Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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同盟では1900万の戦死者を出したため、政治、経済、社会、軍事の分野に影を落とした。



第4章 つかの間の平穏です。
第33話 新たなる潮流?です。 


1900万にものぼる多量の戦死者は、同盟の国力に陰りをもたらさずにはおれなかった。

壮年の人材が多く失われたのみならず、政府は、遺族への一時金や年金を払わなければならなかった。無謀な遠征を行った政府への遺族や反戦派からの批判は当然激しくなった。ライズリベルタやトドスヨウムは、ここぞとばかり、低次元な選挙戦略だったと主戦派の政治家を批判した。しかし、フォーク家は同盟の五大財閥に連なる閨閥であったため、作戦案が最高評議会に受け入れられたのだったが、敗戦の責任は体調不良を理由にフォークには全く問われず、むしろフォークの作戦構想自体は正しかったとされた。そして主戦派の政治家たちとロボスとシトレと補給関係者の責任のみ追及された。

また、主戦論者は巧みだった。最高評議会の政治家は失脚したものの、ひたすら戦死者を英雄と祭り上げ、かってのグランドカナル事件と同じことを繰り返した。そして、どんな宗教でも対応できるような大規模な国立追悼施設を造り、地球教、憂国騎士団と組んで、政府閣僚は礼拝、参拝、参詣すべきという論調を草の根からじわじわと浸透させていった。またおだやかに、人命や財政負担があったというが、それよりも大事な大義がある、だから決して無駄ではなかった、感傷的な厭戦主義に陥ることのほうが長期的に見れば危険だ、と一見冷静な議論を装った。表向きは遺族に「充分な」一時金や年金を払うべきと宣伝していたが、裏では事細かな基準を作り、財政的な負担が大きいから適正な金額が支払われなければならないと、官僚たちに言わせた。国家に対して忠誠を尽くすのが当然で、何をしてもらえるかではなく、国家に対し何ができるかが大事だ、国家あってこその自由や権利であり、人権などを叫ぶのはおこがましい、兵士はしょせん消耗品という語られない本音がそこにあらわれていた。

同盟の最高評議会は全員辞表を提出したが、反対した3人の評議委員は慰留され、国防委員長のトリューニヒトが次回の選挙までの暫定首班となった。ロボス、シトレは辞任し、年金、退職金は大幅に減らされた。グリーンヒル大将は査閲部長になった。

あんこうのメンバーは久しぶりの休暇にみほの部屋に集まっている。

「西住殿。」

「なに?優花里さん?」

「人事が発表になりました。西住殿は中将に昇進、一個艦隊の司令官です。それから海賊討伐時代にお世話になった第一艦隊のクブルスリー中将が、大将に昇進し、統合作戦本部長です。」

みほがほほえんでつぶやく。「ビュコックさんが、宇宙艦隊司令長官...。」

「そういえばそうですね。」

「みぽりんとヤンさんの意見を応援してくれたおじいさん、だよね。」

「サンタ帽子が似合いそうです。」

「沙織さん、華さん...。」

みほは苦笑する。

ウランフ中将とボロディン中将が大将にそれぞれ昇進していた。

「でもキャゼルヌさんが第14補給基地ってどういうこと?ちゃんと補給の仕事やったじゃない。あのフォークって人が一番いけなかったのに...。ひどいよね。」

沙織は世話になったキャゼルヌが左遷された人事に不満なようだ。しかも気軽に会えなくなったことが彼女には余計に腹立たしかった。

「ヤン提督は、長期休暇をとって辺境の惑星ミトラへ行ったそうだ。あそこの星は人口の少ないへんぴな場所だが、階段状モザイク文様のある古代の神殿遺跡が見事だったり、自然がよく残っているから何も考えないで休暇を過ごすにはもってこいだ。」

「なんか新聞社やテレビが押し掛けたり、電話がひっきりなしになったり、たいへんだったみたいだよね。」

「わたしならがまんできない。」

「まあ麻子も天才という意味では共通しているもんね。」

「うん。ところで隊長はだいじょうぶなのか?「救国のプリンセス」だの「救国の戦姫」、「現代のアテナ(軍神)」だの新聞記事が載っていたが。」

麻子がヤンの顔写真とともにみほの可愛らしい顔写真が載っている新聞を見せる。

「うん...。実は長期休暇とってここへ引越したの。」

みほは苦笑する。実はヤンに劣らないくらいの取材攻勢があったので、夜逃げするように官舎を抜け出したのだった。

「だから官舎じゃなかったんだ。なんか変だなあと思った。」

「うん...。」

ヤンは休暇の後、ハイネセンに戻ると大将への昇進と「イゼルローン要塞司令官兼同駐留艦隊司令官、同盟軍最高幕僚会議議員」の辞令を受けた。またみほもヤンがハイネセンに戻って、統合作戦本部に呼び出されて辞令を受けた日と同じ日に辞令を受けた。

「西住少将ひさしぶりだな。」

「はい。クブルスリー提督、大将と統合作戦本部長への昇進おめでとうございます。」

みほはこくりと一礼する。

「うむ。君への辞令だ。西住みほ、中将への昇任を命ずる。第14艦隊は、イゼルローン駐留艦隊へ統合し、同要塞の副司令官兼駐留艦隊の副司令官を命ずる。」

「はい。謹んで承ります。」

優花里、エリコは、中佐へ昇進、沙織と華は少佐へ、麻子は軍属とされたが、士官学校の全科目をわずか三ヶ月で習得し、少尉で任官した。

ヤンとみほ、それに彼らの部下たちがイゼルローンに着任したのは、宇宙暦796年12月3日のことである。

 

薄暗い部屋で中世騎士の兜をかぶった男、好男子だが精悍で残酷ささえ瞳にただよう男をはじめ、数人の男たちが密談していた。

「順調にいっているな。」

「そうだな。」

「こんな話を知っているか?」

「ああ、銀河帝国の皇帝が死んだらしいな。」

「あの金髪の孺子が侯爵になったとブラウンシュバイクやリッテンハイムがぶつぶつ言っているそうだ。」

「あの孺子と帝国の門閥貴族どもがやがて戦うことになるが、同盟側に工作してくるだろうな。」

「しかし、孺子はどんな手をつかってくるんだろうな。」

「同盟内部も腐ってるからな、不満分子や善悪は別にして「改革」したいと考えている連中は多いだろう。」

「一つにはヤンを動かしてハイネセンをおそわせることも考えられるな。」

「あくまでも可能性だ。トリューニヒトをなんとか生かさないといけないだろう。」

男たちの密談は続いたが、「金髪の孺子」が何を仕掛けるか極力情報を集める、ということで散開した。




そのころ、帝国暦487年(宇宙暦796年)11月、一隻の帝国軍駆逐艦が帝国領内の矯正区の刑務所から、帝国首都オーディンへ向かっていた...。

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