Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
第41話 異変の発端です。
さて、3月20日、本来ならイゼルローンへ向かって明日にでも出発しなければならない。
ユリアンは
「はい。」
金褐色の髪にヘイゼルの瞳の美人、フレデリカが画面に映っている。
「ユリアン。ヤン提督は?」
「えっと出かけていて不在です。」
「そう...そういえば帰りの船の予約はとったの?」
「あ...。」
「そんなことだと思ったわ。ちょっと待っててね。いったん切るから。」
しばらくして電話がかかってくる。
「明日9時発に駆逐艦カルデア66号で出発することにしたわ。ところでユリアン、お昼まだでしょ。一緒に食べない?」
「はい。」
ユリアンは喜んで応じた。
翌日、カルデア66号は、バイオレットの部屋からあわてて飛び出してきたポプランがぎりぎり間に合って、無事9時に出港した...。
薄ぐらい殺風景な部屋で男たちが10人ほどテーブルを囲んでいる。
「もう一度確認しておこうか。」
「最初の一撃は惑星ネプティス。標準暦4月3日。ハイネセンからの距離は、1880光年。第4辺境惑星区の中心で、宇宙港、物資集積センター、恒星間通信基地がある。この地区の蜂起の責任者はハーベイ...。」
名前を挙げられた男がうなずき、部屋を照らす薄暗い照明の中でその男の影がそのように動く。
「第二撃は惑星カッファー。標準暦4月5日。ハイネセンからの距離は、2092光年。第9辺境惑星区の中心で、宇宙港、物資集積センター、恒星間通信基地がある。この地区の蜂起の責任者は...。」
第三撃、惑星パルメレンド、4月8日、第四撃シャンプール、4月10日...
「このように、ハイネセンからそれぞれ2000光年近い距離で別々の場所で蜂起する。そうすれば、ハイネセンからの鎮圧部隊はそれぞれ別方向に向かわなければならず、しかも相互に連携するのはほぼ不可能だ。よってハイネセンは武力の空白地帯となる。従って、少数の兵で要所を押さえるのが可能になる。」
同盟最高評議会、同盟議会、同盟軍統合作戦本部、軍事通信管制センターなどの占拠目標の名前が列挙される。そして指揮官がだれで、いつ襲撃するか、兵員数などが確認された。
現在の政治屋には任せておれない。いつまでも自分たちは権力を握れず、冷飯組だ。
正常に戻すために取り戻さなければならない。
(政治経済、社会体制は危機に陥っている。フェザーンや国内有力企業から献金をたっぷりもらっている権力の亡者ばかりだ。そういう連中を一掃して同盟を健全にしなければならない。そのためにクーデターを起こし、正常に取戻すために、同盟憲章を一時停止し、政治屋どもがはびこらなくする必要がある。)
「理想を失い、腐敗の極に達した衆愚政治を我々の手で、正常な方向へ取戻さなくてはならない。これは正義の戦いであり、国家の再建に避けては通れない道なのだ。」
その声は一見抑制されており、狂信者の自己陶酔とは一線を画するように見えた。
「さてここで問題になる人物が二人いる。イゼルローン要塞司令官のヤン・ウェンリー大将と副司令官のミホ・ニシズミ中将だ。」
「二人を同志に引き入れることができればハイネセンとイゼルローンの二か所から全領土を制圧できることになるが...。」
「どうやって説得するか。しかしもう計画は実施ま近だ。」
「あんな二人を同志に引き込むことはないでしょう。」
「うむ。おっしゃるとおりですな。彼らなしでも十分に可能だ。首都には「アルテミスの首飾り」もある。その威力をアムリッツアで知ったはずだし、彼ら自身対策なんかないだろう。」
「いや指向性ゼッフル粒子を帝国軍のキルヒアイスが使っている。戦史や情報を重視するヤンが考慮にいれないはずがない。」
「そんなことを心配している場合ではない。いざとなったら首都の住民を人質にとればいい。いざとなったらだがな。」
「さて、シャンプールの蜂起だが、距離的に考えてヤンかあの小娘があてられるだろう。」
「イゼルローンからシャンプールまでパルス・ワープで5日、ハイネセンまで25日、都合30日かかるはずだ。しかもシャンプールを鎮圧せねばならないから、この期間は伸びることはあっても短くなることはないだろう。」
「仮にイゼルローンの全艦隊を率いるようなら辺境星域の討伐にあたるだろうキルヒアイスに情報を流す。やつらにはそんなに余裕はないだろうからあくまでも牽制だ。艦隊を二つに分けるようなら時間差をつけて各個撃破だ。」
「帝国を利用するのか。」
「敵を利用する。これは外交だよ。大義を達成するためだ。」
「予定通り行動し、権力中枢を掌握する。その一方で同志を送り込みヤンとあの小娘をそれぞれ監視させます。二人が我々にとって都合の悪い行動をとるようなら抹殺すべきでしょう。」
「それに各個撃破などできるのか。」
若く精悍な美男子がほくそえむ。
「二人を暗殺する。われわれには可能だ。あの知略をつかえなければ烏合の衆だ。これも大義のためだ。」
「清濁併せ呑む覚悟がないと大義は実行できないぞ。きれいごとを言うのは売国奴のそしりを免れないことを心に銘記してもらおう。」
男たちは散開した。
精悍な美男子は、酒浸りの男に言う。
「お前は我々の言うとおりにうごけばいい。全体の計画はわれわれがやる。生きて戻れれば帝国軍少将になれるわけだ。簡単だろう。」
さてビュコック長官は準備を始めたものの、もともと艦隊指揮は得意だが憲兵を扱うような仕事は苦手なこともあって、慎重に人選をすすめて、ようやく捜査チームを立ち上げたときには、3月も末になろうとしていた。
3月30日、クブルスリー統合作戦本部長は、ハイネセン近隣星区の軍事施設の視察をすませ、軍用宇宙港から統合作戦本部ビルへ専用車から戻ってきたところだった。高級副官と5名の衛兵がしたがっていた。かれらがロビーに入ると面会人が待合室から立ち上がっていささかあぶない歩調で近づいてきた。衛兵たちは緊張した。
白髪で無精ひげのあるその男はクブルスリーに近づくと
「わたしは、帝国軍の捕虜になっていた士官ですが、しばらく療養をしていました。だいぶよくなったので軍への現役復帰のためにご相談にうかがったのです。」
クブルスリーは小首を傾げた。本来ロビーで呼び止めて立ち話をしかけるなど無礼なことなのだが、元みほたちの上司であんこうジャケットでの勤務を許したくらいで、部下にたいしておごらない性格のクブルスリーは相手の話をきいてやる形になった。
「うむ。そのようには見えないが.....。」
「医師は完治したと言っております。現役復帰に何ら差支えないと。」
「それなら正式な手順を踏みたまえ。勘違いしないでほしいが私の権限は手順を破るためではなく守らせるためにある。医師の診断書と保証書を添えて国防委員会の人事部に現役復帰願いを提出するといい。正式にそれが認められれば貴官の希望もかなうわけだ。」
「へへ…それじゃあ遅いんだよ。」
そこでクブルスリーは気づく。
(誰かに似ているとおもったら...。)
「き、君は...。」
クブルスリー大将に接近してきたこの男は果たして...