Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
みほは、ユリアンのほうに向いて布陣図らしきものを開いてみせる。
「ユリアンさん、これは、全国高校戦車道大会準決勝の戦車の配置図です。それからこれは決勝戦の戦いです。ユリアンさんはどう戦いますか?」
準決勝の布陣図は、教会堂にいる大洗をプラウダの車両が二重に包囲している。
教会堂の出口右脇には、T-34/76一両、南西方向には、T-34/76が二両、そのうち一両がフラッグ車、そして南西方向を抜けるなり、フラッグ車を狙おうとしても、街道上の怪物KV-2がおそるべき152mm榴弾砲で待ち構えている。南側正面第1列には、T-34/85が四両、第2列には、T-34/85が一両、T34/76が二両、そして122mm砲を誇るIS-2が一両。
「KV-2は、教会堂からは見つからないように死角に隠してありました。」
「教会堂から右へ行っても左へ行ってもスピードが出せないので背後から狙い撃ちされますね。」
「包囲網が一番薄いのはここですか…。」
教会堂右脇のT-34/76一両の間からプラウダの第一列まで空間が空いているように見える。
「そこを突破できると思うかい?ユリアン?」
「無理なんですか?」
みほとヤンは顔を見合わせて、
「ユリアンさん、大洗の駒をうごかしてみてください。」
ユリアンが駒を動かすと、みほがプラウダ第2列を動かした。
「!!」
「ユリアン、その前に当然第1列も動いてくるそ。」
ヤンが第一列を動かす。
「だめですか…。」
「その通り。」
「一発逆転でフラッグ車をねらっても…突破しようとしても…。」
「そうだ。プラウダ第2列が蓋をするんだ。」
「その「蓋」を無力化する必要があるんですね。」
「そうだ。ところで大洗に有利な点が一つある。」
「それは…。」
「プラウダは大洗の出方がわからないが、大洗はプラウダの出方が予想できるということだ。戦術、戦略を立てるにあたって情報というものがいかに大事かわかるだろう。」
「そうですね…。」
「われわれであれば、ワープで後方に回り込むとかスパルタニアンで後方をたたくという手段がとれるが、あくまでも戦車同士で後方第2列を無力化しなければならない。」
「それなら、いちかばちか南側を中央突破するしかないじゃないですか。」
「よくできた。そのメリットをあげられるかい。」
「敵はおそらくぶ厚い陣営は攻撃してこないだろうと油断しているので対応が後手に回ること、結果として第二列が無力化できるということです。」
「はい。そういうことです。私たちもそう考えました。そして、スパルタ二アンの代わりに装甲、火力は弱いが機動力のある38tで第2列をかく乱したんです。」
「それから大洗は、部隊をふたつに分けました。フラッグ車を含むおとり部隊でひきつけ、暗闇に紛れて、背の低い三突とⅣ号をわきへ隠してやり過ごしました。幸いプラウダ高は、フラッグ車を含む部隊を追いかけ始めました。プラウダ高は、わたしたちが中央突破している際に巧みにフラッグ車を隠しましたが、偵察に出た秋山さんが「鐘撞堂」からフラッグ車の位置を確認しました。
それでもわたしたちのピンチは続きます。なにしろ昨年の優勝校、一流の人材ぞろいです。IS-2の砲手は高校戦車道で双璧と言っていい砲手のノンナさんだったからです。あんのじょう三両いたはずのおとり部隊はフラッグ車のあひるさんチームだけになってしまいました。」
「ただ運がいいことに敵フラッグ車は街の中をぐるぐる回っているだけ。そこで想定されるルートに三突を隠しました。そして機銃で誘い込んで撃破。しかし、あひるさんチームもIS-2に重いものをくらってしまい部品が吹き飛びました。あひるさんチームがかろうじて走行可能だったため私たちは勝てました。薄氷の勝利でした。」
「そして決勝戦です。対戦校の黒森峰はドイツの重戦車をそろえた強力なチームです。しかし足回りが弱いという弱点もあります。」
「この地形だと、引きずり回して、市街地へ逃げ込んでかき回すのがいいな。だが...」
「ヤン提督?」
「黒森峰からすれば、その足回りで引きずり回されないように奇襲攻撃をして火力にものをいわせて一気に勝負に出る可能性がある。この森を突破してね。ドイツの戦史に詳しい学校だったら当然アルデンヌ突破に習うだろう。それからこのVK4501(P)、ポルシェティーガーって車両は作戦上難があるな。どうやってクリアするつもりだったんだい?」
「電気モーター駆動にしたんです。大洗で技術のある自動車部の皆さんに...。」
みほは何か思い出したように言葉に詰まる。
「すまない。」
「いえ....。」
「さて、情報と言えば、ユリアン、この戦いは情報戦がカギを握ると思う。さっきの準決勝は、布陣がわかったから作戦がたてられたわけだが、布陣が分からない場合や、情報が混乱させられる場合もあるはずだ。ミス・ニシズミはよく反乱がおこることを予想できたな。」
「いえ、わたしがラインハルトさんやヤン提督のお立場だったら同じことを考えたと思うので。」
「というのは?。」
「ラインハルトさんは、二正面作戦を避けるため、どうしても同盟側を情報操作する必要があるからです。情報操作と言えば、十両対五両の戦いで、わたしたちの作戦はことごとく見破られた試合がありました。おかしいとおもったら通信傍受器が打ち上げられていたんです。」
「わたしは、それを逆用することを思いつきました。無線で演技しながら、沙織さんが携帯電話端末で打ち込んで連絡を取ったんです。フラッグ車でない戦車にてきとーな木を引きずらせておとりにしました。」
みほはサンダース戦の布陣図を取り出して説明する。少年と彼よりも少し年上に見える栗毛色の「少女」と黒髪の青年が布陣図を指差してときにはうなずき、談笑し、あごやほおに手をあてたりして考え込んだり...謎カーボンがあってケガさえしなければ純粋に知的ゲームとして戦える面がある戦車道について語るのは三人にとって楽しい時間だった。しかし、ヤンが思い出したように二人に話す。
「ユリアン、ミス・ニシズミ、敵は誰なのかわからないが一つだけわかっていることがある。」
「はい。」「...というのは?」
「わたしが味方にならないことが分かった時点で、敵は、われわれイゼルローン要塞と駐留艦隊を無力化する手を打ってくるはずだ。しかもわれわれが帝国軍でないからそれはよりたやすい。ミス・ニシズミ、それが悲しいことだが戦争と戦車道の決定的な違いだ。」
「はい...もしかして...ヤン提督とわたしを殺すこと?」
「考えたくないんだけどね、そのとおりだ。運が良ければ眠らされるだけだが捕虜にされるだろうね。連中は、偽情報をながしただけでなく、指揮系統を破壊することを考える。そう考えたときターゲットはわたしと西住中将だ。われわれを押さえればイゼルローンは烏合の衆というわけさ。ローエングラム侯の手のひらで踊らされているだけでなく、手のひらを離れて自分たちの体制も維持しなければならないからね。」
「そんなことはさせません。僕がお二人を守って差し上げます。」
「たのもしい。期待しているよ。」
「はい。鍛えられていますので。」
ユリアンは笑った。
ヤンとみほは雑談しながら「まだ見えぬ敵」の狙いを見破る。