Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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「まあ、これくらいの役得がないとね。」とシェーンコップはうそぶいとき、ハイネセンから脱出シャトル到着の報がもたらされた。


第6章 ドーリア星域会戦をへてハイネセンヘ向かいます。
第54話 スパイ侵入です。


「ヤン提督に報告です。クーデターを逃れたハイネセンからの脱出シャトルです。司令官にお会いしたいとのことです。」

「通してくれ。」

現れたのは細面の中年の男である。鼻の下に二か所のちょびひげがある。なんとなく怪しげな雰囲気をユリアンは感じた。

「バクダッシュ中佐といいます。お初にお目にかかります。ヤン大将。」

「よろしく。中佐。ところで首都でだれか粛清された者はいるのか。」

「現在のところ拘禁された方はいますが、粛清された方はいません。これからはどうかわかりませんが...。」

「そうか...よかった...。」

「それよりも重大な報告があります。第11艦隊がクーデターに加勢しこちらに向かっています。」

イゼルローンの一同は息をのむ。ヤンは黙って目で続きを促す。

「司令官のルグランジュ中将は、正面から堂々と決戦を挑み、小細工はしないようです。」

エリコ、優花里、みほは目配せをはじめた。グリーンヒル大将とトリューニヒトの消息がまったくわからない。しかも第11艦隊が小細工をしないとわざわざ知らせる。しかもこの時期を狙ってきたかのような脱出者...三人の軍事的才能と勘が心に警鐘をならしたのだ。

みほは、シェーンコップを見た。シェーンコップも、みほの視線に気が付く。

「そいつはありがたいな。」

ヤンはつぶやいた。続いてムライ、フィッシャーなどから質問の雨をあびながら、バグダッシュは、だれかを探しているように視線を泳がせる。

そして何気なさそうにヤンに尋ねた。

「副官のグリーンヒル大尉がいないようですが...。」

「彼女は立場が立場なのでね。イゼルローンに残ってもらっている。」

ヤンがそう答えたとき、

「あっ。」

シェーンコップがコーヒーをこぼして野戦服が汚れる。

「やれやれ、せっかくのキスマークが...ちょっと失礼。」

シェーンコップはヤンの目とみほの目をみて、一瞬かすかににやりと笑みを浮かべて、会議室を出ていった。

「おお、ユリアン、グリーンヒル大尉はどこにいるか知ってるかい?」

「病室の102号です。今朝から頭痛がするとかで...お気の毒です。」

ヘイゼルの瞳と金褐色の髪の若い女性は寝ていたが、コーヒーやキスマークなどで汚れた野戦服を着た精悍で体格のいい男が、自分を訪ねてきているのに、病室の入り口で、小柄な看護婦にあきれて制止されているのに気付く。

「大事な話があるんじゃないかしら。准将を入れてあげてください。」

フレデリカがそういうと、看護婦は不満げな表情であったが、シェーンコップを病室に通した。

「バグダッシュ中佐という脱出者が首都からやってきたんだ。ヤン提督もきな臭いと感じたんだろうな。『大尉は、ことがことだけにイゼルローンに残ってもらった。』と言ったんで、わざとコーヒーをこぼして怪しまれないように抜け出してきたんだ。心当たりがないかね。」

「バグダッシュ中佐ですか...一度だけお会いしたことがあります。あれは、5年前になりますか...父の書斎で、現在の政治体制について不満を述べておられましたわ。」

「なるほどな...どうりで大尉のことを気にしたわけだ...やつはクーデター派の工作員というわけだな。」

フレデリカの記憶から不審感をいだかれたら早めにヤンを殺害するという挙に出るかもしれない。第11艦隊との交戦中にそれをされたら、ヤン艦隊は崩壊だ。今の自由惑星同盟など滅んでもかまわないが、ヤンに死なれたらこれからの歴史の展開がおもしろくない。

夕食の前だった。ヤンはバグダッシュの姿が見えないのを不審に思い、シェーンコップに尋ねようとしたが、最初に声をかけたのはみほだった。

「あの...シェーンコップ准将、バグダッシュ中佐はどちらですか...。」

「ああ、彼ならタンクベッドのなかでぐっすりおねんねです。」

次にヤンが尋ねる。

「なるほど...なにかやったのか?」

シェーンコップは二人に対して片目をつぶってみせる。

「ちょっと乱暴ですが、なぐって気絶させ、特殊な睡眠薬を飲ませました。二週間は目を覚まさないはずです。情報部員というやつは監禁していても起きている限り油断できません。あらゆる鍵を開けるすべや不可能と言われるような牢獄からも脱出するすべをもっているはずですからな。この一戦が終わるまでおねんねしててもらうのが最上です。」

「そうか...ご苦労さま。助かったよ、准将。」

ヤンは苦笑して謝辞を述べた。

「さて、お次は第11艦隊の捕捉だな。」

「第11艦隊の位置を捕捉せよ。偵察艇、監視衛星、電波中継衛星射出。」

有効な報告はしばらくもたらされず、5月になった。

 

5月10日。

「エルゴン星域へ派遣した(駆逐艦)トリコノドンから暗号で報告です。」

ヤン艦隊では、偵察用の衛星や駆逐艦の名称は、共通の隠語としては「ネズミ」とし、しかも四重のプロテクトをかけ、各艦備え付けの特殊な暗号解析機でしか読めないようにしている。また個別の隠語としては、現生のねずみではなく、地質年代上の小形の原始哺乳類の名称を使用し、仮に読まれた場合でも、双方の情報が関連付けづらくしている。軍事上でも日常でも使わず、しかも送受信者がそれとわかるようにという苦心の作であった。

「解析してくれ。」

「ネコヲヒャクスウジュウヒキイジョウカクニン。」

「エルゴン星域へ派遣した(駆逐艦)トリコノドンから第11艦隊と思われる一万数千隻の大艦隊を捕捉とのことです。」

ヤンは幹部を呼び集め、スクリーンに航路図を映す。

「敵との決戦予定地点は、ドーリア星系になりそうだ。現在敵艦隊の編制、位置、動きを探っている。短期間に完勝しなければ、クーデターの鎮圧が困難になるが、敵の作戦を正確に知らなければならないからもうすこしまってほしい。」

幕僚たちは頷いて散会する。

 

第11艦隊、旗艦レオ二ダスに報告がもたらされる。

「敵駆逐艦を確認。」

「ねずみめ...。」

第11艦隊の司令官である金髪のクルーカットの男、ルグランジュ中将のつぶやきはヤン艦隊の隠語を知っているわけではなく全くの偶然である。敵の悪態をつくと、次は叫ぶように部下に命じる。

「情報を集められないようすぐに撃沈せよ。」

「はつ。」

おびただしい光条が駆逐艦を引き裂き、炎上して爆発煙を上げて飛び散る。

「目標、撃沈。」

 

「ネズミガネコ二タベラレタ」

「トリコノドン、通信途絶。おそらく撃沈された模様。」

「最初の犠牲者ですね...さすがに逃げきれなかったのでしょう。」

「うむ...。」

ヤンはムライのつぶやきに何やら思いにふけっているようで、うなったように答えた。




第11艦隊との心理戦がはじまった。

一部削除(偵察衛星からデータが贈られる場面)9/29,23:19

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