝つんですね。」

「そうだ、ミス・ニシズミを呼んでくれ。ヤン・ウェンリーとミス・ニシズミは勝算のない戦いはしない。」

ヤンは、みほを呼び、みほも報告書に目をみはって、ほほえんでヤンを見る。ヤンはうなずき、作戦案をみせると、みほもいくつか考えたうちのひとつを見せる。

うおっほん、と咳払いの声がする。ヤンが振り向くと、ムライ、フレデリカ、フィッシャー、シェーンコップ、パトリチェフがいた。

「喜んでくれ、作戦が決まったぞ。どうやら勝てそうだ。」

三十分後、ヤンとみほは、驚くほど短時間に作戦計画を立案し、会議室に部下の提督たちを集める。

「西住中将、説明してくれ。」

「はい。」

「第11艦隊は、その兵力を二分しました。その意図は、第11艦隊が、恒星ドーリアが、第二惑星によって蝕の状態になるのに乗じて、わたしたちの艦隊を左側面から攻撃、他の一方は、わたしたちの右後背に回って、挟撃することにあると思われます。

これに対し、わたしたちは、敵より6時間早く行動し、右後背へ布陣しようとする敵部隊をまず撃破します。グエン・バン・ヒュー提督は先鋒となって、本日2200時に行動を開始。第7惑星の軌道を横断し、その宙域で恒星ドーリアを後背にして布陣してください。」

精悍な武将が威勢よく答える。

「了解した。」

「フィッシャー提督は、翌日0400時まで現在いらっしゃる宙域にとどまって、敵に対する警戒、偵察。情報収集につとめてください。その後第6惑星を横断してそこに布陣して、わたしたちを左側面から攻撃しようとする部隊に対応してください。」

「了解した。」

白髪の細面の紳士がしずかに答えた。

「そのほかの部隊は、グエン・バン・ヒュー提督に続いて移動してください。そして所定の座標にしたがって、その左右と後背に布陣してください。」

みほは、ヤンの後背にむきなおる。

「アッテンボロー提督は、砲艦及びミサイル艦の部隊を指揮して第7惑星軌道上に位置し、本隊とイゼルローン要塞との連絡ルートを確保するとともに、他星系からの園路の攻撃に対して早期警戒に勤めてください。また敵が他星系への脱出を図ろうとした場合は、それを阻止してください。」

「アイ、ショーティ。」

ヤンの後輩であるそばかすのある青年提督はいたずらっぽい微笑をうかべている。栗毛色の少女にしか見えない知将はほおをかすかに赤らめて苦笑する。

シェーンコップがにやけてアッテンボローをこついて、それをアッテンボローは返す。

ムライが「うおっほん。」と咳払いをする。

「えっと...わたしとヤン提督は中央先頭集団の先頭に位置します。」

みほは、ヤンを見る。ヤンはうなずいて話しはじめた。

「と、これが当初考えた作戦だ。ただ、西住中将、それだけではないだろう。」

「はい。実は、グエン・バン・ヒュー提督が敵を分断し始めたタイミングで、敵艦隊にハッキングをしかけ無力化しようと考えました。それで降伏してくれれば楽なのですが...。」

「ハッキングして全艦隊をとめると。」

ムライの問いにみほは答える。

「はい。ただし、おそらく直接指揮されているのは最初に遭遇する本隊なので、本隊のみになると思います。」

「ということだ。ミズキ中佐の電算処理能力なら決して不可能ではない。なお、私は、こういった事態が起こるのを予想して、先日首都星ハイネセンにおもむいたとき、宇宙艦隊司令長官ビュコック閣下に要請して、ミス・ニシズミあてのラブレター、もとい、叛乱が起きたら、それを討ち、法秩序を回復するようにとの命令書をいただいてある。法的な根拠を得ているのだから私戦ではない。」

会議室は一瞬ざわつき、しのび笑いがもれるが、その次の瞬間、司令官の予見力に粛然としていた。

「あの...ヤン提督ぅ...。」

みほは、困ったように顔を赤らめて、弱弱しく抗議する。

そんなみほをみる提督たちの視線はあたたかで、(一見小娘にみえるが、やはりただ者ではないな。)という敬意と、さらに鋭い者には、なぜか憐れみの視線さえまじっていた。

「ああ、西住中将。すまなかった、ということで、このように行動してほしい。それでは解散。」

ザッと一同は敬礼し、諸将は会議室を出ていった。

ヤンは私室に戻るとユリアンを呼ぶ。

「アムリッツア会戦に先立って、ビュコック提督はロボス元帥に面会を申し込んだ。ところが元帥は昼寝中だったので面会できなかった。この話をどう思う?」

「ひどい話ですね。無責任で...。」

「そのとおり。ところでユリアン。」

「はい。」

「わたしはこれから昼寝をする。2時間ほど誰も通さないでくれ。提督だの、元帥だの、将軍だの誰が来ても、誰の問い合わせでも断るんだ。」

「....はい。」

ユリアンはかすかに苦笑をひらめかせつつも承諾した。そして艦橋クルーにその旨を伝えた。

 




そのころ、第11艦隊のルグランジュ中将は...

第54話末尾の削除分を冒頭に加筆し、次話へおくるために末尾部分のルグランジュ中将の様子を削除(9/29,23:26)

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