Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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ビュコックは、軍靴の足音が響き、執務室のドアがひらかれて、ようやく事態の深刻さに気づかざるを得なかった。


第49話 軍部要人の拘禁です。

「司令長官。」

「何だ貴官らは。ノックもせずに失礼ではないか。」

士官は銃をつきつけ、

「ご無礼をお許しください。国家の大事です。来ていただきます。」

ビュコックは引き合わされた軍高官の面々に会わされておどろいた。

情報部のブロンズ中将。そしてベイ准将、エベンス大佐...

「査閲部長は、グリーンヒル大将が健康がすぐれないのでわたしが代理を務めています。」

ベイがビュコックの無言の疑問に答えた。

「なるほどな。情報部も査閲部もとうに汚染されておったということか。」

ビュコックは鼻を鳴らし、唇をかんだ。

査閲部の任務は、部隊の演習、移動、災害支援など戦闘以外の面で軍隊を管理運用するのだから、合法的に部隊を移動させることは容易であり、たとえクーデターを首謀していても、それと見分けるには専門家でさえ困難である。

ビュコックは、奥にいる血色の悪く目がつりあがり、口元がゆがんだ若い男の姿をみとめた。「貴官は、フォーク准将だろう。」

「司令長官、いくら司令長官といえどもライトバンク首席最高執政官様に無礼ですぞ。」

「わかってしまいまいましたか。覚えていただいて恐縮ですな。いまは救国会議首席最高執政官、プリンケプスとお呼びいただきたい。つまり、今はあなたの上官ということです。お口を慎まれたい。」

「首席最高執政官と言ったな。それならわしは一市民だ。選挙でどんな手を使ったか知らんが貴殿を選んだ覚えはない。いずれにせよ、わしは国防委員会からの命令がないかぎり、軍人としては動かんぞ。」

「ビュコック司令長官。」

フォークはビュコックに呼びかけた。

「何かね。」

「あなたは、軍の良識家として知られた。その点については私も評価しているのですよ。」

あくまでも上から目線らしいフォークの発言だった。

「現在の政治はゆきづまり、民主主義の美名のもとに衆愚政治がはびこり、自浄能力が見いだせない。ほかにどのような方法で粛正し改革するというんですか。」

「なるほど、確かに現在の体制は腐敗している。だからこそ貴官は武力をもって粛正するといいたいのだろう。では、試みに問うが武力を持った貴官たちが腐敗したらだれがどうやってそれを粛正するのだ?」

別の声が答える。

「われわれは腐敗などしません。」

「われわれには理想があるし、恥を知っています。現在の為政者のように権力を得るために、選挙民に迎合したり、資本家と結託し、あげくに帝国打倒の大義をおろそかにするなどできないことです。われわれは救国の情熱のまま、やむを得ず立ったのです。腐敗は私欲から発生するもの。われわれが腐敗するはずがありません。」

「そうかな。救国だの、大義だの、情熱だの美名のもとに、無法な権力奪取を正当化しているようにしか思えんが。民主主義はあくまでも市民が気付くことによって改善することもある。迂遠かも知れんがそれに期待し続けるしかないのだよ。」

「納得いただけないようですな。しかし、ビュコック提督、われわれはできる限り紳士的に行動したいと考えています。しかしお口がすぎるようだと、こちらも考えざるを得ませんぞ。」

「紳士的だと?」

ビュコックは笑わざるを得なかった。皮肉たっぷりの笑い声を響かせる。

「人類が誕生して以来この方、今日に至るまで暴力でルールを破るものを紳士とは言わんのだよ。」

フォークは尊大に

「いくらお話ししたところで接点が見いだせないようですな。われわれは先駆者としてただ後世に判断を問うのみです。われわれの判断が正しかった、と評価されること疑いありません。」

「その大言壮語で貴官はアムリッツアの敗戦をまねいたのではないか。」

一瞬フォークの顔はゆがんだが、自分が圧倒的に優位である余裕から反論をつむぎだす。

「なにを言われようとわたしは初代プリンケプスであり尊厳者です。これからはわれわれの時代だ。提督が一目置くヤン提督は歴史だけは得意でしたね。歴史を知っているがゆえに仮にわたしを倒すことになった場合、偉大なるカエサルを殺したブルータスのように後世から後ろ指をさされる立場になることを恐れるでしょう。いずれにせよ、わたしを認めれば腐敗から免れ、同盟は安泰なわけです。」

フォークは、士官たちに向き直り、

「別室にお連れしろ。礼を欠かないように。」

統合作戦本部、宇宙防衛完成司令部の軍事中枢部はもとより、最高評議会ビル、恒星間通信センターもほとんど流血をみずにクーデター部隊により鎮圧された。

統合作戦法部長代行のドーソン大将も拘禁された。

トリューニヒトは姿を現さず、その行方もまったく報道されなかった。

 

ヤンは考え込んでいた。救国会議の叛乱はラインハルトが裏で糸を引いているのは明らかだが、ほかの力が働いているのではないか。そういえばフォークは今の名前でリストレエコノスの「ここまで言うん会」というバラエティー番組に出演し、その番組では、ウインザー夫人の名とトリューニヒトの名が挙がっていた。リストレエコノスの裏にはユグドラシル・グループ、地球教やフェザーンがいる。トリューニヒトの行動も不可解だった。12日には勝利宣言している「画像」が中継されているが、13日以降は姿をあらわさない。どこかにさっさと隠れたとしか思えないような行動だった。

そういえばネグロポンティがみほたちのことを時空犯罪者と呼んでいた。なぜそんなことを彼らは知っているのか。ネグロポンティも地球教や憂国騎士団とからんでいる可能性が強い。

ヤンは、何回もあるきまわった。ユリアンがそれを悔しそうにみつめている。少年はヤンの助けにならないのを悩んでいるのだ。

「ユリアン。」

「紅茶を淹れてくれるかな。」

「はい。」

少年は嬉しそうに答えていそいそと準備をする。

「それから十五分後に幹部連中と、そうだな、チームあんこうのメンバーを呼んでくれないか。」

「はい。」

ユリアンはなにかあるなと感じたがそのとおりにした。




ヤンの対策は?そしてトリューニヒトは?

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