Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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クブルスリー大将は接近してきた男に危険を感じたが...


第42話 クブルスリー大将暗殺未遂です。

「き、君は...アーサー・リンチ少将...か。」

クブルスリーは、相手が白髪、ひげ面でわかりにくかったがようやく思い出して相手に問いかけるようにつぶやく。

「いまさら気づいたか。」

リンチは、小声でつぶやき、にやりと薄笑いを浮かべると袖に隠していたブラスターのトリガーを押し、光線がクブルスリーの右わき腹を貫く。

「閣下!」

クブルスリーの表情が蒼白になり、幅と厚みのある中背の身体が倒れかかる。高級副官のウェッテイ大佐が思わず支えた。

リンチは、屈強な衛兵たちに組み敷かれ、ブラスターも取り上げられた。

「医者を呼べ。」

ウェッテイは叫び、衛兵達を怒鳴りつける。

「遅い。なぜ発砲する前に取り押さえなかったのか。なんのためにお前たちは衛兵をやっているのだ。」

衛兵たちは恐縮した。そしてリンチをこづきまわす。リンチの少ない前髪は汗で額にねばりついている。その瞳は焦点が定まらずになにか遠くを見つめているようだった。

「何じゃと。クブルスリー本部長が撃たれた?」

ビュコックは椅子からとびあがらんばかりだった。

「で本部長のご容態は?」

「はい。一命はとりとめたものの、全治三か月。当分は絶対安静だということです。」

「やれやれ、最悪の事態は免れたようだな。」

リンチがクブルスリーを襲って負傷させたというニュースはハイネセン全土を驚愕させ、翌日には、超光速通信で同盟全土に伝えられた。

急遽本部長の代理もしくは本部長を立てなければならない。国防委員会は、本部長もしくは本部長代行への就任をビュコックに打診してきた。

「ここでわしが本部長になったら、権力が集中され独断専行の前例を作ることになる。それから今回のようなテロが起こった時、二つの職を兼ねていると軍が機能不全になる。本部長はだれか別の方にお願いしするよう伝えてくれ。」

と断った。しかし、3人いた次官のうち歳年長であったドーソン大将が統合作戦本部長代行になったと聞いてビュコックは少々後悔した。

「これは...わしがやったほうがましだったかな。」

とつぶやいてしまった。

ドーソンは小心で神経質な男だった。フォークから幼児性を除いたらそうなるという種類のもので、憲兵隊司令官、国防委員会情報部長などを務めた。しかしもっとも有名な逸話は、第一艦隊の後方主任参謀を務めたとき食糧の浪費をいましめると称して、各艦のダストシュートを調べて回り、じゃがいもが何十キロすててあったと発表して、兵士たちをうんざりさせたことである。また一方、高級士官の腐敗や政治工作などはスルーし、むしろ密かに猟官活動をしていたといううわさが絶えなかった。また士官学校で自分よりも席次が一番だけよかった男が失敗の責任をとらされて降格されて彼の下に配属されてきたときにはいびりぬいたという話もある。

首都防衛軍司令部で地上基地のひとつで事故が発生した。整備センターで古くなった惑星間ミサイルを点検していたところ、突然それが爆発したのだった。原因は絶縁不良で、推進部の電流がミサイル本体の信管に流れたためだった。これらは兵器製造システムの弱体化を意味していた。即死した整備兵は、学費が払えないために高校進学をあきらめた少年兵やアルバイトで高校在学の学費と生活費をかせいでいたという少年兵ばかりあわせて14人であった。

長引く戦争のための人的資源の枯渇...同盟市民はわかっていた。マスコミの現場記者もわかっていたが、ほとんどは口に出せない。報道しようとしても握りつぶされた。意思を表明したり、報道がなされた場合は、街頭で政権擁護、戦争推進を唱える憂国騎士団が、自宅や会社にとんでくるのだ。よくて電車のなかでの痴漢事件をでっち上げられる。「官制」の事件なので、いくら上告しようとも裁判に勝つことはない。

反戦派のジェシカ・エドワーズは、犠牲者の少年兵たちに哀悼の意を表し、軍部の管理能力を批判した後、戦争を続ける社会を弾劾した。

「未来を担う少年たちを犠牲にする社会、そんな社会に未来があるのでしょうか。そのような社会が正常と言えるのでしょうか。わたしたちは狂気の夢から覚めて、今何が優れて現実的なのかと問わねばなりません。その答えは一つ。平和です。」

その放送をビュコックとその副官のファイフェル少佐が宇宙艦隊司令部のオフィスで見ていた。

「この女史は、我々の苦労も知らないで言いたいことを言っていますな。銀河帝国の侵略を受けたら反戦平和も言論の自由もありもしないのにいい気なものです。」

「いや、彼女の言い分は正しい。人間が年齢の順に死んでいくのがまともな社会というものだ。わしみたいな老人が生き残って、若い者がお先にとばかり次々に死んでいくような社会はどこか狂っとる。だれもそれを指摘しなければ狂いはますます大きくなるじゃろう。彼女のような存在は社会に必要なのさ。まあ、あんな弁舌が達者な女性を嫁さんにしようとは思わんがね。」

ビュコックとしてはそんなジョークをいわずにはおれない気分になっていた。というのも、新任の統合作戦本部長のドーソンにあいさつにいったところ、こっけいなほど肩肘をはって、

「どんな戦歴が古い方でも、組織の秩序に従ってわたしの命令に従っていただく。」

と高い声で言い放たれたのだ。老提督は、あやうくつむじを曲げるところだったが、ヤンと話し合ったクーデター対策を進めておくのが先決だと考え、度を超す小心者ゆえの無礼さと傲慢さにあきれとあわれみを感じてため息ひとつでやめることにした。

(クーデターの可能性と対策についてなんて言えんな。青筋たてて否定するのを説得するのも疲れるし、もし素直に受け入れるような場合は泡吹きかねん。どっちにしろ困ったものだ。)

 

さて、薄暗い部屋で男たちが密談している。

「クブルスリー大将は一命をとりとめたそうだ。」

その部屋の各所で低い声のあきれの感情を表すつぶやきと冷笑が起こっていた。

「ただ重傷で、当分任に堪えないということで現在入院中だ。統合作戦本部の機能をそぐ目的は最低限果たしたわけだ。後任はあのドーソン、あの男は汲々とした小役人でクーデターなど想定もできないだろうし、従って何も対策できないだろう。まあ、リンチは最後の「おつとめ」を果たしたわけだ。まるっきりの失敗ということもありえたのだから。」

「奴の口から我々のことが漏れることはないだろうな。憲兵隊が違法を承知で拷問にかけるか自白剤を使うかもしれんぞ。」

「まあ、まあドーソンだからそんなことまでしないだろう。それが小役人ゆえの奴の美徳だからな。」

再び冷笑が各所で起こる。

「まあ、仮に自白剤を使われたところで徹底的に深層暗示をかけてある。すべてリンチが考えたことだ。同盟の腐敗を糾し、正常化のために最後の「おつとめ」をしたというわけだ。」

「リンチは、刑務所でも精神異常者棟に入れられた。帰還兵名簿に偽名を使っていたから、帝国にスパイとして押し付けることも可能だし、そうでない場合も、エルファシルの敗戦の責任と今回の件で一生を刑務所で終えることになるだろう。」

「ふむ。さしあたって障害はない。予定通り計画を進める。」




クブルスリー大将が大けがを負い、後任は「じゃがいも」士官と呼ばれる無能な小心者がつき同盟軍将兵はため息を漏らす。

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