Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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WPSでエリコはキルヒアイス艦隊の工作艦を撃破しようとする。


第31話 アムリッツア星域会戦(中編)

「閣下!」

「工作艦が...。」

球形の戦闘衛星の群れが工作艦に襲いかからんとする。

「例のアルテミスの首飾りですか...。」

キルヒアイスと幕僚たちはだまってやられはしなかった。

 

「敵がシステムに侵入してきた?」

「エリちゃん?」

「大丈夫?」

エリコは、彼女らしい語尾が一瞬疑問形に聞こえる口調で答える。

エリコはバルバロッサをにらみつけていた。すごい艦だと感じた。おそらく帝国最強のシステムを使っているんだろう。侵入速度が半端ではない。

「敵システム100%乗っ取りました。」

バルバロッサでも有数のクラッキング技術を持つオペレーターが報告するが、キルヒアイスの表情は晴れない。一瞬大人しくなった戦闘衛星は再び縦横無尽に襲いかかる。キルヒアイスの艦隊は巧みな艦隊運動でそれを避けてミサイルで戦闘衛星の発射口を狙って少しづつつぶしていく。

「念のためデコイのシステムを作っておいた?。」

「さすがエリコ殿です。」

 

第13艦隊旗艦ヒューべリオンの艦橋では牡牛のように体格の良い副官が、

「閣下、どうしますか?」

指揮卓に片膝を立てている学者か若い古本屋の店主のように見える上官に話しかける。

指揮卓に片膝を立てた「史学科の若手講師」は、おさまりの悪い黒髪を一瞬かくと

「そうだな...逃げるには、まだ早いだろう。」

と他人事のように返事をした。

「中尉、回線を」

「はい。」

スクリーンにビュコック、ウランフ、みほ、ボロディンの姿が映し出された。

 

一方帝国軍総旗艦ブリュンヒルトの艦橋では勝利にわきたつ明るい雰囲気だった。

「10万隻の追撃戦は初めて見るな。」

スクリーンをながめる金髪の若者の表情はキルヒアイス艦隊の参戦後に一変し、余裕がみられる。

「閣下、旗艦を前進させますか?」

「やめておく。この段階でわたしがしゃしゃり出たら、部下の武勲を横取りするのか、と言われかねない。」

銀髪でときおり義眼の光る参謀長に対しての答えは、冗談ともつかないものであったが、すくなくとも若者の心理的余裕を示しているのには間違いなかった。

 

「わたしの艦隊が殿を務めます。どうか撤退を。」

「あの...ヤン提督。」

「ん?なんだい、ミス・二、コホン西住少将。」

「ヤン提督、「アルテミスの首飾り」はご存知ですよね。」

「君は?」

「西住ど、コホン、西住少将の副官秋山中佐であります。」

優花里は敬礼する。

「う~ん、どこかで会ったような??」

「閣下、国防次官室では?」

フレデリカが口添えする。

「そうか、あのときの...。」

実際には見ていないフレデリカのほうが覚えていて、ヤン本人はすっかり忘れていて、ヤンは頭をかく。

「すまない。で?...そうか、君たちの艦隊には、あの戦闘衛星があったんだったな。あのような使い方があるとは面白いものをみせてもらったよ。」

ヤンはしばらく考え込んでいた。権力者が自分たちの権力や利権を守るための兵器として同盟首都の衛星軌道上に並べているのには好感を持ちえなかった。しかし、刃物を使う者に罪があるのであって使われる刃物自体に罪があるのではない。このように将兵が無事帰還するために使用するならば、それは機雷原にまさる優秀な武器だろう。偏見を持ってみるべきではない。

「わかった。防御することにおいてはあの指向性をもったゼッフル粒子さえ使わせなければ有効な武器となるだろう。お願いする。」

ヤンは頭をさげた。みほはほほえむ。

今度は、ヤンとみほがウランフ、ビュコック、ボロディンを見つめる。

(まかせてください。)

黒髪の学者風の青年提督と子犬のような栗毛色の少女-彼女も部下から閣下と呼ばれる-二人の智将の目は語っている。

年長者の三人は若い二人の決意が覆せえないことを悟って、苦笑しながら顔を見合わせる。

「すまない。貴官らの無事を祈る。」

「大丈夫です。この歳で死にたくありませんから。」

「「皆さんには再戦の機会に頑張っていただきます。」」

「沙織がまだ彼氏見つけていないのに死にたくないから頑張る、って言ってる。」

「麻子、なんで余計なこと言うのよぅ。」

「えへへ。」

みほが苦笑して場の雰囲気がほぐれる。

「その若さがあればじゅうぶんじゃな。」

ビュコックが茶目っ気たっぷりににやりとする。

敬礼して各旗艦の画面から提督たちの姿が消えた。

 

ヤンとみほの艦隊は帝国軍の分艦隊旗艦と思われる戦艦や隊列のポイントを巧みに突き、指揮系統を圧迫する。なんとか砲火の網をくぐろうとすると。あのおそるべき戦闘衛星が縦横無尽におそいかかり、帝国軍はうかつに追撃できなかった。

そうして2時間ほどたった。

「もうすこしだ。もう少しで味方はイゼルローン回廊へ逃げ込める。」

 

ラインハルトは殿の同盟軍が善戦しているのに感心していた。

「あれは第13艦隊と第14艦隊のようですな。」

「またしてもヤン・ウェンリーか。思うようにはさせん。両翼を広げて包囲網を敷け!」

「閣下。」

「何だ?」

「どなたか、ビッテンフェルト提督を援護なさるべきです。敵の指揮官はもっとも弱い部分を突いて突破してくるでしょう。」

「わかっている。」

帝国艦隊は、包囲網を作り始める。

 

「ここまでだな…。」

ヤンはつぶやくと

「全艦隊、右翼前方敵艦隊の最も薄い部分に集中砲火!一点突破を図る!急げ!」

と命じた。

 

「あの黒い艦隊の旗艦を狙ってください。」

「はい。全艦発射!。」

 

「ひるむな。反撃だ!黒色槍騎兵に退却の文字はない!」

しかし、同盟軍の砲火は激しく、ビッテンフェルト艦隊をほぼ旗艦以下数隻という壊滅同然の状態に追い込まれていた。

「閣下、閣下、このままだとぜんめ...」

「ちょ、直撃きます。」

オイゲン大佐の語尾にオペレーターの叫びが重なる。

第14艦隊からの集中砲撃が旗艦「王虎(ケーニヒスティーゲル)」をつらぬいた。

「ぎゃあああああ...。」さすがの猛将も灼熱の劫火の中で叫び声をあげる。

黒い虎は断末魔にもがいて引き裂かれ、次の瞬間には四散した。

「ビッテンフェルト提督旗艦「王虎(ケーニヒスティーゲル)」撃沈しました。」

「ビッテンフェルトは脱出したか。」

「脱出者はなし...とのことです。」

「「黒色槍騎兵」の艦影なし。ぜ、全滅です...一隻残らず...。」

宇宙一の攻撃力を誇る猛々しい猛将の艦隊は、皮肉にもその対極に位置する、有能ではあるが、子犬のような小柄で愛らしくさえある栗毛色の少女の指揮する艦隊の、ふだんは花を活ける手で砲撃を行った華道家元のお嬢様によって倒されたのだった。

 




宇宙一の攻撃力を誇る猛将をチームあんこうが倒した...

※次話、別の名前を考えていましたが、やはり中編に改名(6/10,6:49am)

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