Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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ヤンは、同盟内にめぐらされる工作、陰謀を感知し、それをふせぐべくハイネセンへ出発することにした。


第39話 あの...わたし....がんばります。

みほはヤンに呼び出された。

「西住中将。」

「はい...。」

「わたしは、帰還兵の歓迎式典のためにハイネセンへ行くことになった。留守部隊の指揮をお願いしたい。」

「はい。」

返事を聞くと、軽くうなづき、少し間をおいてヤンは個人的な感想をみほにたずねる。

 

「ところで、ミス・ニシズミはどうおもった?今回の捕虜交換式は?」

「あの....。」

「どうしたんだい。」

みほはほほえんで言葉をつづける。

「ビュコックていと、司令長官にわたしは元気ですって伝えてください。」

 

ヤンは、頭をかいて

「ミス・ニシズミはなんでもお見通しだな。」

「はい。だってヤン提督が式典とか儀式とか好きじゃないのにわざわざハイネセンに行きたがるのはどうしてだろうって考えたらすぐにわかったんです。」

「それから...。」

「ん、何だい?」

「ラインハルトさんは、貴族連合と戦って勝つために、現在の同盟政府に不満を持っている人たちをあおって分裂させようとしているんだと思います。キルヒアイスさんが来たのは、同盟に対しては階級のバランス、帝国内部については、貴族連合ににらみを利かせるためです。」

「そのとおりだ。「不満を持っている人たち」か...誰か特定できないものかな。」

「ですから...万一のためにビュコック長官に相談しなければいけないかな...と。」

「そうだね。」

「あの...わたし...。」

「ん?」

みほは、星図でイゼルローンの同盟側出口の部分を指差して、

「がんばります。」

と話す。

「帝国軍からの攻撃はないと、ミス・ニシズミも考えているんだね。」

「はい。」

「何かあったら、シェーンコップに相談すればいい。」

「はい。」

みほは笑顔で答えた。

 

2月22日、ヤンはフレデリカ、カスパー・リンツ、ユリアン、ポプラン、コーネフを伴い、帰還兵を乗せた船団でハイネセンへ向かっていった。

「ミス・ニシズミ。」

「シェーンコップ准将。」

「「とっても強いお兄さんたち」の首領がまいりました。」

膝をつき、手をまえに回して「あいさつ」をする。

「...知っていたんですか。」

みほは恥ずかしそうにかすかに顔を赤らめる。

「もちろん。」シェーンコップは笑顔で答える。

「で、西住中将。」

シェーンコップは真面目な顔になる。

「はい。」

星図を指差して、

「「不満を持っている人たち」かこのあたりで反乱を起こすと。」

「はい。心配しすぎだといいんですが。最悪の場合、ハイネセンでも。」

「なるほど。あの金髪の坊やは相当な食わせもんですな。」

シェーンコップは少し横を向き、わずかにあごをしゃくってつぶやく。みほは頷き、

「わたしができるのは、准将が指差した範囲ですので、万一の場合は准将にはまた活躍していただきます。」

「姫。謹んでおまかせあれ。」

二人は笑いあった。

 

そのころハイネセンでは、次回の評議委員に立候補するという新人の政治家を呼んで番組がくまれていた。

「ハイネセンリストレエコノスTV「ここまで言うん会」です。本日は、次回の評議委員に立候補されるというプログレスリー・ライトバンクさんにお越しいただきました。」

プログレスリー・ライトバンクは、血色の悪い細面の男だった。軍の会議にでていればすぐすれとわかる人物であったが、軍の会議が一般に公開されないので、普通の同盟市民はだれなのかわからない。

「で、ライトバンクさんは、帝国への進攻計画を軍に提出したのに受け入れられなかったと。」

「はい、あまりの無理解のためにこのような体たらくになったわけです。わたしの主張した通り高度な柔軟性をもって臨機応変に対処しなかったから数多くの兵士が命を喪い、わたしは病に伏せったわけです。」

「平和主義という理想のために、軍の組織や士気が低下して、社会システムにも影響を与えているわけです。戦争が長引くのはそういった人たちのせいですね。」

「なにか情報を帝国に流して得があるんでしょうか。亡命した時のためとか、同盟を滅ぼして甘い汁をすうためでしょうか。理解に苦しみます。」

ものはいいようであった。実際には軍指導者が無能なために前線で多くの兵士が命を落としていて、壮年期の人材が絶対的に足りなくなり、生活インフラに深刻な影響をもたらしているのであったが。熟練工まで動員して、戦場で戦死させ、慣れない女性や少年に武器を造らせるから、故障が増えてますます戦死者が増え、前線の補給線は絶たれて戦わずして飢え死にして、結局みじめな城下の盟いを強いられた国家もあったというのに...。

「そういった状況のなかで、ライトバンクさんが今度は軍から政治家へ転身しようとしていらっしゃるわけですね。」

「そうです。もっともっと同盟軍を強化していかねばなりません。そのためには既存の政治屋から政治を取り戻して正常化しなければなりません。」

「全くその通りですね。」

「トリューニヒト議長、コーネリア・ウィンザー夫人、ライトバンクさんと有能な方々が、愛国心に欠けた政治屋たちを一掃することを期待しましょう。」

「提供はユグドラシルグループでした。」

軍や市民の良識派から抗議の電話やファックスがテレビ局へ寄せられたが無視された。トリューニヒトがメディアの要人たちと会食していたからだった。

そして抗議をした人に対しては自宅を調べられて憂国騎士団が家屋破壊弾を投げ込んで、私怨による爆発事故として報道された。公務員の場合は、私的経費を公費で落としたという書類やなぜか不正を行ったという怪文書がでてきて、筆跡、指紋がそっくりであり、本人がいくら否定しても往生際が悪いと一斉にたたかれた。

 

一方帰国したキルヒアイスは捕虜交換式の様子を語るとともに今後の戦略について話していた。

「このクーデター騒ぎがうまくいけば、ヤン・ウェンリーは帝国領内へは攻めてこれまい。で、どんな男だった?ヤン・ウェンリーは?」

「ヤン提督は、恐ろしいほど自然体で懐深くはっきりいってとらえどころがないと感じました。」

「ほう。そしてお前の補給艦隊の攻撃を邪魔した指揮官にも会えたのか?」

「はい、彼女は...。」

「!!」

「彼女は、まだ20歳に満たない少女にみえました。栗毛の髪が印象的な小柄な女性でしたが、恐ろしいほど自然体で、懐深くはっきりいってとらえどころがないのはヤン提督そっくりでした。」

「名前は、なんというんだ?」

「ミホ・ニシズミ。同盟では、E式と呼ばれている名前です。二人とも、今回の作戦はおそらく見抜いているように感じました。逆転できる自信があるのか...いずれにせよ敵としてこれほど恐ろしい相手を知りません。ですが....。」

「ですが..?」

「友とできればこれに勝るものはないかと。」

「そうか...俺にお前がいてよかった。あの戦闘詳報を読んだら不思議なことに、一瞬背筋が冷えたが同時に何とも言えない昂揚感を感じたのだ。」

(ああ、ラインハルト様らしい。この方は雄敵と戦う時こそ輝くのだから...。)

赤毛の青年は、金髪の親友の生気が充ち溢れんばかりになるのを感じて、なぜか不思議な幸福感につつまれるのだった。




ヤンとみほの動き、陰謀渦巻く「虚栄と背徳の」ハイネセン、帝国の様子を描きました。

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